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■女の子たちの気合勝負(6)

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何か動物のようなものに当たったような感触があった。
 
『ギャッ』
という悲鳴のようなものを聞いた気がした。何かが脇の窓から飛び出して行った気配がした。
 
「お姉ちゃん」
と玲羅が声を出す。
 
「大丈夫?」
「うん」
 
その返事を聞いて千里はホッとした。
 
その時、千里は入口の所に立っていた女の子のことを思い出した。
 
「あ、君も大丈夫だった?」
とその子に声を掛ける。
 
「はい、ありがとうございます。あの、今の見えたんですか?」
「見えてないけど、何か居るなとは思った。だから、その居そうな所めがけて殴ってみた」
「凄い勘ですね」
「君、イントネーションがこの辺の子じゃないね?」
「あ、はい。岩手から来ました」
「そう。気をつけてね」
「はい」
 
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千里は何だか凄く可愛い子だなと思った。そして不思議な親近感を感じる。しかしこの時、千里はその親近感の正体が分からなかった。
 
これが千里と青葉の初対面だったのだが、ふたりはその後、どちらもこの時の対面のことをほとんど忘れてしまった。
 

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その小学2−3年生の女の子(青葉)と別れて、千里が玲羅と一緒に母のいるであろう付近に向かって歩いて行っていたら
 
「すみません」
と呼び掛ける声があった。
 
「はい?なんですか?」
と千里は振り向いて答える。キャビンアテンダントか何かのような服を着た女性が立っていた。
 
「これ差し上げます」
と言って何かを差し出すので、千里は何かの旅行のキャンペーンか何かかと思い受け取る。
 
その時、
「お姉ちゃん、どうかしたの?」
と玲羅が言う。
 
「え?今ティッシュか何かをもらったから」
と言ったが、手の中には何も無かった。
 
「お姉ちゃん、誰もいないのに、何か返事して立ち止まるから」
「え?今、スチュワーデスの制服を着た女の人が居て、何かくれたんだけど、あれ?何も持ってないな、おかしいな」
 
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千里は首をひねったが、気にしないことにした。
 

柱の陰で、美鳳は微笑んでいた。
 
「私、あの子、気に入っちゃった〜。青葉はダイヤモンド、あの子はサファイアって感じかも。40-50年はこのふたりで遊べるなあ」
 
そんなことを呟きながら、美鳳は軽やかな足取りでショッピングモールの出口の方へ歩いて行った。
 
もっとも美鳳の姿が《常に》見える人は少ない。しかしこの時、このショッピングモールにはそういう人が実は5人も居たのである(千里・青葉・賀壽子・千壽子・天津子)。
 

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千里が翌日、神社にお仕事で出ていくと、宮司さんが千里を見てビクッとしたような顔をした。
 
「あの。。。どうかしました?」
と千里。
 
「いや。それはこっちのセリフ」
と宮司さん。
 
「千里ちゃん、どこに行ってきたの?」
と細川さんも訊く。
 
「えっと・・・旭川にハリー・ポッター見に行ってきただけですが」
 
「ハリー・ポッターの精霊をもらってきた訳じゃないよね?」
「何か付いてます?」
「ああ、憑いているというか」
「これ何だろう?」
「ハリー・ポッターというより、ポケット・モンスターだね」
「何です〜?」
 
「眷属というか」
「式神というか」
「これかなり優秀な精霊セット」
「その使い方、分かる?」
 
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「そんなの分かりませーん」
「じゃ、修行だな」
「えっと、どんな修行ですか?」
 
「うーん」
と言って宮司さんは、本棚から何やら難しそうな本を取り出してくる。
 
「村山君。今から30日間、これノルマ」
「はい?」
「毎朝、30分ジョギング、滝行5分、それからこの祝詞を唱えて、瞑想20分」
「滝行ですか!?」
 
やだー。冷たそう!!
 
「満行までの間は、お肉・お魚を食べないこと」
「それは多分問題無いです。あ、給食どうしよう?」
「お肉とお魚は残す」
「叱られそうだけど頑張ります。あ、バスケ部の合宿がある。去年もチキンとか焼肉とか、どーんと皿に盛られて食べろと言われたんですが」
「事情を話して、代わりに湯葉か豆腐でも食べてよう」
「私、そちらの方がいいです!」
 
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そのバスケ部の合宿は今年も8月中旬。2学期の始まる直前にやってきた。
 
昨年は教えられるばかりの立場だった千里も今年は1年生の子たちを指導する立場である。1年生でも雪子は小学校のミニバス経験者で千里よりうまい!ので3年生の久子にお任せして、シューターの才能のある雅代は友子にお任せして! 中学になってからバスケを始めた泰子・伸代に千里・数子が主としてシュートの仕方やドリブルの仕方などを指導していた。
 
3日間の合宿で2日半までは昨年同様、ひたすら基礎的なトレーニングに徹した。最終日の午後になって、試合形式の練習をする。女子も8人部員が居るので、4人対4人で試合をした(PG久子,SG友子,PF泰子,SF伸代/PG雪子,PF数子,SG千里,SG雅代)。
 
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久子チームは友子からのロングシュートを狙うパターンと泰子・伸代にゴール下まで攻め込ませるパターンを使い分け、雪子チームは千里・雅代のダブル・シューターを使うパターンをメインに攻めた。
 
その試合を見ていて、男子2年生のリーダー格である田代君が言う。
 
「村山はほんとによく遠い所からシュート入れますよね」
「彼女はゴール下からのレイアップシュートは結構外すのに、遠くからのスリーは高確率で入れるよね」
と伊藤先生。
 
「見てて思うんですけど、村山って撃つ時にほとんどフリーになってるでしょ?誰もチェックしてない所で伸び伸びと撃ってる。やはり女子のプレイヤーは男子ほどスピードが無いから、あそこまでフリーになれるんでしょうね」
と田代君。
 
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すると伊藤先生は言った。
「そう思う?だったら試してみようか?」
 

 
それで女子の紅白戦が終わった後、20分休憩して男子対女子の試合をしますと言われる。男子は3年生は出ずに、2年生の田代君・鞠古君・戸川君に1年生の平田君・広丘君が出る。女子の方は、久子・数子・千里・雪子・雅代という布陣である。伸子・泰子はまだ戦力にならないし、友子は体力が無いので連続の試合は無理ということで、このメンツになる。
 
3年の佐々木君が審判になって、試合開始。
 
ジャンプボールは鞠古君と千里でやって鞠古君が勝ち、田代君がボールを運んでくる。ところが一瞬の隙を狙って雪子がスティール。速攻で攻め上がる。田代君はやられた!という顔をしている。かなり甘く見ていたのだろう。雪子という子は、とにかく「巧い」プレイヤーなのである。
 
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雪子から数子にパスされ、数子がシュートするも外れる。しかしリバウンドを千里が取り、雅代にパス。雅代が撃ってゴール。
 
女子が先制して試合は始まった。
 
結構シーソーゲームになる。男子の方はまだ全開ではない。八分くらいの力でやっておいて、最後に突き放せば良いという感じだ。
 
久子がドリブルで駆け上がる。左側にいる千里と右側にいる雅代を見比べて、千里にパスする。するとそこに猛然と田代君がチェックしに来る。千里は無理せず、いったんボールを久子に返す。久子が雅代の方にパスしようとする。田代君はゴール近くに戻り、雅代の近くに居た戸川君がそちらにダッシュする。ところが久子は雅代へのパスはポーズだけで、突然誰も居ない所にボールを勢いよく投げた(と田代君は思った)。
 
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え?
 
田代君は目を疑う。
 
そのボールの飛んで行った先には、さっきまで自分の右側に居たはずの千里が居て、ボールをキャッチする。そして、そのまま撃つ。
 
チェックしに行く時間が無かった。
 
場所はギリギリ3ポイントエリアである。きれいに決まって3点。
 

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鞠古君のスローインから田代君が攻め上がる。数子に行く手を阻まれる。が、田代君はいったん数子の手の下をかいくぐるように進む・・・ように見せかけて戸川君の方へ、そちらを見ずにパスする。
 
ところがその途中に千里が居て、ボールを叩き落としてしまう。
 
転がったボールをすかさず雪子が確保して速攻。
 
田代君は「うそー!?」と思った。戸川君がその方向に居たのは認識していたのに、同じ方角に千里が居たことに全く気付かなかったのである。
 

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試合は2ピリオドまで行い、最後の方で本気を出した男子チームが41対30で女子チームを下した。しかし田代君は不満そうな顔をしていた。
 
「村山の本質が少し分かったろ?」
と伊藤先生が笑顔で田代君に声を掛ける。
 
「あいつ、まるで忍者です。いつの間にか思いも寄らぬ所に居るんですよ」
と田代君。
 
「それが村山君がフリーになれる秘密だよ」
と伊藤先生は言う。
 
「私がどうかしました?」
と千里が田代君たちに声を掛ける。
 
「村山。ほんっとにお前、気配が無い。マッチアップする時は物凄い気迫で、俺でも一瞬気後れしそうなのに、ボールを持たずに移動している時はまるで空気みたいだ」
と田代君。
 
「それが彼女の凄いところなんだよ」
と伊藤先生は言った。
 
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「村山、実は男子チームでも戦力になりません?」
と田代君。
「さすがに私が男子チームに出て行ったら男装しても女とバレる。るみちゃんなら男でも通るけど」
と千里。
「ぼくは男子チームでもいいけど」
と留美子が言うと、伊藤先生は苦笑していた。
 

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「でも村山の気迫が1学期の時よりグレードアップしてますよね?」
と鞠古君が言う。
 
「あ、思った思った」
と戸川君も言う。
 
「千里の気迫、ここの所、私でも凄いと思うよ」
と久子まで言う。
 
「そうだね。毎日滝行してるからかな」
「お前、ホントに忍者修行してないか!?」
 

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