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■女の子たちの気合勝負(3)

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狭い台所に6人も入って作業をしているので、けっこう身体がぶつかり合う。
 
「あ、ごめん」
「こちらこそごめん」
という会話が多発する。
 
千里も愛子とぶつかってしまい
「ごめーん」
「こちらもごめん」
 
などとやったのだが、愛子が首を傾げる。
 
「どうしたの?」
「千里ちゃん、触った感触が女の子っぽいなあと思って」
「ああ、だいたい友だちからもそう言われる」
 
「友だちって男の子?」
「私、あまり男の子の友だちって居ないんだよねー」
「じゃ、女の子?」
「うん。よくふざけて触りっこしてるし」
「触りっこってどこ?」
「そりゃ女の子同士だから」
「おっぱいか!」
「そうそう。私、絶望的に胸が無いねとか言われる」
「そりゃ無いだろうけど」
「でも女の子の胸に触っちゃうわけ〜?」
「まあノリだし」
 
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「あきれた。まあ、千里ちゃん見てたら、ちょっと触ってみたくなるかもね」
と言って愛子は千里の胸に触ったが、へ?という顔をする。
 
「どうかした?」
「あ、いや何でもない」
と愛子は言って少し考えている風だった。
 

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お刺身、天麩羅、ローストビーフ、フライドチキン、ほか色々オードブルっぽいものを並べ、お酒も開ける。もっとも、お酒を飲んでいるのは清彦伯父、優芽子の夫、美輪子の3人である。祖父はお酒を控えているようで、最初の一杯だけ飲んだ。
 
清彦は酔うと調子良くなるようで、息子たちに
「お前たちも飲め」
などと言っていたが、長男が
「親が未成年飲酒を勧めたらだめだなあ」
などと言っていた。でも長男は自分は飲んでいた。
 
「千里も飲むか?」
「私は飲めませーん。一度父に勧められて飲んだらひっくり返りました」
 
「ああ、お酒に弱いんだ」
「毎日飲んでると強くなるぞ」
「中学生がお酒を飲んではいけない」
 
やがて男たちが酔いつぶれ気味になるので、女組は台所に移動する。清彦の3人の息子は居間に残ったが、千里は台所に来た。こちらに来たのは優芽子と吉子・愛子姉妹、千里、美輪子に祖母・紀子である。滝子さんは向こうに付いてあげている。
 
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「でも私、お父さんの年を忘れてたよ」
などと美輪子が言う。
「お母さんは、紀元2600年生まれで紀子だから忘れないんだけどね」
 
「私はそれでみんなから生まれ年だけは覚えてもらえる。誕生日は忘れられるけど」
「誕生日は5月14日だったよね?」と美輪子。
「え?6月14日では?」と優芽子。
「うちのお母ちゃんは4月14日と言ってた気がする」と千里。
「お祖母ちゃんは7月14日だよね?パリ祭だったはず」と愛子。
 
「愛子が正解」と紀子。
「あぁ。ごめん」
「みんな14日というのだけは覚えてるんだ」
「あ、じゃ、お祖母ちゃんもお誕生日すぐじゃん」
「誕生日おめでとー」
「ありがとう」
 
「でも誕生日を覚えやすいのは千里だよ」
「雛祭りだもんねー」
「そして愛子は千里と1日違いで3月2日」
「そして私の誕生日は忘れられる」と吉子。
 
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「吉子さんの誕生日は10月7日だったよね?」
と千里が言うと
「おお、覚えていてくれたか!」
と言われた。
 
「あれ?姉ちゃんの誕生日は10月9日の気がしてた」
と愛子。
「私、10月までは覚えてもらうけど、日付を忘れられる傾向がある」
と吉子。
 
「でも3月3日生まれなら、いっそ千里ちゃん、女の子だったら良かったのにね」
と吉子が言うと
 
「いや、千里ちゃんは実は女の子なのでは?と昔からよく思ってた」
と愛子が言う。
 
「ああ、千里は可愛い女の子だと思うよ」
と美輪子。
 
「ね、千里ちゃん、ここだけの話。おっぱいあるよね?」
と愛子。
 
さきほど愛子はまともに千里の胸を触っている。
 
「ブラ着けてるだけだよ。中にパッド入れてるけどね」
「ほほぉ!」
 
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「スカートとかも穿くの?」
「穿くよ。セーラー服も持ってるし」
「さっきのセーラー服着て来ようかと思ったって冗談じゃなかったんだ!」
「まさかセーラー服で通学したり?」
「そこまではしないけど、しばしばそれ着て、他の女の子たちと一緒に遊んでる」
 
「まあ、千里ちゃんならいいかもね」
 
「千里ちゃん、生まれる直前まで女の子と思われてたんだよね」
「お医者さんから、女の子ですねと言われてたらしいです」
「でも生まれてみたら、何か変なのが付いてる」
「その時点で取っちゃえば良かったのかもね」
「うん、取って欲しかったかも」
「なるほどねー」
 
「でも一度、そちらのうちに行った時に見せてもらったアルバム、千里ちゃんの小さい頃の写真って女の子の服を着たのばかりだった」
 
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「うん。吉子さん・愛子さんのおさがりをもらってたんだよ。うち貧乏だし、小さい子だから、別に女の子の服でもいいよね、といって着せてたらしい」
 
「それでこういう子になっちゃった?」
「関係無いと思うよ。私のは元々の性格だよ」
 
「まあ、そういう訳で、可愛い千里の写真をみんなに大公開。一応ここにいるメンツだけの秘密ね」
 
と言って、美輪子が自分のパソコンを開き、千里のセーラー服写真、ドレスを着た写真、マリンルックの服を着た写真などを見せる。
 
「おお、可愛い!」
「千里ちゃん、もういっそ性転換しちゃいなよ」
「へへへ。けっこうしたいと思ってる」
「やはりねー」
 

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「だけど、こういう格好している所見ると、千里って結構愛子に似てない?」
 
「ああ。私と千里って、顔立ちが似てるというのは昔から言われていた」
「千里が男の子の格好してればさすがに見間違えないだろうけど、同じ服を着てたら、双子か何かと思われるかもね」
 
「身代わりができたりして」
「身代わりか。健康診断の身代わりしてもらおうかな」
「それはさすがに無茶」
 
「でも、千里はその髪、何と言って学校の許可取ってるの?」
「神社の巫女さんしてるから」
 
「巫女さん?」
「それって男でもできるの?」
「まあ神社の人は私のこと女の子と思ってるかもね」
「でも男が巫女さんしてたら、神様怒ったりしないのかな」
「私が神殿で笛を吹いたり、舞を舞ったりしてると神様のご機嫌がいいと言われてる」
「へー。じゃ、神様公認か」
「やはり、千里、本質的に女の子なんだろうね」
 
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「この子は間違い無く女の子だよ」
と美輪子は言う。
 
「でも笛吹くんだ?」
「龍笛ね」
「今持ってる?」
 
「本番用のは神社に置いてるけど、練習用のは持って来てるよ」
「わあ、吹いてみせて」
 
というので千里はバッグの中から練習用の樹脂製龍笛を取りだし、神楽の一節を吹いてみせる。
 
「美しい!」
「髪の長い少女が横笛を吹くって絵になるね」
 
「まあ、そこでそういう図がここにある」
と言って美輪子は、千里が勤めている神社の広報用ビデオをパソコンで再生した。
 
「神秘的!」
「巫女さんの衣装がすごく似合ってる」
 
「まさかこの子が男の子だとは誰も思わないね」
 
「まあ問題があったら、千里はとっくに天罰を受けてるだろうね」
「天罰というと、雷に打たれて死んじゃうとか?」
「いや、きっと天罰で男の子の機能が無くなっちゃうんだよ」
「それって罰ではなく御褒美という気がする」
 
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夏休みに入ってすぐ、今年も下旬に模試があるので、蓮菜が今年も勉強合宿するよー、と言った。昨年同様、蓮菜の親戚の民宿を使う。今回の参加者は、蓮菜・美那・千里・恵香・佳美・留実子の6人である。
 
「札幌の学習塾で合宿なんてのに参加する子もいるみたいね」
「そういうの高そう」
「3泊4日で6万円だって。食費別」
「こちらは2泊3日で7000円。食費コミ」
「食費コミというより食費ノミという雰囲気も」
「まあ講師が居ないし」
「でもその分マイペースで勉強できる」
 
「ところで、そっちの合宿は制服で参加なんだって」
「何か特別なこと?」
「つまりさ、普段着じゃなくて制服を着る」
「ん?」
「制服を着た方が気が引き締まるでしょ? だれた気分でやっても効果が上がらないってんで、そこの塾の方針らしい」
「へー。でもかったるいね」
 
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「だから私たちも制服でやらない?」
「えー、めんどくさい」
「オンとオフを切り替えるんだよ。寝る時や御飯食べる時は体操服でもパジャマでもいいけど、勉強している間は制服」
「まあ、いいんじゃない」
 
「じゃ、全員26日午後1時に制服で現地集合ね」
 

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