広告:めしべのない花―中国初の性転換者-莎莎の物語-林祁
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■女の子たちの初体験(4)

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空がどんどん明るくなっていき、やがて海の向こうに太陽の一部が見えたかと思うと、どんどん光は大きくなっていき、夫婦岩の右側の付近から、太陽は昇ってきた。いや、それは昇ってきたというより、そこに太陽が生まれてきたかのような感覚であった。
 
そして太陽は物凄い速度で海から離れていく。高速撮影で残しておきたいと思うようなほんとに短い時間の自然のショーだった。
 
千里は何も言葉を発せなかった。蓮菜も雨宮先生も無言である。
 
他にも参拝客が数人居たが全員ただただ、その美しさに目を奪われていた。
 
まだ近くのお店の類いが開いてないので、作曲作業は車に戻って車内で行った。例によって蓮菜がある程度詩を書いたのを見て、千里は車の外に出たが、今度はフルートではなく篠笛を吹く。この篠笛は最近購入した《ドレミ調律》つまり西洋音階に合わせて穴が空けられている篠笛である。
 
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例によって千里が二見浦の海岸で横笛を吹いていると早朝から来ている参拝客が遠巻きに見ている。写真を撮ってる人もいる。その内自分の写真がどこかの写真コンテストに入選して新聞などに載ったりしないだろうかと少しヒヤヒヤである。
 
15分くらい探るように吹いている内に、良い感じの旋律を見つけ出す。それで車内に戻り、蓮菜の作業を見ながら、千里は曲を組み立てて行った。
 
「あんた、笛はほんとに上手いね」
と雨宮先生から言われる。
 
「ありがとうございます」
「サックスも覚えてみない? あれも笛の一種」
「そうですね。でもサックス買うお金無いし」
「そのくらい儲けさせてあげるよ」
「でも手も回りません!」
「確かにそうかもね」
「今はバスケだけで手一杯です」
「そうだ。2月に書いてもらったインターハイ・バスケのテーマ曲、こないだ音源制作が終わったよ」
「わあ」
 
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「Lucky Blossomの演奏のインストゥルメンタル版だけのつもりだったんだけど主催者が歌も欲しいと言い出してね。急遽歌詞も書いて、ボーカル版も出すことになった」
 
「そちらは誰が歌うんですか?」
と蓮菜が訊く。
「Parking Service」
「なるほどー」
 
Parking Serviceは若い女性5-8人程度の歌唱ユニットである。「程度」というのはメンバーが結構コロコロと変わっていて、人数もしばしば変動しているからである。女性警官っぽいコスプレで歌うのが彼女たちのトレードマークになっていて、デビュー曲は『あなたは私の心に駐車違反』だったが、ヒット曲っぽいものはまだ無い。しかしライブの動員はかなり凄いようで、典型的なアイドル歌唱ユニットである。
 
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「CDができたら両方とも送ってあげるから」
「ありがとうございます」
「そのテーマ曲を自分で会場で聴けたらいいね」
「うん、頑張る」
 
ほんとうにあの曲を自分でその場で聴きたいと千里は思った。よし、決めた。お母ちゃんとの約束は破ることになるけど、もう去勢しちゅおう、と千里は決意した。雨宮先生に言われたように、最低でも去勢しておけば自分は女子としてインターハイに出ても良い気がしてきていた。
 

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「あんたたち伊勢の神宮自体は見たことある?」
 
「はい」
とふたりとも返事する。
「玉垣の中までは入った?」
「中?」と蓮菜が質問する。
「私は巫女研修で来たので入りました」と千里。
 
「どっちみち、ご挨拶しておこう」
と言って雨宮先生は外宮の方へ車を進める。
 
「お伊勢さんに参拝する時、必ず外宮にお参りしてから内宮にお参りすることは知っているよね?」
「はい」
 
それは蓮菜も知っていたようである。それで先生は車を外宮の駐車場に駐めてから2人を降ろした上で、車内後部座席でブラックフォーマルに着替える。後ろのファスナーは千里が上げてあげた。
 
「礼服なんですか?」
と蓮菜が訊く。
「特別参拝は正装でなければいけない」
と千里は説明する。
「だから私たちに制服で来てって言ったんですね?」
「そうそう」
 
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雨宮先生も千里も特別参宮章を持っているが、蓮菜は持っていないので外宮の神楽殿の所で手続きをした。先生が蓮菜に1万円札を渡したので、それを納めて、黄色い特別参宮章をもらった。
 
「1万円のお布施が必要なのか」
と蓮菜が言うので
 
「お布施はお寺だよ」
と千里は言う。
「あ、そうか。神社は何ていうんだっけ?」
「ご祈祷なんかの志は初穂料と言うけど、この場合は祈祷のために払うんじゃなくて式年遷宮の費用に寄進するんだから、奉賛金でいい」
「なんか難しいな」
 
それで3人で外宮の正殿の所に行き、そこに詰めている神職さんに参宮章を見せる。雨宮先生は神職さんに「私もこの子たちと同じ場所でいいですから」と言うと神職さんは頷いた。荷物は入口の棚の所に置き、神職の先導でぐるっと玉垣の外を横の方に回り込み、左手の出入口から中に入る。
 
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身が引き締まる。
 
蓮菜も緊張しているのが分かった。二拝二拍一拝でお参りする。
 
帰りはまた来た道を辿って、入口の所に戻った。
 

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「緊張した!」
と蓮菜が言った。
 
「凄い所でしょ?」
「ここはあまりにも巨大すぎる。以前観光バスで来た時は気付かなかったけど、あらためて来てみると凄い」
「うん」
「私、折角お伊勢さんに来たんだから、あれをお願いしてこれをお願いしてとか思ってたけど、全部吹き飛んじゃったよ」
「お伊勢さんは個人の願いをする場所じゃないよ」
「そう思った! ただ挨拶することだけしか出来なかった」
「うん、ここはそういう場所」
 
「ところで雨宮先生は、私たちと参宮章の色が違いましたね」
「ああ。納める金額によって色が変わるみたいよ」
「へー。先生のは赤で私と千里のが黄色。赤青黄とかですか?」
「うん。それに白もある。白は1回だけ参宮できるやつ」
「へー」
「黄色・青・赤は期間内なら、何度でも入れるのよ」
「なるほどー」
「9999円までは白、1万円なら黄色」
「だったら、黄色にしないともったいないですね」
「だからみんな1万円払う」
「先生のその赤は幾ら払ったんですか?」
「ああ。これは百万円以上だったはず」
「ひゃー!」
「だってこういうの、お金持っている人はそれなりに払うべきだよ。それがお金を持つ者の社会的な責務だと思う」
 
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「そう考えられる人は偉いと私は思います」
と蓮菜は言った。千里も「同感です」と言った。
 

外宮の後、内宮に移動する。ここでもまた玉垣の中で参拝した。
 
「なんかさ、東京タワーの麓に立っているのに近い感覚なんだよ」
と蓮菜は言った。
「うん。そういう感じ。多分もっと巨大だけどね」
と千里は答える。
「やはりそうか」
 
「私は最初ここに来た時、こんな神社反則だと思ったよ」
と雨宮先生は言った。
「少なくとも普通の意味での神社じゃないですからね。ここ」
と千里も言う。
 
「ところであんたたち、瀧原宮・瀧原竝宮(たきはらのみや・たきはらならびのみや)は行った?」
「私は巫女の研修で行きました」と千里。
「私、それ知りません」と蓮菜。
 
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「じゃ、葵ちゃんも見てないようだし、そこに行こう」
 
と言って車は瀧原宮・瀧原竝宮に移動する。参道そばの道の駅で少し休憩したが、この道の駅で楽曲はだいたい完成した。
 
それから3人でお参りに行く。
 
千里が前回ここにきた時は、早朝バスでここに来て、朝日が昇るのと同時に参拝した。あの独特のすがすがしさはさすがに、ここまで太陽が昇ってしまうと無いものの、それでもひじょうに《きれい》な場所である。
 
「ここはまた凄い」
と蓮菜が感動している感じだ。
「こんなきれいな所、初めて」
 
「ここがお伊勢さんの原点なのさ。でもここまで来るのは、よほど信心の篤い人か、よほどの物好きか、よほどのオタクだから、本宮の方が昼間少々乱れても、こちらはきれいなままだよ」
と先生は言う。
 
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「私たちはそのどれでしょうね?」
「まあ物好きかオタクかどちらかだろうね」
 
蓮菜は創作意欲が湧いたと言って、この瀧原宮・瀧原竝宮でも新たな詩を書いた。
「千里、さすがに連続では曲書けないだろうから後でいいから、これにも曲を付けてよ」
「うん。時期は少し待ってね」
 
雨宮先生は、昨夕と今朝書いた2曲の手書き譜面のコピーを途中のコンビニで取った上で「それMIDIにまとめて今週中にメールしてくれる?」と言う。
 
「明後日の朝までにはやります」
と千里は答えた。
「じゃ、よろしく」
 

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それで一行は伊勢を後にし、去勢手術をしてくれる病院に行くことにする。先生に言われて千里も蓮菜も私服に着替えた。当然年齢を誤魔化して手術してもらうので、高校の制服を着て病院に行ったら、保護者を連れて来なさいといわれる。
 
「なりゆきだし、私が付き添いになってあげるよ」
と蓮菜が言う。
「ありがとう」
「千里の姉ということで」
「うん」
 
午前中に先生が電話で予約を入れてくれていたが千里はネットから問診票を登録しておいた。先生は病院の駐車場の車の中で寝てるということだったので、蓮菜と2人で病院には入った。名前を呼ばれて最初千里だけ診察室に入る。
 

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「あれ?去勢手術と聞いたから、てっきりMTFの人だと思ったんだけど、君FTMだっけ?」
「いえ、MTFですけど」
「そうなの? いや、僕は卵巣の摘出手術はやってないんで、と言おうと思ったよ」
 
それで取り敢えず見せてと言われるので下半身裸になって見せるが
 
「パンティだけになった段階では、付いてないかと思った」
と言われた。
 
サイズを測られ、いろいろいじられる。
 
「これ勃起しないの?」
「しません」
「何年くらいホルモンやってるの?」
「3年半ほどです」
 
それで服を着てから蓮菜も呼ばれて、手術の方法、副作用などについて説明を受ける。
 
勃起できなくなることが多いですとか、子供は作れなくなりますとか、ホルモンも減るので人工的に男性ホルモンか女性ホルモンのどちらかを、死ぬまで摂り続ける必要がありますとかいった説明も受ける。
 
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それで手術同意書に署名する。
 
「あ、君何歳だったっけ?」
「20歳ですけど」
「生年月日は?」
「1987年3月3日です」
「干支は何年生まれ?」
「丑年です」
 
干支は絶対訊かれるからと雨宮先生に言われたので確認しておいたのである。
 
「手術は部分麻酔でも全身麻酔でもできるけど、どちらがいい?」
「部分麻酔は痛いと聞いたので全身麻酔で」
「じゃ血圧とか心電図とかチェックして15時から手術ね」
「よろしくお願いします」
 
血圧・脈拍を測られた後で採血される。レントゲンと心電図を取られる。それから取り敢えず病室に通され、看護婦さんが、あの付近を剃毛してくれた。
 
「蓮菜ごめんねー。こんなのに付きあってもらって」
「ううん。友だちのよしみだよ。でもとうとう千里も男の子じゃなくなっちゃうのね」
「うん。お母ちゃんとの約束破っちゃうけど、今の身体のままではインターハイに行けないから」
「多分、お母さんもその約束は当然破られるだろうと思ってるよ」
「そうかな」
 
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「春休みに千里のお母ちゃんにちょっと会った時、千里のことで色々聞かれたけどさ、お母さん、千里はもう性転換手術済みと思ってる雰囲気あった」
「うーん・・・」
 

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14時40分になって部屋で手術着に着替え、千里は手術室に運ばれていく。手術なんて初めての体験だからちょっと緊張する。手術台に乗せられると心臓がドキドキする。再度医師から
 
「本当に去勢していいですね?元には戻せませんよ」
と訊かれた。
「はい、手術お願いします」
と言うので、麻酔の注射を打たれる。
 
千里は意識を失った。
 
 
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女の子たちの初体験(4)

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