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■女の子たちの初体験(2)

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境内には所狭しと大量のお人形が並べられていた。種類別に分けられていて、ひな人形、市松人形、博多人形、大黒様、招き猫、カエル、龍、などが各々物凄い数並んでいる。
 
「私、ちょっと怖い」
と蓮菜が言う。
「気持ちをしっかり持っていれば大丈夫」
と千里は言った。
 
とにかくも拝殿でお参りした後、雨宮先生と一緒に境内を歩いてみるが確かに先生の言う「壮観」という言葉は当たっている。よくまあ、こんなに集めたものだと千里は思ったのだが、ここは人形供養の神社として知られており、全国からそのままゴミとして捨てるにはしのびないと所有者が思った人形が持ち込まれているのである(郵送では受け付けない)。
 
「ここ夜中に来たら、この人形たちが動いてたりしない?」
などと蓮菜が言うので
「蓮菜、そういうことを想像してはいけない。ただ景色として眺めていよう」
と千里は注意した。
 
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神社を出てから先生の車は海岸沿いの細い道を戻り、和歌山駅の方から来た少しは広い道(それでも結構狭い)に戻る。しかし和歌山駅方面には戻らず、そのまま加太湾に沿って北上する。
 
「京都方面へドライブですか?」
「ううん。京都には行かないよ。この海が第一目的地」
「ここが第一目的地なら、さっきの神社は?」
「ご挨拶」
 
そして車は海水浴場近くの駐車場に駐める。
 
「きれいでしょ?」と先生。
「心が洗われる感じ」と蓮菜。
「神々しいです」と千里。
 
「右に見えるのが地島。左にやや薄く見えるのが神島。その神島のすぐ向こうには淡路島があるんだよ」
と先生は説明する。
 
「淡路島って、そんなに近いんだ!」
「淡嶋神社の対岸に淡路島があるって何だか意味深ですね」
「ふふ」
 
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「もうすぐ日没ですね」
「うん。今日の日没は18:51。ちょうどここで日没を見られるように時間調整してたんだよ」
「この太陽、あの島影に沈みますね」
「そうなりそうね」
 

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千里たちは、その本当に神々しい景色の中、初夏の太陽が次第に地島の方角に沈んでいくのをじっと見ていた。
 
「美しかった」
「凄いでしょ」
「ええ」
「じゃ、その感動を曲にしよう」
「やはりお仕事なのか」
「だからあんたたちを呼んだのよ」
 
それで3人は近くの飲食店に入り、曲作りを始めた。外はまだ太陽が沈んだばかりで赤い夕日に包まれている。その夕日の空の色が刻一刻と変化していく。その様もまた美しい。
 
「これ誰が歌うんですか?」
と蓮菜は尋ねた。
 
「津島瑤子」
と先生が言うと
 
「うっそー!」
と千里も蓮菜も声を挙げた。
 
「ミリオン歌手の歌を、私たちが書いていいんですか?」
 
千里は本気で驚いていた。大西典香はいわば駆け出しの歌手だ。自分たちのようなほとんど素人に近いソングライターの作品を歌わせてもいいかも知れない。しかし津島瑤子は数年前に『出発』(馬佳祥作詞・木ノ下大吉作曲)という曲を120万枚売り、様々な賞を獲得している。
 
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「確かに『出発』はミリオン売れた。でもその後は鳴かず飛ばず」
「うーん・・・」
「世間では一発屋とみなしている人が多い。もっとも彼女はデビュー曲の『あなたの猫になりたい』も20万枚売れてるから二発屋というべきかも知れないけどね」
 
「でも逆に3発も4発もヒットが出るのは、とんでもない人たちでしょ?」
「そう。だから、津島をそのとんでもない人たちの仲間入りさせてやろうという再生企画なんだよ」
「そんな企画に私たちの曲を使っていいんですか?」
 
「こういう時に必要なのは、名前だけで、もう力の衰えた大作曲家の作品ではなくて、伸び盛りの若い実力派の作品なんだ」
 
千里も蓮菜もその《衰えた大作曲家》に心当たりがあったが無論名前は出さない。
 
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「まあ、あんたたちだけじゃなくて、他にも何人かの若いソングライターに頼んでいるから、あまり気負わずに書いてもらえばいい」
「アルバムですか?」
「ミニアルバムにする」
「了解です」
「これも作曲クレジットは鴨乃清見にするから」
「あはは」
 

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蓮菜はその急速に変化していく夕日の光の中で『黄昏の海』という作品を書いた。千里は蓮菜の作詞作業と並行して作曲作業をしていた。蓮菜の書く詩の最初の方だけ読んでお店の外に出、フルートを吹いた。
 
夕闇迫る浜辺で女子高生がフルートを吹く様は結構絵になる。何だか観光客が写真を撮っているが、千里は気にせず吹いていた。夕日の光を全身に浴びて、その感覚が千里に旋律のモチーフを与えてくれる。でもこの写真、自分でも欲しいな。誰か写真撮ってよ、などと言ったら《いんちゃん》が千里の携帯を使ってフルートを吹いている千里の写真を撮ってくれた。
 
お店に戻って五線紙を取り出し、今フルートを吹いていて見つけたメロディーを書き留める。その中で蓮菜が既に推敲に入っている歌詞と調和しそうなものを選び、楽曲としてまとめていく。
 
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ふたりの作曲作業は1時間半ほど掛かり、だいたい20時半頃にはかなりまとまってきた。
 
「そのあたりまでまとまったら、後からでもまた調整できるわよね」
「はい、多分」
「では出発」
「どこに行くんですか?」
「二見浦(ふたみがうら)」
「伊勢ですか?」
「そそ。和歌山で夕日を見て、伊勢で朝日を見る」
「明日の朝までに伊勢に行くんですか?」
「うん。今から出発」
 

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それでお店を出る。ふたりを乗せた雨宮先生のマジェスタはいったん和歌山市の市街地まで戻ると、和歌山ICから阪和自動車道に乗る。そして白浜方面に進む。
 
「え?名阪方面に行くんじゃないんですか?」
 
和歌山から伊勢に行く場合、常識的には、西名阪・名阪・東名阪から伊勢道を走って行く。それならノンストップで走って3時間程度である。
 
「ノンノン。紀伊半島を海沿いに走って行く」
「えーー!?」
「かなり距離が長くなりませんか?」
「そうだね。100kmほど長くなるかな」
「時間も掛かりますよね」
「高速の無い区間が大半だからね。倍くらい時間が掛かるはず」
「もしかして道も悪くないですか?」
「だからフェラーリじゃなくてクラウンなのさ」
 
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蓮菜と千里は嫌そうな顔でお互いを見つめ合った。
 
それでマジェスタは阪和道を南下し、1時間ほどで南紀田辺ICまで到達する。そこまでの区間、蓮菜と千里は雨宮先生を交えて、先日楽曲の制作をした大西典香のことや、他のいろいろな歌手・バンドの話などをしていた。
 
しかしそういう話をする余裕があったのはそこまでだった。
 
インターチェンジを降りて国道42号に入ると、物凄いカーブの連続である。千里は身体を左右に振られながら、きゃーっと思った。これ酔っちゃいそう。
 
「あんたたち寝ていた方がいいかもよ」
「そうします!」
 
それで寝やすいように先生が道路脇の駐車帯に駐めてくださったので、そこに停まっている間に、蓮菜も千里も寝ることにした。車が動き出すのを千里は遠い感覚の中で感じた。
 
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夜中に起こされる。
 
「ちょっと休憩しよう」
 
車はコンビニの駐車場に駐まっている。
 
「ここは?」
「串本」
「紀伊半島南端ですか?」
「そそ。ここまでの道、楽しかったわよ」
「寝てて良かったみたいですね」
 
トイレを借りた後、雨宮先生はブラックコーヒーにおにぎり1個、千里はブラックコーヒーだけ、蓮菜はコーラとハンバーガーにあんパンを買った。
 
「千里も雨宮先生もブラックなのね」
 
「御飯の時以外にあまりカロリーのあるもの取りたくないから。試合中はカロリー消費激しいからスポーツドリンク飲むけど、あれは例外」
と千里は言う。
 
「私は女性ホルモン飲んでるからね。女性ホルモンって血糖値を跳ね上げるのよ。だからきちんとカロリーコントロールしておかないといけない。でも運転しているのに低血糖起こしちゃいけないから非常用におにぎり。空腹感があったら血糖が低下する前に食べる。一応ブドウ糖も持ち歩いているけどね」
と雨宮先生は言う。
 
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「あれ?もしかして千里も女性ホルモン飲んでるから、カロリーコントロール?」
「ううん。でも女性ホルモンって血糖値を上げるんですか?」
「そうよ。知らなかった?」
「知りませんでした! じゃ気をつけなきゃ」
「いや、あんたみたいに少食なら充分問題無い気がする」
 
千里は加太で食べた夕食も半分蓮菜に食べてもらっている。
 

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店を出るが、雨宮先生が唐突に言い出す。
 
「ねぇ、私ここまで運転してきて疲れたから、千里、あんた運転しない?」
「私、免許持ってません」
「あんたたち、まだ免許取れないんだっけ?」
「18歳以上ですよ。私まだ16です」
「じゃ、取り敢えず覚えて」
「ちょっと待ってください」
「この車はATだからゴーカートと似たようなものよ。ペダルが2個あるのの、右側がアクセル、左側がブレーキだから」
「運転できませんってば」
 
「だって凄いカーブの連続だったからさあ。神経物凄く使ったから、それでこのあと居眠りとかしたら大変だもん」
「だったら少し仮眠してから出発しましょうよ」
 
「仮眠していると二見に夜明けまでに着かない可能性があるのよ」
「だったら、どうして交代のドライバーを用意してなかったんですか?」
「うん。だからあんたが交代のドライバー」
 
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千里は運転しないと言ったのだが、雨宮先生は強引である。とうとう根負けして運転席に座る。この席に座るのは初めての体験だ。
 
蓮菜は「千里頑張ってね〜」などと言って後部座席の助手席の後ろに乗る。雨宮先生は助手席に乗って少しリクライニングさせる。
 
「シフトレバー、ブレーキとアクセル、ステアリング・ホイール、ウィンカー。このくらい分かっていれば運転できる」
と雨宮先生は基本的な所を説明する。
 
「シフトレバーは基本的にDの位置で運転する。SとかNとかは考えなくていい。Pは駐車する時だけ。Rはバックだけど多分今夜はバックする場面は無い。赤信号ではPに切り替えたりせず、Dのまま、ずっとブレーキペダルを踏んでいる」
 
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「AT車はアクセル踏まなくてもブレーキペダルから足を離すと勝手に動き出す。これをクリープという。これを理解してないと物凄く危険だから注意して。AT車に慣れてないドライバーはよくこれで事故を起こすんだよ。通常はアクセルを軽く踏みながら、その踏み加減で速度を調整する。逆にアクセルから足を完全に離しておくと車は次第に速度を落としていく。これをエンジン・ブレーキと言う。カーブの手前とかで速度を落としたい時は、ブレーキペダルを踏むよりエンジンブレーキを使った方が乗っている人に優しいから」
 
それでとにかくブレーキペダルを踏んだままエンジンを掛け、シフトレバーをDの位置まで動かし、ブレーキペダルを踏む足を緩めてクリープで発進する。どこでステアリングを回すかは先生が自分でもステアリングホイールに手を掛け細かく指示してくれたので、無事コンビニの駐車場を出ることができた。
 
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道路に入り足をアクセルの方に移す。車が少ないので何とかなる感じだ。街中ということもあり時速30km程度で走って行くが、この30km/hという速度を千里は凄まじく高速に感じた。左右にぶつけそうで怖い!
 
しかし10分くらい走っているうちに、アクセルの踏み加減と車の速度の出方の関係、ハンドルの回し加減と車体の進行方向の変化を身体が覚える。
 
「よし、その調子その調子。じゃ私寝るけど、少しでも疑問のある時は遠慮無く起こして」
「はい」
 

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