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■女子大生たちの二兎両得(7)

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それで千里はバッグの中から愛用のタロットを取り出した。
 
3枚引いてV字型に並べる。
 
中央底のカードは魔術師である。左上のカードは棒の10、右上のカードは女司祭であった。
 
「魔術師というのは物事の始まりを表すから基本的には良い兆候だよ。医学部の再受験は悪くないと思う。でも左上のカードは棒の10。このカード絵柄を見ると、棒を10本も抱えて重そうにしてるでしょ?」
「うん」
 
「つまり両方やるのは過負荷だってこと」
「やはりそうだよねぇ」
 
「右上のカードは女司祭。これは理学部を辞めるかあるいはサボっちゃう場合。女司祭というのは図書館を表すんだよ。図書館みたいな所で頑張って勉強していれば、道は開ける」
 
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「片方だけにしろってことだよね」
「そそ。二兎を追う者は一兎をも得ず」
「ありがとう。もう少し考えてみる」
「うん」
 

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「でも村山君、今日はなんで背広なんか着てたの?」
「うん。実は塾の先生をしてるんだよ。それできちんとした服装をしてくれって言われて」
 
「女の子が背広を着るのは全然ちゃんとしてないと思う」
 
千里はドキっとした。
 
「村山君って実際は女の子だよね? 今日はつけてないけど、よく花の香りの香水を付けてる」
「ああ、あれはオードトワレなんだけどね」
「うーん。そのあたりの区別は僕はよく分からないけど。でも実はそういう香水を付けてない時は、ほんのりと甘い香りがするんだよ。今もその香りを感じている」
 
そういえば昔から何度かそれ言われたな・・・。
 
「岡原さん(朱音)なんかと話してても気付くことある。ほとんど女っ気の無い高園さん(桃香)でも、その香りがする。多分あれ女の子のフェロモンか何かだと思うんだけどね」
 
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千里は微笑んだ。
 
「ボク、確かにそういう香りがするって何度か言われたことあるよ」
「それは村山君は実は女の子だからだ」
 
「ボクが男の子か女の子か確認してみる?」
 
宮原君がドキっとした顔をする。
 

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それで2人でタクシーに乗って、ちょっと怪しげなホテルに入ってしまう。
 
「じゃ、本邦初公開・・・って訳じゃ無いけどね」
 
と言って千里は着ている服を全部脱いでみせた。紙屋君にもこないだ見せたしなあ。
 
宮原君は微笑んでいた。
 
「やはりそうだったか」
「まあ、生まれた時は男の子だったよ」
「こういう選択をするのに悩まなかった?」
「たくさん悩んだよ。でも自分のあるべきやうは、こうだと思った」
 
「あるべきやうは・・・。明恵上人だね?」
「ああ。知ってるんだ」
「うん」
 
「宮原君も、迷わず自分の道を進みなよ。自分のあるべやうは?と考えれば答えは自ずから分かること」
 
「そうしようかな」
 
「ちなみにこのままHしてもいいよ。避妊具は持ってるよ」
「村山君の彼氏に悪いからHはしないよ」
 
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「宮原君って自制的だね」
「意気地が無さ過ぎると高校時代のガールフレンドに言われたことある」
「ああ、宮原君、そういうタイプかも」
 
「でも、こんな所まで一緒に来たよしみでさ。僕と村山君の間では名前で呼び合わない?」
 
「いいよ。じゃ私のことは千里と呼び捨てにしていいから」
「うん。じゃ、僕のことは文彦で」
 
その夜は携帯の番号とアドレスを交換した後、ふたりでカーレースのゲームを2時間ほどしてから別れた。
 
そして宮原君は10月から始まった後期の授業には姿を見せなかった。後期は休学しているということであった。
 

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夏期講習はお盆の期間は休みとなるが、この時期にゴールデンシックスの音源制作を集中しておこなった。
 
一応、千里も蓮菜も、また麻里愛も「忙しいから」ということでゴールデンシックスには入っていないのだが「音源制作の時だけでも頼む」と言われて出て行ったのである。
 
「やはりオーバーダビングするには、きっちりとした譜面で演奏しないといけないでしょ? それより多少のハプニングがあったとしても、セッションの面白さと揺らぎの自然さを取って、一発録音した方がいいと思うんだよ」
と花野子は言った。
 
それでこの年のアルバムでは、基本的には演奏データの切り貼りはせずに、通して録音したものの中でいちばん出来の良いものを採用して収録するという方針で制作を進めたのであった。
 
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楽器はゴールデンシックスの6人と、ゴールデンシックスに参加しなかった元DRKメンバーの4人の合計10人でいろいろやりくりして演奏する。ベースはノノ(希美)が弾いてくれるし、ヴァイオリンは上手な麻里愛が弾いてくれるので、千里はもっぱらフルートや篠笛・龍笛を吹いた。
 
10曲入りのアルバムの形で制作したので、録音には練習も含めて合計50時間、12-13時間ずつ4日を要した。
 

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15日には現在KARIONとして活躍中の美空も来てくれていた。
 
「契約上関われないけど、見学だけ」
「見学だけでも心強い!」
「でも忙しかったのでは?」
「昨日の東京公演でこの夏の活動は終わったんだよ。今日からは受験勉強のための休養期間」
「おお、お疲れ様!」
「どこ受けるの?」
「M大学」
「へー。普通っぽい」
「3人揃って合格できそうな大学というので、そこになった」
 
「ああ、同じ所の方が何かと都合いいよね?」
と花野子が言ったら
 
「某小風ちゃんが何とか頑張れば入れそうな所という線か」
と蓮菜が言う。
 
「そうそう」
と楽しそうに美空。
 
「でも3人だけ? 蘭子ちゃんは?」
と千里が訊く。
 
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「ああ、蘭子はあちらの相棒と一緒に△△△大学だよ」
「すごーい! あんなに忙しくしてたのに、よくそんな所狙えるね」
 
美空と千里・蓮菜がそんなことを言っていたら
「らんこって誰?」
という質問が出る。
 
「KARIONのメンバー」
「KARIONは、いづみ・みそら・らんこ・こかぜ、名前が尻取り」
 
「KARIONって4人なの!?」
「3人だと思ってた!」
 
「まあゴールデンシックスがシックスと言いながら、こうやって10人で音源制作しているようなもの」
「10人でもシックス、人数が減って1人になってもシックス」
「いや、1人という事態は想定したくない」
 
「まあシックスは、あくまで名前だから」
「セブンイレブンが最初は7時開店11時閉店だったのが今は24時間営業になっているようなもの」
「アメリカン・エクスプレス(直訳すると米国急便)が最初は宅急便屋さんだったのが、いまは金融会社になっちゃったようなもの」
「黒猫大和が最初は黒猫ちゃんが運んでいたのが今は人間が運んでいるようなもの」
「いや、それは違うぞ」
 
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「でもKARIONはそもそも『4つの鐘』という意味」
「へー!」
 

音源制作が終了したのは16日の夜10時頃であった。この日も昼間だけ美空は顔を出して、ケンタッキーの差し入れをしてくれた。
 
「ねえ、蓮菜、レーベルのデザインやジャケ写だけど、田代君に頼める?」
と花野子が言うと
「いいよ。仮音源聴かせて、そのイメージで描いてもらう」
と蓮菜は答える。
 
「蓮菜さぁ、田代君との関係はどうなってるの?」
と京子が半ば心配そうに訊いた。
 
「ああ、あいつとは当面セフレということで」
「マジで〜〜!?」
 
「他にもセフレ化しつつある子がいるみたいだけど」
と蓮菜は意味ありげに言うので、千里はまあいいかと思い
 
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「私の場合はメフレだね」
と言う。
 
「何それ?」
「メンテナンス・フレンド」
「はあ?」
 
「まあ、体調が悪かったら看病してあげたり」
「ほほぉ」
「セックスで悩んでいたら、少し練習させてあげたり」
「セックスの練習!?」
 
「やはり、それはセフレでは?」
 

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「そういえば千里は大学に入ったら速攻で去勢したという噂を聞いたが」
「どこからそんな噂が」
 
「まだ玉あるの?」
「そんなの無いと思うけどなあ、私女の子だし」
「おお!」
「やはり去勢済みか」
 
「待って。女の子だし、ということは既におちんちんも無いとか?」
「普通、女の子におちんちんは無いと思うよ」
「おぉ!!!」
「性転換手術しちゃったんだ!」
「体調はだいじょうぶ?」
 
「でも凄く困ってることがあってさ」
「ん?」
 
「私が去勢手術を受けるのは多分2年後で性転換手術はその1年後」
「へ?」
 
「意味が分からん!」
 

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ゴールデンシックスの音源制作が終わって後片付けをしてスタジオを出ようとしていたら、何と雨宮先生が顔を出した。
 
「おはようございます」
とDRK以来のメンバーは即反応するが、ゴールデンシックスになってから参加した3人は、誰なのか認識できない。鮎奈が「ワンティスの雨宮三森先生」と言うと「うっそー! なぜそんな大物が」と驚いている。「挨拶、挨拶」と言われて慌てて「おはようございます」と他の子と同様の挨拶をする。
 
「音源できた?」
「録音だけは完了しました。まだまとめてません」
「そのまとまってないデータでいいからコピーちょうだい」
「はい」
 
ということで、千里がノートパソコンを出して予備に持っていたハードディスクにProtoolsのデータをまるごとコピーしてディスクごと渡す。
 
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「マスタリングが終わったら、それもそちらにお送りしますので」
「うん、よろしくー」
 
「千里、そのハードディスクは?」
「予備に持ってきてた」
「そんなのいつも持ってるの?」
「必要になりそうな気がしたから今朝1台買って来た」
「なんで〜?」
 
「いや、千里は昔からこうだった」
「何が必要になるかが分かるらしい」
 
「普通の人が雨降りそうだなと思って傘を持って出るのと同じだよ」
「いや違う」
 
雨宮先生はディスクを受け取ると、千里に別のハードディスクを渡す。
「これ私が自分でミックスダウンするつもりだったんだけどさ、どうにも時間が取れないのよ。あんたミックスダウンしてくれない?」
「はい。いつまでに?」
「そうだなあ。来年の3月までに」
「了解です。今月中にやります」
「私、いい弟子を持ったわ」
「ありがとうございます」
 
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「あんた夏休みはいつまでだっけ?」
「9月末までです」
「長いね!」
「うちの大学、夏休みが始まるのが8月10日なので」
「変わってるね。まあいいや。じゃそれまでに曲を20曲作ってくれない?これタイトルと歌わせる歌手のリスト」
と言って先生は千里に紙を1枚渡す。
 
「分かりました。それでは9月末までに5曲書いてMIDIにしてそちらにお送りします」
「私、いい弟子を持ったわ」
「ありがとうございます」
 
「何なの〜?この会話は?」
「哲学的だ」
「禅問答だ」
 
千里はポーカーフェイスであるが、蓮菜は苦しそうにしていた。
 
「でもあんた、どの5曲を書くのさ?」
「先生が最も書いて欲しいと思っておられる5曲です」
「それが分かるの?」
「ではお互いにその5つを書きだしてみましょうか?」
「よし。じゃ、それが当たったら、あんたたちに夜食をおごってあげるよ」
「じゃ外れたら、先生の飲み代を私が出すということで」
「面白い」
 
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それで雨宮先生と千里がそれぞれ見えない所で5曲のリストを書く。
 
見せ合う。
 
順序は違っていたものの、ラインナップは完全に一致していた。
 
「参った、おごってあげるよ。居酒屋にする?スナックにする?」
「未成年なのでファミレスで」
 

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それで全員で深夜のファミレスに行き、思い思いのものを頼む。
 
雨宮先生はHな話も好きだが、普通のガールズトークも好きなので話が盛り上がる。いろんな大学の学生が集まっているので、それぞれの大学の雰囲気のような話も出て、先生が絶妙な茶々を入れるので、ほんとに楽しい会話になった。
 
その内バイトの話になる。医学部の子たちはやはりバイトは無理と言っている。文系の子は、だいたいバイトをしているようだが、理学部の子は、してはみたものの負荷が大きくて辞めたという子もいる。
 
「私も最初家庭教師のバイトして、その後、今塾の先生してるんだけど、今月いっぱいで辞めるつもり。今は夏休みだから何とかなってるけど、学校の講義あっている時期は両立不能って感じなんだよね」
と千里も言う。
 
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「基本的にお仕事って昼間だからね。どうしても大学の講義とぶつかっちゃうよ」
 
すると雨宮先生が言う。
「千里さぁ、昼間の仕事が難しいなら、夜のお仕事したら?」
「おっ」
 
「夜のお仕事ですか?」
「そそ。あんたほどの子なら、オカマバーに勤めたら、凄い稼げるよ」
「私、人をおだてるの苦手だから、たぶんあの系統は無理です」
「ああ、確かにあんたは本音が多すぎる」
「先生の教育が良いので」
 
「千里って雨宮先生の弟子なんでしょ? なんか先生に対する遠慮が無いね」
などと京子から言われるが
 
「雨宮先生はイエスマンが嫌いなんだよ」
と千里は言う。
 
「だから普通の会社で出世するようなタイプは雨宮先生の弟子は務まらない」
「なるほど、なるほど」
 
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「まあ、普通の会社ならまっさきにリストラされそうな子が、私の好みだね」
と先生も言っている。
 
「好みって意味深〜」
「この子、ベッドに何度も誘っているのに、応じてくれないんだから」
「そのお誘いって、基本的には数撃ちゃ当たるみたいな誘い方だから」
「ふむふむ」
 
「でも先生は千里を男の子として誘っているんですか?女の子として誘っているんですか?」
 
「それが私にも分からないのよね。それでベッドの上で裸に剥いて確かめたいんだけど、いつもはぐらかされてばかり」
 
「謎は謎ということで」
 

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女子大生たちの二兎両得(7)

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