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■女子大生たちの二兎両得(3)

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台所をチェックして、欲しい調理器具をメモする。貴司はまだ寝ているようなので、鍵を勝手に借りて、車を出し、ホームセンターに行って、ホーロー鍋、中華鍋、卵焼き器、マナ板・包丁、マナ板シート、キッチンばさみ、パン切り包丁、トング、お玉、ターナー、泡立て器、菜箸、計量スプーン、すりこぎ・すり鉢、食器乾燥機、米びつ、更にはこれらを収納するのにキッチン用のワゴンと棚を買う。会計は4万だ!
 
しかしまあ、あんなに何にもない台所でよく1年も生活していたものである。外食ばかりだったのだろうか?
 
もっと近くなら毎日来て御飯作ってあげてもいいけどなあ、などとも思う、
 
マンションに戻るが、貴司はまだ寝ていた。熱さまシートがぬるくなっているので交換する。その後、またまた何度も車と部屋を往復して荷物を運び込む。お米を米びつに移し、棚を組み立てて設置。ワゴンも置き、買って来たものを(必要なら洗ってから)収納していく。
 
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今日はなんだか力仕事だ!
 
夕方くらいになって貴司が目を覚ましたので、御飯を雑炊にして、スープと一緒に勧める。
 
「美味しい、美味しい」
と言って食べてくれる。熱はまだ完全には下がりきっていないので、あまり無理しないようにと言って、御飯もスープも一杯だけにした。病院の薬を飲む。
 
「なんか台所が見違えてる」
 
と貴司はやっと台所に気付いて言う。
 
「だって、あまりにも何も無いんだもん。貴司、外食ばかり?」
「うん。外食と、ホカ弁と、レトルトカレーにカップヌードルに」
「そんなんじゃ、バスケ選手としての身体を維持できないよ。貴司料理自体はできるよね?」
「うん、まあ」
 
「じゃ、私がメニュー考えて、レシピFAXしてあげるからさ、ちゃんと作って食べない? 近くに住んでたら毎日私が作りに来てあげてもいいんだけどね」
 
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「そうだなあ。確かにインスタント食品ばかりじゃ身体に良くないなというのは思ってたんだけど」
 
少しおしゃべりした後、少し熱が出て来たというので、またアクエリアスを飲んで貴司は寝た。
 

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熱さまシートのストックがあまり無かったというので、千里は近くのコンビニに行って1箱買ってくる。ついでに雑誌を数冊買ってきて、貴司のベッドのそばで読んでいた。
 
20時過ぎに貴司の携帯に着信がある。着メロが『みくみくにしてあげる♪』だ。多分彼女かな、と思うが貴司は起きない。
 
「貴司、彼女から電話だよ」
と言って、揺すってみたものの起きる気配が無い。
 
電話は何度も何度も掛かってくる。その内『世界に一つだけの花』が鳴る。どうもメール着信のようである。貴司は起きない。それで千里が見てみると
 
「そちらに行きます。緋那」
と書かれている。
 
困ったなと思う。彼女はたぶんここの鍵を持っているだろう。自分は出ていた方が良いか?とも思ったものの、貴司は苦しそうにして寝ている。この貴司を放置して出て行く訳にはいかない。
 
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『千里、ベッドの下に隠れる?』
と《くうちゃん》が言うので、千里は玄関に行き、自分のパンプスを取ってきてから、貴司のベッドの下に隠れた。何だか、泥棒にでもなった気分!
 

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彼女からのメールが来てから20分ほどして、インターホンが鳴る。貴司は起きない。うむむ。困ったな。何度か鳴った上で
 
「緋那(ひいな)です。ちょっと開けてくれない?」
という声がする。
 
彼女は鍵を持っていない??
 
貴司が起きる気配が無いので、千里はやれやれと思い、貴司の部屋を出ると玄関まで行き、マンションのエントランスのロックを解除するボタンを押した。玄関の扉も開け、そのあたりに落ちてたスニーカーを挟んで、扉がしまらないようにする。それから千里は部屋に戻ると、本気で貴司を起こす。
 
「貴司、起きてよ。彼女が今こちらに上がってくる所」
 
かなり揺すって、やっと貴司は目を覚ますが、ボーっとしている。
 
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「今、ここに来るからね」
と言って、千里はベッドの下に潜り込んでしまう。
 

間もなく玄関の扉が開いて、女性が入ってくる気配がある。
 
「たかちゃん、寝てるの?」
と言いながら彼女は中に入って来た。
 
「え?」
という声をあげる。台所の様子が随分変わっているから、それに驚いているのだろう。
 
「たかちゃん?」
と言いながら、やがて女性は貴司の部屋に入ってきた。
 
「あ、来てくれたんだ? ごめん。まだ熱があってボーっとしてて」
「ごめんねー。付いててあげたいのは、やまやまだけど、今週の仕事はどうしても外せなくて」
「いや、いいんだよ」
 
彼女は強い香水の匂いをさせている。この香りは知っている。ベビードールだ。恐らくここに来る前に新たに身体に振っている。これなら私のオードトワレの匂いには気付かないかな?と千里は踏んだ。こないだの彼女は東京に来た時も香水の類を付けていなかった。だから、こちらの香りに気付いたのだろう。
 
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「でも台所、お母さんか誰か来たの?」
「あ、えっと、会社の同僚が心配して来てくれてさ。台所見て何にも無いと言って、勝手に色々買って持って来たんだよ。料理好きの奴でさ」
「へー、親切な人がいるんだね!」
 
取り敢えず彼女はその貴司の説明に疑問は持っていないようである。
 
「そいつがおかゆとスープも作ってくれたんだ、夕飯はそれを食べたんだよ」
「なるほどー。良かったね。あ、私も取り敢えずチーズ蒸しパン買ってきたんだけど」
「あ、それ好き」
「食べる?」
「うん」
 
と言って貴司は彼女が買って来たパンを食べている。
 
「私、今夜ここに居ようか?」
「いや、長時間居て風邪を移しちゃったら、キャンペーンに出られなくなってまずいよ。あまり遅くならない内に帰った方がいい」
 
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「そうだね。じゃ10時までは居るよ」
「ありがとう」
 
ふーん。彼女に風邪が移るのは心配する訳ね〜。と千里は若干不愉快な思いだ。しかし彼女、10時まで居るのか。その間、私はトイレにも行けないし、身動きひとつできない。
 
「あ、でもスープあるのなら、私も少し食べていい?」
「うん、食べて食べて」
 

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それで彼女は台所に行き、スープを温め、御飯を盛ってスープも盛って食べ始める。会話しやすいように、貴司の部屋のドアは開けたままである。
 
「このスープ美味しい!」
「ああ、あいつ料理得意なんだよ」
「へー」
 
私が作ったスープを彼女が食べるというのは、まあ悪くない状況だなと千里は思う。どうせなら、女の子が食べたら呪われるようにしておきたかったけどね。
 
などと思ったら、後ろで《こうちゃん》が指を折っている。
 
『勝手な親切はしないように』
『はーい』
 
その内、貴司はトイレに出ていき、そのついでに台所のテーブルの所の椅子に座った。意識をそちらに集中してみると、アクエリアスを飲んでいるようだ。
 
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「座ってて大丈夫?」
「うん。少しくらいならね」
 
「だけど、この調理器具買って来てくれた人、料理好きというのが分かるよ。鍋が、すごくしっかりしたもの選んである。包丁にしても、マナ板にしても玄人好みなんだよ。フライパンも素人なら絶対選ぶテフロン加工のアルミじゃなくて鉄のを選んでる。そして多分野菜くずか何か炒めて、既に表面に炭素の層を作ってる」
 
ああ、この彼女は料理好きだと言っていた。だから、こういうのが分かるのだろう。
 
「ああ、炭素の層を作るんだ、というのはうちの母ちゃんも言ってたなあ」
と貴司は答える。
 
「食材もいろいろ買ってあるみたいね」
と言って彼女は棚に並んだ香辛料を見る。
 
「ミル付きのペッパーなんて、やはり好きな人だよね〜。挽いてある奴は香りが弱いもん。だけど、クミンシードにグローブに、ターメリックに。これ個人的な趣味に走ってるな」
 
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当たり!
 
冷蔵庫を開けているようだ。
 
「味噌、お酒、みりん、ショウガ、ニンニク、オイスターソース。ほんとに料理する人だなあ。安易な、すぐ使える系のものが無いのでも分かる。でもこれだけ揃ってるなら、私、御飯作ってあげる時に、持参するものが少なくて済むよ」
 
ふふ。私が用意したもので貴司に料理作るんならどうぞどうぞ。
 
「ん?」
と言って、彼女は冷蔵庫の中の何かを取り出して見ているようだ。
 
「このお味噌、見たことない」
「ふーん」
「どこのメーカーだろう。。。。。館山醸造? 聞いたことない。どこにあるんだろう・・・千葉県館山市??」
 
ぶっ。千里はつい吹き出してしまった。あはは。こうなったら、なるようになれだな。
 
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「別に東京のキッコーマンだって大阪で売ってるし」
と貴司は言う。
 
「有名メーカーならそうだけど、って、あ、みりんは万上だ。そのキッコーマンじゃん。醤油もこれ見たことないな。成田醤油?? 千葉県成田市???」
 
その内卵に気付いたようだ。
「朝日養鶏場・・・千葉県香取市?」
 
千里はもう笑いたくてたまらなくなってきた。彼女はしばらく沈黙していた。
 
「ね、お友だちってどこに住んでるの?」
「えっと、茨木市だけど」
「茨木市? 茨城県ってことないよね?」
「まさか、わざわざ茨城県の友だちを呼んだりはしないし、来てくれないだろ?」
 
そうだね。わざわざ千葉から普通来ないよ。
 
その時彼女は貴司がお昼に食べた、蒸しパンの袋を見つけたようである。
 
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「この蒸しパンの袋は?」
「あっとその友だちが持って来てくれたのを昼に食べたんだけど」
 
「・・・・工場の記号がYMKだ」
「何それ?」
「ヤマサキの製品はどこの工場で作ったか記号が入っているんだよ。私がさっき持って来たのは、ほら、YO1。これ吹田市の工場なんだよ」
「へ、へー」
 
貴司はそろそろ焦っている感じだ。あらあら、可哀想に。
 
彼女はヤマサキの工場記号の一覧を自分の携帯で確認しているようである。
 
「YMKは千葉の松戸工場だよ」
と彼女は言った。
 
「あ、えっと・・・・」
 
「ねぇ、キッチン用品を持って来て、御飯作ってくれたお友だちってさ」
「うん」
「男なの?女なの?」
「えっと・・・・」
「女なのね」
 
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貴司は返事をしない。
 
「こないだ京田辺市の試合を見てた子?」
 
「ごめん。君が来られないみたいだったから・・・・」
「ふーん。私が居なければ、その子でもいいんだ?」
 
ああ、多分貴司はそういう奴だ。と千里はこの瞬間だけ彼女の肩を持ちたい気分だった。
 
「それで呼んだらわざわざ千葉から出て来てくれるって凄い熱心だね」
 
私だって学校サボってやってきたんだぞ〜。
 
「ごめん。ちょっと熱が」
 
まあ、風邪引いてる時にこういうので責められたら体調も悪くなるだろうね。
 
「その子はもう帰ったの? それともどこか近くのファミレスか何かででも待機してるの?」
 
あはは。まさかベッドの下に隠れてるとは思わないよね?
 
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「悪いけど、その問題は後日話し合えない? 今ほんとに体調悪い。僕少し寝たいから」
 
「分かった。じゃ今晩はその彼女にせいぜい看病してもらったら?じゃね」
 
そう言って、彼女は出て行った。
 

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千里はベッドの下から這い出すと台所に行った。
 
「今は何も考えずに寝た方がいい。ここは私が片付けておくから」
「済まん。じゃ、寝るから」
「うん」
 
それで貴司は部屋に戻ってベッドに寝た。熱さまシートがまた、ぬるくなっていたので、千里は新しいのに交換してあげた。
 
台所を片付けた後、毛布を持って来てLDKのソファで自分も寝た。
 

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夜中《びゃくちゃん》から起こされ、貴司の様子を見に行くと、かなり熱が上がっている。これちょっとまずいのでは?という気がする。
 
『夜間診療所とかに連れて行った方がいいかな?』
『それがいいかも』
 
それで貴司を無理矢理起こして車に乗せ、休日夜間診療所に連れて行った。
 
「病院にかかっているんですか? どんな薬を処方されました?」
「これですけど」
 
と言って医者に見せる。
 
「ああ、単純な風邪だと思ったんだな」
「風邪じゃないんですか?」
「インフルエンザですね」
「ああ」
「熱が出始めたのはいつですか?」
「昨夜です」
「だったらタミフルが間に合いますね」
 
それでタミフルを処方してもらい、その場で飲む。薬も持って行ったのは医者が回収し、あらたに別の内服薬を渡された。
 
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それで帰宅してベッドに寝せた。90kgの体重の貴司を支えて歩くのに《こうちゃん》が力を貸してくれた。《こうちゃん》は悪いことも好きだが、頼りにもなる子である。
 

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朝起きてから体温を測ってみると38度代まで下がっている。朝御飯を作っていたら、貴司が起きてきた。
 
「ぼーっとしてたけど、夜中に病院に連れて行ってくれたんだっけ?」
「うん。取り敢えずたくさん寝るといいよ。朝御飯たべる?」
「うん」
 
それで卵を落とした雑炊に、スープを勧める。
 
「あれ?味を変えた?」
「トマトを加えてみました」
「なんか栄養がありそうでいい」
「うん」
 
病気で弱っている時に、胃に優しいものを好む人と、病気と闘うため栄養のあるものを好む人がいる。体質にもよるのだろうが貴司は後者である。
 
「蒸しパン食べるなら、またお昼に買ってくるよ」
「あはは、よろしく〜。でも千里、いつまで居てくれる?」
「治るまで居てあげるよ」
「ありがとう。心強い」
「うん。今は病気を治すことだけを考えて」
 
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貴司は寝ていて結構汗を掻いていたので、着替えさせ、洗濯をする。シーツも交換した。インフルエンザのウィルスが部屋に随分漂っているのは間違い無いので窓を開け、換気扇を回し、千里もマスクをして、テーブルなどはよく拭き掃除もする。クレベリンを買って来て居間に置いた。
 

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女子大生たちの二兎両得(3)

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