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■桜色の日々・高校進学編(8)

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「誰もやりたがらないよね」と前の席の純子と話していたら隣の席の山科君が「なんなら、お前らやる?」などと言う。
「えー、男子でしょ?」
「男子だけって男女差別だ」
 
などと言っていたら「こら、そこうるさい」と先生から注意される。
「意見があるなら、手を挙げて発言しなさい」
「はい、山科君がやりたいそうです」と純子。
慌てて山科君が「いや、吉岡さんがやりたいそうですよ」と言う。
私は吹き出したが「面白そうだから、やってもいいですよ」と言った。
 
「えー!?」という声が広がるが
「私、学生服も着れるし」と付け加える。
 
「うーん。。。まあ、本人がやりたいというのなら、ちょっと練習に行ってみる?」
と担任は言った。
 
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その日の昼休み、私は学生服に着替えて本館の屋上に行く。
 
「なんだ、なんだ、お前は?」
と言われるので
「押忍(おす)! 1年R組代表、吉岡晴音(はるね)です!」
と両腕を横腹に当てて低い声で言う。
 
「えっと・・・・」
「チアリーダーやってたので、大きい声を出すのは得意です。押忍!」
「あ。。そう? じゃ、とりあえず一緒に練習してみる?」
 
ということで、練習に参加した。
 
「フリャー、フリャー、N高!」
と両手を斜め上に広げて叫んだり、また三三七拍子で、その合いの手に「そりゃ!」とか声を出したりといったパターンを練習する。また、手を肩に付け、左右に広げ、肩に付け、前に伸ばしという四拍子で動かしながら校歌や応援歌を歌う練習などをしたのだが・・・・
 
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練習が終わったところで応援団長が
「えーっと、吉岡。ちょっと君の担任と話がしたいのだけど」
と言って一緒に職員室に行く。
 
「先生、申し訳ないです。吉岡は凄く優秀な応援団員で、声も出るし、侠気もあって、我々も力付けれるところがあるのですが、やはり女が混じっていると団員の気持ちが乱れるので、本人、チアガールしていたというし、チアチームに異動とかいうことにさせてもらえないでしょうか?」と団長。
 
「ああ」と言って中村先生は笑っている。
「じゃ、チアリーダー部を創設する?」などと言っていたら、応援団顧問の飯田先生が近づいてきた。
 
「そちらの組、女子が応援団リーダーに出てきたんですか?」
「あ、すみません。なんか成り行きで立候補しました」と私が言う。
「君、チアしてたの?」
「はい。小学校でも中学校でもしてました。3組の西本さんもずっと一緒です」
 
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「へー。じゃ、ホントに、やりたい生徒に呼びかけて、チアチームを作るのもいいかもね」と中村先生。
「じゃ、その一緒にやってた子も誘って、月曜日の全体集会の時に声を掛けてみない?」と飯田先生。
「はい」
 

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「しかし、学生服は誰か他の生徒から借りてきたの?」と飯田先生。
「あ、自前です」と私。
「へー。趣味?」
「あ、私実は戸籍上は男なので、学生服と女子制服のどちらを着てもいいという許可をもらっています」と私が言うと
「えー!?」と飯田先生と応援団長が驚いている。
 
「吉岡、男なの?」と団長。
「そうですよ」
「でも声は女だよな?」
「えっと、もっと男っぽい声も出るはずなんですが、長らく使ってなかったので、今日はうまく出ませんでした。そもそも私、声変わり来てないので」
「ああ」
 
「この子、小学生の頃から女性ホルモン飲んでいたそうです。胸がふつうの女の子のように発達していますし、既に去勢手術済みで、20歳前後までには性転換手術も受けるつもりだそうです」と先生が説明する。
 
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「へー。でも女装男子には見えないよね」と飯田先生。
「というか、今学生服を着ていても男装女子にしか見えないのですが」と応援団長。
 

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翌週の月曜日、私とカオリは体育館のステージの上にチアの衣装を着けて並ぶ。そして、ダンスアクションやタンブリング(後転や側転などの技)を見せたり、カオリが私の肩に乗って上で空中宙返りをするスタンツをしたりして模範演技を披露した上で
 
「私たちと一緒にチアリーダーやりたい人いませんか? 1年生でも2年生の先輩でも歓迎です」と言った。(N高は特別扱いの野球部とバドミントン部を除いてクラブ活動は2年生まで)
 
その結果、昼休みに全校から経験者を中心に10人ほどの女子が集まり、そのメンバーで「応援団・チアリーダー部」が誕生した。取り敢えず5月の高体連までは週3回昼休みに練習することにする。部長は2年生の人にお願いした。
 
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応援団同様の学校の公的な活動ということで、チアのユニフォームは学校の予算で揃えてくれた。また実際の応援ではチアの衣装での応援のほか、学生服を着て白い手袋を付けて応援団と一緒にアクションしたりもしていた。このため応援団との合同練習も月に1度していた。(学生服は応援団員たちが中学生の時に着ていて小さくなったのを分けてくれた)
 

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この時期、私はほとんど女子制服で学校に通っていたのだが、この応援団の活動に参加するという理由で、しばしば校内で学生服も着ていた。
 
私は学生服と女子制服のチェンジは女子トイレでしていたのだが、ある日、私が学生服のまま女子トイレに入って行くと、一瞬ギョッとしたような空気。入ってきたのが私だと分かると、それはホッとした空気に変わるのであるが、その時、個室に入るのに列に並んでいた水鈴が
 
「あ・の・ねー。ハルが女の子というのは分かってはいるけど、その格好でここに入ってくるの勘弁してくれないかなあ」
と言う。
 
「えー?でも他に着替える場所無いし」
と言うと、恵令奈が
「やはり、あれだよね。こんな格好でここに来たというのは、女子トイレ覗き罪で逮捕だ」
と言う。
「え?ハルを逮捕するの?」
と楽しそうに反応した純子とふたりで私を押さえつける。
「ねーねー。ノンノ、ハルを縛り付けておくから、椅子か何か持って来て」
「OK」
 
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などというやりとりで、私は学生服のまま、女子トイレの中で椅子に縛り付けられてしまった。
 
「えーん。ほどいてよー」
「しばらくそれで反省してなさい」
 
水鈴にしても私を縛り付けた恵令奈や純子・信枝などにしてもそのまま出て行ってしまう。その後入ってきた子たちは「ハルちゃん、ここで学生服着て、何やってんの?」などとは言うが縄をほどいてはくれない。そのうち令子が来たので
 
「ねー、令子、この縄をほどいて」と言うものの
「ああ、水鈴から聞いたよ。女子トイレ不法侵入で逮捕されたんだってね」
などと言って、やはり放置である。
 
「これ結構痛いんだよ。縄が肌に食い込んで」
「そのくらいきつく縛らないと外れちゃうでしょ?」
「もう」
 
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「あんまり男子の格好してたら、罰として、おちんちんくっつけちゃうぞ」
「既に付いてるけど・・・」
「じゃ、もう1本付けて2本にする」
「2本あったら、どっちからおしっこすればいいんだろ??」
「おちんちん同士でじゃんけんだね」
「じゃんけん出来るの〜?」
 
「縮んでる状態がグー、伸びてきた所がパー、反り返った所がチョキ」
「私のおちんちんは大きくなったりしないもん」
「役に立たないおちんちんだね」
「そのことは知ってるくせに」
「役に立たないおちんちんは、さっさと切り落としちゃいなよ」
 
そういう訳で、結局私は1時間ほど、縛られていた。
 

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私はこの時、「男子制服で女子トイレに縛られて放置」されたのだが、なぜか男子達には「私が男子制服を着ていたので、無理矢理女子制服に着替えさせられて女子トイレに放置」されたと伝わっていた。どこかで情報が混乱したようであったが、女子達はその件については特にわざわざ訂正しなかった。
 
なお、私の着替え場所については、水鈴と令子が一緒に担任の所に行き、教室内にロッカーのようなものがあると助かると提案。すると、近くに居た技術の原田先生が「ああ、そのくらい僕が作ってあげるよ」と言い。その辺に転がっていた材料を使って、1年R組の教室内に1人用個室着替えロッカーを設置してくれた。出入口のカーテンは私が自宅から余ってるカーテンを持って来て取り付けた。
 
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おかげで、私は朝から父がずっといたりして女子制服で出てこれず学生服で登校してきた日もすぐにそこで女子制服にチェンジできて助かったし、私以外でも、運動部に入っている子が、更衣室までわざわざ行かなくても、そこで着替えられるというので、好評だった。
 

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4月の中旬。私は7時限目が終わって、水鈴たちと一緒に勉強会をした後、町に出て、制服のままスーパーで晩御飯の買物をしていた。その時、バッタリと懐かしい人物に出会った。
 
「吉岡さん!」
「森平先生!」
 
それは小学6年の時の担任の先生であった。
 
「先生も夕食のお買物ですか?」
「うん。吉岡さんも?」
「ええ。今日は夕御飯、私の当番だから」
「へー! あ、そうだ。お母さんと1日交替で晩御飯を作るって言ってたわね」
「ええ。その交代制がずっと続いてます」
「偉いなあ!」
 
私と先生は、お肉売場で、今日の晩御飯のメニューを考えながら、安いお肉を物色していた。
 
「その制服はN高校か。今年新入生?」
「はい」
「普通科?」
「いえ、理数科です」
「すごっ! エリートなんだ!」
「そんなこと無いと思いますが。本当に頭の良い子は広島の高校に行っちゃうもん」
「ああ。それはあるかもね」
 
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「でも、ちゃんと女の子してるんだね。ずっともう女子の制服で通ってるの?」
「ええ。一応、学校からは、男子の制服でも女子の制服でも、好きな方を着ていいよ、と言われているのですが、今の所女子制服率100%です」
「おお、すごい」
 
「私の学籍簿が小6の時、女子になってたでしょ」
「うん」
「それを引き継がれて中学でもずっと女子のままだったんですよね」
「へー」
「それで中学から高校へもその書類がリレーされてるから、私の書類は最初から女子だったんです」
「なるほど」
「だから、私がスムーズに女子高生になれたのは、森平先生のお陰ですよ」
「ふふふ」
「普通なら、学籍簿上の性別を修正するって、けっこう大変らしいです」
 
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「私ね、何度かあなたの性別を修正すべきかって思ったことあったんだけどね」
「はい」
「だって、あなたって女の子なんだもん。女の子なのに、男だなんて嘘は書けないと思って」
「・・・」
「それで、ずっと女子のままにしといたのよ」
「ありがとうございます」
 
「書類って不思議よね」
「はい?」
「きちんと訂正しようとすると、あちこちに許可取ったり、規則だなんだの制約も受けて、ほんとに大変なのに」
「そうですね」
「間違いってものは、全ての理由を超越して存在する」
 
「面白いですね」
「ふふ」
「そういえば、私のパスポートも性別が F なんですよ」
「ほほお」
「それもどうも係の人の間違いみたいで」
「あはは、それは運が良いね。だって性別 F のパスポートが欲しいMTFの人って、日本中にたくさんいると思うのに、その人たちがどうしても得られないものをあなたは『間違い』で持ってるなんて」
 
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「ほんと、そう思います。この先、行使するつもりは無くて、ただ持っているだけの《お宝》ですけど」
先生は頷く。
 
「吉岡さんって、たぶん凄く運の強い子だよ」
「えへへ」
「だからね。たぶん、あなたちゃんと男の人と結婚できるし、子供もできると思うよ」
「子供もですか!?」
 
「世の中には『間違い』以外にも『偶然』とか『幸運』というのもあるのよ」
 
森平先生は楽しそうに私に言った。
 
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