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■桜色の日々・高校進学編(5)

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(C)Eriko Kawaguchi 2012-09-29
 
私とみちるが令子の所に行き、おしゃべりを始めたが、そこに数人の生徒が近寄ってくる。
「ね、ね、状況があまり飲み込めてないんだけど、もしかして吉岡さんって男の子なの?」
「うん、そうだよ、戸籍上はね」と私は明るく答える。
「でも本人の実態はこの通り、ほとんど女の子だよ」と令子。
「すごーい! なんかテレビで見るニューハーフさんとかとは全然違う」
「女の子にしか見えないのにね」
「声も女の子の声にしか聞こえない」
 
「一応、男子の制服着ても、女子の制服着てもいいって言われたんだけどなあ」
「どちらを着てもいい、というのは、本来戸籍上の性別に従えば学生服を着なければいけない所を、女子制服でもいいですよ、というだけの意味だよ」と令子。「そうそう、ハルが男子の制服を着ることは想定されてないよ」とみちる。
 
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「いや、最初吉岡さん見た時、なんでこの子は男子の制服着てるんだろ?って思っちゃった」
「本人はあまり自覚してないけど、この子、男の服を着ても女にしか見えないもんね」
 
「で、なぜ今日みたいな日にわざわざ男子制服を着て出てきたか、説明してもらおうか?」と令子。
「いや、お父ちゃんが学校まで送っていくなんて言い出して」と私。
「ああ」
 
「いつもは7時に出て行くお父ちゃんが今日は9時半出勤だったんだよ」
「なるほど」
 
「この春休みの間に何度かお父ちゃんに自分の性別のこと話そうとしたんだけどね、どうしてもタイミングが合わなくって、結局カムアウトできなかった」
 
「じゃ、もしかしてお父さんは、吉岡さんが女の子になっちゃってることに気付いてないの?」
「そうなのよ!」
 
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「ああ、でも父親の注意力ってそんなものかもね」
「母親はすぐ気付くだろうけどね」
 
「入学式の朝にその件を話して、揉めたくなかったから、今日は仕方無く男子制服で学校まで来た」
「でも、できるだけ早くちゃんとカムアウトした方がいいね」
「そうなんだよねー」
 
この時は私もそのカムアウトが更に4年半後になるとは思ってもいなかった。
 

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その日は11時半から12時半まで、食堂を新入生とその保護者専用にして一緒に御飯を食べながら、その間、学校生活のビデオが流されていた。(4時間目の授業は12:30に終わるので、ちょうど2〜3年生の昼休みと入れ替えになる)
 
学校の校舎を映した映像から、窓の外から教室を映したもの、そして授業風景。先生が数学の図形を板書して説明している所、そして生徒が質問している所。試験の時なのか、みんなが一所懸命何かを書いている様子、お弁当を食べている所。教室の掃除をしている所。通学している女子のグループ、男子のグループ。図書館・視聴覚教室・化学実験室・物理実験室・音楽室・美術室・武道場。
 
クラブ活動の様子。ブラスバンド部の演奏。バレー部・バスケット部の試合の様子、いつも全国上位に入っている強豪のバドミントン部、何度か甲子園に出たことのある野球部、そしてコーラス部、パソコン部、茶道部。理数科の生徒が島根大学に行って特別講義を受けている様子(うちの学校はSSH-Super Science Highschool-には指定されていないものの、結構SSH的な活動はしているらしい)。
 
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文化祭の様子、体育祭の様子、入学式・始業式・終業式・卒業式。歩行大会、球技大会、水泳大会、そして大学受験のセンター試験の様子、大学での面接の様子なども映されていた。最後に在校生の男女(あとで生徒会長さんと副会長さんと確認)から新入生へのメッセージがあってビデオは終わっていた。
 
「いかにも学園生活は楽しいですよ、という雰囲気のビデオだったけど・・・」
と近くのテーブルにいた子(恵令奈と名乗り、私たちとすぐ仲良くなった)。
 
「実際は私たちは3年間ひたすら受験勉強だよなあ」と令子。
「0時間目から8時間目まで授業があって、毎日けっこうな宿題も出る中で、クラブ活動するのは事実上無理だもん」
と、教室でも私の前の席にいた子(純子。この子ともすぐ仲良くなる)。
 
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「部によっては、放課後より昼休みの練習をメインにしてる所もあるみたいね。コーラス部とかソフトテニス部とか。理数科の子はそういう部にしか入れない」
と恵令奈。
 
「でも、理数科って、普通科の子との交流機会が少ないから、部活に入った方が友だちはできやすいみたいね」
と純子。
「ああ、自分もそうだけど、そもそもあまりべったりした付き合いを好まない子が多い雰囲気だよね、理数科の子は」
と令子。
「あまり女子らしくない女子だよね」
「私なんか、女子らしさではそこにいるハルに負けるとずっと言われ続けてたよ」
と令子。
「ああ、私も負けそう」と純子。
 
突然自分のことが話題にされ、私は頭を掻いた。うちの母と令子の母は笑っていた。
 
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お昼の後は、保護者も一緒に各教室に入り、生徒手帳が渡される。朝撮影した写真が、身分証明書欄に転写されている。
「わあ、こんな顔して写ってる」
「えーん、これ撮り直して欲しい」
などという声があちこちから出ている。
 
「ハルちゃん、どんな顔になってる?」と純子。
「こんな感じ」と見せると「あ、わりとまともじゃん」と言われる。
「純子ちゃんは?」
「これ。フラッシュに驚いて目をつぶりかけって感じ」
「わあ。目が細くなってる」
「私、フラッシュが苦手なのよねー」
「それは写真撮るのに苦労するね」
 
しかしともかくも、私の高校1年の生徒手帳の写真は、最初からしっかり女子制服を着て写ることができたのである。
 
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翌10日から新入生は2泊3日で、新入生合宿に入った。
 
場所は島根半島の日本海側海岸にある合宿施設である。最大500人収容できる大きな合宿所で、うちの市内の公立普通高校4校はみなここを新入生合宿に使う。今年は6〜8日にC高、10〜12日がうちの学校、そしてこの後13〜15日が女子校、16〜18日がH高ということだった(日程は4校のローテーションらしい)。
 
私たちは早朝からバスに乗って合宿所に行き、初日の午前中は主として勉強の仕方、授業の聴き方や、ノートの取り方などに関しての指導を受けた。
 
お昼を食べた後、午後からは体操服に着替え、いきなり3km走と言われる。「えー!?」とみんな言うが、「今『えー!?』と言った人は、合宿所の中庭を1周してから3km」などと言われた。
 
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私はチアリーダーで鍛えた分、反射神経や身のこなしは割と自信があるものの体力には全然自信が無い。それで3km走ではみごとに他の子よりたっぷり遅れてしまった。
 
途中何度か歩いたりしながらも、何とかコースを最後まで走り、合宿所の門の所まで戻って来たら、どうも中庭にみんな集合しているようである。
 
「すみません、遅くなりました」
と言って、そこに行くが、ちょうど近くにいた同じ中学出身の中島君が
「まだ先生は来てないけど、吉岡こっちでいいの?」
と訊いた。
「へ?」
「こっち男子が集合してるんだけど。吉岡、今日は男子の方に参加するんだっけ?」
「え?」
 
と言って、よく見回すと、ほんとに男子だけ集合しているようである。
「わあ、ごめーん。女子はどこに集合してるか知ってる?」
 
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などと言っていたら、建物の方から、みちると令子がやってきた。
「ああ、ハルやっぱりこっちに居た!」
「なんで男子の方にいるのよ?」
「今先生から『吉岡さん知らない?』と言われたから『多分いる所知ってます』
と言って連行しに来た」
 
「ちゃんと女子の方に来なきゃダメじゃん」
「もっと女の子としての自覚を持とうね」
などと言って私の両腕をつかみ、拉致していく。
 
「いや、私、今3km走から戻って来たばかりで、女子の集合場所を訊いてた所で」
などというが
「言い訳見苦しい」
「後でくすぐりの刑に処す」
などと言われる。
 
「あれは勘弁して〜」
「ハルがちゃんと女の子しないからよ」
「やはり、おちんちん切断の刑だね、これはもう」
「いや、それ刑にならない。本人喜ぶから」
「あっそうか」
「えーっと・・・」
 
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そういう訳で、その日の午後、私は無事?、女子の方に参加することができた。
 
その日の午後の女子に対して行われたのは、やはりまず性教育であった。最初にビデオを上映する。小学校・中学校での性教育の内容が、学校によって様々なので、とにかくも男女の性器の構造から、精子の生産・男性器の勃起と射精、男性の自慰(ほんとにしている所の映像を見せられた)、卵子の成熟と排卵、卵胞期・排卵期・黄体期といった生理周期のこと、卵胞ホルモンと黄体ホルモンの働き、受精と妊娠の仕組み、実際にセックスしている所の映像に続いて、出産シーンの映像まで見せられる。上映中あちこちで小さな悲鳴があがっていた。
 
とにかく濃厚というか過激な内容のビデオだった。令子がやたらと私の身体に接触する。不覚にも興奮してしまったのだろう。これ、同じ学年の中に彼氏がいる子は、今夜密かにやりたくなったのではないか、と私は余計な心配をした。
 
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その後、やはり避妊の問題についてしっかりと教えられる。バナナをペニスに見立てて、コンドームを付ける練習を、各クラスごとに1人ずつ代表ですることになった。
 
「誰かやったことある子?」
「やったことの無い子がした方がいいよ」
「じゃ、私やってみる」とひとりの子が言うと
「慣れてない?」などと、同じ中学の子?からツッコミが入る。
「私、バージンだよぉ」と言って彼女はコンドームの封を開け、表裏に気をつけて取り出すと、バナナの先端にかぶせ、くるくると回しながらかぶせていった。
 
「あれ? 途中までで終わっちゃった」
「バナナ大きすぎるから」
「ふつうはちゃんと根元まで辿り着くよ」
 
「じゃ、これで間違いない?」
「合ってる、合ってる」
 
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「でも、私、こんなことしたら、この先バナナ見る度におちんちんに見えちゃうかも」
「ああ。バナナって、そり具合がおちんちんに似てるかもね」
 
「先生、このバナナこのあと、どうすればいいんですか?」と質問が飛ぶ。「食べていいですよ」と先生。
 
「おちんちんを食べるって意味深」
「あれ、舐めたりするんでしょ?」
「フェラチオって言うんだよ」
「えー?あれを舐められるものなの?」
「舐めてもいいくらい、その人のことが好きなんじゃない?」
「きゃー」
 
みんな性に関する知識の水準がバラバラなので、結構面白い会話が成立する。
 
「よし、私これ食べちゃう」
と先ほどコンドームをかぶせた子。
「頑張れ、よっちゃん」と声が掛かった。
 
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「男の子のおちんちん、頂きまーす」と言って、その子、頼子はバナナを美味しそうに食べた。
 

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