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■桜色の日々・高校進学編(4)

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3月30日の金曜日。制服が仕上がったという連絡があったので母と一緒に取りに行った。中学の制服は、親戚からもらったお祝いを使って自分で買って最初の内は隠し持っていたので、母に打ち明けた時は仰天されたのだが、高校は最初から母も承知の上である。受け取った時、何だか物凄く嬉しい気持ちになったが、母も嬉しそうな顔をしているのを見て、自分ってそんなに親不孝でもないのかも知れないな、という気持ちになった。
 
自宅に帰ってから、その紺のブレザーとチェックのスカートの制服を早速着てみて、リボンも可愛く結び、母に記念写真を撮ってもらう。データを令子とカオリにメールしたら《可愛い*^^*》《らぶりぃ^^》というお返事が来た。
 
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夕方。今日は御飯の当番だったので、カレーを作った。17時半くらいにできあがったのだが、私は急に自分のことをちゃんと父に話したくなった。それでカレーを仕上げた後で、私は高校の制服に着替えて来た。
 
「どうしたの?」と母。
「この格好をお父ちゃんに見せてちゃんと言う」と私。
「うん、それがいいかもね」
 
ところがその日は父がなかなか帰ってこない。19時すぎになってやっと母の携帯にメールが入る。
 
「・・・・ハル、お父ちゃんね、緊急の仕事が入って今夜は帰られないって」
 
私はどっと疲れた。カムアウトって、こんなに難しいの??
 

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結局父に打ち明けられないまま、4月に入り、2日の月曜日には健康診断があった。私は合格発表の時にもらった封筒の中にあった健康診断の案内に書かれていた日時を見て、出かけて行った。ボタンの無い、脱ぎやすい服装で、という指定だったので、カットソーの上にセーターを着て、下は着脱しやすいコットンパンツを穿いて出かけて行く。
 
会場になっている体育館に入っていくと、カオリがいたので、取り敢えずハグする。いつもの習慣である。
 
「カオリ、なんか今日は胸が大きい」
「脱ぎやすい服装ってんでセーター着てきたけど、胸が目立つよね」
「もしかして普段、締め付けすぎてない?」
「でも、ハルも結構胸があるね」
と言ってカオリは私のバストを撫で撫でする。
 
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カオリはハグ魔だが、他の子のバストに触るのも好きだ。これだけ美人なのに彼氏を作ったこともない。ひょっとしてレズっ気があるのでは?、などとも疑うのだが、本人は否定している。
 
やがて令子・みちる・環もやってきて、やはりカオリにハグされ、胸も触られている。
 

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「あれ、今いるの女子ばかり?」
と私は突然そのことに気付いて言った。
 
「そりゃ、男子と女子を一緒に健康診断はできないでしょ」
「あっそうか」
「男子は午前中に終わったみたい。中島君から聞いた」
「へー」
「でも私、女子で良かったのかなあ」
「何を今更」
 
「中学でも女子と一緒に身体測定してたのに」
「うん。でも私がもらった書類でこの時間が指定されてたってことは、私は女子ということになってるのね」
「ハルは女子に決まってる」
「何を今更」
 
そんなことを言っていたら、ちょうど保健室の先生が通りかかった。
 
「あら、あなた例の子ね?」と私に声を掛けてくる。
「あ、はい。その節はお世話になりました」
 
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「でも、こうして私服で見ても、あなたほんとに女の子にしか見えないね」
「そうみたいですね」
 
「あら。。。でも、私、この件、確認しておくの忘れてた。他の女の子と一緒で良かったのかなぁ。。。別室扱いにする?」
と先生。
 
「この子、中身は完全に女の子ですから、ふつうに他の女子と一緒で問題無いですよ」
とみちる。
「中身というか心だけじゃなくて、身体も、胸はあるしタマは無いし、女に分類していいと思います」とカオリ。
 
「それに本人の恋愛対象は男の子だから、女の子の下着姿とかヌードとか見て興奮したりもしないし。中学でも女子と一緒に身体測定してましたよ」
と環。
 
「あと、女子の健康診断って、列を作る時は着衣で、脱ぐのは検査されたり測定されたりする時だけでしょ? 問題は少ないです」
と令子。
 
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「ああ、じゃ、大丈夫かな」と先生。
 
「まあでも、取り敢えずこれを見てください」
と環は言うと、私のセーターとカットソーを掴んで一気に脱がせてしまった。
「ちょっと何するの!?」
「実物を見てもらった方がいいのよ」
 
私は上半身はブラジャーだけになった。
「これだけバストがあったら、女の子で通るでしょ?」と環は言う。
 
「あら、ほんと。これ結構サイズあるわね」と先生。
「Bカップのブラが、ほとんど余ってないです」と環。
「うんうん。これなら、少なくとも絶対男の子と一緒には健康診断できなかったね。じゃ、このままよろしくね」
 
「はい」
と周囲の4人が返事して、先生は向こうの方に行った。
 
「ん?どうしたの?ハル」
「いや。私って、いい友だち持ってるなと思って」
「そうだね。ハルは友だちに恵まれてると思うよ」とみちるは笑顔で言った。
 
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4月9日月曜日。今年はこの日が入学式であった。
 
私は新しい高校の女子制服に身を包み、出かける・・・・つもりでいたのだがちょっと面倒な事が起きた。
 
「晴音(はると)もとうとう高校生か。そうだ、母さん、入学式に行く前に記念写真を撮ろう」と父が言い出したのである。
 
「あなた会社は?」
「うん。今日は週末に害虫駆除の薬剤を撒いたのを業者が片付けるから9時半の出社なんだ」
 
私は母と顔を見合わせた。これはカムアウトの絶好のチャンスだ。でもカムアウトすれば確実に揉める。入学式の朝からそんな騒動を起こしたくない。仕方無いので、私は学生服を着ることにした。
 
学生服を着るのは何だか久しぶりだ。ちょっと変な感じもする。胸がちょっときつい。ワイシャツのボタンを留めるのを断念した。それでも玄関先で父と並んだところを母が写真に撮り、母と並んだところを父が写真に撮る。
 
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「じゃ校門前まで車で送って行こう」と父は言い出す。
 
うーん。。。凄く迷惑なんだけど・・・・
 
しかし今は揉めたくないので、私は学生服を着たまま、母と一緒に父の車でN高校の校門のところまで送ってもらった。母は入学式の行われる体育館に行く。私は1年R組(普通科は1〜7組だが、理数科はR組である)の教室に学生服のまま入って行った。令子とみちるが驚いたような顔をして寄ってきた。荻野君も寄ってくる。
「なんで学生服なんて着てるの?」
「いや、ちょっと成り行きで。説明しようとすると、長い話になるのだけど」
 
などと言っていたら、担任の先生が入ってきた。みんな席につく。先生は名前は中村で担当教科は物理と自己紹介し、その後、生徒が出席番号順(男女別名前順)に名前と出身中学に「ひとこと」を言うことになる。
 
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私は当然ながら女子のいちばん最後である。前の席にいる子が
「##中学から来ました山本純子です。テニスが好きで、中学1〜2年の時はテニス部にいました」
と自己紹介して座る。次が私だが、学生服を着ているのでどよめきが起きる。
 
「えー。**中学から来ました、吉岡晴音(はるね)です。友人たちの間ではとんでもない変人ということで通っています」
と言って座る。
 
担任の先生も戸惑うような顔をしている。
 
「あ・・・えっと・・・吉岡さん、君の性別のことは聞いてはいるのだけど、君、男子として通学するの?」
「えっと、そのあたりは曖昧に」
「いや、君は女子として合格してるので・・・その、このクラスも男子20名、女子20名のつもりだったのだけど、君が男子になると、男子21名・女子19名でバランスが崩れるし、そもそも様々な用具とかも男女20名ずつで用意しているんだよね」
 
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「ハル、女子制服に着替えてきなよ」とみちるが少し怒ったような顔で言う。令子と荻野君が拍手をした。
 
「君が女の子になってくれると、こちらも助かるんだけど」と担任。
「了解です! では性転換してきます!」
 
と私は言うと、女子制服を入れているスポーツバッグを持ち、そばにあるトイレ(もちろん女子トイレ)に飛び込むと、個室の中で手早く女子制服に着替え、教室に戻った。
 
「すみません!ちゃんと女子になりました」と私は担任に報告した。
「あ、その方がいいね。君、さっきは男装してる女生徒って感じだったし」
と中村先生は笑顔で言う。
 

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短いお話があった後、みんなで入学式の行われる体育館に行った。入場していく時、保護者席に座っている母と目があった。母が少し驚いた顔をして、すぐに笑顔になって手を振った。私は目で返事した。
 
国歌を斉唱したあと、校長がけっこう長い話をする。その後、PTA会長の挨拶、同窓会代表の挨拶が続いた後、新入生代表で理数科の赤星君が「新入生の決意」
というのを朗読する。それに対して在校生の代表で生徒会長が「歓迎の言葉」
というのを述べた。最後に校歌を斉唱して式を終えた。
 

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入学式が終わった後、生徒はホームルームにまた戻り、保護者は食堂で待機することになる。私は体育館を出たところで令子に小声で訊いた。
 
「ね、さっき担任の先生が『君は女子枠で合格しているから』と言ってたけど、合格するのに男子枠とか女子枠とかあるの?」
 
令子も小声で答える。
「今年の入学者は普通科が男子140名・女子140名、理数科が男子20名・女子20名。純粋に成績順に合格させて、男女の数が同じになると思う?」
 
「あ・・・・」
 
「特にそのことは明言されてないけど、実際には男子と女子で別々に選考されてるんだよ。普通科では男女のレベル差は大したことないと思うけど、理数科ではどう考えても、男子の方が水準が高い。だから女子の方で最後に合格した子と同じ点数を取った男子は落ちたはず。まあ、普通科に回ったろうけどね」
 
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「わあ・・・じゃ、私男子として受けていたら合格できなかったのかな?」
「どうだろう。ハルはかなり高得点だったみたいだし、内申書も悪くなかったはずだから、たぶん男子の合格ラインも越えてるよ」
「だったらいいけど」
 
「まあ、でもそろそろ、ハルも男か女かちゃんと明確にしないといけないということだね。もう周囲がハルを男ではなく女として扱っているんだもん。もう中学の時みたいに性別曖昧な学園生活はやめようよ」
「そうだねぇ・・・」
 

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私たちはホームルームに戻ろうとしたのだが、生徒手帳用の写真を撮りますという案内があり、私たちのクラスは会議室に行った。各自出席番号と名前を言って、どんどんデジカメで撮影される。
 
私も「1年R組40番・吉岡晴音(はるね)です」と言ったら、次の瞬間写真を撮られた。可愛い顔とか作る余裕が無いじゃん! この件は他の子も似たような文句を言っていた。
 
写真撮影の後、あらためてホームルームに移動し、担任からまたお話がある。主として生活面や校内の規律の問題、また男女交際についても「節度ある交際をしてください」と言われた。
 
「彼氏彼女と高校生になったらHしようね、なんて約束してた人もいるかも知れないけど、する時はちゃんとコンドームを付けてするように」
などとストレートに言う。あ、こういう言い方する先生は好きだなと思った。
 
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なお、様々な委員については最初はお互い誰を推薦していいか分からないだろうから、明日から予定されている合宿が終了した後で選任しましょうということになった。
 
やがて11時になり、担任は
「では11時半になったら、食堂に移動してください」
と言って教室を出た。
 
 
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