[*
前頁][0
目次][#
次頁]
3人が小屋に戻るが、白雪が倒れていて、マルガレータが介抱している。しかしマルガレータは兄の顔を見ると泣き顔で言った。
「兄上、白雪様が息をしてないよう」
「何だと!?」
3人が白雪のそばに寄って脈を取ったり胸に耳を当てたりしているが、彼らは白雪が死んでいるとしか思えないという結論に達する。
(ここからしばらく、白雪姫は人形である!ロミオとジュリエットの撮影に使用したものと同じ仕様の精巧なフィギュア。今年の初めに50万円で市販したアクアの1/1フィギュアよりもっと精巧なものである。なお、この人形にはちゃんと胸の膨らみはあるが、むろん、ちんちんは存在しない!)
「ナイフか何かでも投げられたのか?」
「そこに転がっているリンゴを投げつけられた。かばおうとしたが間に合わなかった」
とマルガレータは言う。
「りんご?」
「私も油断した。本当に申し訳ない」
と火吉がいう。
「老婆がリンゴを投げつけて、白雪様がそれをつかんだら倒れられた」
「そのリンゴか?」
と言ってマルコが触ろうとするので、
「やめろ。きっと触っただけで効く毒が塗ってあるんだ」
とレオンが言う。
「毒?」
「たぶんそうだと思う」
「でも老婆はこのりんごに触って投げたんだろう?」
「もしかしたら触っても大丈夫な部分と猛毒の塗ってある部分があるのかも」
「どんな毒だろう?」
「水恵殿には分からないだろうか?」
「呼んできます」
と言って、火吉が飛びだして行った。マルコとヨゼフが2階の女部屋から白雪のベッドを降ろしてきた。その上に寝せる。
やがて仕事に出ていた6人が作業を中断して帰って来る。
水恵があらためて白雪を診たが首を振った。
沈痛な空気が流れる。
「そのリンゴを受け止められたら倒れられたのだが」
水恵は手袋をはめてリンゴを拾い、虫メガネで観察している。
「確かに何か塗られている部分と塗られていない部分がある」
「そこに猛毒が塗られていたんだな。毒の種類が分かるか?」
「待って」
水恵はリンゴの一部をナイフでえぐり、それを多数の素焼きの小皿に入れてから、何か試薬のようなものを何種類も掛けていた。
「これは化学的な毒ではないよ」
と水恵は言った。
「どういうことです?」
「これは多分ただの尿だと思う」
「にょうって?」
「おしっこ」
「え〜〜〜!?」
「このりんごには、おしっこが塗ってあったのか?」
「しかしおしっこに触った程度で倒れる訳が無い」
「それで倒れるなら、俺は毎日倒れてるな」
「だからこれはおそらく呪い(のろい)の類いだと思う」
「呪い!?」
「尿とか、男なら精液、女なら経血というのは、呪詛の道具としてはよく使われるのだよ。尿に何かの念をこめてから塗ったんだと思う」
「そんなものを使うのか」
「だから、その呪いを解除すれば、白雪殿は蘇生する可能性がある」
「ほんとか!?」
みんな一瞬にして顔が明るくなる。
「解除の仕方は?」
「それは呪いを掛けた本人に訊かねば分からん」
「老婆は死んでしまったぞ」
「呪いを掛けたのが老婆なのか、それとも王妃なのかは微妙」
「うーん・・・・」
「めんどくさい。王妃を殺せば白雪殿は生き返るのでは?」
と金也(斎藤良実)が言った。
「おお、それは行けるかも」
とマルコが言う。
「可能性はある」
と水恵。
「しかし逆に永遠に解除できなくなる可能性もある」
と水恵は付け加える
「うむむ」
そんなことを言っていた時、多くの人数がやってくる音がする。マルコが外に出てみた。
「グスタフ様!」
とマルコが声をあげた。
グスタフ以下の白雪の護衛兵たち、そしてレオポルト王子とその護衛たちであった。彼らをカミルが見つけ、ここへ案内してきたのである。
「白雪殿は?」
「それが・・・・」
とマルコが俯く。
「どうしたのだ?」
白雪姫がベッドに寝せられていて、息をしておらず、死んでいるように見えるのを見て、今到着したみんなが嘆く。
グスタフがレオンを見る。
「おい、お前が殺したのか?」
と言って、グスタフが剣を抜く。今にも刺し殺しかねない。
「違います。この男は逆に白雪様の危機を救ったのです」
と慌ててマルコが言う。
「どういうことだ?」
語り手:それでマルコは、レオンが脅されて王妃の命令で白雪姫の命を奪おうとしたが、殺せなかったこと。そして全てを白雪姫に打ち明けて、逆にその後は姫が追っ手から逃げる手助けをしてきたことを説明しました。
また、白雪姫の状態についても、死んだように見えるが、呪いが掛かっている状態で、その呪いを解除すれば蘇生する可能性があることを説明しました。
「ああ、なんてことだろう。せっかく君に会えたのに」
と言って、レオポルト王子が嘆き、白雪姫の枕元に跪いてその唇にキスをした。
(ロビン・フライフォーゲルは人形とキスしている)
化学的な毒にやられたのであればキスも危険なのだが、呪い(のろい)に掛かっている状態なら問題無いだろうと、みんな王子を停めなかった。それに実は「愛する人のキスで魔法が解ける」というのに少し期待したのもあった。しかし白雪は王子がキスしても変わりはないようだった。
王宮ではグネリアがカンドラの帰りを今か今かと待っていたが、一行に音沙汰が無い。グネリアはたまりかねて、鏡の前に立った。
「鏡よ鏡、地上で最も美しい女は誰?」
「それはグネリア様です。グネリア様が地上で一番美しい女です」
「やった!白雪は死んだのだな?」
「生きてはいないようですね」
それで女王は大喜びしたのであった。
「カンドラは白雪のガードにやられたのかもしれんなあ」
と呟く。
だったら、ディアナのダイヤモンドやらなくて済んだ!
「白雪殿が倒れられてから、どのくらい経つ?」
とレオポルト王子の部下の軍医ルター(ユリアン・ウェステマン)が尋ねた。
「5時間くらいだと思う」
とレオンが答える。
「白雪殿の体温は普通に生きている人間よりはかなり低くなっている。しかし死んだ人間の体温はもっと急速に低下する」
「うん」
「人が死ぬと、3時間くらいで死後硬直が始まるが、見た所そのようなことは起きていない。死斑も現れていない」
「ということは?」
「白雪殿は本当に死んでいるのではなく仮死状態なのだと思う」
とルターは言った。
「私も同意見です。白雪殿は仮死状態です」
と水恵も言う。
「だったら助かる可能性はあるな?」
とグスタフが言う。
「ある。だから何とかして呪いを解く方法を見つけよう」
ルター役のユリアン・ウェステマンはドイツからロビン・フライフォーゲルと一緒に脇役要員として送り込まれたひとりである。残りの3人の王子の護衛役は、都内でスカウトしたドイツ人留学生である(バイトのために資格外活動許可を取得しているので報酬を受け取って仕事をすることができる)。全員何かのスポーツをしており体格が良い。王子の近接ガード役としては、とても絵になる。演技の経験は無かったが、みんな演技的なセンスがあって、監督が喜んでいた。
ちなみに3人の内1人は実は女性だが、レスリングをやっているというだけあって筋骨隆々なので採用した。
「女役で出ます?男装なさいます?」
「ボクは男装しなくてもたいてい男と思われるから」
「えっと・・・」
(向こうが日本語ペラペラなので日本語で会話しているのだが、どうも彼女はボク少女のようである。ちなみに彼女は競技に便利といって頭を五分刈り!にしている。女装?する時はウィッグを使うらしい!?)
「性別なんて些細なことだよ」
「そうですよね!」
ということで彼女の性別については何の注釈もしていないが、ほぼ全ての人が男子と思ったようである(むろんドーピングになるので男性ホルモンなどは飲んでいないし、女性機能を捨てるつもりは無い)。彼女の名前(Voname/First name)は“ルカ”(Luka)で、この名前も男性・女性どちらでもあり得る名前であった!
なお、ルターはそれほど筋肉は無いが、軍医という役柄を与えることで、自然な感じになった。
語り手:マルガレータがどうしても白雪のそばを離れたくないと言うので、彼女をそばに置いて、みんな取り敢えず休むことにしました。マルコたちが建てた小屋では全員を収容しきれないので、その小屋にレオポルト王子とあまり体力の無い軍医のルター、そして護衛の中で最も強いカールの3人を入れ、他の者は簡易なテントを張って野営しました。
夜中、レオンが目を覚ましますが、気になって小屋の中に入りました。マルガレータがさすがに疲れたのか、白雪のベッドに寄りかかったまま眠っています。レオンは妹の肩に触れました。
「兄上」
と言って、マルガレータが目を覚ます。
「私がついているよ。だからお前も少し横になって休むといい」
「私は姫様に付いていたい。だって私すぐそばに居たのに、姫様を守れなかった」
「火吉殿からも聞いたが、誰にも防げなかったと思う。自分を責めすぎるのはよくない。24時間ずっと付いていることはできないし、もしかしたら明日何か行動を起こすかも知れない。その時、寝不足だと何もできないぞ」
「分かった。じゃ夜が明けるまで少し寝る」
「うん。そうしなさい」
それでマルガレータは2階の女部屋に行った。そして鉱山技師たちが作ってくれていたベッドに横になった。
語り手:それでレオン(アクア)はずっと白雪のそばに付いていました。
レオンの頭の中で一週間ほど前の夜の出来事が蘇る。自分が弓矢でこの方を射ようとしても、この方は全く怯える様も見せず堂々としていた。この方こそ本当の女王にふさわしいお方だ。自分はこの方に命を預けると誓ったのに、今何もできずにいる。自分が王妃にニセの報告をしに行く時、この方は、私に祝福のキスまでしてくださったのに。(この部分のナレーションはアクアの声)
そんなことを考えていたレオンは思わず、白雪の額にキスをした。
そしてレオンはずっと白雪の顔を見ていた。
「ん!?」
気のせいか、白雪の顔に少し赤味がかかってきた気がしたのである。
「白雪様!?」
レオンは白雪の胸に耳を当てる。
「心臓が!心臓が!」
レオンは2階への階段を駆け上がった。一瞬ためらったものの、女部屋の扉を開ける。
「失礼する。水恵殿」
と声を掛けた。
その声で水恵だけでなく、マルガレータも月子も起きた。
「どうした?兄上」
とマルガレータが言う。
「水恵殿。ちょっと白雪様を見てくれないか」
「何か変化があったのか?」
この時、水恵も、マルガレータも月子も、“悪い方向への変化”を想像した。仮死状態を保っているというのは奇跡であって、何の操作もなければ、本当の死に進むことの方が多い。
レオンを先頭に女子3人が階段を降りる。
「これは!」
と水恵が声をあげた。
水恵も胸に耳を当てる。弱々しいものの心臓の鼓動が感じられることを確認する。口と鼻の上に手をかざす。
「少しだが息をしておられる」
「助かるか?」
「まだ分からん。しかしこれは回復する可能性があるぞ」
「何か薬のようなもので、手助けできないか?」
「身体を刺激する薬草を調合する。待て」
それで10分ほどで水恵が薬草を調合した。
「これを飲ませたいのだが。スポイトでは時間が掛かりすぎるし」
「私が口移しで飲ませます」
とマルガレータが言う。
「分かった。頼む」
それでマルガレータ(七浜宇菜)はその薬草を口に含み、白雪(アクア)の唇に自分の唇を合わせ、少しずつ押し出すようにして薬草をアクアに飲ませた。
(この部分の白雪も人形である。念のため。顔色などは調整できるようになっているし、心臓も好きな速度で動かせるし、呼吸もさせられるので、むしろロボットというべきかも。薬草・・・ということにしている野菜ジュース!は宇菜が自分で飲んでいる)
「頬に赤味が出て来たぞ。もう一度飲ませられるか」
「やります」
と言って、マルガレータは再度、白雪に口移しで薬草を飲ませた。
「これは蘇生に向かっていると思う」
「レオポルト様を呼んできます」
と言って月子が出ていく。
騒がしいので、鉱山技師の男性5人も起きて降りてきた。
「どうした?」
「蘇生するかもしれない」
「おお!」
レオポルト王子が飛んできた。他の者たち、テントで野営していた者たちも小屋に入ってきて、小屋の中が密になる!
あまり多いので、グスタフは兵たちに外に出るように言った。
レオポルトの部下の軍医ルターも、白雪が蘇生に向かっていることを認めた。