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(C) Eriko Kawaguchi 2021-09-19
語り手:グスタフ少尉に命じられて白雪の探索をしていたカミルとマルコ・ヨゼフは夜の森を探索するも、なかなか手がかりを見つけることができずにいました。
しかしやがて、青い血のようなものが点々と続いているのを見つけます。
「なんだ、これは?」
「たどっていってみましょうか」
「うん。何かあるかも知れない」
語り手:一方、グスタフ少尉たちはホーフランドの国境まで辿り着いていました。女連れなので結構時間が掛かったのです。国境は堅く閉ざされていましたが、白雪王太女の部下であると名乗ると、大公の城館から、レオポルト王子(ロビン・フライフォーゲル)と兄のルードヴィッヒ王子(ステファン・フランケ)が数人の護衛を連れて来てくれました。
(フランケさんは、ロビン・フライフォーゲルと一緒にドイツから送り込まれてきた、脇役要員のひとり)
「では白雪殿は無事なのか?」
とレオポルト王子が尋ねる。
「分かりません。しかし白雪殿は剣の腕もたちます。狩人ごときにやられるとは思えないのです。それで私たちの手のものがお捜ししております」
とグスタフは答えた。
「こちらからも大量に人を入れてお捜ししよう」
とレオポルトは言うが
「待て。うちの者が大量にエンゲルランド領内に入れば、それを侵略行為だと言われて、それを口実にホーフランドは攻撃される。本格的な戦争になったらこちらに勝ち目は無い」
と兄のルードヴィッヒがたしなめる。
「でしたら兄上、私に4人付けてください。私は白雪の許嫁(いいなづけ)です。行方不明の“家族”を探索するなら、侵略行為にはならないはず」
「分かった。だったら、お前と護衛4人だけで夜の森に入れ」
「私たちもお供します」
とグスタフが言う。
語り手:レオポルトには武術にすぐれた者3人と、万一白雪が怪我などしていた時のために軍医のルターと、合わせて4人を付けました。それで侍女たちはそのままホーフランドで保護してもらい、レオポルト王子とその護衛4人が馬に乗ってエンゲルランドに入ります。グスタフ以下、白雪の護衛たちも馬を交換してもらい、一緒にエンゲルランドに引き返して、夜の森で白雪を探すことになったのでした。
つまり、白雪が鉱山技師の小屋に保護された頃、狩人のイェーガー兄妹、カミルたち、レオポルト王子たちの3組が白雪の行方を捜していたのです。
語り手:青い血の跡をたどっていっていたカミルたちは、やがて川のそばまで辿り着きました。
「何か落ちてる」
「それは白雪様が大事にしておられたロケットではないか」
「ここにおられたんだ」
「もしかしたらここで川に流されたのかも」
「下流にむかってみよう」
それで3人は川の下流へと進んでいきました。
語り手:一方、鏡の答えから、白雪は死んだものと安心していたグネリア女王ですが、数日後、なにげなく鏡に尋ねました。
「鏡よ鏡、地上で最も美しい女は誰?」
すると鏡は答える。
「それは白雪様です。白雪様が地上で一番美しい女です」
グネリアは驚くというより激怒した。
「お前、叩き割ってやろうか?こないだは私がいちばん美しいと言ったし、白雪はこの地上にはいないと言ったではないか?」
「あの時は、白雪殿は川に落ちて流されている最中でした。水の中におられたので地上におられた訳ではありません」
グネリアはもうカンカンに怒って、本当に鏡を叩き割ってやりたい気分になった。しかし鏡を叩き割る前にするべきことがある。
「では白雪姫は生きているのか?」
「生きておられます。夜の森の中の、夜の山の麓、7人の鉱山技師の住む小屋で怪我した所を養生しておられます」
怪我している?やはり妖獣に襲われた時に怪我したのだろう。だったら、動けるようになる前に仕留める必要がある。
グネリアは、この国に住む年老いた黒魔女・カンドラを呼んだ。
「お久しぶりでございます、アルチーナ様」
「その名前をもう一度口にしたら今すぐ殺してやる」
「おお、恐い恐い。あんたの本当の年齢のことも言わないよ」
グネリアがギロっと睨む。
「それで何か用か?」
とカンドラは涼しい顔をして訊く。
「白雪を殺してきて欲しい」
「亡くなったのではないのか?」
「それがしぶとく生きている」
「白雪様が生きておられるのなら、あんたには女王になる資格はない」
「だから始末してこいと言っている。褒美は何でもやるぞ」
「だったら、ディアナのダイヤモンドをもらおうか」
「・・・・・」
「嫌ならいいよ。私も若い頃はあんたとつるんで色々悪いこともしてきたけど、もうこの年になって危ない橋は渡りたくない」
「分かった。渡すから殺してきてくれ。手段は問わない。騒ぎにならない方法ならな」
「まあいいだろう。白雪様がどこにいるか分かるか?」
「夜の森の中の、夜の山の麓、7人の鉱山技師の住む小屋って分かるか」
「ああ、それなら分かる。じゃな」
カンドラを演じているのは滝野英造さん(42)である。先日、人魚姫でも魔女役を演じたが、この人はこういう役が似合う。海外では男性が演じていることに気付かなかった人も多かったようである!それでこの配役に関しては宗教的に異性装に厳しい国でも倫理委員会のような所からのクレームは無かった(そもそもアクアの一人二役は姉弟が演じていると思われている!)。
ちなみに、国王役に当初アサインされていた村里さんが降板(詳細は明日の配信で)したため、滝野さんが今回の出演者で最年長になった!彼はホテル昭和のデラックスルームに泊めている。(インベーダーゲームにハマったらしい!)
語り手:白雪が妖獣に襲われた翌日のお昼頃、やっとイェーガー兄妹が鉱山技師たちの小屋に辿り着き、白雪と再会を喜びました。
「しかし他人への警戒心が強いあんたたちがよく、白雪様を保護してくれたな。政治的な事柄に関わるのも嫌っていたのに」
とレオン(アクア)は言うが、白雪姫の警護も兼ねて留守番していた木蔵(弘田ルキア)は、
「僕たちは、誰が女王になろうと、王宮でどんな殺し合いがあってようと関係ない。ただ、怪我してる女の子を放り出すほど薄情じゃないよ」
と答えた。
そしてその日の夕方、カミルたちがここに辿り着く。
「殿下!」
「よくご無事で」
とマルコとヨゼフが泣いて喜んだ。彼らはレオンの姿を見ると拘束しようとしたが、白雪が止める。
「その者は、私を殺さなかった。そして私に全てを告白し、私に命を預けると誓った。貴重な私の手駒である。決して危害を加えてはならない」
「そうでしたか」
「妹殿を殺すぞと脅されてやむなく王妃の命令に従おうとしただけだ。罪は無い」
「そういう事情でしたか。了解しました」
「そうだ。白雪様。ここへ来る途中これを拾いました」
「私のロケット!嬉しい。ありがとう」
「何か入ってるの?」
と木蔵(弘田ルキア)が尋ねる。
「私の大事なもの」
と言ってロケットを開く。中には一枚の絵が収められている。
(この絵はこれまで数回画集まで出版している明智ヒバリが、描いてくれたアクアの絵である。30代っぽくは描かれているが、物凄く可愛い!)
「お母様の絵姿ですか」
「うん。どんなに辛いことがあっても、これを見ると私は頑張ろうという気持ちになる」
と言って、白雪はそのロケットを抱きしめた。
(このシーンは葉月をボディダブルに使って2回撮影してうまく編集している)
語り手:人数が増えてしまったので、マルコとヨゼフにレオンも手伝って、鉱山技師たちの小屋のそばに簡単な小屋を数時間で建ててしまいました。そこで、マルコ・ヨゼフ・カミル・レオンが寝て、マルガレータは鉱山技師たちの小屋の女部屋で、白雪のそばに添い寝してガードすることにしました。鉱山技師たちはマルガレータ用のベッドも作ってくれたのですが「私は殿下のすぐそばに居たい」と言って、自分のベッドではなく、白雪のベッドで添い寝したのです。
さて、小屋を建てるので一緒に作業したこともあり、マルコ・ヨゼフとレオンはすっかり仲よくなってしまいました!どうも3人が鉱山技師の男性陣たちと一緒にお酒まで飲んでいるようなので、マルガレータや月子は「全くあの連中ときたら。あれではいざという時に役立たんではないか」と呆れていました。
語り手:1週間ほど休んでいる内に、白雪の足もすっかり良くなりました。明日にもホーフランドに向けて出発しようと言っていた日の午後のことです。
昼間なので、白雪姫の守りに留守番の火吉(大山弘之)を置いて他の6人の鉱山技師は仕事に出ていましたが、レオンとマルガレータ、マルコとヨゼフもいるので安心です。カミルはグスタフが誰か追加のガードを派遣しているかも知れないし、また逆に女王が追っ手を差し向けているかも知れないので、小屋の近くを中心に数キロ以内を歩き回って見張りをしていました。
最初に気付いたのは、マルコだった。
「誰だあいつは?どこから来た?」
「農婦のようですね」
とレオンが言う。
小枝で編んだカゴに果物を入れているようである。
「この付近の者か?」
「いえ、見たことがありません」
「物売りかな?」
「火吉が追い返すだろう」
小屋のドアがノックされるので留守番の火吉は
「はい、どなたですか?」
と声を出す。
「近所の農家の者です。果物を売ってまわっております」
「そんなものここに来たことないぞ。一体どこの者だ?」
「狐の里で果物を摘んで暮らしております。今年はなかなか売れなくて、それで少し遠出してきました」
「それは気の毒だが、うちは要らないから帰ってくれ」
と火吉は言う。
「孫たちがお腹を空かせているんです。どうか果物と交換にパンの1本でも頂けませんでしょうか?」
火吉は「孫がお腹を空かせている」という言葉につい同情してしまった。それに老婆の声がいかにも無害に思えた。それでつい扉を開けてしまった。彼はこのことを長く後悔することになり、それがトラウマになって、ドアを開けずに外の人物を確認できるドアスコープを発明することになるのだが、それは後の物語である。
火吉が扉を開けた。
果物売りの老婆(実はカンドラ)が小屋の中でマラス大公への手紙を書いていた白雪を認識する。老婆はカゴの中に入れていたりんごを取ると、思いっきり振りかぶってそれを白雪に向けて投げた。
「何する?」
と火吉が声をあげる。
「え?」
と言って白雪がこちらを見る。
りんごが飛んでくる。
白雪はうっかりそのりんごを受け止めてしまった。
「あっ」
と声を出して白雪が崩れるように床に倒れた。
「白雪様!」
と火吉が声をあげる。
外で警戒していたレオン・マルコ・ヨゼフが立ち上がる。
老婆が逃げる。レオンたちが追いかける。
「あいつ足が速いな」
「きっと王妃の刺客が変装してるんだ」
「逃がすなよ」
「左右から追い詰めよう」
それでマルコとレオンが左右に分かれて老婆を追う。
そしてもう少しで追いつきそうと思った時であった。
「あ、そこはいけない!」
とレオンが声をあげた。
「え!?」
と老婆が声をあげる。
「え〜〜〜!?」
と老婆は声を出すが、老婆の身体はどんどん沈んで行く。そこは底無し沼だったのである。よく見ないとふつうの地面と区別できない。この夜の森にはこのような所が多数あり、気をつけて歩かないと、とても危険である。
追っていた3人はその様子を黙って見ていた。
「おいお前、誰に頼まれた?言え」
「言うから助けてください!女王陛下に白雪様を殺すよう言われました」
老婆は自白したものの、さすがに3人も彼女を助けるすべは無い。やがて老婆は沼に飲み込まれてしまった。
このシーンの撮影では、この“底無し沼”は本当は深さ1.2mほどしか無い(すぐ沈まないようにするには結構泥の濃度が難しい)。それでカンドラを演じている滝野英造さんは自分でしゃがみ込んで沈んで行く様を演じている。そして全部沈んだ所まで演じたら10秒くらい待ってから立ち上がっている。
しかし!この沈んで行く速度が不自然とか、立ち上がるのが早すぎる、とか言われてこのシーンは4回もNGを出してしまい、彼は何度もこの泥沼にハマっていく所を演技するはめになった!
42歳のベテラン俳優も、リアクション芸人並みの扱いである。
彼も何度もやる内に疲れてきて、いかにも死にそうという雰囲気がよく出る感じになった!それで結果的には映画公開後、迫真の演技と言われて随分評価され、彼も気をよくした。
なおこの“底なし沼”はマジで危険なので、撮影が終わったらすぐ水分を含んだ泥を除去し、普通の土で埋めておいた。泥は滑走路の近くに薄く延ばして敷き、数日掛けて乾燥させた。