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たまたま玄関近くにいたバウアー大臣(大林亮平)か驚いて声を掛ける。
「お前たち、何の騒ぎだ?」
「大臣閣下!陛下のご容態は?」
とマリアが叫ぶように言うが、大臣は
「容体とは何のことだ?」
と問う。
マリアとフランクは顔を見合わせる。
「心配なら面会するとよい」
と言って、大臣が2人を国王の居室に連れて行く。
書類を見ていた国王が驚いたようにこちらを見て
「何事だ?」
と言う。
「陛下!?」
「ご無事で!?」
「倒れられたと聞きましたが」
「私はピンピンしているが」
マリアとフランク軍曹はホッとしたら力が抜けてしまい、座り込んだ。
「そうだ。白雪王太女殿下はどちらに?」
とフランクが尋ねる。
「お前たち一緒ではなかったのか?」
マリア(坂出モナ)が青くなって
「やられたかも」
と声を出した。
「白雪の身に何かあったのか?」
と国王が立ち上がって訊いた。
「王妃様のお使いが見えられて、陛下が倒れられたから至急王宮に戻るようにと言われて、私たちより先にこちらにお着きになったと思っていたのですが、まだご到着なさっていないということは・・・」
「グネリア?」
と王が王妃の方を見る。
王妃は・・・笑っている!?
「お前、白雪に何をした?」
と王が王妃を詰問する。
「今頃は狼の餌になったか、熊の餌になったか」
「何だと!?」
王が剣を抜く。すると王妃も剣を抜いた。
周囲の者たちは固まった。どちらに手を貸していいのか判断がつかないのである。普通に考えれば男と女では勝負にならないだろう。だったら激高している国王を押さえて落ち着かせるべきなのか。あるいは王妃を拘束すべきなのか。
それにこういう場面では下手に手助けしようとすると、かえって邪魔になる場合もある。
王と王妃は数回剣を交えたが、すぐに王妃の剣が王の身体を貫き、王は倒れた。
王妃は冷静に剣を布で拭いて鞘に収める。みんなまさか王が負けるとは思いもよらなかった。
「陛下!」
と叫んで、マリアとフランク軍曹が駆け寄った。
「絶命しておられる」
とフランクが言い、マリアが
「何てこと!」
と悲鳴のような声をあげる。
王妃がバウアーに言った。
「大臣よ」
「はい」
「国王はお隠れになった。白雪も亡くなった。だから今日からは私がこの国の女王である」
バウアー大臣(大林亮平)は、腕を組んで考えた。
「確かに王位継承権の順序ではそのようになります」
マラス大公が王位継承権を剥奪されたので、そういうことになっているのである。
フランク軍曹が声をあげる。
「そんなことは認めんぞ。この大逆女め」
と言って剣を抜こうとしたが、マリアが必死になって彼の腕にしがみついた。
「フランク殿。短気を起こしてはいけません。こんな所で剣を抜いたら、あなたこそ大逆罪に問われて即死刑にされます」
「その2人は拘束しろ」
と王妃が命じる。周囲の兵士たちは顔を見合わせている。
大臣が言った。
「女王陛下のご命令である。その2人を拘束せよ」
それで兵士たちがマリアとフランク軍曹を拘束した。
「すまんな」
と兵士たちのリーター・ツァイス中佐(柏木義昭)が言ってふたりを取り押さえた。フランクの剣と銃も取り上げる。大臣が
「その2人を乱暴に扱ってはいかんぞ」
と言うので、結局2人は適当な部屋に軟禁された。
ここで兵士たちを演じているのは、∞∞プロの20代の俳優さんたちである。
マリアは軟禁された部屋の入口を守っている兵士に言った。
「ボウルからひたすら走ってきたからお腹空いて。申し訳無いけど、何か食べ物をちょうだい」
「分かりました、マリア殿。何か持ってこさせます」
と言って、兵士は若い兵士を使いに行かせて、食事を持ってこさせた。食事を運んで来たのは、料理女のアンナ(直江アキラ)である。兵士が見ているので、アンナは無言で食事のトレイをマリアの前に置いた。
「アンナちゃん、ありがとう」
と言って、マリアは彼女と握手した。アンナも微笑む。
それで出て行った。
この場面、直江アキラは女の子になってしまってから初めての女役である!(でも男の子だった頃も女の子役の方が多かった気もする)
厨房に戻ったアンナはそっと手を開いた。小さな紙片がある。
「カミルに言ってボウルまで馬を走らせて、グスタフ少尉たちにこちらに戻らずどこかに身を隠すように伝えて」
と書かれている。アンナは他の料理係たちに見つからないように密かに厩舎に行くと、馬番のカミル(大山紀之)を掴まえて伝言を頼んだ。
「分かりました。行ってきます」
それでカミルは早い馬を走らせて、ボウルに行き、このことを伝えた。グスタフたちは驚いたが、マリアの言う通り、王宮には戻らないことにした。しかしボウルに居ては迷惑を掛ける。
「ホーフランドに行きましょう」
と侍女のひとりカリナ(鹿野カリナ)が提案する。
「それがいい。これはいづれ決戦をすることになる。我々もマラス大公のところに身を寄せよう。しかし白雪殿下は本当にお亡くなりになったのか?」
とグスタフはカミルに訊く。
「王妃様はそのようにおっしゃったそうです」
「どう思う?」
とグスタフがみんなに訊く。
「白雪様は女ではあっても剣や弓も一通りこなします。簡単に殺されるとは思いません」
と侍女ユリア(坂田由里)が言う。
「それを信じよう。白雪様が生きておられたら、我々は王妃を倒す大義名分ができる」
「白雪様を連れ去った狩猟長ですが、どこの出身でしたっけ?」
「夜の森の出身だ。実際そこに住んでいたはず」
「では姫様をそこに連れ去った可能性があります。何人かで探しましょう」
「よし。マルコ、ヨゼフ、そなたたち2人で悪いが姫様を探してくれないか。もしレオンを見つけたら拷問してもよいから吐かせろ」
「分かりました」
「でも夜の森は迷路のような森です。知らない人が入るとすぐ底なし沼とかにはまりますよ」
とカミルが言う。
「カミル、そなた夜の森の地理が分かるか?」
「それほど詳しい訳では無いけど、危険な所は結構分かると思います」
「だったら悪いが、この2人に付き添って可能な限り、道案内してくれんか」
「やります。どうせ私は王宮に戻ればきっと捕まるし」
「すまんな。危険なことに巻き込んで」
「俺もあんな奴が女王になるなんて許せません。できるだけのことはします」
それで、カミル・マルコ・ヨゼフの3人で白雪を探すことにし、他のものはいったんホーフランドに退避することにしたのであった。
一方、王妃付き狩猟長レオンの馬に乗って首都ホーニッヒに向かっていたはずの白雪だが、レオンの馬が停止する。
「どうした?休憩か?」
「ちょっと降りてください」
「うん?」
それで白雪(アクア)は馬から下りる。レオン(アクア!)も降りる。
馬から下りた白雪に、レオンは弓矢を向けた。手をいっぱい引く。
月明かりの下、白雪は怯えもせずにレオンに言った。
「おぬし、誰に矢を向けているか、分かっておろうな?」
「王妃様のご命令により、白雪殿下のお命、頂戴申し上げます」
とレオン。
「ほう、そうか。撃てるものなら撃ってみよ」
白雪があまりにも堂々としているので、レオンは圧倒される。
結局撃てないまま、座り込んでしまった。
白雪はそのままレオンの前に行くと護身用に持っている短剣を抜いて彼の額に当てる。血が出るが、レオンは黙って耐えている。(むろん血は絵具)
「再度尋ねる。おぬし、誰に矢を向けたか、分かっておろうな?」
と白雪はレオンに言った。
「申し訳ありませんでした。私は大逆罪です。どんな処分でもお受けいたします」
「母上に命じられたのか」
「はい。姫様をひとり連れ出して、森の中で命を奪い、殺した証拠にその心臓を持ち帰れと命じられました」
「ほほお」
「母上様には、そんな恐ろしいこと、どうか考えお直しくださいと申し上げたのですが、言うことを聞かなければ私も家族も命はないぞと言われまして」
「そなた家族がいるのか?」
「妹がひとりいます」
「どこに住んでいる?」
「この森の中に家があります」
「そこはすぐ退去した方がいいな」
「殿下、私の家族のことまで心配してくださるのですか」
白雪はレオンがもう自分に危害を加える気は無くなっていることを確信した。白雪は剣を鞘に収める。レオンは土下座する。
「名を名乗れ」
「レオン・イェーガー(Leon Jaeger)でございます」
「面白い。苗字も狩人(Jaeger)なのか」
「祖父が当時の国王陛下、白雪様の祖父陛下から頂いた苗字でございます」
「だったら、お前は私に恩があるな」
「はい。それなのにお命を狙って申し訳ありませんでした」
(ここはずっとレオンは土下座したままなので、ボディダブルが使いやすい、と他の出演者には説明しているが、実際にはアクアMとアクアFで撮影している)
「私に恩があるのであれば、その命、私に預けよ」
「はい、お預け致します」
「そなたに命じる。まずお前の家に行き、そなたの妹君にすぐ逃げるように言え。そしてそなたは何か適当な獣の心臓でも持って王宮に行き、わが母にそれを見せて、私を殺害したと報告しろ。そしてすぐにそこから逃げ出せ。私が死んだと思ったら少しの間でも母は油断するはずだ」
「分かりました。すぐそう致します。姫様はどうなさいますか」
「取り敢えずマラス大公のところに身を寄せようと思う」
「でしたら、妹に案内させますよ。この森は色々危険な場所があります」
「そうしてもらうと助かるし、妹殿も行き先ができるな。マラス大公の所に着いたら、君と妹殿の身柄は私が保証する。だからそなたも王宮を出たらすぐホーフランドに向かうが良い」
「ありがとうございます。それでは失礼ながら、私の家までご案内します」
「頼む」
それで2人は再度馬に乗り、しばらく馬を走らせた。
「しかしフランクの馬を振りきったようだな。大したもんだ」
「このゴールデナファイル(Goldener Pfeil / Golden Arrow)号はそんじょそこらの馬とは違いますから」
「ほほお」
それで2人はレオンの家まで辿り着く。
レオンが妹に事情を説明した。妹のマルガレータ(七浜宇菜)は驚く(*3).
「なんと。白雪殿下のお命を奪おうとしたとは。何とお詫びしてよいか分かりません。すぐに、兄を処分し、私も責任を取って自死いたします。兄上覚悟なされよ」
と言って、マルガレータは自分の弓を兄に向けるので
「待たれよ。そなたたちに今死なれては私は途方にくれる。そなたたち自死するつもりがあるのであれば、その命を私に預けて欲しい」
「分かりました。お預けいたします」
とマルガレータも土下座して誓った。
(*3) 宇菜は久々の女役と聞いて「私女みたいなことば使えるかな」と不安がっていたが、女狩人と聞いて張り切った。しかし海外では女装男性と思われたようである!イスラム圏で倫理委員会からクレームを付けられたものの、日本側から確かにこの人は女性であるという中映社長名の証明書を出したら、それで納得してくれた!
「それで先ほどレオン殿にも言ったように、レオン殿は王宮に行き、私を殺したという偽りの報告をせよ。その間に妹殿には、私をマラス大公がおられるホーフランドまで案内して欲しい。そしてレオンも母上に私を殺したと報告したらすぐ王宮を出て、ホーフランドに来て欲しい。君たち2人は今私の貴重な手駒だ」
「分かりました。ではすぐにホーフランドにご案内します。2〜3日で着けると思います。兄上はすぐ王宮に」
「うん。猪か何かでも倒してその心臓を持っていかなければ」
「だったら私が今日の午後倒した猪があるから、その心臓を持って行けば良い」
「そうさせてもらう」
それで、レオンは家の裏手に置かれていた猪から心臓をえぐり出した。
この猪は、最初はそれっぽい造形のものを道具係さんが作るつもりだったが、うまい具合に制作期間中に、県内で猪の捕獲(農作物保護のための檻型の罠にかかったもの)があったという情報があり、その猪を譲ってもらって使用した。このシーンの撮影はその猪の捕獲翌日に行った。レオン役を演じたアクアFはマジで本物の猪の死体(血抜きは済んでいる)から心臓をナイフでえぐり出したので「凄い」と監督にも共演の宇菜にも感心された(*4).
(*4) 実は山村(こうちゃん)が事前に別の猪の死体で練習させていた。なおこのシーンはふたりのアクアを使って撮影している。宇菜は“マクラ”の存在を知っているので全く問題無い。