広告:兄が妹で妹が兄で。(4)-KCx-ARIA-車谷-晴子
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■夏の日の想い出・新入生の初夏(3)

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政子の誕生日の後の一週間も慌ただしかった。
 
土曜日に私はマキたちクォーツのメンバーと引き合わされ、一緒に活動していくことが決まった。翌月曜日には△△社に行って津田社長に挨拶。翌日には★★レコードに行って加藤課長や町添部長に挨拶(4月以降、私たちの担当は決まっていなかったのだが、結局5月のFM放送の件を担当した南さんが、ローズ+リリー、ローズクォーツともに担当してくださることになった)。更にその翌23日には上島先生の家を訪問して翌朝まで私たちはつもる思いを話していた。
 
24日はさすがにしんどかったので午前中の講義を自主休講して仮眠を取り、お昼から大学に出て行った。
 
「重役出勤だね」と政子。
「だって朝8時まで上島先生の所に居たんだもん。あの先生、話し始めるともう止まらない。こちらがことばをはさむ間も無いんだよ」
「ああ、そういうタイプか」
「今度何か機会があったら、マーサも一緒に連れてきてと言ってた」
「うーん。徹夜覚悟で行かないといけないわけか」
「そうかも」
「だけど上島先生の所に朝まで居たという発言は、あらぬ誤解を招くかもよ」
「あー、それは考えなかった」
 
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「ケイさんの次のご予定は?」
「週末は与論島に行ってくる」
「へー」
「写真集作るんだって」
「お、水着写真撮るのね」
「うん、かなり撮られそう。ふつうの服の写真も撮るけど」
「でも発売は来年だって」
「全て来年か。。。来年の夏から本格攻勢ということかな」
「どうも、そういう作戦っぽいね」
 
「週末奄美なら、今夜は時間あるかな」
「うん。マーサんちに行くよ」
「むしろドライブしない?」
「OK。じゃ講義終わって帰ったら、一息ついて出かけよう」
「うん」
 
車は政子の誕生日の前々日に納車されていたのだが、その後、全然時間が取れず、買物に行ったりするのに少し使ったくらいで、本格的にドライブするのはその日が最初になった。
 
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「行きたい所ある?」
「海が見たい」
「じゃ、久里浜にでも行こうかなあ」
「もっと遠くがいい」
「うーん。浜松、松島、新潟、・・・・」
「じゃ、新潟」
「了解」
 
そういう訳で私たちは関越に乗り、高速を一気に北上した。
 
16時頃、上里SAで休憩し、夕食を取る。
 
「新潟に着く頃には日が落ちちゃいそう。夜の海を見て帰る?それともどこかで一泊する?」
「じゃどこかで一泊して朝の海を見てから帰る」
「了解」
 
私は携帯から宿泊検索サイトにつなぎ、長岡市内のホテルを予約した。政子のリクエストでダブルルームにした。
 
「ああ、でもこんなことしてると、私たちホントに恋人同士みたい」
などとボリューム感のあるカツ重を食べながら政子が言う。私はスパゲティを食べている。
 
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「でも私もう政子と結婚できない身体になっちゃったからね」
「それは大丈夫。私ちゃんと普通の男の子と結婚するから」
「だったらいいけど」
「冬もいい男の子見つかるといいね」
「まだ今の身体では恋人作れないよ」
「全部手術終わってからか・・・・」
「そうだね」
 
「でも冬と一緒にいると、私、本音で食事できるなあ」
「こないだ男の子とデートしてたよね」
「うん。付き合うには至らなかったけどね。でもミチルから少食にしときなよって言われたからデート中は我慢してたんだよ」
「帰ってからお茶漬け3杯くらい食べてたね」
「もうお腹空いて、お腹空いて」
「あはは。たくさん食べる彼氏とかできるといいね」
「そっか。そういう路線もいいなあ」
「スポーツマンとかは?」
「うーん。乱暴だったら嫌だなあ」
 
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私たちは1時間ほど休憩して車に戻り、予約したホテルをカーナビに設定し、更に関越を北上。19時頃に長岡市内のそのホテルに到着した。まだホテル付属の駐車場が空いていたのでそこに駐め、私たちはいったん部屋に入った。
 
「わーい、ダブルベッドだ」と言って、政子がベッドの上で跳ねている。
 
「なんなら、マーサの部屋のベッド、ダブルに交換する?今使ってるベッドを来客用の寝室に移動して」
「あ、それいいな。少し激しいプレイしても大丈夫だよね」
「ははは」
「冬、新しいマンション契約したら、そこにもダブルベッド入れてよ」
「いいよ」
「いい所、見つかりそう?」
「こないだから何件かチェックしてきてくれてありがと。だいぶ絞れてきたから、今度一緒に最終候補を見に行かない?」
「行く行く」
 
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私は政子にキスし、着衣のまま30分ほどベッドの上でイチャイチャしていた。
「さ、御飯食べに行こう」
「・・・・・4時頃食べたあれは・・・・」
「おやつだよ」
「カツ重がおやつか・・・ま、いいや。行こうか」
 
ふたりで長岡の町を散策していたら、ライブハウスがあったので入ってみることにした。
 
その日は4組のミュージシャンが出演する予定だったようで、入っていった時はその中の3番目のバンドの演奏中だった。
 
「わりと良い雰囲気じゃない?」と政子。
「うーん。。。」と私。
「何か問題がある?」
「えっとね。ドラムスが下手。それで全てが壊れてる」
「そんなに下手?」
「このドラマーさん、あまり腕力無いんじゃないかなあ。ハイハットを叩く位置が乱れてるんだ。ちゃんとしたドラマーさんなら正確に同じ場所を叩けるし、曲調に合わせて、盛り上がる所とか逆に静かに聴かせる所とかでは叩く位置を変えて音質を変えていく。それが、この人、適当に叩いてるもん。曲自体の盛り上がりとかとも無関係。これならリズムマシンの方がまし。それにあの人、腕がかなり細いでしょ。たぶん腕力が無くてコントロールできないんだ」
 
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「うー、そういうのが私はよく分からないなあ。でも確かにドラマーさんって腕の太い人多いよね。クォーツのドラマーさんも自衛隊出身って言ってたね」
「うん。腕凄く太いよ。私、腕にぶらさげてもらった」
「おお」
「女の子バンドとかもドラムスは大変だよね。腕力のある女の子が少ないから、ガールズバンドでしっかりしたドラマー持ってる所は少ない。こないだ政子に歌詞書いてもらった曲を提供したSPSのドラマーさんには毎日腕立て伏せ100回やろうねなんて言ってきた」
「わあ」
「ついでに腕立て伏せしてると、おっぱいも大きくなるよ、と言ったらやる気出してた」
「なるほど」
 
今演奏しているバンドが1曲終える度に起きる拍手もまばらである。私たちは冷製パスタ、ほうれん草の和え物、フライドチキン、海鮮サラダ、ピザ、などなど料理を注文しながら演奏を聴いていた。
 
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「女の子バンドで、****とかもドラムスが微妙とか言ってたね」
「あのバンドは生で聴くのとテレビとかダウンロード音源とかで聴くのとで、ドラムスが明らかに違う。男性ドラマーをサポートメンバーに入れてると思う」
 
「スイート・ヴァニラズとかは?」
「あそこのCarolさんは凄い。女の子バンドでは例外的にしっかりしたドラムス・ワークをするよね。Carolさん、中学高校と剣道やってたらしいから、それで腕力があるんだよ」
「へー」
「ベースのSusanさんもしっかりしたベースライン弾くんだよね。Susanさんは中学時代にバレーボールしてたらしいから、それが基礎になってるんだろうね」
「詳しいね、冬」
「けっこう好きだよ。スコア譜出る度に買ってきてエレクトーンで弾いてるし。秋に受ける予定のエレクトーンの6級試験で、スイート・ヴァニラズの『祭り』
を弾くよ」
「おお」
 
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やがてそのバンドが退場し、その日最後のバンドが登場した。いきなり華麗なドラムスワークで観客を魅了し、店内のあちこちから「わー」とかいった声が上がっている。
 
「冬、このドラマーさんは?」
「最高!」
 
バンドはクィーンの「I Was Born To Love You」を演奏しはじめた。私たちはノリの良いそのバンドに手拍子を打ちながら聴き始めた。それまで、ひたすら食べていた政子のお箸も止まっている。
 
ドラムス、ベース、ギター、サックス、キーボード、にボーカル、と6人編成のバンドだが、曲に合わせて、みんな身体を揺すったり飛び回ったりしながら楽しそうな顔で演奏している。間奏のところではギターの人が背中に楽器を回して背中弾きのパフォーマンスまでしてくれた。ひときわ大きな拍手が鳴り響く。
 
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ボーカルの人もステージを端から端まで走り回りながら歌っているし、何度も客席の中に入ってきて、観客にマイクを向けたりしている。バンドはやがてMCも挟まずに2曲目ビートルズの「I wanna hold your hand」を歌い出す。どうもこのバンドは一昔前の洋楽を得意としているようだ。1コーラス目の終わり付近の「I wanna hold your hand!」というところでボーカルの人が私たちの席の所に走り込んで来ると、政子の方に手を伸ばした。
 
政子がノリでその手を握ると、ボーカルの人は少し驚いたような表情を見せながらも、ついでに?私の方にももう一方の手を伸ばし、私もノリでその手を握る。するとボーカルの人は「Hey, girls, Come on!」と言って、私たちを連れてステージに戻った。
 
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「You sing?」などと言うので、私たちは「Yeah,Yeah」と言い、2コーラス目以降をその人と一緒に歌い始めた。少し歌ったところで「君たち上手いじゃん、この子たちにマイク持ってきてあげて」などというので、お店のスタッフさんがマイクを2本持ってきて、ステージ上にいる私たちに渡してくれた。
 
ボーカルの人はまた走り回っているのだが、私たちは少し端の方に移動して静止したまま、この曲のメロディーをユニゾンで歌った。一部私がカウンターメロディーを歌うと、ベースの人が「へー」という顔をしている。
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