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■夏の日の想い出・新入生の春(7)

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4月下旬、『タイムリミット』が近まる中、甲斐さんたち、3社からの勧誘もかなり強烈になってきていた。しかし私と政子はできるだけ、のらりくらりとそれをかわしていた。4月連休前にファミレスで甲斐さんと会った私たちは甲斐さんの口から「ああ、もう時間的に限界かな」と、とうとう諦めの言葉を聞くことになった。
 
敢えてこの時期に甲斐さんと会ったのは、やはり△△社が、私たちにいちばん迫っているという印象を他の2社に与えて、諦めるように持って行きたかったからなのだが、その甲斐さん自身もどうも諦め掛けている感じであった。
 
「私と契約して魔法少女になってよ」と少し投げやり気味に甲斐さん。「えーっと魔法は別に要らないかな」と私たち。
甲斐さんも笑っている。
「ふたりの歌で全国のファンを魅惑するのよ」
「なるほど」
 
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「でも、ここだけの話、やはりあの人を待ってるんでしょ?」と甲斐さん。「はい」と私と政子は笑顔で答えた。
「まあ、仕方ないわ。でも冬ちゃんと政子ちゃんは運がいいよね」
「はい?」
「ちょうど、その人の自粛期間が、ふたりの受検勉強期間と重なったから」
私も政子も頷いた。
 
「契約できない期間がきれいに受検勉強でどっちみち休養したかった期間と重なってたんだもん。ふたりの休養期間はとっても自然な感じになった」
「ですよね。何だか私たち、うまく何かに動かされてるなって気もします。私、あまりそういう運命とか何とか信じない方だけど」
 
「でもFM番組の件はびっくりしたなあ。私5月の番組表見てて『え?』と思ってこれって、ふたりがどこかと契約してこの番組で現役復帰するのかと思ったから慌てて社長の所に飛んでったら『ああ、それは★★レコードの管理でやるので、彼女たちはどことも契約はしてないから。事前協議済み』なんて言われて。そんなの、スカウト活動してる私には言っといてよと。あ、ごめん。内輪話を」
 
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「いえいえ。宮仕えはどこも大変ですよね」と私は苦笑して答えた。
 
「そして受検勉強が終わり、大学生になったという絶妙なタイミングでふたりがFMに出演して・・・新曲も歌うんでしょ?」
「ええ。CDは出しませんけど」
 
「これでふたりのファンは大いに沸く。更にはこの番組は元々30代以上の聴取率が期待できる番組だからローズ+リリーの歌をその世代にも聴いてもらえてファン層が広がる。ローズ+リリーって元々本格派の歌唱ユニットだから私も若いファンだけじゃもったいないと思ってたのよね。町添さんはほんとに商売人だよ」
「ですね。とても気持ちのいい商売人さんです」
と私は笑顔で答えた。
 

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連休明けに、私は豊胸手術を受けた。身体にメスを入れるのは初めての体験でもあり、幾つもの病院をチェックし、各々の評判なども確かめた上で、最終的に候補にした3つの病院で事前カウンセリングを受け、納得のいった所で手術を受けた。
 
硬膜外麻酔なので日帰り手術であった。誰か付き添いをと言われたので政子に頼んだ。またこの手術を受けることを事前に母に連絡し、あれこれこちらの意志を再度確かめるようなことを言われたものの、最終的に承認してもらえた。
 
「大学に入ったらすぐ、おっぱい大きくしたいって言ってたもんね」
と母は優しく言ってくれた。
 
日帰り手術ではあったが、手術はとても痛かった。手術の途中で実はちょっとだけこの手術を受けたことを後悔したが、始まってしまった手術を停めることもできない。私は頑張って痛さに耐えた。意識はあるのでバストサイズの確認を自分ですることができるのだが、実際問題としてそんな状態で確認できる訳がないと思ったので、血を見るのは平気と言っている政子に手術室に入ってもらい、政子の好みのサイズでOKを出してもらうことにした。
 
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「そういうの、お友達にお任せして大丈夫ですか?後で揉めませんか?」
と医師から言われたので
「彼女は実は私のレスビアンの恋人なので」
と言ったら、納得してくれた。お医者さんに守秘義務があることをいいことに少し都合のいい言い方をさせてもらった。
 
手術後、回復を待つ病室でも私は痛みと闘っていたが、政子がずっと手を握っていてくれたので、頑張ることができた。
 
「冬、このあと、去勢したり、性転換したり、えっと後何をするんだっけ?」
と政子。
 
「それだけだよ。私、喉仏はいじらないつもりだし、顔にもメスは入れないから」
「じゃ、その手術にずっと付き添ってあげるから」
「ありがとう。マーサに付いててもらえるのが、私いちばん嬉しい」
 
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「ところで、お医者さんから、お友達というよりレスビアンの恋人だったんですね、って聞かれたんだけど」
「あはは、それ私が言った。だってお友達というのでは付き添いとしても認めてもらえなかったから、家族に準じる人と主張してみた」
「ま、いいけどね。私も『はい、そうです』と答えたし」
「ごめーん。病院の場だけの方便ということで」
「うん、いいよ」
 

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FMの番組は、豊胸手術の10日後で、もう痛みもかなり引いていた。ただしまだワイヤー入りのブラは用心して付けないようにしていた。
 
念のためということで前日にも1度リハーサルをして、立ち会った放送局のお偉いさんにも「この感じなら大丈夫だろうね」と言ってもらえた。
 
やがて番組が始まる。最初に鍋島さんの最大のヒット曲が今では大御所となっている歌手の歌で流れた。元々は追悼番組なので基本的に私たちは低いトーンで話した。
 
「こんにちは。ローズ+リリーのケイと」「マリです」
「本日は1年前のこの日亡くなった、作曲家・鍋島康平さんを偲んで番組をお送りしたいと思います。えー、私たちは今実質的に引退中の身なのですが、私たちのデビュー曲『明るい水』が、、奇しくも鍋島先生の最後のヒット曲になったという関係で、この番組のナビゲートを仰せつかりました。素人女子大生2人のつたないトークで申し訳ないのですが、3時間お付き合い頂けると幸いです。番組の合間には息抜きに、私たちの歌でも生で歌わせて頂ければと思います」
 
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「先程お送りしたのが鍋島先生の最大のヒット曲『人生は廻り舞台』ですが、この作品はこの年のRC大賞を受賞しています。私たちが生まれるより前の話ですが、それでもこの曲は知ってたんですよね。良い作品は時代を超えて歌い継がれていきます。きっと私たちの子供たちも、この曲に親しんでくれるのではないでしょうか」
 
この政子の発言は後でネットで変な憶測を呼んでしまった。「私たちの子供たち」
というのが、ケイとマリの間の子供という意味にも聞こえてしまったので、ふたりは子供を作るつもりなのか?と一部で騒然としたらしい。
 
(遙か未来、あやめが15歳くらいになった頃、私はふとこの時の騒動を思い出し、この曲を聴かせてみた。するとあやめは「うーん。聞いたことはないけど、でもいい曲だね、これ」と言っていた)
 
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「続けてこの作品の翌年にヒットした同じ人生シリーズ『人生は夢』をお聞き下さい」
 
といって、別のベテラン歌手の歌う、その曲が流れた。更にその歌手からもらってきたコメントを録音で流す。
 
「このあたりで少し息抜きをしましょうか。今お送りしたのが『人生は夢』でしたので、同じ「夢」という言葉の入っている私たちの曲『遙かな夢』お聞きください。なお、本日は私たちの歌に関しては、伴奏は予め作成したマイナスワン音源を使用させて頂きますが、歌は生でお送りします。もしトチったら御免なさい」
と私。
 
「ちなみに、今日使うマイナスワン音源は全てケイが打ち込みで作成したものです」
と政子。
 
そしてその音源を流し、前奏を聴いたところから私たちは歌い始める。
 
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番組はこんな感じで進められた。聴取者からのリクエスト(鍋島作品に限る)もメールとFAXで受け付けたのだが、けっこうローズ+リリー作品のリクエストもあり、ディレクターさんが苦慮したようであった。
 
鍋島作品は22曲流す予定であったが、うち8曲までリクエストされたものと入れ替えてもよいことにしていた。また少し先で取り上げるはずだった作品をリクエストされた場合は、予定を変更して、先にそれを取り上げるということもやろうということになっていた。
 
私はそのあたりにできるだけ臨機応変に対応できるようにするため、事前に鍋島先生の作品を合計200曲聴き、伝記を読み、また各々の曲にまつわるエピソードを、政子の父や、★★レコードで鍋島作品に詳しい人に聞いたりして頭に入れておいた。しかしこういう大作曲家の作品を200曲聴いたのは大きな勉強になった。
 
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「今リクエスト頂いて流しました『困った忘れ傘』ですが、歌詞の中で『そんな朝は海のように輝いて♪』というフレーズがありますね」
私がその部分をきれいに歌ったので、ディレクターさんが『ほぉ』という顔をしている。
 
「これと対照的なフレーズが『土曜日は止まらない』という歌の中にありまして『そんな夜は空のように滲んで♪』となっているんですね。今お聞き頂きましたように、ほとんど同じメロディラインにもなっています。これは当時ファンの間でけっこう話題になったのだそうです。きっと鍋島作品で次は『そんな昼は山のように響いて♪』なんて歌詞の曲が出るのではと言われたものの実際にはそういう歌は発表されませんでした」
 
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「あのー、私今日はできるだけおとなしくトークするつもりだったのですが」
「何でしょうマリちゃん?」
「歌詞を引用するのに、わざわざ歌うんですね?」
「いや、似たメロディラインであることも説明したかったので」
「でもよくそういう古い歌を歌えますね。まさかその時代に実際生きてたとかいうことはありませんよね?」
 
「あらら?私の性別疑惑に続けて、年齢詐称疑惑ですか?」
「そうそう。ケイちゃんって18歳の女子大生だと思ったのに、実は48歳のおじさん、なんてことないですよね?」
「さすがにそれは無いかと。でも48歳のおじさんが18歳の女子大生に変装できたりしたら、それはまた凄いと思いません?」
「そんなの見たくありません」
「はい、それでは次の曲に行きましょう。これは1965年のヒット曲で・・・」
 
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ディレクターさんが声を殺して笑っていた。私たちは作品の紹介を続けて行った。
 
「今流した『やったぜビキニ』ですが、鍋島作品って、わりとマジな歌詞の作品が多い中で、たまにこういうおどけた雰囲気の作品があるんですよね。この系統のものでは『帰ってきたオッパイ』、『滑り込みアウト』などの作品がありますね。『帰ってきたオッパイ』は1968年の作品で前年のザ・フォーク・クルセダーズの超大ヒット『帰ってきたヨッパライ』のパロディで、本家と同様にテープの早回しによる高音で制作してますね」
 
「はい、ケイちゃん、その早回しの所歌ってみて」とマリ。
「やったぜ、触れる、おいらのオッパイ♪」と私が裏声の一番高い所で歌う。
「あれ?この番組、生放送と思ったのに、今のはテープですか?」
「いえ、生で早回しさせて頂きました」
 
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「ちなみに今では早回しとかせずに、パソコンのソフトでピッチ変更できますね」
「はーい。男の人でもソフト通せば、あら不思議女の子の声で歌えます」
「ひょっとしてケイちゃんの声ってボイスチェンジャーでその声になってるんですか〜?」
「はーい。私の声帯にはボイスチェンジャーが組み込まれて・・・る訳無いじゃん」
 
「でもビキニとかオッパイとか、鍋島先生もお好きですね〜」
「マリちゃんのオッパイは何サイズ?」
「えー?秘密だよ、Cカップなんて。あ、言っちゃった。ケイちゃんのサイズは?」
「Dカップだよー」
「えー?男の子なのにDカップあるの?」
「私は女の子だもん」
「ほんとかなあ」
「じゃ、今年の夏はビキニの水着着ちゃおうっと」
「おお、それはブロマイドとして流して欲しいなあ、私買っちゃうよ」
「マリは私の水着姿なんて、着換える所も含めて生で何度も見てるじゃん」
 
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このやりとりもネットに速攻で転載され、私は豊胸手術を受けたのかどうかというので議論が起きていた。またケイが水着に着替える所をマリが見ているとしたら、ふたりはどういう関係なのだ?ということで、またまた私たちのレスビアン疑惑が再燃していた。あとで見ると2chの「ローズ+リリーはレズか?」
というスレッドがNo.153から、一週間でNo.218まで進んでいた。
 
3時間はあっという間に過ぎていった。私たちがけっこう早口でしゃべるので(『明るい水』をのぞいて)鍋島作品21曲流す予定のところを最終的に23曲流すことができた。また、私たちの作品も、発表済みの曲から『涙の影』と『遙かな夢』、未発表曲で『あの街角で』(昨年一部を放送で流したが全体を流すのは初めてとなった)、『天使に逢えたら』『影たちの夜』『私にもいつか』
の合計6曲の予定だったのが、どうしてもというリクエストが凄まじかったので『ふたりの愛ランド』も歌うことになった。これはマイナスワンの用意が無かったので、私がスタジオ内に設置している電子ピアノを右手フルート、左手ウッド系のオートベースコードの設定にし、オートリズムも入れて弾きながら、ふたりで歌った。
 
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そして番組は終曲を迎える。
 
「それでは最後に、鍋島康平先生の最後のヒット曲となった作品、そして私たちローズ+リリーのデビュー曲でもある『明るい水』を聴いて下さい。この曲は元々は#####さんが歌った曲ですが、私たちがカバーさせて頂いて、最初インディーズで出した後、★★レコードから再販され、インディーズ版と★★レコード版のセールスを合計すると10万枚を越えており、正式には認定されていませんが、実質的なゴールドディスクとなりました。この曲は私のピアノ生演奏で歌わせて頂きます」と私。
 
私はこのあたりのトークを時計の秒針を見ながらピアノの所に移動しながら語っていた。そして私は電子ピアノをリセットして初期状態のノーマルピアノの設定に戻し、政子もその隣に座って、前奏に続いてふたりでこの歌を歌った。ちょうど最後まで歌い終わり、ディレクターさんが拍手をしてくれたところで放送時間が終了となり、時報に切り替わる。
 
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ディレクターさんが握手を求めたのでそれに応じてから、私たちはお辞儀をしてスタジオを出た。外でも南さんが拍手で私たちを迎えてくれた。ディレクターさんの上司の課長さんも拍手してくれていた。
 

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夏の日の想い出・新入生の春(7)

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