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■夏の日の想い出・受験生のクリスマス(4)

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彼女たちと打ち合わせた後で、自分たちの控え室に戻ろうとしていたら、バッタリと見たような顔に出会う。思わずお互いに「おはようございます」と挨拶してから、「すみません、どなたでしたっけ?」とお互いに言う。
 
「あ、思い出した! こないだ私が新宿で会場間違って駆け込んだ時に居た人ですよね?」
と桃川さんが言う。
「チェリーツインの桃川さん!」
 
「ところで」
と言って桃川さんは小さな声にする。
 
「あの後で考えてたんですけど、あなたまさかローズ+リリーのケイちゃんってことは?」
「ええ。ケイですけど」
 
「やはり!何だか似ている気はしたんですよ!」
と言ってから、
「今日はもしかしてローズ+リリー出るんですか?」
と訊いてくる。
 
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私はちょうど出演順が彼女たちの直後なので、話しておいた方がいいかもと思い、
 
「実はこっそり出るんです。チェリーツインの直後に」
と小さな声で言う。
 
「え?私たちの後は秋風コスモスちゃんと聞いてましたが」
「そこに割り込みなんですよ」
 
「あ、こんな廊下で話してたらいけないですよね。ちょっとうちの控え室に来ません?」
などと言うので、結局彼女と一緒にチェリーツインの控え室に行った。どうせ政子はまだ寝ているだろうし!
 

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中に入っていくと、旧知のマネージャー青嶋さんが居て
 
「あれ、珍しい客が」
などと私を見て言うので
「おはようございます。青嶋さん。ご無沙汰しておりまして」
と私は挨拶する。
 
彼女は昔松原珠妃のマネージャーをしていた人で現在はζζプロの制作部長の肩書きを持っている。
 
「チェリーツインって青嶋さんの担当でしたっけ?」
「まあ固定された担当者がいないから私がとりあえず見ているというか」
「なるほどー」
 
「でもピコちゃん、どうしたの?」
と青嶋さんは懐かしい名前で私を呼ぶ。
 
「今日、私たちの後で歌うそうです。秋風コスモスの前に」
「嘘」
 
それで私は状況を説明する。マリの「ステージ恐怖症」リハビリのために時々ステージに立たせてもらっているということを説明した上で、チェリーツインの後、秋風コスモスの前に1曲だけ歌わせてもらうのだということを話す。すると、奥の方でソファに横になっていた人物が起き上がって言った。
 
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「話は分かった。じゃこうしよう」
「雨宮先生!?」
 

雨宮先生が紅川さんを呼んで一緒に打ち合わせる。しかしアルコールの臭いが凄い!
 
「雨宮先生、二日酔いですか?」
と私は訊いた。
「今朝まで、◎◎レコードの若い子とスナックとカラオケ屋さん10軒くらいハシゴしてただけだよ」
などと雨宮先生は言っている。
 
「しかし雨宮先生がチェリーツインに関わっていたのは知りませんでした」
と紅川さんは言ったのだが
 
「それ内緒にしておいて」
と雨宮先生は言う。
 
「陰の仕掛け人なんですか?」
「違う違う。この子たちの新しいアルバムを私がこっそりプロデュースしたんだよ。紅姉妹を前面に出したいから私の名前は一切出さない」
 
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「姉妹って、私たち男ですけど」
と紅ゆたかさんが言う。
 
「性転換する気は?」
「無いです」
 

雨宮先生の提案を聞いて紅川社長は
「おもしろいですね、それ」
と言う。
 
「でもその新しいフォーメーションというのを私知らないんですが」
と私は言ったのだが、ではやってみようという話になり、チェリーツインのメンバーが楽器やマイクを持って1曲演奏してくれた。
 
私は「へー!」と思いながら見ていた。
 
「おもしろいでしょ?」
「おもしろいです」
 
「でさ。あんたとマリちゃんはコーラス隊姉妹の代わりをする」
「従来のパターンのコーラス隊姉妹ですね」
「そうそう」
 
「私たち姉妹という訳ではないですけど。姉妹みたいに仲がいいけど」
とコーラスの子のひとりが言う。
 
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「レスビアンの恋人だっけ?」
「違います!」
「キスしたこともない?」
「そんなのしません!」
 

打ち合わせを終えて、控え室に戻ったのだが、政子はまだ寝ている。さすがにそろそろ起きてもらわないといけないので起こしたが
 
「今、エビフライの山盛り食べる夢見てたのに」
などと文句を言う。
 
「お仕事だよ」
「はーい」
と言って、とりあえずはお弁当4つにおにぎり・パンなどをぺろりと平らげてしまう。
 
「まだ腹八分目だなあ」
「満腹しちゃうと歌えないでしょ?」
「そうだねー」
 
それで私は今打ち合わせてきたことを説明したのだが
「何だか楽しそう!」
と言っている。乗り気になってくれることは良いことだ。
 
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チェリーツインが15:30のステージスタートなので、15時前に彼女たちの控え室に行き、用意された衣装と桜の花の形をしたお面を受け取る。そして一緒に舞台袖まで行く。
 
やがて前歌って(?)いた高校生歌手がお辞儀をして上手袖に下がる。実際には口パクしていただけだ。(本当に)伴奏をしていた人たちが大急ぎで撤収し、その後にチェリーツインの伴奏楽器が運び込まれセッティングする。この機材入れ替えの時間はだいたい5分掛かるので、各出演者の演奏時間はだいたい25分くらいである。今日私たちはその時間を使おうという魂胆なのである。
 
機材のセッティングが終わったところで、演奏者が下手袖から出ていく。まばらな拍手。この時期のチェリーツインは「ああ、そんなユニットがいたかな」程度の知名度だし、特にこの時間帯はまだ客も少ない。この時間帯から来ている人のおそらく半分くらいは16:00スタートの秋風コスモス、16:30スタートの坂井真紅あたりが目当てだ。
 
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ギターを紅ゆたかさん、ベースを紅さやかさんが持ち、ドラムスの所に桃川春美さんが座る。前面にお姫様のような衣装を着た気良星子・気良虹子の双子の姉妹が並んでハンドマイクを持つ。そして普段は後ろの方に桜の仮面を付けたコーラス隊の2人が並ぶのだが、今日はそのふたりはステージ上に立てられた杉の木のセットに擬態している。顔も樹皮の色に塗られて人相が全く分からない。彼女たちはヘッドセットを付けている。この擬態が分かるのは客席でもかなり前の方にいる人たちだけで、後ろの人はただのセットだと思ったであろう。
 
そして彼女たちの代わりに私と政子の2人が桜の仮面を付けてステージ後方、スタンドマイクの前に立った。
 
前奏に引き続いて、歌が始まるのだが、ここで客席にどよめきが起きた。
 
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チェリーツインというのは、前面に立つメインボーカルの双子2人が『歌わない』
というユニークなユニットである。しかし今日ここに来ている観客の大半がそのことを知らず何で!?という感じになったようである。
 
アイドルユニットでメインボーカルということになっている子が実際にはステージで歌わずに口パクをするというのは良くあることだが、チェリーツインの場合は、口パクもしない。ただハンドマイクを持って笑顔で立っているだけであり、実際の歌唱はコーラス隊の子たちがしている。
 
ただし今日はそのコーラス隊として入っている私と政子も歌わずに口パクして踊っているだけであり、本当に歌っているのは杉の木に擬態した2人である。
 
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このような不思議なユニットが生まれたのは、メインボーカルの気良姉妹が言語障碍を持っていて、言葉をしゃべることができないので、その歌部分を友人の2人が代行して歌い「4人で一緒に歌っていた」からである。それをしまうららさんが見い出してDVDを出させたのである(後に安価なビデオ付きCDも出した)。チェリーツインのスコアを書店などで買うとちゃんとVocal 1,2は全休符になっていて、Chorus 1,2の所に歌が設定されている。
 
このユニットは2008年にインディーズでDVDデビュー(DVD流通取り扱いは★★レコード)して、一部で話題になり、あまり大きな宣伝はしていないものの、DVDとビデオ付きCDの合計で毎回数万枚のセールスをあげている。もっとも雨宮先生に言わせるとその大半は、福祉関係の団体や支援者などがまとめて買って、作業所や支援施設などで入居者やその家族に配っているものだと言う。
 
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しかしそれでも1200円/1600円のCD/DVDが合計3万枚売れると売上は約4000万円である。インディーズなので事務所の取り分はおそらく2000万円くらいある。インディーズであるが故に事務所に大きな利益をもたらしているユニットだ。
 
彼女たちの事務を取り扱っているζζプロ(松原珠妃やしまうららの事務所)では来年くらいにはメジャーデビューさせたいと言っているようだが、現在の売上でメジャーに行ってもかえって減収になるのでは(事務所にとっても本人たちにとっても)と私は心配していた。
 

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客席の大半が「???」という状態ではあったものの、少数チェリーツインを知っている客もいたようで
 
「ほしちゃーん」
「にじちゃーん」
というコールが掛かる。するとボーカルの2人は手を振って答える。
 
やがてどこからともなく手拍子が起きると、それが会場全体に広がっていった。全く日本の観客は律儀である。
 
私と政子もその手拍子をありがたく受け取って口パクでダンスをしていた。チラっと政子の方を見ると、かなり楽しそうである。伊豆では5分くらいしかステージに立たなかったので、数千人の観客がいるステージで30分パフォーマンスするというのは、政子にとっても大きな経験になるだろう。
 

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そして私はダンスしながら考えていた。
 
今回のステージで歌うのは年明けくらいに発売予定のアルバムに収録される曲6曲だが、この中の3曲は先月上旬、雨宮先生に突然呼び出されて「紅紅の曲がなってないから、あんたのセンスで構成し直して」と言われ、私が組み立て直した曲である。私は5曲を直したのだが、雨宮先生は残りの5曲は私と同い年の作曲家に作業させると言っていた。その自分が担当していなかった曲を3曲今初めて聴いているのだが、凄く素朴な作風だと思った。
 
正直素人では?と思った部分も多々あるが、素人っぽいのにセンスが物凄く良いのである。どういう人が作業したのだろうと私は興味を持った。もっともどんな人かというのは、雨宮先生は絶対に教えてくれないだろう。ただ先生は
 
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「向こうもあんたと同様に高校生の内に性転換手術受けたのよ」
などと言っていた。
 
雨宮先生はどうも誤解しているようだが、私は実際には性転換も去勢もしていない。女性ホルモンも最近は摂っていないので実は男性能力が少し復活してきている(でも昨日うとうととしていた間に政子からエストロゲンの注射をされた!)。しかし同い年で既に性転換している子がいるという話は、私は「置いてけぼり」にされた気分だった。私も早く性転換したいなという気持ちが強くなった。
 
 
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