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■夏の日の想い出・鈴の音(7)

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ドリームボーイズの公演の翌日、8月6日はこの週から補習が始まるので学校に出て行った。私はいっそ女子制服で出て行こうかなとも思ったものの、結局その勇気は無くてワイシャツ姿で出て行った。
 
この日、補習終了後、私は政子のいる1年3組の教室に行き、彼女を廊下に呼び出してもらった。政子は通学用の鞄を持って出て来た。それでふたりで廊下を歩きながら話すことになった。
 
「あの服全部あげるとは言われたけど、下着は返すよ」
と言って私は洗濯した政子の下着を紙袋に入れて返す。
 
「これ舐めたりしても良かったのに」
「どういう趣味!?」
「啓介は私の下着勝手に持っていって、舐めたりオナニーに使ったりしてるみたいよ」
「理解できないなあ」
 
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政子は花見さんに肌に触られるのも嫌という(服の下に手を入れたらぶん殴ってしばらく口も聞かなかったらしい)癖に、下着はそんなことされても平気なようだ。「だってただの物じゃん」と彼女は言う。政子は間違い無く私より遥かに強い霊感を持っているが、結構な唯物論者っぽい。
 
「女の子の使用済み下着って男の子は興奮しないの?」
「興奮するものなの?」
「やはり唐本君って実は女の子なのでは?」
 
そんなことを言われて私はドキッとした。
 
「先月末くらいからさ。なんか唐本君が女の子になって私とおしゃべりしてる夢を幾度も見たんだよね」
「へー!」
 
「唐本君が女の子になって、私と一緒に電車に乗っていたり、一緒にお風呂に入ったり、一緒にアイドル歌手になって歌ったり」
 
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それは全部現実だ!と私は焦る。
 
「さすがにお風呂には一緒に入れないな」
「そうだね。おっぱい無いみたいだし、おちんちんあったら女湯には入れないだろうし」
と言ったまま、政子は何か考えている。
 

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私たちはそのまま生徒用玄関を出て、校門の方へと歩いて行った。
 
「ね。唐本君って呼ぶのに私抵抗を感じる。女の子同士の友だちに準じて、取り敢えずふたりだけの時は名前で呼び合わない?」
 
「いいよ」
 
「じゃ、私は冬子って呼べばいいかな?」
「うーん。。。。冬くらいで」
「了解。冬ね」
「じゃ、ボクも中田さんのことは政子って呼ぶよ」
「OKOK」
 
私が政子のことをマーサと呼ぶようになるのは、翌年の春からである。
 

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結局そのままふたり一緒に校門を出て駅まで行く。途中、弓道部の練習で校庭をジョギングしていた奈緒と目が合い、お互いに手を振った。
 
「あれ?ガールフレンドか何か?」
「ううん。ただの友だちだよ。小学校以来の」
「へー」
 
と言って政子は少し考えている。
 
「冬って、実際女の子の友だちが多いよね」
「前にも言ったけど、ボク、男の子の友だちなんてできたことないよ」
「やはり、冬って実質女の子なんじゃない?」
 
私は微笑んだ。
 
「そんな気がすることもある」
「こないだの女装、凄くはまってた。いっそ学校にも女子制服で出て来ない?」
「それは無茶だよ」
「そうかなあ」
 
途中の駅まで一緒に電車に乗っていく。乗り換え駅で本当は別れる所なのだが、何となく別れがたくて、いったん外に出てふたりでお散歩した。
 
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「お風呂には一緒に入られなくても、一緒に歌うのはいいかもね」
と政子は唐突に言った。
 
「ボク、歌うの好きだよ」
「私も実は歌うの好きなんだ。でも凄く下手なの」
「下手なのは練習すればうまくなる」
「ほんとに上手くなると思う?」
「保証する。マーサが上手くならなかったら、おちんちん切ってもいい」
「実は切りたいのでは?」
「どうかな」
「ふーん。否定しないんだ?」
 
と言って政子は楽しそうに私を見た。
 

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その時である。
 
「あ、君たちだよね。確かマイちゃんとユーちゃん」
と私たちに声を掛けてきた男性がある。
 
「はい?」
「マーサとフユかな」
 
「そんな名前だったっけ。ごめんごめん。こちらに来て」
「いったい何ですか?」
「話は聞いてるでしょ? こっちだから」
 
と言われて私たちは訳が分からないまま引っ張って行かれてしまった。
 
行くと商店街の一角にギターとベースとアンプ・スピーカーが置かれている。
 
「じゃ、よろしく」
「ここで何をすると?」
「街頭ライブするんでしょ? 警察に見つかる前にやれるだけやりたいから、すぐ始めて」
 
と言われる。これ誰かと間違えられているのでは?と思ったが、折角だしやっちゃおうか?と政子と目で会話した。
 
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「ボクがギター弾くからマーサ、ベースを弾いてよ」
「こんなの触ったことないよ」
と言う政子に、私はド・ファ・ソの3つの音だけ教える。
 
「ボクの足を見てて。ボクが足をくっつけていたらド。横に開いていたらソ、縦に開いていたらファ」
 
「あ、それなら何とかなるかも。曲は?」
「津島瑤子の『See Again』分かる?」
「あ、歌えると思う」
「じゃそれで」
 

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それで私と政子はギターとベースを弾きながら、突然の街頭ライブをしてしまったのである。
 
一方その頃、私たちが男性に声を掛けられた場所の近くに、可愛いペアの服を着た女の子2人が来て、キョロキョロとあたりを見回していた。
 
「どうしたんだろ?」
「私たち遅刻しちゃった?」
「電車が遅れちゃったからね」
 
などとふたりが話していた時、そこに40代くらいの女性が話しかけてきた。
 
「あなたたち、誰か人でも探してるの?」
「はい。昨日、拝島駅前で路上ライブしてたら、はらちえみさんって人に声を掛けられて、もっと街中でやろうよと言われてギター・ベースも用意しておくからと言われて午後2時に待ち合わせていたのですが・・・」
「途中人身事故があった影響で電車が遅れちゃって」
「来たのが2時2分くらいだったんですよね」
 
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「あなたたち、歌うの?」
「はい。実はあまり楽器うまくないんですけど歌は好きです」
 
その女性は少し考えているようだった。
 
「あなたたち、ちょっとうちに来ない? あ、そうそう。これ私の名刺」
と言って、彼女は「卍卍プロダクション」という肩書きの入った名刺を出した。
 
彼女たちはこの後、1年ほどのレッスンを経て、2008年9月にドッグス×キャッツの名前で歌唱デュオとしてデビューする。
 
しかし彼女たちのキャラはローズ+リリーと完璧にかぷっていた。またデビュー曲の『イト・レインズ・ドッグス×キャッツ』はティーンズ向け化粧品のCMとのタイアップだったのが、その化粧品に有害成分が含まれていることが分かり回収騒動になったのも不運だった。
 
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それで彼女たちは数億円掛けての大々的なデビューであったにも関わらず全く売れないまま消えていくことになる。一方のローズ+リリーは契約金でさえもらっていないのに、爆発的に売れていく。
 
私たちと彼女たちの運命を分けたのは、1つの人身事故であったのかも知れない。
 

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一方、私たちはさきほどの場所で別のドラマが進んでいたとは知るよしも無いまま、路上ライブを続けた。歌は『See Again』の後、先日のキャンプでふたりで作った『あの夏の日の想い出』(後に『あの夏の日』のタイトルで音源化)、『ふたりの愛ランド』(この曲は元々ハ長調の曲)、『ドレミの歌』(強引にC,F,G7だけで演奏した)と歌っていく。
 
最初始めた頃は通り行く人たちがチラっと見ていくだけだったのが、次第に足を留めて聞き始める人が出てくる。『ふたりの愛ランド』を歌う頃には、完全に人だかりができていて、手拍子まで打ってくれる人たちが出ていた。
 
更に『夏祭り』(短調の曲だけど強引にC,F,G7だけで演奏した!)を歌い、『少年時代』を演奏している途中で警察がやってきて、ゲリラ街頭ライブはそこで終了となった。
 
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私たちをここに連れてきた男性は、
 
「ありがとう。きみたち良かったよ。後で連絡するね。だけどユーちゃんってまるで男の子みたいな声なんだね。じゃ、またあとで」
 
などと私たちに言っていた。もっとも彼が知っていた連絡先というのは須藤さんが聞き出していた、マイとユーの連絡先で、彼女たちは別のプロダクションにもうスカウトされてしまっていたので、この線はそのまま消えてしまったのである。
 
それでも私たちは人前でライブをするという経験に興奮し、この後、音楽活動への情熱を高めていくことになる。
 
なお、この男性は○○プロの山本さんという人だが、この人は2008年秋に退職して地元の秋田に帰り、イベント運営会社を創業したものの、数年で倒産してしまったようである。
 
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政子は
「男の子みたいな声って、冬は男の子だしね」
と言った。
 
「まあそうだね」
「ね、女の子の声を出す練習してみない?」
「なんで〜?」
「だって男女デュオより女声デュオの方が売れるよ」
「まあそうかもね。でもそしたら、誰か他の女の子を誘ったら?」
「私は冬がいい」
 
ちょっと心がジーンと来た。
 
「でも男なのに女の声なんて、出るの?」
「出るんだよ。知らない人多いんだよねー」
「へー」
「今度、そういう本を持って来てあげるよ」
 
と政子は言っていたが、すっかり忘れてしまっていたようで、私が政子から女声の発声法の本を見せてもらったのは翌年の夏である。
 
なおこの時の街頭ライブは、私が男声で歌っているので、私の見解としては、ローズ+リリーのライブではない。私の見解としての最初のローズ+リリーの街頭ライブは2008年7月29日である。
 
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私と政子は翌週の月曜日、8月13日にあらためてカラオケ屋さんに行き、私はまたまた女装させられて!? ふたりでたくさん歌を歌った。その時、私は先日政子が「これちょうだい」と言って持っていったボールペンの由来を説明する。中学時代に野球部でピッチャーをしていた真央という友人と一緒に買ったものであると言うと
 
「野球部のエースかあ。凄いボール投げるんだろうなあ。旋風を起こして」
と言ってから、突然言葉が止まった。
 
「どうしたの?」
「このボールペンに名前付けちゃおう。《赤い旋風》って言うの」
「へー!格好いい」
 
赤い旋風というボールペンはその名前が象徴するように、心を鼓舞する効果が大きい。このボールペンに出会う前の政子は救いようがないほど暗い詩、読んだだけで気分が憂鬱になるような詩ばかり書いていたのが、このボールペンと出会ってから、かなり楽しい詩、ポジティブな詩を書くようになったのである。
 
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ずっと後に、私たちの間の娘、あやめが生まれてから、試しにあやめにこのボールペンを貸して詩や曲を書かせたら、ハイテンポのハードロックのような曲ばかり生まれた。要するに、このボールペンは普通の人にはパワーが強すぎるのであろう。政子の性格には本当にピッタリしたボールペンだった。
 
青葉は《赤い旋風》は私と政子の曾孫に受け継がれることになるよと言っているが、私は自分の曾孫の顔を見られるまで生きている自信が無い。
 

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このカラオケ屋さんで歌った日、政子はカラオケ屋さんでラーメンを6杯半、その後更にラーメン屋さんに入って3杯と3分の2、合計で10杯と6分の1ほどと、おにぎり3皿にチャーハンまで食べた。私は政子の胃袋を解剖してみたい気分になったのだが(きっと内容物で私は押しつぶされてしまうだろう)、ラーメン屋さんを出て、駅まで散歩しながら帰ろうと言って歩いていた時、突然立ち止まった。
 
「どうしたの? お腹の調子大丈夫?」
とさすがに私は心配して訊く。
 
「うん。今晩何を食べようかなと思って」
 
あれだけ食べた上で、晩御飯が入るのか!?
 
「今夜、うちのお母さん親戚んちに行ってるんだよね。5000円渡されて何か適当に買って食べときなさいって言われたんだけど」
 
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普通なら女の子の晩御飯を買うのに1000円もあれば充分という気がするが、5000円渡しておかないと「足りない」のが政子なのだろう。でも今日は割り勘で私もカラオケ屋さんで4300円とラーメン屋さんで750円払っている。政子も5000円きれいになくなっているのでは?と思った。
 
「だけど政子、カラオケ屋さんとラーメン屋さんで合わせて5000円くらい使っちゃったんじゃない?」
「あれは、おやつだし」
「お金はまだ大丈夫?」
 
「幾ら残ってるかな」
と言って財布を出して数えている。
 
「5千円札1枚と千円札が15枚あった。こないだキャンプ行ったし、その前に実はちょっと長崎のお祖母ちゃんちに行ってきたんだよね。その時に預かってた、お小遣い余ったのをまだ返してなかった」
 
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なるほどねー。
 
「冬は今どのくらい持ってる?」
「うーん。3万くらいかな」
「結構持ってるね!」
 
「こないだバイトの給料もらったばかりだから」
「あ、そーか。ハンバーガー屋さんのバイトしてるんだったね」
「うん」
「私も食べ物屋さんのバイトしたいなあ」
「政子はすぐ首になりそうな気がする。時間が経って廃棄しないといけなくなったの、もらえるってんで、大量に廃棄品を生み出したりして」
「うっ・・・やりそうで自分が怖い」
 

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■夏の日の想い出・鈴の音(7)

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