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■夏の日の想い出・大逆転(6)

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ステージが終わる。全員上手側に退場する。スタッフの人が機材の入れ替えを始める。その間に私は走ってステージの下手側に回り込む。既にポーラスターのメンバーがスタンバイしてる。
 
「冬、どこ行ってたのよ?」
「ごめん、ごめん」
「はい、冬のクラリネット」
「さんきゅ」
 
そこにAYAが引き締まった顔をしてやってくるが、私たちは二〇加煎餅のお面をしているから向こうはさすがに気付かない。。。。
 
と思っていたのだが、政子が鋭い視線でAYAを見ていたので、向こうが「え?」
という感じでこちらを見た。私は微笑んで自分の面を外して手を振る。
 
「えーーー!?」
とAYAが驚いている。すると政子もお面を外した。
 
「今日は私たちはポーラスターだよ」
と私が言う。
 
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「へー!」
と言ってAYAは楽しそうな顔をした。
 

お互い気合いを入れ直して、私たちはステージに上がった。政子はヴァイオリンを構えて弓を持ち、目を瞑って演奏開始を待っている。ドラムスの人がスティックを鳴らして演奏開始!
 
政子はKARIONのステージの30分の間にちゃんと譜面を頭の中に入れていたようで(政子は楽譜が読めないので神原さんに教えてほしいと頼んでおいたが、そもそもAYAの歌自体は全部頭の中に入っているはず)、しっかりとヴァイオリンを弾いている。
 
私はそれを見ながら安心してクラリネットを吹いていた。しかしかえって前面で歌っているAYAの方が少し緊張しているような雰囲気もあった。
 
30分間のステージが終わる。
 
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私たちはAYAが観客に手を振っている間に先にステージ下に降りた。
 
遅れて降りてきたAYAと握手する。
 
「どうしたの?今日は」とAYA。
「私はポーラスターの第一期メンバー」
と私が答えると
 
「ホントですよ。私と神原ちゃんとケイちゃんは篠田その歌の初期のバックバンドやってたんです」
と杉山さんが言う。
 
「全然知らなかった! でも私、ふたりが歌っている所も見たいな」
「ゆみちゃん、明日はオフだよね?」
「うん」
「だったら、これあげる」
 
と言って私はAYAに新幹線の新大阪までの往復チケットと、明日のKARION大阪公演の招待券を渡す。
 
「KARION!?」
「私たち、ゲストコーナーで歌うから」
「うそ」
「先週金沢公演でも歌ったんだよ」
「なに〜〜〜!?」
 
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「明日も私たち歌うの?」
と仁恵たちの所に戻りながら政子が尋ねる。歩いて行く途中ファンから声を掛けられてローズ+リリーのサインを10枚も書いた。
 
「大阪でタコ焼き食べて、ついでに公演で歌う」
「よし。じゃ終わった後はメンチカツも食べたいな」
「いいよ」
「じゃ歌おう」
「ふふふ」
 
そういう訳で、私たちは翌日、13日のKARION大阪公演でも《ゴース+ロリー》として和実からまた借りたゴスロリの衣装を着て歌ったのである。その日は今度は『夏の日の想い出』『雪の恋人たち』『神様お願い』を歌った。
 

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8月24日。KARIONの14枚目のシングル『恋のブザービーター』が発売になった。
 
滝口さんは「今度のは凄いですよ。ひょっとしたらミリオン行くかも」などと話していた。
 
しかし結果は悲惨だった。
 
私も和泉も多分悲惨だろうとは思っていたのだが、私や和泉が思っていた以上に悲惨だった。
 
初動が3万枚だったが、翌日以降、全く数字が動かなかった。1週間経っても売上枚数は全く変わらなかった。
 
前作『愛の夜明け』は53万枚、その前の『ハーモニックリズム』は35万枚売れている。
 
予約は20万枚入っていたのにテレビスポットが流れ始めた1週間前から次々とキャンセルされた。売れた3万枚は律儀に予約を遂行してくれたファンの分で予約無しで買った人はほとんどいなかった。
 
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ネット上のKARIONファンサイト、2ch、各種SNSは今回のシングルを酷評するコメントで埋め尽くされた。わざわざレコード会社や事務所に電話を掛けてきて抗議するファンまでいた。
 
《これはKARIONの歌じゃない》
 
という点でそれらのコメントは一致していた。
 
「ハーモニーあってのKARION」
「元々歌のうまい和泉ちゃんに、わざわざ音を外して歌わせるって酷い」
 
「田中廣台さんのアレンジはKARIONのこと何も理解してない」
「このトラベリングベルズの演奏もわざと下手に演奏しているとしか思えない。こんな音作りをするというのは理解不能」
 
「KARIONはどこかの下手くそなアイドルとは違う」
「KARIONの魅力を全部殺している」
「最低最悪の作品」
 
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あまりの酷評に、翌週、田中先生側から、編曲御礼を返上するし印税も要らないから自分の編曲クレジットを外して欲しいという要請があり、とりあえずダウンロードストアの分からはそのクレジットを消去することになった。CDも再出荷分からは外すことになったが、再出荷は有り得ない状況だった。★★レコードはこのCDを40万枚もプレスしていたのである。売上金額換算で4億円である。しかし売れたのは3万枚。3000万円分にすぎない。どう考えても残りは廃棄せざるを得ない状況であった。廃棄による損害額は、CDショップからの返品分の作業コストと直接廃棄に必要なコストまで入れて、軽く1億円を越える。
 
9月5日(月)、滝口さんは上司の加藤課長に進退伺いを提出した。
 
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当時、堂々とこの作品と制作スタッフを酷評する音楽関係者もいた。
 
ゆきみすず先生。
「どこか他のレコード会社から移ってきたロートルA&Rがおかしな圧力を掛けて変な作品にしたんじゃないの? KARIONの制作は和泉と歌月に任せておけばいいんだよ」
 
名前こそ出してないものの明らかに滝口さんを批判する意見である。
 
スイート・ヴァニラズのElise。
「今回のCDは、KARIONもトラベリングベルズも酔っ払って制作したのかと思ったよ。だけど、未成年の子もいたはずだけど、いづみ、飲んでないよね?ってか飲む時は私も呼べよ」
 
サウザンズの樟南。
「俺、音感まるで無いけどさ。音感の無い俺の耳にも酷く聞こえるって、これ相当酷い作品だよな」
 
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スカイヤーズのBunBun。
「いや、これ最初聴いた時、KARIONは性転換でもしたのかと思ったね」
 
多数の「下手くそな」アイドルを売っている§§プロの紅川社長。
「この制作者は勘違いしている。歌が下手なアイドルでも売り方次第で売れる。でも歌が上手な子は、その歌こそが魅力なのだから、それを軸にして売る必要がある。うちでも春風アルトちゃんや夏風ロビンちゃんなんかはそういう売り方してたからね」
 
KARIONと全く縁の無いはずのタブラ・ラーサの後藤さんまで
「俺個人的にKARIONのサウンドは気に入ってたんだけど、今回のだけは本当にがっかりした。悪いけどディスク叩き割ってゴミ箱に捨てさせてもらった。次まともなの作らないとファン辞めるぞ」
 
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更には畑違いの演歌歌手、吉野鉄心さんまで
「これ明らかにKARIONを全く理解してない人が制作を指揮しているよね。多分この人、カップラーメンしか作ったこと無かったんだよ。カップラーメンを最高にうまく作れるというので自分は凄腕制作者だと思い込んで天狗になってたんだな。それで高級レストランに来て最高の食材を使って、凄まじく不味い料理を作ったという感じだね。これの制作をした人は20年くらい下働きして勉強しなおすべき」
 
そして東郷誠一先生。
「僕の弟子がこんな作品作ったら即田舎に帰れって言うな。ここまで酷い作品をよく作ったもんだ。加藤さん何やってんのよ?部下の管理もっとしっかりやらなきゃ。年上の部下でも遠慮しちゃだめ」
 
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この批評を聞いて、加藤さんまで進退伺いを出したらしいが、町添さんは速攻で突き返した。確かに加藤さんとしても、自分より年上で、これまで数々の実績のある滝口さんには、あまり物が言えなかったのである。
 
滝口さんをKARIONの担当にと推したのは彼女を★★レコードに入社させた村上専務であったが、あまりの猛批判に完全に口をつぐんでしまった。滝口さんの辞職はやむなしという雰囲気で、滝口さんとしては結果的には梯子を外された気分だったかも知れない。
 

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9月18日。私はその日1日蔵田さんの音源制作のお手伝いをして、深夜22時過ぎに「飯でも食おう」と言われて、一緒にスタジオの近くのファミレスに入った。それでフロア係が出て来ないので、勝手に座席の空いてる所を探して中に進んで行く。
 
その時、横から出てきた女性と蔵田さんが衝突してしまった。
 
「あ、ごめん」と蔵田さん。
「いえ、こちらこそ、申し訳ありません」とその女性。
 
「あれ?滝口さん」
と私は彼女に声を掛けた。
 
「え!? ケイさん!?」
と彼女は驚いたような声。
 
「あまり人に見られたくないな。これ」
と蔵田さんは言い、厨房を覗き込んで
 
「おーい。誰か出てきてよ」
と言う。慌てて飛び出してきたスタッフに
「個室空いてたら使いたいんだけど」
と言う。
 
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「はい、ご案内します」
 

ということで、私と蔵田さんは滝口さんも連れて個室に入った。滝口さんは自分の伝票とティーカップを持って移ってきた。
 
「今、気付きました。ドリームボーイズの蔵田孝治さん!?」
と滝口さんは蔵田さんに言う。
 
「あと5分気付かなかったら、こいつクビにしろと俺も加藤さんに言ったな」
と蔵田さん。
 
「済みません」
「加藤さんか町添さんに何か言われた?」
「町添取締役から、進退伺いは預かると言われました。そして1ヶ月時間をやるから考えろと」
「ふーん。で、どうするの?」
「半月考えましたが、やはり改めて辞表を出そうかと思っています」
 
「そしてそのまま負け犬になるのかい?」
「・・・・やはり、私間違っていたのでしょうか?」
 
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「吉野鉄心の言ってた言葉がいちばん的確だった気がするよ。あんたはカップ麺の作り方は天才的だった。でも一流レストランの食材の料理の仕方を知らなかったんだよ」
 
「やはり、そうなんでしょうかね・・・」
 
「だから吉野さん言ってたじゃん。20年下働きして修行しろって。あんた修行する気はないの?」
 
「・・・・やりなおすこと、できるのでしょうか?」
「あんた次第だと思うよ」
 
滝口さんはその蔵田さんの言葉をしばし噛み締めているようであった。
 

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「あれ?ケイさんは蔵田さんとお知り合いなんですか?」
 
ふと気付いたように滝口さんは訊いた。
 
「私はドリームボーイズのバックダンサーなので」
と私は答える。
 
「えーー!?」
 
「10年くらいやってるかな?」
と蔵田さん。
「2003年からですから8年ですね」
「きゃー!」
 
「こいつはローズ+リリーとしてデビューする5年前から芸能界にいたんだよ。ついでにその前、4年間ほど、松原珠妃に徹底的に鍛えられている。その間にもテレビに出たり、バレエやエレクトーンや民謡の大会に出たりしている」
「松原珠妃?」
 
「同郷なんです。同じ小学校の先輩・後輩で、私にとって松原珠妃は先生でした」
と私は言う。
 
「全然知らなかった」
「そして俺の愛弟子でもある。こいつは俺の楽曲制作の現場で7年間、俺の制作の手伝いをしてきている。更に実力派のサウンド技術者・麻布英和の弟子にもなって音作りの実践技術を無茶苦茶鍛えられている。だから、水沢歌月はたった3年音楽やってた駆け出し制作者じゃない。12年の芸能キャリアを持ち、俺とか松原珠妃とか麻布英和とか雨宮三森とかに徹底してエリート教育されたミュージシャンなんだよ。滝口さんよりキャリアが上かもね。自身のミリオンヒットも『甘い蜜』『夏の日の想い出』と2枚出したし」
と蔵田さん。
 
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(この時点では『甘い蜜』は98万枚くらい。この月の月末に100万枚を突破する。『夏の日の想い出』が100万枚を突破するのは翌月。ただどちらもミリオン到達は確実と考えられていた)
 
「水沢歌月???」
 
「先日、私、この名刺もお渡ししましたよね?」
と言って、私は「KARION/らんこ」の名刺を見せた。
 
「へ!?」
と言って、滝口さんは私の顔をじーーーっと見詰めた。
 
「あ!!!!!!」
 
「しかし水沢歌月とケイが同じ人だと知らなかったとは」
と蔵田さん。
 
「それ、みんな知ってるんですか?」
と滝口さん。
 
「いんや。知ってる人は★★レコード内でもごく僅かだろうね」
と蔵田さん。
 
「加藤課長はたぶんまだ気付いてないよ」と私。
「ああ、そんな気がする」と蔵田さん。
 
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「でもKARIONの老舗ファンサイトには結構書いてある」
「うんうん、書かれてる」
 
「全然気付かなかった! でもごめんなさい、私こないだケイちゃんのことで変なこと言っちゃって」」
 
「ああ、オカマとか言われるのは慣れてるから全然気にしません」
と私。
 
「俺がホモと言われても気にしないのと同じだな」
と蔵田さん。
 
「しかしこれ凄いな。オカマとホモとロートルの対談か」
と蔵田さんが言うと、滝口さんが初めて吹き出した。
 

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■夏の日の想い出・大逆転(6)

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