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■夏の日の想い出・空を飛びたい(4)

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結局、バンドメンバーに関しては、珠妃が他にも「この人を推薦する」などと言って、ギター、ベース、ドラムス、キーボード、ヴァイオリンの奏者を決めてしまった。珠妃が直接電話して確保してしまう。それで最初は伴奏者は日替わりになるかも知れないなどと話していたのが、珠妃のおかげで、ツアー全部に全員通して付き合ってくれることになった。
 
珠妃は更にセットリスト(演奏曲目の一覧)を見て「この曲は合わない。これをやった方がいい」などと言って、曲目を結構入れ替えた。
 
結果的にはこの2008年秋のローズ+リリーのツアーは、実質的に松原珠妃がプロデュースしたのに近い形になったのである。正直この日、ここに珠妃が来ていなかったら、このツアーは酷いものになっていた危険がある。
 
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「だけどさ、洋子。デュオを組むにしても、なんでこんな下手くそな子と組むのよ?」
などと珠妃は言った。
 
「まあ、浦和ミドリとか貝瀬日南とかよりは、ずっと上手いけどね」
 
と付け加えると、それまで呆気にとられた感じで話を聞いていた風の甲斐さんが吹き出した。
 
「この子ですね。この子と組んだのは今年の3月頃からなんですけど、その時からすると格段に歌が上達しましたよ」
と私は答える。
 
「ふーん。磨かれてない原石ということか」
「ふふふ」
 

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加藤さんがへーという顔をしながら頷いていたが、ひとことその件についてコメントする。
 
「珠妃ちゃん、ケイちゃんがマリちゃんをパートナーに選んだ理由は、マリちゃん本人を見れば分かる」
 
「ははぁ、何となく分かった。じゃ、私も見に行きたいからチケット融通してくれない?」
 
と珠妃が言うと
「じゃ、珠妃ちゃんの事務所に確認して、珠妃ちゃんのスケジュールが空いている日のチケットを準備するよ」
 
と加藤さんは言った。
 

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その日は珠妃は自分の方のアルバムの打ち合わせを「明日にしよう」などと担当者さんに言って、ローズ+リリーのツアーの打ち合わせに参加して色々提案やアドバイスをしてくれた。それで21時頃まで打ち合わせて、帰ろうとしていたら、メールが着信していたことに気付く。
 
何だろうと思って見ると○○プロの丸花社長からで「誰もいない所で僕に電話して。このメールはすぐ捨てて」と書かれていたので、速攻で削除した。
 
それで★★レコードを出てから、隣の★★スタジオに入り、顔パスで2階の花梨の部屋に通してもらった。ここの2〜3階は★★レコードの契約アーティストであれば、いつでも無料で利用できる。私はこの時期はまだ正式な契約アーティストではなかったが、蔵田さんといつもここに来ているので、受付の人に覚えられていて、顔パスが効いてしまうのである。
 
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それでそのスタジオ内から丸花さんに電話したのだが、思わぬことを言われる。
 
「来月いっぱい全国ツアーでしょ?」
「はい。今日その詳細がやっと決まりました。バンドの人も何とか確保できました」
 
「ん・・・あ、そうか。ローズ+リリーも全国ツアーだもんね」
「はい。あ、KARIONのですか?」
 
「ね、ローズ+リリーのツアーの日程、僕の所に送ってくれない?」
 
それで速攻でメールで送った。折り返し電話が掛かってくる。
 
「ローズ+リリーが、8日横浜 9日札幌 15日金沢 16日大阪 22日岡山 23日福岡 24日仙台 29日名古屋 30日東京」
 
「KARIONが1日札幌 2日仙台 3日金沢 8日大阪 9日神戸 15日名古屋 16日那覇 22日鹿児島 23日福岡 24日高松 29日横浜 30日東京」
 
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「このスケジュールを見比べていたんだけど、1日札幌、8日大阪、15日名古屋、23日福岡、29日横浜、30日東京のKARION公演に、冬ちゃん出て欲しいんだけど」
 
「は!?」
 
「1日はオフだよね。これ津田君に確認した」
「ええ」
「だから札幌に行って来れるよね。君、北海道や沖縄の日帰りは何度もやってる」
「えっと・・・」
 
「23日の福岡と30日の東京は同じ日に同じ町。詳細を確認したら23日は14時から16時くらいまで天神のアクオスでKARIONの公演、18時から築港のムーンパレスでローズ+リリーの公演。このふたつの会場は車なら5分くらいで移動できる。東京は13時から新宿の文化ホールでKARION、18時から中野のスターホールでローズ+リリー。新宿から中野も電車ですぐ」
 
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私は両方のスケジュール表を見比べながら話を聞いていた。確かにどちらも土日に集中して公演をするのだが、KARIONの公演は主として日中に、ローズ+リリーの公演は主として夕方に設定されている。これは各々のファン層の違いが背景にある。KARIONはファミリー層が多いので日中の方がファンが動きやすい。それに対してローズ+リリーは若い人が多いので夕方の方が仕事が終わってから来てくれる人を期待できる。
 
「でも8日はKARIONが大阪でローズ+リリーは横浜、15日はKARIONが名古屋でローズ+リリーは金沢ですが」
 
「大阪のKARIONの公演をやるローズホールは新大阪駅に近いから、公演が終わったら即新幹線に飛び乗ってもらう。公演が終わるのが15時くらいだから場合によってはアンコールをパスして15時半の新幹線に飛び乗ってもらうと17:45に新横浜に着く。すると菊名駅乗り換えで30分でみなとみらいに到達できる。18:30には入れるから19時の開演に間に合う。29日は横浜と名古屋だからもっと楽に行ける」
 
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しかし凄い綱渡りだ・・・・。
 
「でも15日の名古屋と金沢は?」
 
「自衛隊に話を付けた」
「へ?」
「小牧基地から小松基地までF15で運んでくれる」
「えーーー!?」
「KARIONの名古屋公演は15時に終わるから、そのまま小牧基地にタクシーで入ってもらう。そこから小松までF15なら5分で着く」
「うっそー!!!」
 
「小松基地のF15は有事の際には東京に5分、ソウルにも15分で駆け付けられるからね」
などと丸花さんは言っている。
「その日はちょうど訓練で小牧に来るんだよ。その帰りに同乗させてもらう」
 
確かに丸花さんは元警察庁のキャリアで、警察や自衛隊に物凄く広い人脈を持っている。しかし、これって公私混同じゃないのか!?バレたら国会で叩かれるぞ!
 
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「名古屋のKARIONの会場Zホールから小牧基地までは高速を通れば20分。F15で小松に5分で移動。小松基地から金沢駅までは高速を通って30分。乗り換え時間を入れても2時間以内で移動できる」
 
ひぇー!!
 
しかしF15で移動なんて、漫画じゃあるまいし!!
 
「ということで若いんだし、頑張ってね」
「あははは・・・・」
 
「1日は朝6:45くらいに羽田第2ターミナルのANAのカウンター前まで来て。畠山さんたちと合流できるはず」
「分かりました」
 
まあ私としては現在、営業窓口は○○プロになっているのだから、その社長の丸花さんから言われたことについては従っておけばよい(半ば責任放棄)という気分であった。
 

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11月1日朝、高校の女子制服を着てロングヘアのウィッグを付け、身の回りのものと《Flora》のヴァイオリン(7月に沖縄で壊れたがもう修理が終わって戻って来ていた。ネック全交換である)を持ち、羽田に行く。第2ターミナルに着いたのは6:35くらいであった。畠山さんと事務所スタッフの望月さんに、和泉が来ていた。
 
「ほんとに来たんだ。偉い」
と和泉が言う。
「仔細は丸花さんから聞いてるね?」
と畠山さん。
 
「私のスケジュールはどうも○○プロの管理下にあるみたいですから、もうそれに従うのみです」
「あはは、頑張ってね」
 
「でも望月さん、背が高いですもんね」
「けっこうコンプレックスだったんですけどね。今回はそれでお役に立てるみたいだから」
「面倒なこと頼んで済みません」
「いえ。私こういう仕事、大好き」
と望月さんは楽しそうである。
 
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私が身長167cm, 和泉が165cmであるが、望月さんは私より高い169cmくらいある。今回は望月さんに私のボディダブルを務めてもらう作戦である。(政子も164cmくらいである。小風と美空はふたりとも150cm台だ)
 
「バレーとかに誘われませんでした?」
「中学でも高校でも誘われて、半ば強引に連れて行かれたけど1日でクビになった」
「あぁ」
 
やがて小風が来たが、小風は来るなり、唐突に私を拳で殴った。
 
「なんで〜!?」
「殴ってみたかっただけ」
と言って、小風はニコニコしている。
 
やがて7:00になるが美空はまだ来ない。
 
「美空遅いな」
「あの子、遅刻魔だからなあ」
 
「望月ちゃん、もし美空が7:10までに来なかったら彼女の航空券を持ってここで待っててもらえる。他の子を連れて僕はセキュリティ通る」
 
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「はい」
と望月さんが答える。
 

結局、美空の件を望月さんに託して私たちは手荷物検査を通り、搭乗口へ行った。
 
「まあ、美空が来なかったら、蘭子に美空の代わりに並んで歌ってもらおう」
「ああ。蘭子は声域が広いから美空のパートも歌えるはず」
「3人並んでりゃ、分からないよね」
「無茶な!」
 
そんな冗談?も言っていたのだが、結局美空は搭乗案内がそろそろ始まるという時刻になっても来なかった。携帯は電源を切っているようで、つながらなかったが自宅に掛けたら、お母さんが5:30頃飛び出して行きました。申し訳ありませんと謝っていた。
 
「じゃ次の便には間に合うかな?」
 
ということで、望月さんに1時間後の便に取り直して(正規の航空券なので、出発前であれば無料で後続の便に振り替え可能)美空が来たら一緒に新千歳に飛んでくれるよう伝言して私たちは機内に入った。
 
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「美空はゴールデンウィークにも1度新幹線に乗り遅れたね」
「あの子、学校にもよく遅刻してるみたい」
「どうかした事務所ならクビになってるね」
「僕が甘いのかなあ」
「いえ、自主性に任せてもらえて、私たちは気持ちよく仕事させてもらっています」
と和泉。
 
「まあ美空は罰金100万円だな」
と小風。
 
「給料無くなっちゃうね」
「ステージに穴を空けたらそんなものじゃ済まないから、そのくらい課していいよ」
 

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新千歳に到着すると、望月さんから美空が来たので一緒に9時の便に乗りますというメール、美空自身から遅刻を謝罪するメールが入っていた。リハーサルの開始には間に合わないが、公演には充分間に合うので、私たちは安堵した。
 
「リハーサルでは美空のパートを蘭子が歌って」
「いいよ」
 
会場には先行してトラベリングベルズの5人と、今回のツアーで依頼したヴァイオリン奏者、グロッケン奏者が入っている。
 
美空が遅れているので、私が代わりに前面で歌ってリハをすると告げ、その構成で本番と同じ進行でリハーサルを行った。リハーサルであっても最前面で歌うのは快感!と思った。リハーサルの前半まで済んだところで美空が到着したのでタッチして交替。私は後ろに下がって後半ではキーボードを弾いた。
 
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お昼御飯を兼ねて休憩する。蟹が食べたいという要望はあったが、本番前に生鮮的食事をして万一の場合があってはならないので、札幌ラーメンを出前してもらっての昼食となった。
 
「でも前半で最前面で歌ったの気持ち良かった」
と私はうっかり正直に言ってしまったが
 
「だったら本番でも最前面で歌おう」
と言われてしまう。
 
完璧な藪蛇だった。
 
「ごめーん。その内、きっとそこに行くから」
「1年以内にそれやらなかったら、蘭子の恥ずかしい所を盗撮した写真をバラまくということで」
「何それ〜!?」
「男装写真公開の方が効果あるかも」
「それはやめて」
 
「そうそう、美空、今日の遅刻の罰金100万円だから」
と小風が言うと
 
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「えーー!?」
と美空は叫んでいる。
 
「私、給料手取り14万なのに〜」
「だって万一ステージに穴を空けたら、損害賠償額が1桁高いぞ」
「うむむ」
 
「前から何度か言ってるけど1時間早く起きられるように1時間早く寝ようよ」
と畠山さんから言われて
「済みませんでした」
と素直に謝っていた。
 
結局美空は今回は罰金5万円と言われていた。その金額を自主的に岩手・宮城内陸地震(2008.6.14)の被災地に寄付するようにと言われて、了承した。私と和泉・小風も罰金とは関係無く1万円ずつ寄付することにした。
 
 
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■夏の日の想い出・空を飛びたい(4)

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