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■夏の日の想い出・空を飛びたい(2)

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森之和泉がKARIONのいづみのペンネームであることは公開しているのだが、水沢歌月は非公開ということになっていた。そしてその場に私が
 
「おはようございます。水沢歌月です」
と言って現れたので、町添さんは驚く。
 
「君、ケイちゃんだよね?」
「はい、そうです」
「まさか、二重契約??」
 
「いえ。私は∴∴ミュージックさんとは契約していません」
「それにしても△△社との専属契約があるでしょ?」
 
「それが3つの理由で可能だったんです」
 
と言って、私は今回の音源で私が歌や演奏に関わる部分は、△△社の契約書の有効期間が始まる前に収録したこと、△△社との契約は歌手としての契約なので、伴奏や作曲に関しては拘束されないこと、そして一番大きな問題として、この契約書は保護者の署名捺印が無いので法的には無効であることを説明した。
 
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「実は私もマリも現時点では各々の事情で保護者の承諾が得られない状態なんです」
 
「それは重大問題じゃないの。今回は話が急展開したから、レコード会社と君たちとの契約もまだ済ませてなかったけど、そちらが保護者の同意が得られない状態なら、レコード会社との契約も厳しいよね?」
「済みません」
 

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レコード会社としてはローズ+リリーのプロジェクトに億単位のお金を掛けているから、それが中止ということになれば、町添さんの首が飛びかねないほどの事態である。
 
「でもこの後、ケイちゃんは、どういう形でKARIONと関わっていきたいの?」
と町添さんは訊いた。
 
それで私は、今後もKARIONには、契約的に難しければ、最低作曲だけででも参加していきたいという正直な気持ちを語った。町添さんは頷きながら聞いていた。
 
畠山さんは言う。
「最近の多人数のアイドルグループの中には、メンバーの所属事務所が幾つかに別れているものもありますよね。だから、私は話し合い次第では、彼女が無事親御さんとの話し合いを持てて、正式に△△社と契約した上ででも、こちらとの話し合いで、KARIONの活動との掛け持ちは可能じゃないかと思っているんですよね」
 
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「確かにそういう事例はあるよね」
と言って町添さんも頷く。
 
「町添部長、彼女は元々小学生の頃からいくつかの芸能事務所に関わってましてね。過去にイメージビデオとか写真集に出演したこともあるし、伴奏やコーラスではこれまで複数の事務所の30か40くらいのCDの制作に関わっているんですよ」
 
「そうだったの!?」
 
「これ、彼女が出ている写真集です」
と言って畠山さんは『黒潮』の写真集を町添さんに見せる。
 
「おぉ!!! この女の子がケイちゃんだ!」
と町添さんは写真を見て驚いていた。
 
「社長、その写真集、あとで私にも見せてください」
と和泉も言っている。
 
当時は10万部くらい売れた写真集であるが、今では事実上絶版状態で古本屋さんでも見かけないが(この手の本は古本屋さんも嫌がって買い取ってくれない)、あちこちの家庭に結構死蔵されている本でもある。畠山さんは友人20人くらいに電話で問い合わせて、持っている人を見つけ出して譲ってもらったらしい。
 
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「可愛いビキニ着て。小学生?にしては胸があるね」
「上げ底です」
と言って私は面はゆい気持ちになる。
 
「当時はその本にもクレジットされているようにピコという芸名だったんですよ。この名前を覚えている関係者はさすがに少ないようですが。これを機会に色々な仕事に誘われたみたいで。それでこの歌唱力だから彼女はこれまで関わりのできた色々な事務所から、うちからデビューしない?と声を掛けられていたんです。でもそれを渋っていた。それが△△社さんの担当者が強引に親御さんとの話し合いもせずに勝手に契約書にサインさせたみたいで」
 
「それは問題だなあ」
 
「でもせっかく彼女がメジャーデビューしちゃったんで、私はこれはとても良い機会だと思うんです。こういうことが無かったら、きっとこの子、まだ3年経っても、渋ってましたよ」
と畠山さんは言った。
 
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「それは逆にもったいないね」
と町添さん。
 
「ローズ+リリーの『その時』は既に10万枚以上売れていますし、こちらのKARIONの『秋風のサイクリング』もCDの売上とダウンロードは合計でまだ3万枚ですが各楽曲の単独ダウンロードが凄まじくて、特に森之和泉+水沢歌月の『水色のラブレター』は昨日までに8万件ダウンロードされています。それで今どちらも、次のCDの企画が動き出しているようですが、私は冬子ちゃんがローズ+リリーの制作に関わるのは異存無いですし、実は○○プロの丸花社長から、取り敢えずKARIONの次のCDの作曲に関わるのは構わないからという口頭での了解を頂いているんですよ」
と畠山さんは言った。
 
その件は私も初耳だったので驚いたのだが、町添さんは
「丸花さんか!」
と笑顔で言った上で、
 
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「○○プロって、丸花さんのチャンネルと浦中さんのチャンネルがしばしば勝手に別の動きをしているからなあ」
などと言う。
 
「他にTさんのチャンネルもありますよ。あそこは3つの派閥の寄り合い所帯なんです。でもトップの3人は仲良しだから、競合したりしても適当に解決されてしまう。私としては丸花さんがこちらを認識してくれている限り、KARIONの水沢歌月は進めていいと判断しているんです」
と畠山さん。
 
(実際この時点で○○プロ内でも私たちのプロモーションの件で津田さん系・丸花さん系・浦中さん系の人脈が各々バラバラに動いていた節がある。前田さん(浦中系)・中沢さん(丸花系)・中家さん(津田系)からほぼ同時に両立できないスケジュールの仕事を打診されて困惑したりしていた。津田さんは6月に自主制作音源を聴いて動き出し、丸花さんはそれに先行して雨宮先生の音源を聴いて動き出し、浦中さんは『明るい水』初版が1日で売り切れたと聞いて動き出している)
 
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「ではその調整はそちらに任せるか。しかし正式の契約書を交わしてない問題は何とかしないといけないね」
 
といった線でその日の会談は終わったのであった。
 
それで結局町添さんはなぜ私と政子の契約が進んでいないかの理由を訊く所に到達しなかったので、私の性別問題も話す所まで到達しなかった。
 

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この時期、私と政子の契約が保護者の承認を得ていないことを知っていた人と知らなかった人、私の性別問題を知っていた人と知らなかった人が入り乱れている。浦中部長や前田課長は私の性別問題も保護者承認問題も知らなかったし、丸花社長や津田社長は性別問題は知っていても、保護者の承認問題を知らなかった。やはりローズ+リリーが急速に売れてしまったので、色々な物が置き去りにされていたのである。
 
逆に言えばそういうのを無視して強引に物事を進めてしまう須藤さんという人がいなければ、ローズ+リリーというのは世に出ていなかったユニットなのかも知れない。
 

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ところでKARIONは、7月2日に出したシングル『夏の砂浜』、9月3日発売のアルバム『加利音』、およびその先行シングルとして7月18日に出した『サダメ』
の合計売上げが2億円程度行ったら、11月に全国ツアーをしようと言われていた。
 
実際には9月末の段階で、『夏の砂浜』は4.9万枚で4900万円、『サダメ』は4.2万枚で4200万円、『加利音』は2.6万枚で7280万円。その合計は1.6億円に留まったものの、充分健闘したということで、11月に1ヶ月掛けて、メンバーの学校に響かないよう土日で全国12箇所のツアーが決まった。会場は見込みで早くから押さえていたようで、10月頭に発表され、10月4日に発売。主要都市の分は数日で売り切れ、最後まで残っていた鹿児島公演も21日にはソールドアウトした。
 
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「冬は当然参加するよね?」
「ごめんなさいです。11月の土日はローズ+リリーも全国ツアー」
「じゃ両方掛け持ちで」
「無理だよぉ」
「女なら頑張ろう」
「私、男だもん」
「それは絶対嘘だ」
 
などという会話を10月中旬の平日、∴∴ミュージックに寄った時、和泉・小風とした。
 
(美空は食べ過ぎでお腹を壊して休んでいるという話だった。私は美空にも食べ過ぎというものがあるのか?と思わぬ発見をした思いだった)
 
「蘭子のクローンでも作っちゃおうか」
「クローン作る場合は性別は天然女性で」
「クローンして性別変えられるもの?」
「Y染色体を破壊すれば」
「蘭子自身、実は既にY染色体が消滅してたりして」
「そうかも」
 
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などとふたりは勝手なことを言っている。
 
「Y染色体を破壊したらXOになっちゃうよ」
と私が念のため言ってみると
 
「ああ、足りなければ私の卵子の染色体を1個上げようか?」
と小風。
 
「それなら、蘭子と小風で普通に受精卵作った方が手っ取り早い」
と和泉。
 
「蘭子は既に睾丸が無いみたいだから無理」
と小風。
 
「そうだっけ?」
「まだあるよ。でも機能停止してて精子が無いことは認める」
「そりゃ女性ホルモン飲んでたら機能停止するでしょ」
「飲んでないけどなあ」
「話が面倒になるから、そういうことで嘘つかないで」
 
「でもクローンにしても受精卵にしても、赤ちゃんから育てるから、使えるようになるのに10年以上掛かる」
 
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「面倒くさいなあ。人間をまるごとコピーできたらいいのに」
「そんなことできたら、大変」
「五輪選手を大量コピーして軍隊作る国が出そう」
「それ既にクローンで計画してる国あったりして」
 

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料亭で水沢歌月として町添さんと会った翌々日、今度はローズ+リリーのケイとして都内のしゃぶしゃぶ屋さんでまた町添さんと会うことになる。政子と一緒に、上島先生・下川先生・雨宮先生と会ったものである。
 
この席で政子は
「ケイって、こうしていると、まるで17歳の可愛い女子高生みたいなのに、本当は男ですからね」
と言っちゃったのだが、この時、その場に居た人は何かの冗談だと思ったような雰囲気もあった。
 
しかし町添さんは後にこの件を私たちのカムアウトと再解釈してくれた。
 
またこの日、最初は上島先生と下川先生だけが出席していて、雨宮先生は遅くなってきてからやってきた。それで結果的には時間が延長になってしまったのであるが、その時、私が帰宅が遅くなると家に電話した時、町添さんが途中で代わってくれて
 
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「終わったら、確実にお嬢さんも、政子さんの方も、責任もって御自宅まで送り届けますから」
などと言ってくれたので、母も父も安心したようであったし、町添さんにも信頼感を持ったようであった。
 
もっとも私は町添さんに私のことを「お嬢さん」と呼ばれて、うっと思ったのであったが。
 
私は初めて会う上島先生をクリエイターとして観察させてもらった。短い髪をきれいに櫛で整えて、身体はスポーツでもしそうな引き締まった体格(実際、スカッシュをするらしい)。品の良い英国製高級スーツを着こなしているのが、亡くなった高岡さんと雰囲気少し似ているなと思った。きりりとしまった口で淡々と語る口調の中に熱意が籠もっている。たぶんたくさんの挫折を知っている人。船が沈みそうになったら、どうやって沈まないようにするかを最後まで考えるタイプ。
 
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一方私がここ5年関わってきた蔵田さんは、長い髪にほとんど櫛を入れず手で適当に整えるだけ。太ってはいないがあまりスポーツはしない雰囲気。服装もいつもジーンズ。それもユニクロやセシールなど安物しか着ない。いつも笑顔で話はマシンガンのように淀みなく話し、どこに真意があるのか分からない話も多い。負ける戦いは絶対にしない人。船が沈みそうになったら、真っ先に逃げ出して確実に生き残るタイプ。
 
このふたりは本当に対照的だぞと私は思った。上島先生は都会型、蔵田さんは野生型。アイシールド21的性格分類で言えば、上島先生は攻撃型でランニングバック、蔵田さんは守備型でラインバッカーだ。
 
上島先生からデビュー曲を頂いたことについては蔵田さんから無茶苦茶叱られた。罰と言われて男装写真を撮られたが、後で樹梨菜さんに見つかって消去されたらしい。かくして私が男の子の格好をした写真は残らない。それで結局、先日(10月26日)丸一日、蔵田さんの創作に付き合ったら、許してもらえた。蔵田さんは、
 
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「洋子が俺の創作に付き合う件は、裏で話が付いてるらしいから」
と言っていた。
 
それでどうも私も、そして恐らく須藤さんも知らない所で、何らかの話し合いが進んでいるっぽいことを私は感じていた。
 

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