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■夏の日の想い出・走り回る女子中生(3)

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エツコさんの部屋はピアノを弾くために防音工事がしてあるので遠慮無くヴァイオリンの練習もすることができた。また彼女はよく私の演奏にピアノ伴奏を入れてくれた。
 
「確かに冬ちゃん、ポップス弾きだというのが分かるよ。冬ちゃんって絶対に譜面通りには弾かない。解釈が入っている」
「たぶん、私はトゥッティ奏者(オーケストラで同じ音を一斉に弾く人)にはなれないです」
「ああ、そんな気がする。1回限りの演奏会ではちゃんとみんなに合わせられても、それいつもやってたら我慢できなくなるでしょ?」
「ええ。多分そうです」
 
そんな練習をしていた11月末頃。彼女の携帯に着信がある。彼女は携帯をハンズフリーのセットに置いていたので、掛かってきた相手を確認して、スピーカーのまま取った。
 
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「はい、どうしました? リーダー」
 
それは楽団のリーダーからの電話だった。
 
「実は僕、盲腸で入院しちゃってね」
「あら」
「緊急手術されて病室に戻ってきたところ」
「大丈夫でした?」
「うん、平気。平気。でも一週間入院して、そのあと一週間静養みたいなんだよ」
「演奏会に間に合わない?」
「そうなんだ。それで今度の演奏会では S君に指揮を頼むことにした」
「まあ、いいんじゃないですか?」
 
S君というのは、例のT君が辞めた後、後任のコンサートマスターとしてリーダーが連れてきた人である。
 
「それで彼がヴァイオリンを弾けないので、代わりに誰かにコンマスをやってもらおうと思って」
「ヴァイオリンセクションは、あまり弾き慣れた人がいないですね」
 
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「そうなんだよ。レギュラーの出席率が悪い。それでさ。野乃さん、ヴァイオリンも上手かったよね?」
「ちょっと待ってください。私がヴァイオリンに回るとホルンがいなくなります」
 
「うん、この際ホルンは諦めるかと。ホルンを外すのとヴァイオリンを外すのでは、さすがにヴァイオリンは外せない」
「うーん・・・・」
「突然で申し訳ないけど、頼めないかな?」
 
その時、エツコは私に気づいたような顔をした。私はギクっとした。
 
「リーダー〜、今ここに夏の公演に出てくれた唐本さんが来てるんですけど、彼女にコンマスをやらせるのはどうでしょう」
 
「おお、唐本さんなら問題無い。なんといっても機転がきくからコンマスとしては最適」
 
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「ということで、冬ちゃん、お願い」
「ちょっと待って。それ何日?」
 
「12月11日。空いてる?」
 
私は慌てて手帳を開いて確認する。
「・・・・昼間なら空いてる。17時からは別の仕事がある」
「演奏会は13時から2時間だよ。その17時の仕事ってどこ?」
 
「新宿のライブハウス、****」
「こちらは吉祥寺の***ホールだよ。2時間あれば充分移動可能」
「うむむ!!」
 
「あ。これ演奏曲目のリスト。冬ちゃんなら1日で覚えられるよね」
「ちょっと待って〜!」
 

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ところで夏には吹奏楽部の助っ人にも頼まれたのだが、こちらも12月に演奏会があった。そして「また頼む」と言われてしまった。
 
「演奏会の時はセーラー服を着ていいからね、というか着て来てよね。冬ちゃん、セーラー服を着てないと、上手くないんだもん」
と貴理子から言われる。
 
「というか、普段の練習にもセーラー服着て来て欲しい。全然演奏技術違うよね」
とヤヨイからも言われる。
 
「そもそも学校にセーラー服で通学してくれば良いのではないかと」
と2年生の知花さんにまで言われる。
 
「ついでに性転換しちゃうといいですよね」
「いや、実は性転換済みのような気がしてならなくて」
「そうなんですよねー。夏に一緒にプールに行ってた時も、女の子の水着姿にしか見えなかったし」
 
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「性転換なんてしてないよー」
「嘘ついたら、ほら吹きと認定して、ホラ貝プレゼントするぞ」
 
「冬ちゃん、学校の水泳の授業では女子水着を着てるんだっけ?」
「それが全部見学らしいですよ」
「それはいけない。女子用スクール水着持ってるんでしょ?」
 
「持ってませんよー」
「それはちゃんと買っておいて、それを着て授業を受けるべきだな」
「同感、同感」
 
「あ、それで演奏曲目はこれね」
と言って、曲目リストだけ渡される。近隣の10個の中学の合同演奏会で1校の持ち時間は30分。その時間で6曲演奏する。今回はザ・スクエアの曲である。
 
「あの・・・譜面は?」
「和泉さんのキーボードが木管系の音を出している所をフルートとオクターブ違いで吹く」
「CDとかで確認しといて」
 
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「スクエアの曲はあまり知らないです」
 
「また嘘ついてる。冬ちゃんって、どんな曲聴かせても、誰々の何って曲ですねと、即言えるくせに。スクエアほどの有名どころの曲を知らない訳が無い」
 
「私、母が聴いてたから純粋なジャズには結構強いけどフュージョンは弱いんですよー」
「やはり、冬ちゃんにはホラ貝のプレゼントを」
 
「まあいいや、私の家にスクエアは全アルバムあるから、明日持って来るよ」
と貴理子。
 

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「助かる。ところで演奏会、何日だったっけ?」
「12月18日」
「あ、ごめん。その日は私、お仕事入ってる」
「何の仕事?」
「えっと・・・ドリームボーイズのライブのバックダンサー」
 
「なんつう美味しいお仕事を!」
「まさか、武芸館?」
「うん」
「ねね、ドリームボーイズのそのライブ、チケットどうにかならないよね?」
「バックダンサーごときに、あんなプラチナチケットの融通は無理」
「そっかー、残念」
 
「質問です!」
とヤヨイ。
「バックダンサーって、女の子なのかなあ、男の子なのかなあ」
「え? 女の子だけど。男の子のバックダンサー使うと、蔵田さんが危ないから」
「ああ、あの人ホモって本当みたいね」
「可愛い男の子見たら、即部屋に連れ込もうとするから、サポートミュージシャンも、ダンスチームも絶対女の子なんだよ」
 
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「つ・ま・り、冬ちゃんは女の子としてバックダンサーに参加すると」
「うん」
 
貴理子とヤヨイと知花が顔を見合わせていた。
 

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「蔵田さんは冬ちゃんの性別知ってるの?」
「うん、知ってるよ。でもボクは女の子扱い」
 
「それってさぁ、つまり冬ちゃんが機能的に女の子だから、蔵田さんは食指が動かないとか」
 
「外見が女の子でも中身が男の子なら、Hなことできるもんね」
「でもそれをしない」
 
「つまり冬ちゃんには男性機能は存在しないんだ?」
「男性機能が存在しないって、つまりアレが存在しないってこと?」
「きっとそうだ」
 
「え?そんなことないと思うけどなあ」
「なぜ、そんなに自信の無い言い方をする!?」
 
「やはり、ほら吹きにはホラ貝プレゼント」
「それで来年の演奏会にはホラ貝で演奏参加とか?」
「そんなの吹けない」
 
「まあいいや。そちらは何時から何時まで?」
「朝から入ってリハーサルして、本番は12時開場、13時開演。15時くらいに終わる」
 
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「じゃ大丈夫だ」
「うちの学校の出番は18時から。場所は**市民会館だから」
「本当はリハーサルにも出て欲しい所だけど、冬ちゃん本番に強いから大丈夫でしょう」
「うーん・・・・」
 

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さて、アスカであるが、この時期は割とまじめに高校の授業には参加しており夏休みや冬休みなどを利用して短期間、ヨーロッパに行って向こうの先生に指導を受けていた。
 
「12月にさ。高校の友人3人で演奏会開こうかと思ってね」
「わ、凄いですね。日本で?」
「うん。会場は押さえた。それでさ、冬、ピアノ伴奏やってくれない?」
 
「へ? ボクが弾かなくても、同級生にピアノうまい人たくさんいるでしょ?」
「同級生はいろいろしがらみが多くてさ。演奏者が3人なので、その内の2人の伴奏をして欲しい。もう1人はうちの母さんに弾いてもらう」
 
「まあ、いいですけど」
 
弾く演目はこれだから、と言って曲目リストを渡される。
 
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「譜面ください」
「え? この程度暗譜してない?」
「だから私、クラシック弱いんですよー」
「あ、そうだった」
 
「やはり、こういう曲目を暗譜してるピアニストに」
「冬、この際だから覚えた方が良い。うちの母さんに譜面は用意させて、そちらに届けさせるから」
「あはは」
 
「ちなみに間違っても男の格好してくるなよ。男の冬は要らん。私が欲しいのは女の子の冬だ。万一男装してきたらその場で性転換手術するから」
「う・・・されたいかも」
「でも冬を性転換すると男になるのか女になるのか良く分からんな」
「えーっと」
 
「そうだ。ピアノ弾いてくれる役得で、冬も1曲ヴァイオリン弾いていいよ。それもうちの母さんに伴奏させるから」
 
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「無茶です。アスカさんたちの演奏の後で私の演奏なんか聞かせたら、物が飛んできますよ」
「そんなことないと思うけどなあ。冬は結構上手い。少なくとも私が教えてあげようと思う程度には上手い」
「そうかなあ・・・」
 
「ミリオンセラー歌手・松原珠妃の正ヴァイオリニストだったんだから、もっと自信持っていいよ」
「うん・・・・・」
「まあ次の曲が売れてないようだが」
「その件で、お姉さんもちょっと心配してた。こないだ偶然町で会って少し言葉交わしたんだけど」
「流行歌手は売れる時もあれば売れない時もある。それはポップスの宿命だ」
「ですけどねー」
 
「昔から特にRC大賞取った歌手は翌年落ち込むことが多い。あの保坂早穂だって『ブルーラグーン』でRC大賞取った後、翌年は鳴かず飛ばず。**なんて、このくらい実力実績のある人ならRC大賞取っても落ち込んだりしないだろうと言われていたのに、RC大賞のあと全くヒットが出ずにそのまま引退してしまった」
 
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「そのジンクスも気にしているみたい」
「まあでも運があればまた浮上する。保坂もRC大賞の翌々年はまたミリオンヒットを飛ばした」
「だよねー」
 
「そうだ。冬にはラテンの名曲『ティコティコ』(Tico-Tico no fuba)を弾いてもらおう」
「う・・・」
 
「メンコンでもよいが?」
「『ティコティコ』を弾かせてください。今月はスクールの方でモーツァルトのコンツェルト5つまとめて練習してるから、メンデルスゾーンまで手が回りません」
「よし」
 
「ところで日程はいつでしたっけ?」
「ああ。ごめん。12月23日」
「何時ですか?」
「午前10時。実はその時間帯が安かったから」
「ああ。会場代高いもん。でも、それなら行けるな。23日は夕方はお仕事の予定が入ってたから」
 
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「ちょっと待て。そのスケジュール表、見せろ」
「うん」
 
「何だこれ? この真っ黒な予定の入りようは?」
「えっと。お仕事とか、レッスンとか、お稽古とか、演奏会とか、ライブとか・・・」
 
「冬、頼まれたら断れない性格だろう?」
「それで、アスカさんたちのライブのピアノを弾くことになりましたし」
「うむ」
 

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この年は更にもう1件頼まれることになる。
 
「冬〜、暇でしょ?」
と言ってきたのは倫代である。
 
「忙しい」
と私は答える。
 
「それでね。今年の合唱部のクリスマス会で『怪獣のバラード』と『In Terra Pax』
をやるんだけどね」
 
「ふーん。『怪獣のバラード』は分かるけど、インテラ?それは知らないや」
「結構合唱ではやるんだけどね。歌ったことない?」
「聞いたことない」
 
「でさ。これの伴奏を冬、やってくれないかなあ」
「今、合唱部のピアノって誰が弾いてるんだっけ?」
「2年生の**さんなんだけど、なんと来月唐突にお父さんが大阪に転勤になってしまった」
 
「官公庁?」
「そう。官公庁ってこういう変な時期に異動やるんだよ」
「ああ」
 
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「それでさ、誰もその曲のピアノが弾けなくて」
「難しい曲なの?」
「どちらも難しい」
「『怪獣のバラード』も?」
「うん。聞いてみたら分かるけど、すっごく難しい。インテラパックスは超絶難しい。**さんがピアノ上手いんで、それ前提に選曲したんだよ」
 
「倫代は弾けないの?」
「私には無理」
「倫代に弾けない曲がボクに弾ける訳ない」
「そんなこと言わないで、ちょっと来てよ〜」
 
と言って引っ張って行かれた。
 

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倫代が私を連れて音楽室に入っていく。
 
「先輩〜。ピアニスト調達してきましたよ」
「あれ?男子なの?}
「あ、何だったら性転換させますから問題無いです」
「へー!」
 
それで渡された譜面を見て顔をしかめる。
 
「何?この譜面。左右とも同時に鍵盤を駆け上がっていくとか、唐突にト音記号になったりヘ音記号になったり、変化記号も凄まじい」
 
「それで9割の子は譜面を見ただけで諦める」
「ボクもギブアップ」
「そんなこと言わないで、弾いてみてよ」
 
と言われるので、『怪獣のバラード』『In Terra Pax 地に平和を』と弾いてみたが、ボロボロである。全然まともに弾けなかった。
 
「ああ、やはり無理か」
と2年生の人が言う。
 
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「あ、先輩ちょっと待ってください。今のは準備運動です。冬、その学生服脱いで」
「なんで〜!?」
「いいから脱ぐ」
 
と言って、倫代は私の学生服のボタンを外し始める。
 
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■夏の日の想い出・走り回る女子中生(3)

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