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■夏の日の想い出・走り回る女子中生(2)

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「そうか。でもなんて歌手?」
「ζζプロの松原珠妃です」
「えーーー!?」
 
「私の元先生です。でも彼女がデビューする時、これからは先生でも生徒でもない。ライバルだと言い合いました」
 
「保坂早穂に松原珠妃が目標なら、ほんとに君もハイレベル志向だね。分かった。でも君今、高校1年生くらいだっけ? あまり年齢が高くなると売り方が変わってくるよ」
 
「あ、いえ。今中学1年生です」
 
「えーーーーーーーーー!?」
と前田さんは思わず大きな声を出した。
 
「道理で胸が無いと思った」
「済みませーん」
 
「中学1年生か! それであの歌唱力、末恐ろしいね」
と前田さんは笑顔で言う。
 
「だったら君そもそも条件満たしてない。今日のオーディションの応募資格は16歳以上だよ」
「すみませーん」
 
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「でも中学生なら高校生になるくらいまで待ってもいいかな。社長から優待生にすると言われたのね?」
「はい」
 
「授業料無料の特待生でもいいと思うけどなあ。とりあえず僕の権限で特別優待生にするよ。ふつうの優待生は授業料半免だけど、特別優待生は9割免除だから」
「わあ、ありがとうございます」
 
「さっきダンスしてた所見たけど、凄く身体の動きがいいね。もしかしてバレエかモダンダンスか何かしてた?」
「はい。バレエはけっこうやってました」
「やはり。じゃ、うちの歌手とかバンドのバックダンサーとか、時々頼むかも知れないけどいいかな」
 
「あ、はい。他とぶつからない範囲で」
「・・・・・君、どこかの事務所とまさか契約済み?」
 
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「いえ。契約はしてませんが、$$アーツさんのドリームボーイズのバックで時々踊っています。他にζζプロの歌手の伴奏でピアノとかヴァイオリンを弾いたりしています。また、津田アキさんという人の民謡教室に通っていて紹介されて演奏会の三味線やお囃子をやってます」
 
「なーんだ。君、津田姉さんとこの子? それでここまで鍛えられているのか。民謡歌手か何かで契約してるの?」
「いえ。していませんし、民謡はあくまで自分の喉を鍛えるためで私はポップス歌手志向です」
 
「なるほど。了解。でもどことも契約してないなら、こちらもできるかな?」
「はい、ぜひやらせてください」
 
「OK、3年後くらいの君のデビューを楽しみにしてるよ」
「ありがとうございます」
 
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ということで、このオーディションは私は辞退という扱いになり、私に声を掛けてくれた三池ムタ子さんが繰り上がりでオーディション合格となった。
 
彼女は実は20歳だったが若く見えるので公称18歳ということでデビューさせることになる。そして「篠田その歌」の名前でその後2013年まで9年間、アイドルとして活躍した。
 
そして私はあらためて○○ミュージックスクールに生徒登録され、前田係長のおかげで、特別優待生になって、授業料は本来の額の1割で済ませてもらえることになった。そして、在籍中はしばしば前田さんから連絡を受けて、様々な歌手やバンドのバックで踊ったり、コーラス隊に入ったりした(要するに私の実践教育だったようである)。保坂早穂のライブでバックで踊ったこともあるが、さすがに保坂さんは私のことは覚えていなかったようだ。
 
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篠田その歌のバックにも結構入ったりしたが、彼女はオーディション合格を告げられてから、私が中学1年生だったと聞き、驚愕したらしい。彼女には自分の性別も早い時期にカムアウトしたが、それも驚愕していた。
 
「道理で胸が無い訳だ。でも冬子ちゃんは女の子にしか見えないから、女の子ということにしておけばいいんだよ」
と彼女は言っていた。
 
なお、前田さんは例の大騒動が起きるまで、私が女の子でないとは夢にも思わなかったらしい。
 

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なお、○○ミュージックスクールには器楽コースもあるので、私はその中のピアノとヴァイオリンのコースにも申し込んだ。そちらは実費になるかと思ったら、それも授業料9割免除でいいですよと言われた。
 
この時期、ヴァイオリンはアスカに色々指導してもらっていたのだが、やはりアスカは物凄く上手い人、私はまともなヴァイオリン教育を受けたことがない人なので、アスカに教えてもらえるレベルまで自分を引き上げるためにここのスクールのレッスンは利用させてもらった。
 
なお、ここのヴァイオリンコースには、私は兼岩さんから頂いたE.H.Rothのヴァイオリン《Flora》を持って通っていた。さすがにこのレベルのスクールにアスカから借りっぱなしであった1000万円級のヴァイオリン《Rosmarin》を持って行っては腰を抜かされる。
 
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さて、このスクールのヴァイオリンコースには「クラシックコース」と「ポップスコース」があるのだが、私が参加したのは「クラシックコース」の方である。私はここまで独学に近い形でヴァイオリンを練習してきていてポップスを弾くことには結構な自信を持っていた。しかしクラシックの演奏に関しては本当の初心者同然だったのである。
 
それでも私が100万円近くするヴァイオリンを持っていて、左手をちゃんとポジションチェンジしながら弾けるし、複数の弦を使った重音も三重音まで弾ける(四重音はとても難しい)のを見て、先生は「だったら君はこの課題曲をひたすら練習しなさい」と言って、クラシックのヴァイオリン曲のリストを最初に渡された。
 
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そして「取りあえず来週までにこの曲を練習しておいて」と最初に譜面を渡されたのは『ガボット』(ゴセック)である。初心者向き!という感じの曲だ。
 

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私がスクール内の練習室でヴァイオリンを練習していると、よく篠田その歌がトントンとノックして入ってきていた。
 
「そうしてると、《美少女ヴァイオリニスト》って感じだなあ。でも本当に男の子なの?」
「ええ」
 
「いつもセーラー服だよね。学校にもそれで通ってるの?」
「ううん。学校には学生服で行ってる」
「冬が学生服着てたら、男装女子中生にしか見えない気がするなあ。だいたいそれって女の子の髪型だよね。学校で注意されない?」
「うん。うちの学校、髪型は自由だし。一応見苦しくない程度の髪型って言われてる」
 
「冬が髪を短くしちゃったら、そちらの方が見苦しくなって校則違反かも知れないな」
「ああ、それ時々友達に言われる」
「やはり」
 
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彼女はよく自分のデビュー予定の曲も含めて、いろんなポップス系・ロック系の曲をリクエストしていたので、それに応じて私はヴァイオリンを弾いていた。彼女はそれに合わせて歌った。
 
「上手いなあ。それなのにヴァイオリン初心者コースなんでしょ?」
「クラシック系の曲、ほとんど知らないから」
 
「でもこういうポップス系の演奏すごくうまい。伴奏も弾き慣れてる感じ。さっき私が間違った所、とっさに私に合わせてくれたね」
 
「ある所で鍛えられたし、歌手の伴奏を去年やってたから」
「あれ? そうなの? 誰の?」
「私、去年の夏は松原珠妃のバックバンドでヴァイオリン弾いてたんだよ。2学期になってからは学校があるから辞めさせてもらったけど」
 
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「えーー!? 無事だった? だって松原珠妃のヴァイオリニストやると発狂したり死ぬという噂が」
 
「典型的な都市伝説だね。確かに松原珠妃のヴァイオリニストってコロコロ変わってるけど、発狂した人も死んだ人もいないよ」
「そうだったのか!」
 
昨年の9月に採用された女性ヴァイオリニストも年末で辞めて1月に採用された人も今年の連休が終わった所で辞めて、5月に加入した5人目のヴァイオリニストも夏一杯で辞めて、9月からは6人目の人が就任している。(松原珠妃のヴァイオリニストは初代が三谷さん、2代目が私)
 

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私が一週間で『ガボット』を弾きこなしてきたので次週渡されたのはバッハの『ブーレ』。それもできたので次週はヴィヴァルディのヴァイオリン協奏曲イ短調 RV356。これに2週間掛かって、次は同じくヴィヴァルディのヴァイオリン協奏曲のト短調 RV317(この曲はかなり苦労した!)。11月に入ってコレルリの『ラ・フォリア』、バッハのヴァイオリン協奏曲イ短調 BWV1041と進み、12月になるとモーツァルトのヴァイオリン協奏曲を5つまとめて渡されて、1番から順に弾きこなしてと言われた。
 
要するにこれは、スズキ・メソードの各ステップ卒業課題曲なのである!
 
基礎的な技術だけはあるもののクラシック系の演奏に慣れてない私に特急でクラシック系の技術を身につけさせるにはこういうやり方が一番ということでの課題だったようである。
 
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私はこれらの有名曲を弾きこなすのに、アスカの所に行った時にアスカ自身や一緒に習いに来ていた、真知子ちゃんという小学1年生(小1だけど無茶苦茶うまかった)にちょっと弾いてもらって、それをお手本にして弾いていた。
 

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この時期、もうひとり私のお手本になってくれたのが、6月に地域のオーケストラに参加した時に知り合ったエツコさんという高校生であった。
 
彼女はオーケストラではホルンと鉄琴を弾いていたのだが、元々器用な人で様々な楽器を弾きこなす。ピアノも上手いし、ヴァイオリン・フルート・トランペットと吹きこなしていた。ただオーケストラではホルンが手薄だったのでそれを吹いていたらしい。
 
「そういえばエツコって、漢字はどう書くんですか?」
「それが『干鶴子』と書くんだよね」
「難しい読み方ですね」
 
「うん。だいたい『干(ほす)』の字を『千(せん)』と間違われて『ちづこ』
と読まれてしまう。最初から正しく読んでもらえたことは一度も無いし、しばしば『千鶴子』で登録されてしまう。そもそも『干』という字に『え』という読み方は存在しないみたい。たぶんお父ちゃんの勘違い」
 
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「なるほどー」
「だから、逆に図書館の登録とか、こういう課外活動みたいなのでは誤読されないように、カタカナのエツコで登録しちゃってるんだよ」
「へー」
 
彼女は既にスズキメソードを最上級クラスまで卒業している。それで私が練習していた卒業課題曲を全部弾いてくれた。
 
その場で真似して弾いてみる。すると言われた。
 
「冬ちゃん、夏に見ていた時はてっきりヴァイオリン初心者かと思ったけど、全然初心者じゃない。だいたい、ちゃんと左手のポジション、移動しながら弾けてるじゃん。あの時はファーストポジション固定で弾いてたのに。あれでみんな騙されてる」
 
「私いろいろ忙しいし、あまり楽団にまで関わりたくなかったから初心者の振りしてたんですけどねー」
 
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「なるほど、そういうことか。だいたい1000万円以上しそうなヴァイオリンを持っている段階で、初心者じゃないことに気付くべきだったな」
「あはは。でもあれは本当に借物なんですよー。演奏会だから持って行ったけど」
 
「で、これが普段用のヴァイオリンか。下倉バイオリン社だね。これも多分100万円以上するのでは?」
 
「あ、そのあたりよく分かってなくて。人からもらったものなので。でも100万円はしないと思いますよ。以前に使っていたのが70万円のピグマリウスで、それと似たような値段だと言われましたから」
 
「ふーん。でも借り物とかもらったとか、凄いな」
「今家に3つヴァイオリンありますが、3つとももらいものと借り物です」
「冬ちゃんに才能があるから、みんなくれたり貸したりするんだろうな」
 
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「しかしこの部屋すごいですね」
 
夏にクラリネットの練習に付き合ってもらった時はカラオケ屋さんで会って練習したのだが、この時期は親しくなったこともあり、彼女の家によく行っていた。
 
「まあ、友達みんなから感心されるね」
 
この部屋は4畳半なのだが、その部屋にグランドピアノ、ベッド、彼女の勉強机、そして本棚・衣装ケースがきれいに収まっているのである。勉強机は部屋の入口を入ってすぐの所にあるものの、ベッドに到達するには、ピアノの下をくぐり抜けていく必要がある。なお、ホルン、トランペット、フルート、グロッケン、ヴァイオリン、ポータブルキーボードなどの楽器は衣装ケースや本棚の上に収納されている。
 
「グランドピアノ買う時に、お父ちゃんがこのサイズなら絶対入るはずといってパズルを解くみたいにして配置を決めたんだよ。運び込んできた運送屋さんもびっくりしてた」
 
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「エツコさんのお父さんって面白い人みたい」
「家族みんな結構振り回されてるけどね」
「お仕事何でしたっけ?」
「うーん・・・本人に聞いても分からんと言ってる」
「へ?」
 

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