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■夏の日の想い出・小2編(2)

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6年生の静花はそう言うと、私を自分の家に連れて行き、ピアノを弾きながら、ドレミファソファミレドで、半音ずつ音程を上げ下げしながら発声練習をしたり、また声の出し方自体の指導、口の形をしっかり作って発音そのものの指導など、本当に基礎的な歌唱指導をしてくれた。
 
静花は実は小学3年生まで合唱団に入っていたらしいが、その後、芸能スクールに通い出したので合唱団は辞めたらしい。
 
「音階練習はうちに来ない日でも家か学校で毎日やった方がいいよ」
 
と言われたので、私は毎日姉のエレクトーンを借りて、学校から帰ってから30分くらいひたすら音階を歌う練習をしていた。
 
静花は他にも、和音に関する基本的な理論も教えてくれた。それは一部は深山先生とやっているピアノレッスンの方でも習ったことと少しダブるのだが、ピアノでの理論と、歌唱での理論は、また微妙に角度が違うので、結果的には相互補完し合うような感じになった。
 
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ポップスの魅力を教えてくれたのも彼女だった。
 
私は元々民謡の基礎を持っていて、それに母がハマっていた洋楽の影響を強く受けた。だから小学1年生の時の私の音楽の世界というのは、音楽の時間に習う曲以外は、様々な民謡と、ビートルズ・クイーン・アバ・カーペンターズ・ビージーズ・ベンチャーズなどといった世界だった。つまり日本のポップスが抜け落ちていたのである!
 
それを教えてくれたのが静花だった。彼女は当時大人気であったモーニング娘。にはじまって、椎名林檎・ミスチル・SPEED、それにELT・ブリグリ、などの曲を実際にCDで聴かせてくれたし、ピアノ伴奏スコアを見せてくれて、交替で伴奏をしながら一緒に歌った。私は深山先生との練習では、たまにポップスもやるものの、だいたいは「ピアノ練習曲」という感じのものが多かったので、静花との練習で、ポップス系の弾き方も鍛えられることになった。
 
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静花の家のポップス系のCDライブラリも凄くて、私は毎回行く度に本当にいろいろなアーティストのCDを聴いていた。
 
「譜面と歌手の人の歌っているピッチが違いますよね」
「まあそれを通常『音を外している』と言う」
「ああ。わざと違う音で歌ってるんじゃないんですね。プロの歌手でも外すもんなんですか?」
 
「つまり音痴だってことだよ」
「音痴でもプロの歌手になれるんですか?」
「それは音痴をプロの歌手にしているプロダクションやレコード会社の側に問題がある気がするね」
「はぁ」
 

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テレビを録画した映像もたくさん見せてもらった。
 
「なんか口と声が合ってない気がするんですけど」
「これは『マウスシンク』とか『口パク(くちぱく)』と言って、歌手は歌っている振りして口を開け閉めしているだけで、実際にはCDを流しているんだよ」
「なんでそんな面倒な事するんですか?」
 
「この歌手の動きを見てごらんよ。これだけ激しく踊って歌える訳がない」
「ああ」
「あと、この歌手すごく下手くそだからね。CDはたまたま上手く歌えた時のを録音してるから」
「なるほど」
「テレビ放送とかじゃなくてライブでも口パクのアイドルとかいるよ」
 
「その人、何のために歌手してるんでしょう?」
「私もよく分からないなあ。でも、大勢の前で演奏するのが好きなんじゃない?」
「ああ、好きなら構わないですね。でも練習してもっと上手くなればいいのに」
「上手くなった頃にはアイドルとして売れる年齢ではなくなってるかもね」
 
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「うーん・・・、でもこの年齢でも上手い人はいますよね?」
「売り出す側で扱いやすいタイプがたまたま歌が上手いか下手かという問題だね」
 
「どういうタイプが扱いやすいんですか?」
 
「まず可愛いこと。歌が上手くてもあまり可愛くない子は売ってもらえない。それから性格的に芯が強いこと。歌手やるのは凄いストレスだから、精神的に弱い子には無理。それから目立ちたがり屋。控えめな子にはステージの前面に立って歌うのはできない。あと、体力無いと無理、歌手のスケジュールって凄いからね」
「結構そういう条件を兼ね備えている子は少ない気がする」
 
「だから歌が下手でも、他の条件が良ければ売り出すんだよ。あとね」
「はい」
「運がいいこと。多分これが最大の条件」
 
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「へー」
 
「冬ちゃんさ」
「はい?」
「多分、歌手になれる条件を満たしてる」
「あ、結構やりたいって思ってました」
 
「・・・・今の返事の仕方がまさにそれ」
「え?」
「歌手向きじゃない子は、今みたいなこと言われたら『私には無理ですぅ』
とか言うんだよ」
「あ、そうなんだ!」
 

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またこの時期に静花に教えられたことで、とても大事なことが「喉を痛めない発声法」であった。
 
静花とは、しばしば一緒にテレビの音楽番組の録画を見ながら一緒に歌ったりもしていたが、あわせてその歌手の発声についても論評していた。
 
「この人は喉を酷使した歌い方している。こんな歌い方していたら2〜3年もすると喉のポリープやっちゃうよ」
などと静花が言った歌手は本当に喉を痛めて入院していた。
 
「この人の場合、病気か何かのせいかも知れないけど、喉を右半分だけ使ってるね。それで凄く個性的な声になってるんだけど、さすがにこの歌い方していたら潰れる」
 
そんなことを静花が言っていた歌手も売れ始めて3年ほどたった時にやはりポリープをやって入院。退院後はなんだかふつうの声になってしまい人気は急落した。
 
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「歌は喉で歌うんじゃない。身体で歌うんだよ」
「それ、うちのお婆ちゃんとかからも、よく言われました」
「ああ、民謡の人はそのあたり、しっかり鍛えられている人が多いね」
 
静花は良い歌い方もたくさん見せてくれた。
 
「この人の歌い方は結構良い。ただ小手先のテクに頼ってる部分があるから負荷が掛かりすぎると辛くなる。あまり売れなければ、長く歌手を続けられるかもね」
「売れなかったら契約切られたりして」
「まあ、その危険はある。あと、この人は実声と裏声が違いすぎる。高い音に行く時、ミの付近で突然声質が変わるでしょ? 訓練が足りない」
 
「訓練するとどうにかなるんですか?」
「実声と裏声がきれいにつながって一体化するんだよ。そのつなぐ部分の声をミックスボイスとかミドルボイスと言うんだけどね。表声と裏声の中間ということで」
「へー」
「冬ちゃんはまだ裏声はそんなに使わなくていい。小学校の高学年になってから、そのあたりは鍛えなよ。裏声を小さい内から使っていると、喉を痛めやすい。今はむしろ首の運動とか顔の運動を日々やって喉の筋肉を鍛えた方がいい」
「はい」
 
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実際この頃から私は喉の筋肉を鍛えるための体操を日課にしていた。
 
また静花はある時テレビ番組を見ながら言った。
 
「この人の発声法は合唱団などで教えられる発声法に近いね。でもそれを少しアレンジして個性を加えている。この人は長く歌手を続けられるよ。こういう歌い方は見習っていい」
 
静花がそう言ったのは当時デビュー4年目で人気絶頂であった保坂早穂であった。
 
「なんか胸を張って歌ってますね」
「そうそう。自分の気道をフル活用してる。だからこの人音域が無茶苦茶広いよね。3オクターブ超えてる。普通のアイドル歌手なんて1オクターブ出るか出ないかの人もいるのに。そして楽曲を渡している側もその声域を活かした歌を渡している。どうかした所だと、アイドル歌手が上手なのはイメージを壊すとかいって、わざと簡単な歌を渡すから」
 
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「何のために〜?」
「要するに、下手な歌手は親しみやすいと感じるんじゃない?」
 
「なるほどー。それで下手なアイドルが多いのか」
「そうそう。でもモー娘。やSPEEDの登場でその状況は若干変わったよね」
「後藤真希ちゃんとか、島袋寛子さんとか、凄く上手いですよね」
「うんうん。アイドルやるのがもったいないくらいに上手い」
 

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この小学2年生の1年間というのは、後から考えてみると、自分にとって色々なことの基礎堅めをした時期であった。静花との歌の練習、深山先生とのピアノレッスン、麻央のお母さんとの絵の練習など。自分の芸術能力を開花させていくための栄養を吸収した時代でもあったし、また私が女の子としての自分を確立していった時期でもあった。
 
ローズ+リリーは歌う時にあまり身体を動かさないのではあるが、まだデビュー前に5年ほど他のユニットのバックダンサーをしたりもしていた。そういう時、物凄く短時間で踊り方を覚えなければならないので、私の「コピー能力」は重宝されていた。私のダンスは小学校から高校に掛けてしばしばチアをやっていたのも基礎にあるのだが、その大元の、踊り方の根本は実はこの小学2年生の時にバレエをやっていたことに由来する。
 
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もっともこれも正式に習っていた訳ではない(私の様々な勉強や訓練ってそんなのばかり!)。バレエ教室に通っていたのは親友の美佳と帆華である。
 
そのふたりがバレエ教室に通っていたので、私はリナと一緒によく見に行っていた(麻央はバレエなんて興味無いと言って来なかった。麻央はお兄さんたちあるいは男子の友人と一緒によく野球とかサッカーの試合を見に行っていた)。
 
「ね、ね、男の子のタイツがすごーく気になる」
「ああ、膨らんでるよね。でもあれ実物じゃないよ。サポーターというので、しっかり押さえていて、そのサポーターの形が出てるんだよ」
と帆華が説明してくれる。
 
「それにサポーター付けてないと踊ってる最中に大きくなったりした時にやばいしね」
「大きくなるって?」
と私が訊くので
「男の子のアレって、大きくなるじゃん」
とリナに言われる。
 
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「え?そうなの?」
と私が言うと
「冬ちゃんのは大きくなったりしないの?」
と帆華が不思議そうに訊く。
「分かんなーい」
「ねえ、冬ちゃんって、おちんちん付いてるよね?」
「えーっと・・・・・」
「なぜ即答できない??」
 

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帆華や美佳がバーの所で足を上げたり爪先立ちする練習をしていると、先生が
「はーい、そこの見学者も一緒にやってみよう」
などと言ったので、私とリナも一緒にやってみていた。
 
また開脚の練習をしているのを見て
「たいへんそー」
などと声を掛けると
「冬たちもやってみなよ」
と言われるので、私たちもそばで開脚の練習をした。
 
「確かにこれ、開くのきつーい」
「でも上級生のお姉さんたち、すごくきれいに開いてるね」
「これ、おうちでも練習してみよう」
 
などといった感じで、見学だけの筈が、けっこう一緒に練習していたのである。それで結局、私もリナも爪先立ちしたり、180度開脚したり、などというのができるようになってしまった。私たちはピルエットでどのくらい回れるか、なんてのを競争したりもしていた。
 
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そのうち発表会が近づいてくると、帆華と美佳がペアで『トロイメライ』の曲に合わせて踊るということになる。ふたりが一緒に練習していると、そのそばで私とリナも何となくふたりを真似て踊ってみたりしていた。
 
「ね、ね、リナも冬もピアノ弾けるでしょ? 私たちが踊る時に伴奏してくれない?」
「そういう話はちゃんとピアノを習っていたリナに」
「いや、私より冬の方が上手だから、冬がしよう」
「男の子だからといってタキシードとか着せられそうだからパス」
「じゃ私がドレス貸してあげる」
 
ということで、結局私はリナからドレスを借りて着て、帆華と美佳の踊りの伴奏をすることになった。一応母には話したが
「お父ちゃんには内緒にしといて」
と言ったら、母は笑って「いいよ」と言っていた。一応母は見に来るということだった。
 
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なお出場者は1人1万円の参加費を払うことになっていたようであるが、私は伴奏者なので参加費は不要ということだった。
 

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