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■夏の日の想い出・4年生の夏(8)

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雪で真っ白な情景を浮かべながら、演奏を終了する。ピアノの音の余韻が消えるのを待っていたかのように拍手が湧き起こり、私たちはステージ前面に出てお辞儀をした。拍手と歓声に応えて両手を斜めにあげる。そして再度お辞儀をした。
 
「キスしないの〜?」
という声が客席から掛かる。
 
私と政子は見つめ合い、キスをする。
 
「キャー」という声が掛かる中、そのまま幕が降りた。
 

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8月4日の沖縄公演が終わってから、最近沖縄では常宿化している宜野湾市のホテルのベッドで、少しだるい朝を迎えた私は、8時頃、須藤さんからの電話で目を覚ます。
 
「おはようございます」
「おはようございます。何かさ、私と冬ってここ数ヶ月すれ違い状態にない?」
 
「そうですね。5ヶ月近く顔を合わせてない気がします。こちらも卒論の作業とアルバム制作の作業が同時進行していて、他にローズ・クォーツ・グランド・オーケストラ、ゆきみすずさんのプロジェクト、ワンティスのプロジェクトも並行して進んでいるもので」
 
「まあ、そういう訳で、冬たちが帰って来たら、夕方からでもいいから株主総会やるから」
「へ?」
「うちの株主は私と冬と政子の3人だからね」
「まあ、そうですけど」
 
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その日は政子が沖縄の食べ物をまだ食べ足りないと主張したので、A&Wのハンバーガーを食べたり、タコライスを食べたり、沖縄ラーメンを食べたりと食べ歩きをしたあげく、結局午後遅い飛行機に乗って東京に戻った。それで株主総会は夜21時からになった。
 
「まだ晩御飯食べてない」
などと政子が言ったが
「懇親会は総会が終わった後だよ」
と私は言う。
「なるほどー」
 
「まあ、そういう訳で人事をしようということなのさ」と須藤さん。
「人事って、何かいじるほどのものあったっけ?」
「社員も5人になったし、役職を作ろうかと」
「へー」
 
「松島さんを取締役・制作部長、諸伏さんを取締役・育成部長にしようかと」
 
「えっと、そういう提案は印刷して株主に配布しようよ」と私。
「口頭じゃダメ?」と須藤さん。
「ちゃんと書類作ってないと注意されるよ」
 
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「面倒くさいなあ」
と言って、須藤さんはその場でパソコンに打ち込み、3部印刷してきた。
 
「ということで第一号提案について、質問はありませんか?」
「このふたりが取締役になるなら、私たちは取締役から外れてもいい?」
「いや、逃がさん」
「あはは」
 
「でも社員が5人しかいないのに、取締役が5人いていいの?」
「まあ、こないだまで社員が3人しかいないのに、取締役3人だったし」
「確かにそれはそうだ」
 
「でもまあいいんじゃない? 諸伏さんの育成部長は分かるけど、松島さんの制作部長って何するの?」
 
「制作部門全体を統括してもらう」
「ふーん」
「まあ、私はスカウト・営業関係に専念した方がいいかなと思ってさ」
「ああ」
 
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「こないだから冬と電話でたくさん話した件だけどさ。やはり私にはメジャーアーティストの管理はできないのかも知れんという気がしてきた」
 
「まあ、管理するんじゃなくて、管理する人を管理すればいいと思うんだけどね」
「そそ。それだよ。だから、その管理する人を管理する仕事を松島さんに押しつけて、私は全国走り回って、有望アーティストの発掘とかしてた方が性に合ってる気がしてきてね」
 
「△△社時代も、須藤さんが発掘したアーティストでメジャーデビューしたのがたしか5組くらいあるよね」
「まあ、その後そんなに売れてないけどね。自分で見つけてきて売れたのは、結局ビリーブとローズクォーツだけだよ。あんたたちの場合は私が売り出さなくても、勝手に売れてたと思うし」
 
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「ローズ+リリーの名付け親は須藤さんだけどね」
「微妙だね。その名前を言い出したのは政子ちゃんだから」
「ローズという単語は冬が言った」
「うーん。確かに微妙ではある」
「あ、分かった。ローズは冬、プラスは私、リリーはみっちゃんから出たんだ」
「なるほどー」
「確かにそんな気がする」
 
「でも結局、ローズクォーツのプロデュースどうする?」と私。
「まあ松島さんに全面的に任せてみるのも面白い気はするんだけどさ。ちょっと思いついたことがあるんだよ」と須藤さんは言った。
「ほぉ」
「それとバレンシアのプロデュースについてもね」
「ほほぉ」
 

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KARIONのアルバム「作り直し」作業は、穂津美さんと政子も入る「6人のKARION」
で8月8日に『歌う花たち』の歌唱を録音したので山場を越え、お盆明け、8月19日の週にコーラスを入れた。同じ事務所に所属しているVoice of Heart という女性4人組のユニットで、年齢が22〜24歳なので、同世代ということでお願いした。
 
KARIONのバックコーラスは一昨年くらいまではその度にレッスン生などにお願いしていたのだが、やはりKARION自身が21〜22歳になってくると、同年代の女性歌手を調達しようとすると、このくらいの年齢ではそれぞれの歌い方が確立してしまっていてバラバラに調達すると「コーラス」になってくれない。そこで、ここ1〜2年は元々ユニットとして活動している人たちにお願いするのが定着している。Voice of Heart には昨年末、KARION初のミリオンヒットとなった『雪うさぎたち』でもコーラスを担当してもらっている。このコーラス入れの作業は和泉ひとりで指示をしてもらい、私は出て行ってない。
 
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そして8月25日から30日に掛けて、小風と美空に出てきてもらい、KARIONの4人でパーカッション類を入れた。タンバリン、カスタネット、スターチャイム、トライアングル、などの類いだが、『アメノウズメ』『天女の舞』には和泉の友人からのツテで、同じ大学の能楽部の人にお願いして鼓の音を入れてもらった。
 
8月30日の午前中でほぼ作業は完了する。
 
「これで何とか完成かな」
「あとはミクシング、マスタリング」
 
「それはうちの花籠君に任せた」と菊水さん。
「はい、頑張ります。このアルバムは凄くクォリティが高いので武者震いします」
と花籠さんは答える。
 
花籠さんはまだ26歳のミキサーで、今回はできるだけ若いミキサーさんにお願いしようと和泉と話し合い、このスタジオの若手ミキサーの中でポップス系に強い人ということで、この人にお願いしたのである。
 
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「なんか、おまけを付けたくならない?」
と唐突に美空が言った。
 
「ミニ写真集とかでも入れる?」
「ああ、それは畠山さんが入れよう、入れようと言ってたよ。振袖だって」
「なるほど。振袖か」
「7月発売だったら浴衣にしていたと言っていた」
 
「水沢歌月の振袖写真も初公開とか」
「パス」
 
「こないだのジョイントライブで思ったけど、この4人でバンドにもなるんだよね」
と小風。
 
「ああ。小風がギター、美空がベース、蘭子がドラムス、私がキーボードで行けるよね」
 
「でも、やはり和泉がグロッケンで、蘭子がピアノというのが普段の構成という気もする」
 
「うーん。確かにそれはそんな気もする」
「蘭子はヴァイオリンでもいいよね」
 
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「『Crystal Tunes』のインストゥルメンタル版を入れようか?」
「ああ、いいね」
 
そういう訳で、小風がギター、美空がベース、和泉がグロッケン、私がピアノを弾いて、『Crystal Tunes』を演奏した。
 
本編と流れを変えようということで、この録音は菊水さん自身ではなく、助手の植木さんにお願いすることにした。
 

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「これ、ボーナストラックとかにする?」
「うーん。それすると、アルバムの曲から続けて再生されることになって、せっかく『歌う花たち』で美しく終わるのが活きない」
 
「ああ、じゃおまけCDにすればいいんだ」
「だったら、1曲だけじゃ寂しいね」
 
「ひとりずつのソロでも入れる?」
「あ、それもいいかも知れない」
 
「伴奏もシンプルなのがいいよね」
「じゃ、ピアノ伴奏オンリー」
 
ということで、畠山さんと滝口さんに電話してOKをもらった上で《水沢歌月》のピアノ伴奏で、小風が『星の海』、美空が『金色のペンダント』、和泉が『雪うさぎたち』を歌った。録音はこれも植木さんである。
 
「これで完成かな」
「いや、まだ蘭子が歌ってない」
「えっと・・・」
 
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「私がピアノ弾いてあげるから『海を渡りて君の元へ』を歌いなよ」
と和泉が言う。
 
「むむむ」
 
そういう訳で、KARION結成5年9ヶ月にして初めて、水沢歌月の公式な歌声が公開されることになったのである。連絡すると畠山さんは何だか喜んでいたし、滝口さんは少し驚いていた。
 
この4人のソロ歌唱で、本当にこのアルバムの収録作業は完了した。
 

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夕方になったので、食事に行くことにする。政子がお腹を空かせているのは確実なので呼ぶことにした。メールしたらすぐ行くと返事が来た。4人で目立たないようにバラバラの行動で、予約を入れた中華料理店の個室に入る。
 
「でも冬も和泉もピアノうまいなあ」
と小風が言った。
 
「いや、和泉にはかなわない。和泉は子供の頃からたくさん大会とかに出てるから。レベルが違うよ」
と私は言ったのだが
 
「それはこっちのセリフ。時間があったら私、冬にピアノ習いたいくらいだよ」
と和泉は言う。
 
「それはどう考えても買いかぶり。私は自己流だから、私に習ったら変な癖付くよ」
と言って私は笑う。
 
「うーむ。そこいら辺は私にはレベルが高すぎて分からんな」
と美空。
 
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やがて政子が到着する。好きなだけ頼んでいいよと和泉が言ったので張り切って頼んでいる(今日の食事代は和泉のおごり)。
 
「でも、和泉が九州から北陸まで旅行してきた間に書いた詩って、凄く優秀なのが多いから、今回使わなかったのも、どこかで使いたい気分だね。長崎で書いた『鳩』とか出雲で書いた『呼ぶ声』とか、羽合(はわい)で書いた『綾』
とか金沢で書いた『嫁ぐ朝』とか」
と私が言うと、
 
政子が「いづみちゃん、どんなの書いたの?」と訊く。
 
それで和泉がパソコンを開いて見せてあげた。
 
「私全部テキストエディタで書いてるから。今まとめて開いたからタブを変えれば次の詩が読めるよ。Ctrl+Tabでも次の詩に行ける」
「ありがと」
 
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私は政子が和泉のパソコンに触る前にさりげなく一度政子の手と髪の毛に触り「静電気を放電」させた。これをしておかないとパソコンを壊す場合がある。なにしろ回転寿司のタッチパネルでさえ壊した前歴がある。
 
最初政子は片手で桃饅頭を食べながら読んでいたのだが、その内食べる方が停まってしまう。そして無言になる。政子の行動としては非常に珍しい。
 
桃饅も皿に置いてしまった。これも本当に珍しい。普通なら手に持っている分は食べてしまう。
 
Ctrl+Tabで次の詩、次の詩と見て行っている。
 
そしてやがて声を挙げた。
 
「負けた。今日だけは森之和泉に敗北を認める」
と政子。
 
「へー」
と美空が意外だという感じの声を挙げる。私も意外だった。
 
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「冬〜。私たちも旅行に行こう」と政子。
「いいけど、卒論を出してからにしようよ」
「よし。そしたら12月の後半は旅行」
「まあ、いいけど」
 
「だから冬も卒論は12月頭に提出してよね」
「まあ、頑張ろう」
 
「ちゃんと提出しなかったら、冬の女子高生制服写真をホームページに掲載しちゃうから」
「それは勘弁して〜」
 
小風と美空が笑っている。
 
「私はむしろ冬の男子制服姿を見たことがない。和泉、見たことある?」
「私は1度だけ、ワイシャツ姿を見たことある。でもあの時だけだなあ」
と言ってから和泉は付け加える。
 
「ところが冬はそのワイシャツ姿で、男子禁制の女子高に堂々と入ってきたんだよね。校門の所に警備員さんも立っていたのに」
 
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「なるほどね〜」
と政子。
 
「だけど、マリにあっさり負けを認められるとこちらは拍子抜けだな」
と和泉。
 
「今日負けただけ。次は私が勝つから」と政子。
「じゃ私もまた負けないようなの書く」と和泉。
 
ふたりは硬い握手を交わしていた。
 
 
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