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■夏の日の想い出・4年生の夏(6)

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すぐにお肉が来るが、一度にはテーブルに置けないので少しずつ持って来ますということのようであった。
 
政子はとても幸せそうに来たお肉を兜状のプルコギ鍋に載せて焼いていく。付け合わせのお野菜もたっぷり皿に盛られているので、それもどんどん載せていく。もちろん政子はお肉もどんどん食べるがお野菜もたくさん食べる。
 
食べながらここまでの台湾・愛媛・札幌での公演のことを楽しそうにしゃべる。政子は御飯を食べている時は本当に幸せそうで、そして言葉も饒舌になる。私は相槌を打ちながら笑顔で聞いていた。
 
食事中に私たちに気付いた人が何人か寄ってきて英語や日本語でサインを求められた。若い人が結構日本語で話しかけてくれる。
 
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ふたりで快くサインしたが、政子は相手の名前を聞くと、ハングルで宛名を書いて渡してあげた。来年でもいいからぜひ韓国公演を、と言ってくれた人もいた。
「そうですね。韓国での日本人歌手の公演は色々手続きが難しそうだからレコード会社に聞いてみましょう」
と私は答えておいた。
 
「冬、あまり食べてないんじゃない? 食べてないと無くなるよ」
「うん。適当に食べてるから、政子はお腹いっぱい食べるといいよ。10人前無くなっちゃったら、また追加すればいいし」
「うん」
 
そして政子は本当にあっという間に10人前食べてしまい、更に3人前追加して食べたのであった。
 

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その追加分が来て、さあ食べるぞ、という態勢に政子がなった時、
 
「アニョハセヨ〜」
と声を掛ける人がいる。
 
「アニョハセヨ〜、白浜さん、よかったらお座りになってください」
と私は席を勧める。
 
「冬ちゃんたちは、食事これから?」
と白浜さんは座りながら訊いた。
 
皿の上に乗っているお肉の量を見たら、まあそう思う。
 
「あ、いえ、今政子が10人前食べた所で、まだ少し入るというので追加オーダーしたのが来た所です」
 
「ぶっ。よく入るね〜。噂には聞いてたけど」
「白浜さんも食べて下さい。足りなくなったらまた追加するし。ここは私のおごりで」
「じゃ、遠慮無くおごってもらおうかな。何だか長い付き合いだし」
「ほんとですね。もう8年くらいになりますかね〜」
「そんなものかなぁ」
 
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「あれ?どなたでしたっけ?見覚えはあるんだけど」と政子。
「XANFUSのマネージャーの白浜さんだよ」と私は答える。
「あ、そうか!ごめんなさい」
 
「いや、最近私、あまりXANFUSに帯同してないから。あのふたり、ふたりきりにしておいて欲しいみたいだし」
「まあ、個人的な事情ですね。私たちも似た事情でマネージャーとか付き人とかは付けずにふたりだけで行動してます」
「なるほどねー」
と言って白浜さんは笑っている。
 
「こちらはお仕事ですか?」と私は訊いた。
「うん。こちらの中学生アイドル4人組のユニットが前々からXANFUSの曲を度々カバーしてたんだけどね。今度丸ごとカバーのアルバムを作りたいというのでちょっと打ち合わせに来た」
「わあ、凄いですね」
 
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「まあXANFUSの歌って、曲が格好いいから、歌詞が分からなくても乗れる所あるから」
「それは神崎さんの前では話せない話題ですが」
「あはは」
 
その時何やら指折り数えていた政子が訊く。
「今冬は白浜さんと8年の付き合いと言ってたけど、私たちがXANFUSと会ったのって5年前だよね」
「うん。私、中学生の頃に白浜さんから歌手デビューしないかと誘われていたから」
「えーー!?」
と政子は言ってから、私に訊く。
 
「例のローズ+リリー争奪戦した80社の中にも&&エージェンシーいたっけ?」
「いない」
 

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私は説明する。
「私がデビュー前に関わっていた事務所は何社もあるんだけど、その内例のローズ+リリー争奪戦に参戦していたのは実に1社だけなんだよね。白浜さんの所も含めて他の事務所はそれぞれの事情で参戦しなかった。白浜さんの所は XANFUS がいたから争いには加わらなかったんだよ」
 
「うん。同世代で同じ2人組の歌唱ユニットを同時に売り出すことはできないからね。悪いけどうちは参戦しないよと冬ちゃんに言った」
と白浜さん。
「あ。そうですよね!」
と政子も納得する。
 
「もっとも例の大騒動が起きた時点では XANFUS は消滅寸前だったから社長はダメ元で参戦してみるかと言ってたんだけど、交渉解禁日前に突然 XANFUS が売れ始めたからね。冬ちゃんのお陰で。それで参戦取りやめ」
「うふふ」
 
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政子もその件は聞いているので頷いている。
 
「あの時期は、XANFUSも随分私たちのカバーしてましたよね?」
「そそ。『その時』も『遙かな夢』も『甘い蜜』『涙の影』もカバーしたけど『ふたりの愛ランド』もかなり好評だった」
 
「『All The Things She Said』も歌ってましたね」と私。
「うん。で、あの子たちステージ上でキスしちゃうのよね」と白浜さん。「あ、それ私見てない」と政子。
「ローズ+リリーの真似です、なんてあの子たち言ってた」
「あはは」
 

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「だけど、白浜さんはどうして中学生時代の冬に目を付けたんですか?」
 
「その年の夏、千葉の海岸そばの公園でやる夏フェスにうちに所属しているバンドが出るんで、その下見を兼ねて行ってて、遅くなったんだけど現地の旅館に泊まったんだけどね。そこに合宿に来ていた女子中学生のグループがいて、その中に冬ちゃんがいたんだよ」
 
「ほほぉ」
 
「その日は合宿の打ち上げみたいでさ。ジャンケンで負けた人は何か歌うというのをやってたんだ」
 
「あぁ。冬ってジャンケン弱いもん」
「そうそう。それで冬ちゃんがひたすら負けて、ひたすら歌ってたのよ」
 
私は笑っておく。
 
「でも聴いてたら凄くうまいじゃん」
「冬ってほんとに昔からうまかったみたいだもんね〜」
 
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「それでその子たちが食事終えて部屋に戻ろうとしていた所を捕まえてさ、私こういうものだけど、もし興味があったらレッスンとか受けてみない?と言ったんだけどね」
 
「なるほど」
 
「ところが、済みません。他の事務所からも声を掛けられて、そちらでレッスン受けたりしているので、と言われて、さすがにこのレベルの子は目を付けられているかと思った」
「まあ、○○プロの丸花さんから、度々誘われていたから」
 
「でもその後、何度もあちこちで顔を合わせてね。何とか頑張って事務所にも来てもらって」
「拉致されてったというか」
「事務所でちょっと歌ってもらったら社長が凄く気に入って」
「Parking Service の音源制作でバックコーラスに入ったりしましたね」
「冬・・・なんかその手の話も多すぎる」
「横芝光のライブでバックダンサーしてもらったこともあった」
と白浜さん。
 
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「でも高校に入ってからは少し縁遠くなってました」
「というか捉まらないんだもん!」
 
「まあ高校に入ってからは、ハンガーガーショップでバイトしたり、その後はテレビ番組のリハーサル歌手をしたり、その後ほとんどスタジオミュージシャン状態になってしまいましたからね。当時私のスケジュール表は真っ黒だった」
 

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「訊くまでもないような気がするのですが」
と政子は前置きをした。
 
「白浜さんと会っていた時期の冬ってどんな格好してたんでしょうか?」
「最初合宿で見た時は、ジャージの上下だったかな。でもその後、遭遇した時はセーラー服が多かった気がする」
 
「まあ、そんなものですね」と私
「高校の時何度か会った時も女子制服着てたね」と白浜さん。
「やはりね〜」と政子。
 
「合宿の時に歌を歌っていた時は女の子の声だったのでしょうか?」
「もちろん。私、冬ちゃんが男の子の声を使っている所、見たことない」
 
「じゃ、白浜さんは冬のこと、女の子と思っていたんですか?」
 
「うん。まさか男の子とは思いも寄らなかったよ」
 
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「なるほどね〜」
と言って政子は何だか楽しそうな顔をしている。
 
「合宿の時って、男女混合でした?」
「女の子ばかりだったけど」
 
政子が私の方を見る。
「まあ、いいよ。陸上部女子の合宿だったんだよね」
 
「くくくくくく」
と政子は笑いを抑えられない様子。
 
「マンションに帰るのが楽しみ〜」などと政子は言っている。
白浜さんも笑っている。このあたりは XANFUS のふたりの言動で耐性ができているのだろう。
 
「冬ちゃんたちは今日帰国するの?」
「はい」
「いつこちらに来たの?」
「今朝です」
「は?」
 
「いや、政子がソウルでプルコギ食べたいなどというもので。明日ライブがあるから日帰りで来ざるを得なくて」
「あんたたちもよくやるね!」
 
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「だけどあんたたち、恋愛禁止とかの事務所じゃなくて良かったね」
と白浜さん。
 
「まあ、そんな所とはそもそも契約しません」
「私たちの契約書では恋愛も結婚も出産も禁止されてないから。でも27歳までは婚約や出産はしないようにしようと私たちふたりの自主規制」
と政子が言う。
 
白浜さんも頷いている。
「うちのXANFUSの契約書では25歳になるまで男性との交際を禁止してたんだけどね」
「ああ、それは裏目に出ましたね」
「そうなんだよ!」
と言って白浜さんは半ば呆れている風である。
 
「でもこないだ《**経済》が論評してたけど、今レコード業界が不況の中で、今旬のアイドルユニットを独占している感じのあるキングレコードを除けば、★★レコードが物凄く健闘しているのは、やはりアーティストの個性重視の営業政策が大きいのではないかと」
と白浜さん。
 
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「ああ。サウザンズ、スイート・ヴァニラズ、XANFUS、ローズ+リリー、KARION、スリファーズ、スリーピーマイス、Rainbow Flute Bands、どれも他のレコード会社じゃ売ってもらえないか、趣旨を大きく曲げられているユニットでしょう」
と私。
 
「最近はプロデューサー主導のプロジェクトが多いよね。作曲者も演奏者も部品にすぎない。「これが売れる」というパターンに押し込まれる。たくさんユニットは作られても楽曲もたくさん作られても中身は均質。ファン層も同じ。ブームが去れば全部共倒れ。投資で言えば《ひとつの籠に盛られた卵》だよ」
と白浜さんは言う。
 
「確かにここ20年ほど、そのパターンが5年単位で繰り返されてますね」
「昔のユニットならメインボーカルやフロントパーソンの交替なんて重大事件だったけど最近は結構安易にすげ替えるよね。それも部品にすぎないから」
 
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「オメガトライブにしても、スクエアにしてもファンが半減してますね」
 
そんな話をしながら私はここ数ヶ月自分自身でも悩んでいるローズクォーツのボーカル問題に改めて思いが及んだ。自分がもしローズクォーツを辞めたら、ファンが激減するのだろうか。それとも自分も部品にすぎないのだろうか。
 
「★★レコードは元々インディーズを扱うレコード屋さんから出発しているからむしろ個々の個性を伸ばそうとする。★★レコードで今売れてるアーティストの内半分は5年後には消えているかも知れないけど、半分は絶対生き残ると思う」
 
「うーん。その生き残る側になりたいですね。うちもXANFUSも」
「だね」
 
「でもその分、扱いにくいアーティストが多いですよね」
と私。
 
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「そうそう。サウザンズは本当に気まぐれだし、スイート・ヴァニラズのメンバーはいつも恋愛沙汰で週刊誌を賑わせているし、スリーピーマイスはメディアに出てくれないし、ローズ+リリーはなかなかライブしてくれないし」
 
「あはは」
 

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「でもその個性の強いアーティストの個性をそのまま許容してくれている事務所も偉いです。&&エージェンシーさんも最近はあのふたりのこと黙認してくれているみたいだし」
と私は言ってみた。
 
「黙認してる訳じゃないんだけどね〜。あのふたり首にしたら倒産するもん」
「うふふ」
「一応最低限のルールだけ再提示して、疑問のある時は夜中でもいいから私に電話しろというのだけ守ってもらっている」
 
「結果的に結構な裁量権をもらっているみたいですね。私たちの場合は私たち自身が、マネジメント契約した事務所の取締役だから結果的に自分たちの好きなようにできるというのがあります」
 
「冬ちゃんたちの所の構造、さっぱり分からない。複雑すぎる」
「私も人に説明する度に違うこと言ってる気がして」
「あはは」
「実は全容を把握している人は誰もいないかもです」
「うむむ」
 
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「スリーピーマイスの所はそもそも型破りなアーティストばかりだし」
「あんなアーティストたちをよくまとめられると感心するよ!」
 
「和泉たちの所はプロデュース面を見れるようなスタッフが事務所にいないから結果的に音源制作やステージ制作は和泉と歌月さん・TAKAOさんの3人でするのが定着しちゃったみたいですね」
 
「ああ、そういう意味では小さな事務所の方が好きにやれる確率は高い」
 
「だから実は今回08年組5ユニットで色々企画進める時にAYAの事務所との交渉が、いちばん大変だったんですよ」
「あぁ!」
 

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夏の日の想い出・4年生の夏(6)

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