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■夏の日の想い出・4年生の夏(5)

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(C)Eriko Kawaguchi 2013-07-06  
「社長は今週いっぱいはアウトバーンズのCD作成に専念したいということでスタジオなので。どうしても必要なら出て行くけど、私たちで話を決めていいと言われたから」
と花枝が説明する。
 
「実は★★レコードの加藤課長から、ローズクォーツの『Night Attack』を再録音できないかという話が来たのよ」
 
それは私がほんの2日前に加藤さんと話した件だ。私も迷っていたのだが、加藤さんはこのCDはやはり再録音した方が売れると踏んだのだろう。
 
「再録音って、あれ何か問題あったんだっけ?」とタカ。
「私にもよく分からないんだけど、耳の良い人に聴かせると『Night Attack』と『ウォータードラゴン』は音のmaxとminが振り切れてるんだって」
 
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「ケイ分かる?」
「気付いてたけど、原則として私ローズクォーツのことには口出ししないことにしているから言わなかった」
と私は言う。
 
「う、そのくらいは言ってくれてもいいんだけど」とタカ。
 
「ああいうダイナミック・レンジの大きい曲は、耳の良いサウンド技術者に録音させなきゃダメだよ。しかも絶対20代。人間の耳って、年齢を重ねると自分でも気付かない内に聴力が落ちている。30代以上の技術者にはあれは録れないと思う」
 
「だとすると、山形さんなんかが最適か」
「そそ。あの人まだ25歳だからね」
「じゃ、録り直しするならあそこだな」
 
「それで加藤さんが言うにはね。今月に入ってから始まった『しろうと歌合戦』
の影響と、10日頃から打ち始めた『魔法の靴/空中都市』のテレビスポットで、ローズクォーツのCDが売れているんだけど、動いてるのは『魔法の靴』『Girls Sound』『Easy Listening』の3つだけで、『Night Attack』はピクリとも動かないんだって。それで社内で検討した結果、『Night Attack』の音質が悪いのと外装のセンスが悪すぎるのが問題ではということになったらしい」
と花枝は説明する。
 
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「確かに『魔法の靴』は俺とケイが強く主張して、一流のスタジオで録音したし、外装も本職のデザイナーに作らせたから」
とタカ。
 
「『Girls Sound』は雨宮先生がプロデュースしてるし、『Easy Listening』はケイちゃんがプロデュースして、どちらもしっかりした作りになってるよね」
と花枝。
 
「たしかにそれらと比べると『Night Attack』は安っぽい」
 
「それで録音しなおして、外装も作り直そうと」
「社長はここに来ないってのは、その話でスネてるの?」とタカ。
 
「それがさぁ。加藤さんが突然うちを来訪して、私も同席して社長と一緒に聞いてたんだけど、加藤さん、『Night Attack』の録音技師とミクシング技師、それからジャケ写を撮った写真家、外装デザインしたデザイナーはレベルが低すぎるというのが★★レコードの社内技術陣・デザイナー陣の意見です。変えられた方がいいですよ、と」
 
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「『Night Attack』の録音したのとジャケ写を撮ったのと外装デザインしたのって社長だよね?」
 
「そそ。それですねてるみたい」
「あはは」
「取り敢えず今回の録り直しは、私とタカ・ケイに任せると言われた」
 
「いいんじゃない。しっかりしたものに作り直そう」
とタカは言った。
 

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「じゃ、その2曲だけ録り直すの?」
と私は訊いたが、
 
「これは私が改めてあのCDを聴いて考えたことなんだけど」
と花枝は言った。
「『オルタネート・ラバー』と『ダークアロー』を外したい。正直言わせてもらって楽曲のレベルが低い。ノリがいいからライブでやったら受けるだろうけどさ。曲自体は詰まらないよ」
 
「ああ。でも最近、この業界全体的にそういう曲が多くないですか?」
「打ち込みの普及も影響してるよね。何か格好よくドラムスワークやベースライン入れて誤魔化そうって曲」
 
「海外でも、**とか何故あんなのが売れるという気がする。音楽じゃなくてただの音だよ」
とタカは結構きついことを言う。
 
「ローズクォーツはもっとしっかり曲作りしようよ。それでさ、忙しいのに悪いとは思うんだけど、代わりにケイちゃん2曲ほど提供してもらえない?」
 
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「2曲書いてもいいけど、マキは最近何も書いてないのかな? タカ聞いてない?」
と私は尋ねる。
 
「うん。どうも不調っぽい。何個か見せてもらったけど、これじゃ売れんと言って却下しておいた。やたらと難しいコード使いに陥ってる。典型的な不調パターンだと思った」
「ああ」
「タカは書かないの?昔『君の微笑み』とか書いたじゃん」
「あれは俺の黒歴史にさせてくれ。曲書いたのなんて、中学生の時以来だったよ」
 
「ふーん。中学生の時にどんなの書いたの?」
「当時は自分は天才ではとか思ったんだけどさ、今の自分が見れば詰まらない曲だな」
 
「詰まらないかどうか聞かせて」
「うーん」
 
と言いつつ、タカは楽器室から備品のアコスティックギターを持って来た。
 
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「まあ『イースト・ガール』という曲なんだけどね」
と言って弾きながら歌い出す。
 
私も花枝も曲を聴いてて吹き出した。
 
「お、おもしろい」
「イースト・ガールって、東の女の子かと思ったら、発酵してる女の子だったのか!」
「まあダブルミーニングだね」
 
「でもいい曲じゃん」
「そうか?」
「メロディアスだし、アレンジ次第では結構行けると思うな。花枝さんどう思う?」
「うん。この曲は楽しんでくれると思う。編曲次第」
「よし。これイリヤさんに編曲してもらおう」
「おっ」
 
「たださ。下ネタはやめない?」
「ああ。じゃ、そこの歌詞は書き直す」
 

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そういう訳でタカの作品『イースト・ガール』(メロディーもタカ自身が若干補作修正した)とマリ&ケイの作品『レインボウ・ドリーマー』という曲を採用することにし、下川工房に峰川さん指定で編曲を依頼した。そのアレンジ譜は28日朝に送られて来たが、『イースト・ガール』のアレンジ譜の Il y a マークの印の右に手書きで「楽しい曲ですね。個人的にすごくうけました!」などいうメッセージが入っていた。
 
私たちは渋谷の山形さんのスタジオで録音作業をすることにし、29日いっぱい新しい譜面で練習した上で30日に山形さんの手で録音を行った。急な予約だったので、山形さんの手が空かなければ、どなたかできるだけ若い技師の方ということでお願いしたが、山形さんは入っていた予定を他の技師さんに代わってもらってこちらをやってくれた。
 
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ミクシング・マスタリングも今回は若い人にとお願いして、スタジオで最も若い米沢さんという専門学校を出てまだ2年のミキサーさんにお願いした。
 
ところでマキは呼び出されてきて
「あれ? 新譜の予定しばらく無かったんじゃないの?」
などと言い、収録が終わった後も
「今回の新譜は1月のシングルに入れた曲をまた入れたんだね」
などと言っていた。
 
どうも趣旨を理解していない感じであったが、私もタカも放っておいた。
 
「マキちゃん、宿題」
と花枝は言う。
「10月くらいまでにプラチナ売れそうな曲を3曲書いて」
「プ、プラチナですか?」
「毎週テレビの仕事があるから、なかなか時間取れないだろうけどさ」
と言って花枝はiPhoneでローズクォーツのスケジュールを確認する。
 
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「8月24日は特別番組で『しろうと歌合戦』がお休みだから、8月18日から29日まで、12日間、マキちゃんは休暇にするから、奥さんとふたりでどこか旅行にでも行っておいでよ。一度頭をリフレッシュした方がいい曲書けるよ」
「12日も?」
「こないだ台湾行くのにマキちゃんパスポート作ったし、奥さんのパスポートも作って海外とか行ってくるのもいいし、マキちゃん車運転できるから予定も定めずにドライブして日本全国駆け巡るのもいいだろうしね」
 
「まあマキが休みだと、他のメンバーも結果的には実質休みだな」
「まあね」
「そうだ。旅費に会社から50万支給するよ」
「50万!?」
「お、いいな」
「もちろん返さなくていいからね」
 
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『Night Attack』の新装版を出すに当たって、私と花枝・タカはライナーノートを書いてくれる人として、UTPアカデミーのギター講師でもあるnaka(中村将春)さんに白羽の矢を立てた。
 
話をしてみると快諾してくれたので、実際の楽曲を聴いてもらい文章を書いてもらった。こちらで文章の専門家に校正をさせて、校正した内容をnakaさんにチェックしてもらう。誤解のあった部分を更に書き直してもらい、その後は私と花枝でチェックし、それで完成稿とした。
 
また新しい外装デザインも『魔法の靴』を作った時の写真家さんとデザイナーさんに依頼した。
 
この新装版は8月21日に発売され、結果的には私が休養中であるため新譜を出せないローズクォーツの「補間CD」の役割も果たすことになった。
 
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7月30日。ローズクォーツの「録り直し」作業を終えて帰宅したら、政子が
 
「冬〜。頭が煮詰まった(誤用)」
と言った。
 
「あんまり煮詰まったから冬の高校時代のヌード写真で遊んでた」
と言って政子は写真を見せる。
「ぶっ」
「ここに松茸の写真を重ねて、これでモーフィング掛けると、こうなる訳」
「あはは」
「おちんちんが小さくなって行って消滅して女の子のお股になる感じがいいなあ」
「悪いけどこの動画後で消去させてもらうから」
「1時間掛けて作ったのに〜」
「万一流出でもしたら★★レコード倒産するから」
「うーん、仕方無いな」
 
「でも。最近ずっと部屋の中で卒論書いてるもんね。でも明後日は静岡ライブ、翌日は富山、1日おいて沖縄だから、気分転換にもなるし、美味しい御飯も食べられるよ」
「私、プルコギ食べたい」
 
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「ああ。じゃ韓国料理店にでも行く? 新宿に出れば、遅くまでやってる所あるし」
「私、ソウルで食べたいなあ」
「うーん。。。じゃ、沖縄公演が終わった後、ソウル行く? 韓国は観光ならビザ不要だから、航空券取ればすぐ行けるし」
「明日行きたい」
 
「明後日、ライブがあるんだけど」
「だから明日日帰りで」
「えー!?」
「できない?」
 
「うーん。。。。じゃ、あまり遅くならない便で帰ってくる。だから事実上お昼食べたら帰ってくる感覚」
「うんうん、それでいい」
 
「じゃ、航空券予約するよ」
 
ということで私は政子のワガママで、翌日朝の羽田発金浦行きと、夕方4時の金浦発羽田行きのチケットを押さえた。
 
「予約したよ」
「サンキュー。冬大好き〜」
と言ってキスする。
 
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「今日の晩御飯は食べた? 私ひとりならお茶漬けでも食べようかな」
と言ったら政子は
「え?今から新宿に行くんでしょ?」
などと言う。
 
「へ?だからプルコギは明日ソウルで食べるのでは?」
「そうだなあ。じゃ今日は日本の焼肉を食べよう。for comparison」
「はいはい」
と言って私は苦笑して、焼肉を食べに行くのに良いような服に着替えた。
 

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翌朝8:50のANA-1161便 B777-200ER機のビジネスクラスに乗って金浦空港に行った。私は「寝る!」と宣言して機内ではずっと寝ていた。飛行機を降りて、入国審査に行くと、入国カードに滞在先が書かれていないことを指摘された。
 
「Where are you staying?(どこに泊まりますか?)」
「Day trip (日帰りです)」
「Business?(お仕事ですか?)」
「No. Only for lunch.(いえ。お昼を食べるだけです)」
「Can I see your return ticket?(帰りの航空券を見せて下さい)」
「Here you are(はい、こちらです)」
 
それで審査官は頷いて通してくれた。政子は最初から
「I'm in a day trip, too」
と言って、帰りの航空券も提示し、そのまま通してもらえた。
 
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地下鉄に乗り、ソウル駅乗り換えで明洞(ミョンドン)で降りた。政子が友人から聞いた焼肉屋さんがその近くにあるらしい。
 
「ああ、ここだ、ここだ」
と言って中に入る。ちょうどお昼時なのでお店は混んでいたが、うまい具合に席が空いていたので座ってプルコギを注文する。
 
「プルコギ、シビンブン・チュセヨ(プルコギ10人前ください)」
 
と政子が言うと、ウェイターが目をぱちくりさせる。
「サムインブン(3人前?)」
と言ってウェイターは指を3本立てる。
 
政子の発音がとーっても適当なので、聞き違いかと思ったのだろう。
「アニョ。ヨル(いいえ。十)」
と言って、政子は両手の指を全部開いてみせる。
 
「アルゲッスムニダ(かしこまりました)」
と言ってウェイターは伝票に記入してテーブルを離れたが、それでも少し首をひねっていた。
 
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