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■夏の日の想い出・4年生の夏(2)
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「モーツァルトも原点だといつかおっしゃってましたね?」
「はい。それは親友の親戚の方が所有していた大量のクラシックCDを小学6年生の時に頂きまして、これをモーツァルトから聴き始めました。私は小学4年生頃から作曲を始めたのですが、この時期に大量にモーツァルトを聴いたことで、私の曲作りは随分進化したんですよね。モーツァルトの音楽の「空気の流れ」のようなものは私の現在の曲作りの中でも基礎にあると思います」
「ローズ・クォーツ・グランド・オーケストラの今後の活動はどうなってますか?」
「一応、今回楽団員を募集する際に、9月末までの期間限定ということで募集しておりますので、9月29日にラスト・ライブをして、それで解散ということを考えています。それまでの期間、ゆったりしたペースで演奏活動を続けます。一応、このオーケストラはアマチュア楽団という建前ですので」
この楽団はアマチュアという建前にすることで、学校の先生や会社員でセミプロ級の腕を持っている楽団員を集めることができたのである。そして基本的に土日祝日限定で活動している。実際には食事代・宿泊費などはサマーガールズ出版から出しているが、それ以外には「お車代」を渡しているだけである。但し指揮者の渡部さんやコンマスの桑村さん、ピアニストの美野里、ヴァイオリン・ソリストのアスカなどには別途報酬を払っている。
「ところで今回のローズクォーツのメンバーの役割は?」
「タカのギターソロは結構フィーチャーしています。サトには一貫してドラムスを打ってもらっています。マキも一貫してベースを弾いてもらっています。ヤスはとても器用なので、様々な楽器を担当してもらっています」
「『Rose Quarts Plays』シリーズの次の予定は?」
「私とマリの予定が立たないもので、当面は制作できません。来年の春以降に検討したいと思っています」
この記者会見を1階の会見室で終えた後、★★レコードの制作部門のフロアで氷川さんや加藤課長などと少し雑談的に話をしていたら、和泉から電話が掛かってきた。
「冬〜、旅行から戻ったよ〜」
「お疲れ様〜」
「『お土産』渡すから、うちに来ない〜?」
「なんか怖いなぁ」
「大丈夫。取って食ったりはしないから」
「あはは」
「じゃ、ちょっと行って来ます。そういうことで『魔法の靴』は来月中旬くらいからテレビスポットを流しますので、現在の在庫分はそのままキープしておいていただけませんか? 倉庫代をこちらに請求してもらってもいいですし」
「いや、それはこちらで負担するよ」
実はローズクォーツ『魔法の靴』に関して、前作『Night Attack』が10万枚売れていたので今回12万枚プレスしていたのに、5月末の時点で7万枚しか売れておらず、まだ出荷に回していない4.5万枚ほどを、このまま保持しておくかいったん廃棄するか、迷っていると言われたのである。それで私はあらためてプロモーションする予定なので、もう少し待って欲しい旨お願いしたのである。
「でもいづみちゃんとケイちゃんって、結構個人的な交流もあったのね」
と氷川さんから意外そうに言われる。
「元々私と和泉は高校1年の時のバイト仲間なんですよ。一緒に歌のお仕事をしたこともありますしね。まだKARION結成前に。実はその時の指揮者が渡部さんだった訳で」
「へー!」
「お互いのマンションにも行き来してるの?」
「和泉をうちのマンションに呼ぶとマリが嫉妬するのと、そもそも向こうの方が忙しいから、だいたい私が和泉のマンションに行きますね」
「なるほど!」
「いや、KARIONとローズ+リリーの活動を比べたらKARIONが忙しいだろうけど作曲活動まで考えると、どう考えてもケイちゃんの方がいづみちゃんより忙しい」
と加藤さん。
「あはは」
そういう訳で、私は神田の和泉のマンションに行った。和泉は高校時代は親と一緒に住んでいたものの、大学に入るのと同時にここにマンションを借りて引っ越した。高校時代は私と同様部屋が楽器であふれていて、自分の部屋で寝ることができずに、よく居間のソファで寝ていたらしい。
このマンションは3LDKだが、ひとつの部屋は簡易防音加工してピアノ(Yamaha C5L) とグロッケンシュピール、エレクトーン(Stagea)を置いている他、別の部屋にギター(アコギ3種類・エレキギター2種類)、エレキベース、フルート、アルトサックスなどが置かれているが、実際にはフルートやアルトサックスはレッスンは受けてみたものの、挫折したらしい。
「私は管楽器とは相性が悪いようだ」
と和泉は言っていた。
この楽器が置かれている部屋が和泉の創作部屋で、部屋に入るとローズウッドやサンダルウッド(白檀)、シダーウッドなど、主として樹木系のインセンスの香りがよく漂っている。
ヴァイオリンケースも置かれていたので尋ねたら、子供の頃に使ってた1/2のヴァイオリンで、そろそろ大人サイズ(4/4)に変えましょうかね、などと言っていた頃に挫折したらしい。
そういう訳で、和泉は私に「旅行土産」の詩をたくさん見せてくれた。
「どこ行ったの?」
「博多まで新幹線で行って降りたら目の前に地下鉄乗り場があったから何となく乗って。終点まで行ったら唐津って所で、とりあえずそこで1泊して。翌朝散歩してたら壱岐行きのフェリーがあったから、それに乗って。フェリーターミナルで観光地図もらってレンタカー借りて、猿岩とか、腹ほげ地蔵とか見て、その日は壱岐に泊まったんだけど。夕方散歩してこれを見たのよ」
と言って写真を見せてくれる。
「これは凄いね」
そこには神社の入口の所に立つ、人の背丈くらいはありそうな巨大な陽型の写真が写っていた。
「塞神社といって、アメノウズメ(天宇受売)という女神様を祭っている神社。私全然知らなかったけど、天岩戸伝説で、天照大神(あまてらすおおみかみ)を誘い出すために、岩戸の前で踊った神様なのね? 神社に置かれていた御由緒書きを読んで知った」
「うんうん。だから芸能の神様でもあるよ。私たち歌手はよくお参りしておくべきだよね」
「この情景がちょっと衝撃的でさ。それで書いたのがこの詩だよ」
私は詩を読んでみた。
「確かに凄い衝撃だったというのがよく分かる」
「これ今回のアルバムのタイトル曲で使えると思わない?」
「水沢歌月さんが頑張ればね」
「だから頑張って」
「あはは。これ数日待ってよ」
「うん」
「他に、これは長崎の平和祈念像前で書いた詩、これは吉野ヶ里遺跡で書いた詩、これは出雲大社で書いた詩、これは鳥取の白兎海岸で書いた詩、これは天橋立で書いた詩、これは『お水送り』というのが行われる鵜の瀬というところで書いた詩。冬、『お水送り』って知ってた?」
「うん。東大寺二月堂の『お水取り』の水を吸い上げる閼伽井(あかい:閼伽はAquaと同語源で水のこと)の水源でしょ?」
「よく知ってるな。私も初めて知ったよ」
「岡野玲子さんの『陰陽師』で出てきたよ」
「あの漫画、私途中で挫折した」
「あはは。でもそしたら、九州から福井まで、ずっと日本海沿いに旅してきたんだ?」
「たまたま来た列車に乗り継ぐという感じで旅してきたけど、結果的にはそういう感じになったね」
「一昨日は金沢に泊まって、《花嫁のれん》を見てこの詩を書いて、午後から富山県に入って高岡って所を散歩してたんだけどね。高岡が元々は富山県の中心だったのね?」
「そうそう。越中国の国府が置かれていたんだよ。当時は富山市は辺境の地で外山と呼ばれていたのが後に富山と書かれるようになった」
「なるほどー」
「それでさ、その高岡で不思議な女の子に出会って」
「ふーん」
「最初サイン求められたから、書いて渡したんだけどね」
「うん」
「私コーラス部なんですけど、先日『海を渡りて君の元へ』の使用許可を頂いたので、一所懸命練習してるんですよ、とか言うんだよね」
「あぁ。それ誰だか分かった」
「分かった?」
「川上青葉だね」
「そうそう! そんな名前! じゃ、よく知ってる子なんだ?」
「うん」
「で私もつい、じゃそれ聴かせてくれない?なんて言っちゃって」
「ほほぉ」
「でタクシーに乗って、一緒に彼女の高校に行って、コーラス部の練習を見学したんだよ」
「うんうん」
「あんなアレンジ初めて聴いたから尋ねたら水沢歌月さんから直接編曲の許可をもらって、そのアレンジ譜も水沢歌月さんがご自分で書いてくれたんです、ということで。携帯見せてもらったら、冬の個人携帯のアドレスが登録されててかなり頻繁にメールのやりとりもされてて。びっくりした」
「あはは」
「どういう子?」
「話せば長くなるんだけどね〜。まあ、『聖少女』の共同作曲者Leaf、先日槇原愛に渡した『遠すぎる一歩』の作曲者《絵斗》だよ」
「へー!」
「それより、あの子はまだ高校1年生だけど、日本で5本の指に入る霊能者でね」
「えー!?」
「だから、あの子は、KARIONの楽曲を聴いた瞬間、その曲に含まれる波動で、ケイと水沢歌月が同一人物であることが分かっちゃったのさ」
「なんと・・・」
「そんなのが分かるのは日本国内に10人もいないし、そのレベルの人は気付いても言いふらしたりすることはないから大丈夫だと言ってたよ」
「なるほどねー。それでその彼女たちの練習を聴いてて書いたのがこの詩なのよ」
と言って和泉は『歌う花たち』という詩を見せてくれた。
「すごい、きれいな詩だね」
「これ普通の曲の付け方はしたくない気がするんだよね」
「無伴奏曲にしようか」
「ああ、それいいかも知れない」
「穂津美さんにも参加してもらってさ。5人のKARIONで無伴奏で歌う。つまり私がギター代わり、穂津美さんにベース代わりになってもらうんだ」
「いいかも。じゃ、それも曲よろしくー」
「了解−」
「青葉、元気そうだった?」
「うん。というか、何か健康状態に問題でもあるの?」
「あの子も去年の夏に手術受けたばかりだからね。私とかの前では随分無理して元気な振りしてる気がするんだけど、実際は本人、まだ完全には体力を回復させてないんじゃないかという気がしてね」
「何の手術?」
「あ、えっと。まあいいか。性転換手術だよ」
「待て・・・・あの子、元男の子だったりする訳?」
「うん、実はね」
「全然そんな風には見えなかった。普通の女の子にしか見えなかった」
「あの子、物心付いた頃からずっと女の子として暮らしてきてるから」
「だいたい、あの子、高校1年というから、性転換手術を受けたのって中学3年? そんな年齢で手術してもらえるの?」
「特例中の特例中の超特例だと言ってた」
「すごーっ」
「青葉、和泉に何かしなかった?」
「あ、そうそう。学校に行くタクシーの中でさ。私がここ数日たくさん歩き回って足が痛いなんて行ったら、少しヒーリングしていいですか? と言うからよく分からないけどいいよと言ったら、私の右膝の所に手を当ててるんだよね。私、痛いのが右膝だなんて言わなかったのに」
「ふふふ。それが分かっちゃうのが青葉なのさ。痛み引いたでしょ?」
「そうなのよ!」
「あの子はそれが名人級なんだよ」
「練習を見た後も、私が富山空港から帰ると言うと、練習を見てもらった御礼にと言って、顧問の先生の車で空港まで送ってくれたんだけどね。その時彼女が後部座席に並んで座って、足以外にもかなり疲れがたまってるみたいですねと言われて」
「うんうん」
「何か疲れ取れる方法ある?と訊いたら、じゃ身体全体のヒーリングしましょうと言って、なんか私の身体と並行にずっと手を動かしてるんだよね」
「取れたでしょ?」
「うん。私の身体に接触してないのに、まるでエステでも受けてるみたいな気持ちよさでさ。何だか凄く楽になった気がして。私、飛行機の中でも、帰ってから昨夜マンションでもぐっすり寝てて、朝起きたら元気100%。長旅だったから数日は疲れが残るかと思ってたのに」
「私と政子の活力の元も青葉のヒーリングだよ」
「すごっ! だったら、また疲れてる時とかやってもらおうかな」
「一度直接ヒーリングしてるから、次からは電話掛けてリモートでもヒーリングしてもらえるよ」
「わあ、凄い。頼もう」
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