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■夏の日の想い出・風の歌(1)

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(C)Eriko Kawaguchi 2013-04-28

 
私は中学に入ってすぐ陸上部に入ったのだが、私はとっても鈍足だったので、5月の春の大会ではもっぱら見学と雑用係で、ゴールのテープを持っておく係とか、記録用紙をゴールから本部に持って行ったり、また自分のチームの所にいる時は、出場する人の柔軟体操の相手を務めたり、声援を送ったりしていた。
 
「冬ちゃん、男子とも女子とも柔軟体操で組めるから便利だね」
などと1年生女子のエースである貞子などからは言われていた。
 
一応登録上の性別は男なのだが、触った感触は女なので、こういう便利な使われ方をしていたのであった。またトイレに関して、私は最初ちょっと「事故」が起きたことから「唐本、お前は女子トイレ使ってくれ」と部長から言われて、別に女装している訳でもないのだが!女子トイレを使っていた。
 
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しかしそんな私も4月からずっと毎日他の足の速い人たちと一緒の練習を重ねてきたことから、秋の大会には出してもらえることになる。先生からは400mと走り高跳びに出すよと言われていた。当時、先生は私の「使い方」として、長距離で使うか、フィールド競技で使うか、少し悩んでいた感じもあった。
 
夏休みの間も毎週3回の練習に出ていき、たくさん走り、たくさん飛んだ。私は筋力が無いから、高飛びにしても飛ぶ力自体はあまり無いのだが、身体が柔軟なので、ベリーロールを使うとけっこう高さが稼げるのである。高飛びに出場する他の選手はだいたい背面跳びをしていたが、私はベリーロールで頑張っていた。
 
「冬ちゃん、気持ち良さそうに飛んでる」
「飛ぶ時、風を感じられるのが気持ちいいです」
「ああ、風を切るからね」
「私ロード走るのも好きです。いろんな風が感じられて」
「そうそう。同じ1万m走るのでも、ロードの方が楽しいよね」
 
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「でも冬ちゃんのベリーロールの飛び方って、凄くきれい。お手本にしたいからビデオ撮らせて」
 
などと言って、加藤先生はほんとに私の飛ぶ所を撮影していた。
 
「これで筋力がもう少しあれば結構入賞狙えるのになあ」
「女子ではでしょ?」
「そうそう。冬ちゃん、女子としてエントリーする? 多分バレない」
「無理です〜」
「このビデオ見た人はみんな女子選手の模範演技だと思うよね」
「思う思う」
 
「でもベリーロールって、体重移動とか身体の動かすタイミングとかが凄く難しいのよね。今大きな大会では背面跳び一色だけど、本当に背面跳びの方がベリーロールより高く飛べるのかというのは、結論が出てないんだ。ただ身体の柔軟性とか、リズム感とかを要求されるから、これでいい記録出せる選手は限られるんだよね〜」
と加藤先生。
 
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「ああ、私みたいに不器用な人には無理」
とそばで貞子が笑っていた。
「冬ちゃん、身体が無茶苦茶柔らかいもん。私も冬ちゃんと柔軟体操しているおかげで、春頃よりかなり柔らかくなってきたけど、まだまだだからなあ」
 
「柔軟体操って、身体の柔らかい人と組んでやると自分も柔らかくなるからね」
 

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さて私は7月にひょんなことからクラリネットを覚えることになり、吹奏楽部の友人、貴理子に教えられながら練習をしていた。その覚えたて、始めてからわずか半月というクラリネットで図々しくも8月14日に行われた都内のアマチュアオーケストラの演奏に出たのであるが、その後は9月の吹奏楽部の大会に出てと言われ、学校で吹奏楽部の練習に参加していた。陸上部も吹奏楽部も夏休みの間は練習が月水金だが、陸上部は午前、吹奏楽部は午後なので、掛け持ちで参加できていたのである。
 
貴理子からは吹奏楽部にセーラー服着てきてもいいよ、などと唆されたのではあるが、一応自粛的に学生服で参加していた。
 
「こないだちょっと参加したオーケストラもまあ面白かったけど、ブラスバンドもまた面白いね」
と言ったのだが、貴理子から
「冬、うちはブラスバンドじゃなくて吹奏楽」
と言われる。
 
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「へ? ブラスバンドと吹奏楽って違うの?」
「ブラスバンドといえば、ブラスだから金管楽器。吹奏楽はウィンドバンドで管楽器」
「ああ!木管楽器が入るかどうかか!」
 
「そうそう。ウィンドバンドは木管楽器 wood wind と金管楽器 brass wind を使う」
と貴理子は説明する。
 
「風の楽器かあ。でもそれごっちゃになってない?」
「うん。だいたい混同されている。でも吹奏楽の大会の参加規定にハッキリと『ブラスバンド編成での参加は禁止』って書かれているよ」
「へー!」
 

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しかし吹奏楽部の練習は、楽器を吹くことだけではなかった。とにかく走らされた!
 
まず練習を始める前に校庭の外周を30周走らされる。その上、坂道(上り坂)30mのダッシュを50本やる。そのあと腹筋50回、背筋50回、腕立て伏せ50回やる。
 
「これ、きついよー!」
「陸上部員が何言ってる?」
 
また体力が付くよと言われて、ニンニクを焼いたのを食べさせられた。
 
「でもニンニクを食べて楽器を吹くと楽器にニンニクの臭いが移らない?」
「みんな食べてるから気にならない」
「確かに!」
 
演奏の練習が終わった後もまた校庭10周くらい走っていた。その後、クールダウンということで学校のプールに移って、みんな25mプールを10往復くらい泳いでいたが、これについては貴理子が私に配慮してくれた。
 
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「唐本君、泳げないので、一緒に市民プールに行って水中ウォーキングしてきます」
と言い、私を連れ出してくれる。
 
「冬ちゃんさ。5年生の時に奈緒ちゃんたちに唆されて女の子水着を着てたよね」
「うん」
「あの水着、まだ持ってる?」
「持ってる」
「じゃ、それ持っておいでよ」
「えー」
「それとも男子水着になる?」
「嫌だ」
「じゃ、女の子水着を着よう。写真撮ったりしないからさ」
「うん」
 

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それで私は家に寄って、その水着を取り出し、身につけてから中性的な服を上に着て、貴理子との待ち合わせ場所に行った。
 
「水着、中に着込んで着た」
「ああ、それがいいかもね」
 
市民プールのチケット(中学生は100円)を買う。
 
「あ、私がまとめて買ってあげるよ」
と貴理子。
「私のために貴理子ちゃん、こちらに来てくれたからプール代は私がふたり分出すね」
と言って100円玉を2枚渡す。
「了解〜」
と言って、貴理子は100円玉を2枚入れ、「中学女子」のボタンを2回押した。
 
「はい、どうぞ」
「中学女子?」
 
「だって冬は女子水着だよね? だったら女子更衣室を使うよね。ということは、女子のチケット買わなきゃね」
「あはは」
 
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貴理子と私がチケットを提示すると、係の人は女子更衣室の鍵を2本くれた。逃げ腰の私の手を握って、貴理子は女子更衣室に入っていく。
 
「さあ、着替えよう」
と言って貴理子が服を脱いで水着を着る間、私は視線を逸らしていた。私も上の服を脱いで水着になる。
 
「女の子同士だし、気にしなくていいのに」
などと貴理子は笑っている。
 
「でも少しおっぱいあるね、これ」
と言って貴理子は私の胸に触る。
 
「うん、少しね」
「まだ小さいけど気にすることないよ。うちのクラスの女子の中にはこの程度の胸の子もまだいるよ」
「バストの成長時期って個人差あるからね」
「そそ。冬もこれからきっと大きくなるんだよ」
「ははは」
「でも、下は上手に隠してるね」
「隠さなきゃやばいからね」
 
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シャワーを浴びてプールに入り、一緒に準備運動をした上で、左端に設定されているウォーキングコースに入り、ひたすら歩く。
 
「しかし吹奏楽部って運動部なんだねー」
「ほんと、ほんと」
「でも水の中は気持ちいい」
「うんうん。これ練習の後のご褒美って感じだね」
「夏になる前はどうしてたの?」
「帰ったらお風呂の中で手足をマッサージしろと言われてたよ。プール終わって家に帰ってからも、それやった方がいいよ」
「うん」
 
「でも水の中で歩くのにもけっこう筋肉使う感じしない?」
「するする」
 
そういうわけでその年の夏休みは吹奏楽部の練習がある度に、私は貴理子と一緒にプールに行き、女子水着を着て、ひたすら水中ウォーキングをしたのであった。
 
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ところでこの夏休みのある日。その日は火曜日で練習はお休みだったのだが、朝、貴理子から電話が掛かってきた。
 
「ね、冬、ちょっと頼みがあるんだけど」
「なあに?」
「私ね、金本君と付き合ってるんだけどね」
「ああ、吹奏楽部でトランペット吹いてる2年生の?」
「そうそう。それでさ、こないだから私がいつも冬と一緒に帰ってたでしょ」
「ああ」
 
私はだいたい事情が飲み込めた。
 
「金本君が変に誤解しちゃって。冬、ちょっと誤解解くのに一肌脱いでくれない?」
「一肌脱ぐって、ヌードになれとでも?」
「そうだなあ。ほんとに脱ぐのがいいかもな」
 

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それで私はわざわざ学生服姿で、11時頃、待ち合わせ場所に出て行った。先に貴理子と金本君が来ている。
 
「こんにちはー」
と明るく挨拶する。
 
「あれ?女の子みたいな声」
「うん。学校では男の子を装ってるけど、私中身は女の子なんです」
と私は明るく女声で答える。
 
「じゃ、ほんとにキーちゃん、唐本とは何でもないの?」
「うん。だって、冬ちゃんはほんとに中身は女のだから」
 
「証拠をお見せします」
と私は言うと、学生服の上をその場で脱いでしまう。
 
すると下に夏服のセーラー服を着ている。
「え?」
 
「下も脱いじゃいますね」
と言って学生ズボンを脱ぐと、下はセーラー服のプリーツスカートである。
 
「嘘! ほんとに女の子みたい」
「学校には規則があるから男子制服で出てきてるけど、冬ちゃん部活の後は女の子の服に着替えて、私と一緒にプールに行ってたんだよ」
 
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「そうだったのか! ちょっとびっくり。でもそうしてると女の子にしか見えない! でも声は男の子の声も女の子の声も出るんだね」
「うん。私の声変わりは『なんちゃって声変わり』だから」
 
「実際『なんちゃって男子中学生』だよね。髪型はほとんど女の子の髪型だし」
「あ、それはちょっと思った。髪長くしてるのはロックかなとも思ったけど」
 
「えー?私、ギターもベースも弾けないし」
「練習すればすぐ弾けるようになりそうだけどなあ。練習してみる?」
「いい。この夏は、胡弓とヴァイオリンとクラリネットだけで手一杯」
「じゃ、来年の夏にでも」
 

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結局、更に私がいかに女の子であるかを確認してもらおうというので、そのままプールに行くことになる。
 
「今日は私がまとめて払うよ」
と言って貴理子は券売機に300円入れ、女子中学生の赤いボタンを2回と男子中学生の青いボタンを1回押した。
 
「はい」
と言って配る。
 
「え?唐本、女子中学生のチケットなの?」
「だって、ほんとに女子だもんね〜。さ、行こ行こ」
と言って貴理子は金本君に手を振り、私と手を繋いで女子更衣室に入る。
 
いつものように水着に着替えてシャワーを通り、プールに出た。金本君は先に来ていた。
「お待たせ〜」
 
「えー!?唐本、女の子水着を着るのか!」
「それを他の人に見せるのが恥ずかしいって言うもんだから、私が市民プールに連れ出してたのよ」
「なるほど、そうだったのか。でも違和感無く着てるね」
「でしょ?」
 
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「その下は・・・付いてないように見えるけど」
「隠してるらしいよ。本人の弁では?」
「そんなに隠せるもん?」
「奈緒ちゃんたちは、実はもう手術して取っちゃってるのでは?とか言ってるけどね」
「あはは、取ってないですよー」
 
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