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■夏の日の想い出・風の歌(7)

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休憩後は、流れるプールで楽しんだり、また美佳・麻央・佳楽がスライダーに行ったりしていた。スライダーで身体を使っている分にはいいのだが、さすがに9月下旬なので、じっとしているのには寒い。それで私たちは温泉プールで身体を温めては少し泳いだりもしていた。
 
「冬〜、少し泳ぐの競争しない?」
「あ、私金槌だから。平泳ぎは何とかなるけど、沈まない程度で推進力ほとんど無いし」
「それはいけない。水泳やってると心肺能力が鍛えられて、楽器も歌も基礎力が上がるよ」
「ほんと? そしたら少し練習しようかなあ」
「あ、アスカさん、私と競争しません?」
とスライダーから戻って来た麻央が言うので
「よし、泳ごう」
 
と言って、ふたりでかなり泳いでいた。今日は客が少ないので、泳ぎたい人には便利な日である。私はアスカに言われたので、プールの縁につかまってバタ足の練習をしていた。
 
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営業終了時刻の30分前にあがる。水着になるのは中学生組はロッカールームでしてしまったのだが、水着を脱ぐのはさすがに更衣室に行く。
 
「冬、男子更衣室に行っていいよ」
「いや、この水着で男子更衣室に入って行くとパニックを起こすから」
「ふーん。じゃ、どうするのかな?」
「えっと、女子更衣室に入ってもいいかなあ」
「痴漢として捕まっても知らないけどね」
 
などとアスカはわざとそんなことばを掛ける。
 
それでもみんなでぞろぞろと女子更衣室に入る。麻央を見てギョッとしている客もいるが、女子9人の集団でいるし、麻央もちゃんと女子水着をつけていて胸もあるので、悲鳴をあげたりするには至らない感じである。
 
「冬、ここで水着を脱がない?」
「あ、えっと個室で着替えてくるね」
「まいっか。次が待ってるし」
 
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ということで全員、個室に入って着替えてくる。私が着替えて個室から出ようとした時「キャー」という声を聞いた。ああ、麻央かな? と思ったら案の定であった。
 
「この子、間違いなく女の子ですから。スポーツしてるんで短髪なんです」
とそばで明奈が説明している。
 
「ほんと? ごめんねー」
と悲鳴をあげてしまった女性が言っているが、表情を見るとまだ完全に麻央の性別疑惑を解消した訳ではない雰囲気だ。
 

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全員着替え終わった所で、お風呂の方に移動する。受付で半券1を渡して中に入り、3階の受付で半券2を渡す。何だか不思議なシステムだ。靴を下足箱に入れてフロントでロッカーの鍵をもらってから、エレベータで1階に降りる。ここで男女に分かれることになる。
 
「冬ちゃん、男湯に行ってもいいよ」
などとアスカが言う。
「入れるものならね」
と明奈も何だか嬉しそうな顔で言う。
 
リクエストされたからには、ということで私はためしに男湯の入口の方に入ろうとしたが、女湯の入口の所にいるスタッフの人から声を掛けられる。(男湯の入口にはスタッフはいない)
 
「お客様〜! そちらは男湯です!!」
「あ、すみませーん」
 
と答えて戻ってくる。
 
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「やはり、冬は男湯には入れないね」
「そうみたい」
「じゃどうするの?」
「あ、えっと、女湯に入っちゃおうかな」
「へー、女湯に入るつもりなんだ?」
とアスカは意地悪な顔で言う。
 
「じゃ、冬ちゃんが男の子だという証拠をつかんだら通報しよう」
などと佳楽も言う。
 
それで9人一緒に女湯のロッカールームへ入ろうとする。その時スタッフさんがまた声を掛ける。
 
「すみません、そちらの方は男の方では?」
 
ん?ということで一瞬みんなの視線が私に集中するが、すぐにスタッフさんは麻央を見ていることに気付く。
 
「あ、すみません、ボクたぶん女です」
「この子、スポーツしてるんで髪を短くしてるんですよ。間違いなく女の子ですから」
とリナが言う。
 
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「そうでしたか。失礼しました」
とスタッフさん。
 

「でも男湯が黒部峡谷の湯、女湯が奥入瀬渓流の湯というのは最高に分かりにくい」
「一応小さく、男湯・女湯と書いてはあるね」
 
「でも、麻央はずっと丸刈りなの?」
「顧問の先生は伸ばしてもいいよと言ったんだけどね〜。他の部員は丸刈りだから、ボクも合わせて丸刈りにしておくよ」
「でも、丸刈りにしてると、ずっとトラブルが発生し続ける気が」
「うん。その内、有無を言わさず逮捕されそうな気もする」
 
ロッカーに貴重品を入れようという所で佳楽が気付く。
 
「ね、男湯に入っちゃったら、この番号に合うロッカーが無いのでは?」
「あ、そうだね」
「全員ちゃんとロッカーある?」
「冬はある?」
「うん、ここにあるよ」
「麻央は?」
「ある。フロントの人はボクは女と認識してくれたのかな」
「まあ、服装は女の服に見えるし、女の声で麻央話してたからね」
「ああ、声は性別を判断する上で重要な情報だよね」
「髪だけなら、神取忍みたいな人もいるし」
 
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貴重品をロッカーに入れた上で脱衣場に移動する。話題が麻央のことになってしまったので、その件で、麻央のこれまでの「悲鳴をあげられた話」を聞きながら、がやがやとした感じで、みんな服を脱ぐ。
 
「でも麻央も、このおっぱい見られたら、男とは疑われないよね〜」
 
といった話になったところで
「あ、冬ちゃんは?」
となる。
 
「ん?」
「冬ちゃんも、おっぱいあるね」
「うん、これ既にちゃんとしたおっぱいだという気がする」
「ここまで発達すれば、もう御婿さんには行けないね」
 
などと言って、みんなから触られる。
「ビッグバストドロップ飲み始めてから、もう1年半だからね〜」
と私は答えるが
 
「そんなんで、ほんとに大きくなるかなあ」
と疑いの声があがる。
 
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「で、女性ホルモンの方は飲み始めてからどのくらい?」
と明奈。
 
「そんなの飲んでないって」
と私。
 
「冬、私が冬の鞄の中に入れておいてあげたのは?」
と姉が言う。
 
「飲んでないよぉ。でもお母ちゃんに見つかると飲んでると思われそうだから分かりにくい所に隠しておいた」
と私。
 
「お姉さん、何を入れてたんですか?」
「エストロゲンの錠剤1瓶。まあビッグバストドロップより安い」
「へー」
 
「ああ。あの手のは全然効かないサプリより、ちゃんと効く本物の方が安いみたいね」
とアスカが言う。
 
「あ。分かった! エストロゲン飲んでないなら、注射してもらってるとか」
「そんな、小学生や中学生の男の子にエストロゲン注射してくれる病院がある訳無い」
「あ、注射液を入手して自己注射してるとか」
「まさか」
 
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「飲んでもない、注射してもいないとしたら・・・・」
「実は卵巣があるんじゃない?」
「ああ、そうかも」
「冬、どうなの?」
「さ、さあ、どうなんだろうね?」
 

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洗い場は仕切りがされている。そこで各自身体を洗ってから、まずは内湯に入る。
 
「うーん。。。付いてるように見えないなあ」
「あまり、じーっと見ないように」
 
「ほんとにそれ隠してるだけ?」
「手術した覚えはないけどなあ」
 
「本人も知らないうちに手術されちゃったとか?」
「それで本人も無くなっていることに気付かないとか?」
 
「しかし冬って前は手やタオルで隠しても、ぶらさがっているのが後ろからなら見えそうなのに、歩いている所を後ろから見ても確認できないね」
「うん、やはり付いてないとしか考えられない」
 
「なんか、もう私の中では冬にはアレは付いてないという結論を出してもいい気がしてきた」
などとアスカは言う。
 
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「お姉さんの見解は?」
「そうだなあ。あんた、もう私の妹ということでもいいよ」
「ああ、たぶん本人は妹という意識だという気がします」
「そっかー」
「こないだ、富山では風帆おばさんの姪ですって自己紹介してたよ」
「なるほど」
 
 
「でもいつ手術したのさ?」
「お姉さんが最後に冬ちゃんのアレを見たのは?」
「それが記憶無いんだよねー。赤ちゃんの頃、おしめ取り替えるのには見てるよ」
「ほほお」
 
「私よりリナちゃんの方が見てない?」
「少なくとも小学校に入ってからは見てないです。小3の時に麻央や美佳と一緒にお風呂に入った時も、気をつけてたけど見なかったもんね。幼稚園の時には私何度か冬と一緒にお風呂入っていて、冬は私に見られたと言っているけど、私自身は見た記憶が無いんだよねー」
とリナ。
 
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「冬ちゃんが幼稚園の年中の時に、私別府で一緒にお風呂入ったけど、その時はあそこには何にも無かったですよ」
と明奈。
 
「ということは少なくとも5歳頃までには既に無かったということでは?」
「なるほど」
 
「でも手術してないというのであればどうやって無くなったんだろ?」
「自分で切っちゃったとか?」
「誰かに襲われて切られちゃったとか?」
「何かの事故で無くなったとか」
「自然に消滅したとか」
 
「もう、みんな想像力が豊かなんだからあ。ちゃんと付いてるよ」
「付いてるなら、見せてごらん」
「そんなの見せられません。こんな所で見せたら逮捕されるよ」
 
「付いてるのに女湯に入って、私たちのヌード見ているとしたら充分逮捕されていいと思うな」
「そうだ、そうだ」
 
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その後、内湯を出て露天風呂を回るが、話題はアスカのドイツ短期留学の話とか、麻央の野球の話とかに中心は移っていく。純奈・明奈・佳楽が民謡を習っているので、民謡の話題も出た。
 
「でも冬ちゃん、民謡も唄うし、クラシック系の曲も歌うし、ポップスも歌うよね」
とアスカが訊く。
「どれが本命?」
 
「ポップスです」と私。
「即答したね!」
 
「民謡はやはり喉を鍛えるためにやっているというのが本音です。元々は声変わりを克服して、こういう女の子の声を維持するために始めたんですけどね」
 
「いや、タマが無ければ声変わりはするはずもない」
「うーん。。。。」
 
「それにね。クラシックとかでは小さい頃から鍛えているアスカさんとかにはかないようもないし、民謡でもやはり小さい頃からちゃんとやってた佳楽ちゃんや明奈ちゃんたちにかないようがないです。結局、ボクが小さい頃からずっとやってたのってポップスなんですよ。お母ちゃんが洋楽ファンでよくCDや楽譜買って来てくれて、エレクトーンでも弾いてたし、歌ってたし」
 
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「うーん。冬ちゃんって音程が物凄く正確というか精密だから、クラシックの発声法とか勉強すれば、私すぐ追い越されそう。歌ではね。ヴァイオリンじゃ絶対負けないけどさ。私は440Hzのラも442Hzのラもいきなり聴かせられたらどちらもラとして認識してしまうけど、冬ちゃんは440Hzと442Hzを聞き分けて別の音と認識するでしょ」
とアスカ。
 
「冬ちゃん、三味線は五年生の時から始めたんでしょ?たった2年で今は6年くらいやってる私とほとんど差が無い感じだもん。物凄く習得が速いから、あと2〜3年経てばきっと私、追い越されるよ」
と明奈も言う。
 
「うん。ボクって確かに物を覚えるの速いけど、最初だけなんだよねー。ただ器用なだけで、全てが中途半端なんだよ。いわゆる器用貧乏だよ」
と私は言う。
 
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「ああ、そういうタイプか」
「うん。クラシックも民謡も中途半端」
 
「冬って男としても女としても中途半端かもね」
「うん、それも認識してる。どっちみち男にはなれないけど、100%女ではないし」
「ああ、冬は男には絶対なれないね」
「でもそれも修行してれば、そのうち100%の女になれるよ」
「どんな修行するの!?」
 
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