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■夏の日の想い出・点と線(8)
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映像には秋風コスモスとアクア・葉月が並んでいる。コスモスが説明する。
「アクアは東京で紅白に出た後、新幹線で名古屋に移動してきました。葉月(はづき)は小浜での前座に出たあと、しらさぎと新幹線で名古屋に移動してきました」
実は葉月が前座の中でトップで出演したのはこういう事情があったのである。コスモスはフリップボードで2人の行程を示す。
(葉月の行動)
18:20に出番終了→河合マネージャーが運転する車で敦賀駅に移動
敦賀20:16(しらさぎ16)20:50米原21:04(ひかり536)21:23名古屋
(アクア・コスモスの行動)
19:30に出番終了→山村マネージャーが運転する車で品川駅に移動
品川20:00(のぞみ419)21:36名古屋
「ここは名古屋駅そばのスタジオで、現在は21:53です」
と言ってコスモスが自分のBaby-Gの腕時計を示す。時計は21:53だったが、カメラが映してすぐに21:54になってしまった。
「本当に今日撮影している証拠に、2人には東京と敦賀で駅弁を買ってきてもらいました」
それでアクアは崎陽軒の「シウマイ弁当」、葉月は塩荘の「越前かにずし」を手に持って示す。カメラが寄って製造日が12.31になっているのを映す。それで今日販売されたものであることが分かる。
「なお実際には2人が駅に到着したのはもう販売終了した時刻だったのであらかじめスタッフに買ってもらっておいたのですが、確かに今日の録画ということがおわかりになったかと思います。それでは演奏してもらいます」
とコスモスが言うと、ヴァイオリン奏者の前奏が始まる。
アクアと葉月はピアノの前に並んで座っているが、まずは連弾でAメロを演奏し始める。私とマリの歌も始まる。Aメロに続いてBメロまで演奏したところで、アクアと葉月は脇に置いているリコーダー(アクアがソプラノリコーダー、葉月はアルトリコーダー)を取ってサビを吹く。次はフルートに替えてAメロ・Bメロを吹く。これはどちらも普通のフルート(コンサートフルート *1)である。更にクラリネット(B♭管)を持ってサビを吹く。フルートやクラリネットは基本的に三度奏になっている。
クラリネットの次は今度は“水色の”Ewi5000を持ちCメロ・Aメロを吹く。
ここで水色のEwiを用意したのは、リコーダー・フルート・クラリネットまでは縦笛・横笛・縦笛と変わるので違いが明確だが、クラリネットとEwiはどちらも黒い縦笛で違いが分かりにくいのではという意見が出たところで川崎ゆりこが「色塗っちゃいましょう」という意見を出したためである。それで新しいEWi5000を2本買って、ウィンドシンセに詳しい工房に頼み操作性や回路に影響が出ないように着色してもらったのである。水色を選んだのは“アクア”のイメージカラーだからである。なお、Ewi5000はネックストラップを使わずに手だけで支えて演奏している(そうしないとネックストラップの着脱が大変)。ちなみにクラリネットが黒いのでリコーダーは象牙色の物を使用した。
Ewi5000の後は1小節のブリッジの間に立ち上がり、ヴァイオリンを持つ。
ヴァイオリンでサビ8小節を演奏し、続いて近くの別の椅子に座ってチェロでサビのバリエーション8小節を弾く。ギターに持ち替えてAメロBメロを再現し、最後は2小節のブリッジの間にドラムスの所に移動して、ひとつのドラムスを2人で一緒に叩く。
終わった所でミューズシアター・アリーナから物凄い拍手があった。私は再度紹介する。名古屋はもう生映像に切り替わっている。私は演奏者を再度紹介する。
「ヴァイオリン、真坂花代、田沼須美」
名古屋にいる2人がお辞儀する。
「そしてピアノ、リコーダー、フルート、クラリネット、ウィンドシンセ、ヴァイオリン、チェロ、ギター、ドラムスと9つの楽器を演奏してくれた人、アクア、今井葉月(ようげつ)」
葉月の名前はコスモスは「はづき」と発音したが、私は敢えて「ようげつ」と発音した。彼には時々でも自分が男の子であることを思い出させたほうがよい。(どうも本人も自分の性別を忘れているようなので)
アクアがお辞儀するが葉月人形はお辞儀しないので、アクアが人形を傾けてお辞儀するかのようにした。この仕草に会場では笑い声が起きる。
「アクアちゃん、名古屋で何か食べた?」
という声がこちらの会場で起きる。すると向こうにいるアクアから
「今流した収録が終わった後で、葉月ちゃん、コスモス社長、ヴァイオリニストさんたちと一緒に、ひつまぶし食べたよ。コスモス社長のおごり」
とお返事がある。
それでこちちらの声が向こうに伝わっていることが確かめられると、また歓声が起きていた。
川崎ゆりこが
「名古屋の皆さん、ありがとうございました。ゆっくりお休み下さい」
と言い、中継は終了した。
(*1)他の楽器からの類推で、つい“ソプラノフルート”と言いたくなるが、ソプラノフルートというと普通のフルートより高いピッチの楽器なので注意。普通のフルートはコンサートフルート、グランドフルート・ベームフルートなどと言う。ベームはフルートという楽器を完成させたテオバルト・ベーム(Theobald Boehm)にちなむ。Cフルート(C flute)ともいうが、C管という意味とコンサートフルートの略を兼ねているかも。
フルートの同属楽器の名称
ピッコロ Piccolo (C5)
トレブルフルート Treble flute (G4)
ソプラノフルート Soprano flute (F4)
コンサート・フルート Concert flute (C4) ★★
フルート・ダモール Flute d'amour (B♭3 or A3) アルトフルート alto flute (G3)
バスフルート bass flute (C3)
コントラアルトフルート Contra-alto flute (G2)
コントラバスフルート Contrabass flute (C2) サブコントラバスフルート Subcontrabass flute (G1)
ダブルコントラバスフルート Double contrabass flute (C1)
ハイパーバスフルート Hyperbass flute (C0)
『愛のデュエット』が終わった所でスターキッズやその他の伴奏者が入ってくる。
「今年はマリがあやめを産んだ時に『天使の歌声』を書いたのですが、この曲は高校時代に書いて2012年にアニメの主題歌として発表した『天使に逢えたら』の続編のようにもなっています。それで2曲を続けて演奏したいと思います」
どちらも近藤さんのアコスティックギター、詩津紅のグランドピアノ、それにヴァイオリンとチェロ、フルートにクラリネットをフィーチャーしたアコスティックな楽器構成での演奏である。7万人を収容した会場に優しい生楽器の音が染み込むように広がっていく。
やはり生楽器の音を使うのがローズ+リリーの魅力のひとつなんじゃないかなと私は思っている。それで最近は月岡さんには本来の担当楽器であるマリンバやヴィブラフォンを弾いてもらい、ピアノは美野里や詩津紅などに弾いてもらうことが多くなっている。美野里はピアニストとして多忙なので、ツアーでは詩津紅に弾いてもらうことが多く、月岡さん自身は「詩津紅ちゃんはもうスターキッズのメンバーということでもいいよ」などと言っている。それはツアーメンバーとして定着している青葉のお友達の田中世梨奈・上野美津穂も同様だが、この2人は就職したら参加は困難になるかも知れない。
2曲の演奏が終わった後、次の曲を紹介する。
「次の曲は、トラインバブルが『愛の八高線』のタイトルでカバーしてヒットした曲の元歌、『東へ西へ』です。元々は北海道の忍路(おしょろ)港で行き交う船の群れを見て書いた曲です。その忍路港で撮影したPVと一緒にお届けします」
と言って、演奏を始める。あれはXANFUS解体騒動の時、解雇のショックで呆然としていた音羽を北海道に連れて行き、マリが彼女を伴ってドライブに行った時に見た光景を元にしている。PVは後日撮影したものだが、地元の漁協に撮影許可を取ったら「それなら」といってたくさんの漁船に大漁旗や急遽作った「Rose+Lily」と書いた旗(文字を書いたのはマリ)などまで付けて漁港を行き来してくれ、賑やかな映像になったものである。美しさで定評のある忍路の夕日も、ベストビューポイント(陸上から行くと結構怖い場所にある)から撮影させてもらえている。今日の観客もその美しい夕日の映像を堪能していたようである。ちなみに実は若狭湾の夕日もものすごく美しく『やまと』を制作した時に撮影したのだが、使えないままになっている。
続いて『雪原を行く』を演奏し、私が千里の運転するスノーモービルに乗って雪原に消えて行く様子なども映像で流れると、結構な笑い声が起きていた。
次の曲は『青い豚の伝説』である。ここからダンサーが入る。今回はダンサーは桜木ワルツと山下ルンバの2人にお願いした。この2人は元々同じ九州出身ということで仲が良い(ルンバは佐賀の多久(たく)、ワルツは鹿児島の川内(せんだい)。それで息の合ったダンスパフォーマンスをしてくれた。
むろんストリップは無しである!
2人は“簡易振袖”(2ピースになっていて洋服と同様に簡単に着られるもの)で踊ってくれたのだが、演奏が変わるとルンバの振袖の袖からお玉が出てくる。それを私とマリに渡す。すると客席から「ピンザンティン!」という声が掛かる。ライブもいよいよクライマックスである。
短い前奏に続いて
「サラダを作ろうピンザンティン、素敵なサラダを」
「サラダを食べようピンザンティン、美味しいサラダを」
とサビを歌う。このやや中毒性のあるサビが客席も大合唱になる。それとともに多数のお玉が客席で振られる。
「太陽の力だよ、アスパラ、トマト」
「土の中から、ニンジン・タマネギ」
「葉物も素敵ね、キャベツにレタス」
「ドレッシングはフレンチ?シーザーズ?」
この曲で大いに盛り上がってから私は会場の時計を見ながら軽くおしゃべりをする。そして「次は『雪を割る鈴』。カウントダウンには恒例の歌となりました」
と紹介する。やや時間が余っているので少し長めの語りを入れる。
「この曲には必須の楽器となりましたバラライカ、三角形のギターみたいな楽器を弾いてくれるのはスターキッズフレンズの宮本越雄。彼はロシア人のバラライカ奏者に弟子入りしてこの楽器をマスターしてくれました。そしてバヤン、アコーディオンに似た楽器を弾いてくれるのは私の長年のお友達、醍醐春海。ご存じのように彼女はバスケット選手で1月10日から12日に行われます全日本バスケット選手権・皇后杯にも出場します。実はバヤンというのはアコーディオンに似ているのに重さはアコーディオンと違って物凄く重いんです。でもスポーツ選手の彼女なのでこの重い楽器を抱えたまま演奏してくれます。彼女はバヤンと似たキー配列のドイツ式アコーディオンの経験があったので、この楽器を弾きこなしてくれました」
「それでは始めましょう。『雪を割る鈴』」
私がおしゃべりをしている間にステージには鈴割りの鈴が運び込まれてきている。そして登場した今日の鈴割り役はわざわざ○○プロから派遣されてきた阿東梨鈴ちゃんにお願いした。彼女は今年(2019年)3月に高校を卒業しているので、この時間帯に使うことができる。
「りりんちゃーん!」
という声が掛かると、彼女は嬉しそうに客席に手を振っていた。
演奏が始まる。最初は緩いテンポである。酒向さんのハイハットとタムがゆっくりとした3拍子を刻み、ルンバとワルツのダンスもスローである。宮本さんのバラライカと千里のバヤンもゆったりとした動きである。そして私は11:59少し前で酒向さんに合図して演奏を停めた。
「さあ、いよいよですよ。今年も色々なことがあった年でしたね。天皇が交代して令和が始まり、タイでも新国王の戴冠式が行われ、GPSの時計はスタートに戻り、ノートルダム寺院が焼け、首里城が焼け、京アニが放火され、香港で民主化運動が起き、台風15号や19号で大きな被害が出て千葉では停電が続き、稀勢の里が引退しイチローが引退して池江璃花子が入院するも、バンクシーは神出鬼没で、ゴーン has goneで、ローマ教皇が来日なさい、リチウムイオン電池を開発した吉野彰さんがノーベル賞をもらい、某演歌歌手は本来の自分に戻り、消費税が上がってキャッシュレス還元がスタート。何とかペイが乱立した1年でした」
「それではカウントダウン行きますよ。みなさんご一緒に」
「10 9 8 7 6 5 4 3 2 1 0 Happy New Year!!!」
「0」の声と同時に阿東梨鈴がRPGの伝説の剣のように装飾された剣を振るい、鈴の形をした、くす玉が割れる。大量の小鈴が飛び出す。一部は客席にも飛んで行くが、拾った人は返してくださいということにして回収箱も設置している。初期の頃は持ち帰ってよいことにしていたのだが、それだと客席で暗い中取り合いが発生するので危険だということになったのである。代わりにこの鈴はグッズとしても会場で販売しており、鈴そのものは3個セット100円、ストラップ200円、キーホルダー300円(+消費税)である。
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