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■夏の日の想い出・雪が鳥に変わる(7)

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4人の選手がひたすら泳いでいるのを見ていたら、政子が何か書きたそうにしていた。夜梨子が察して「どうぞ」とレポート用紙とボールペンを渡してくれた。そこに詩を書き綴っている。私も夜梨子も無言でそれを見ていた。
 
「できた!」
と言って、政子は最後に『泳ぐ人魚たち』と書いた。
 
「マリちゃんも妊娠前の感覚が戻ってきた感じだ」
と私は言った。
 
「そうかな」
と言って政子は照れている。自分でもわりと納得のいくできなのだろう。
 
「冬、これに曲を付けてよ」
「OKOK」
 
「冬子さんもどうぞ」
と言って夜梨子が私に五線紙を渡すのでびっくりする。
 
「こんなのいつも持ってるの?」
「千里さんから今朝電話が掛かってきて、郷愁村に行く途中で五線紙を買っていってと言われたので。たぶんここで渡すためだろうと思いました」
 
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「さすが千里!」
 

私がほぼ曲を書きあげたところで
 
「でも人魚って、女の子だけかな?」
などと政子は言う。
 
「男の子もいないと種が維持できないと思うけど」
と私は答える。
 
「・・・ちんちん付いてんの?」
 
「うーん・・・収納式では?クジラやイルカと同じ」
「クジラってちんちんは体内に収納してんの?」
「あんなの普段から出てたら泳ぐのにも邪魔でしょ?サメとかにかじられそうだし」
 
「そうだよね!ちんちんは邪魔だから、美少年はみんな取っちゃえばいいよね?」
 
「美少年がみんな取っちゃったら、次世代に美少年の遺伝子が受け継がれないけど」
「むむむ。それは困るな」
 
夜梨子がそんな話を聞きながら苦笑している。しかし興味津々っぽい。
 
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「まあそれでクジラ族のおちんちんは収納式になっていて、オスにもメスと同様の割れ目ちゃんがある。セックスする時はその割れ目ちゃんから、おちんちんが出てくるんだよ」
 
「おお!それは素晴らしい。マジンガーZだ!アクアがどうしても女の子になるのを嫌がったら、そういう手術を受けさせて、見た目は女の子だけど、必要な時だけ割れ目ちゃんからおちんちん出せばいいことにしてあげよう」
 
「誰得なの?それ」
 
政子はしばらく考えていた。
 
「だったら人魚ってセックスは正常位?バックではできないよね?」
「人魚に訊いてみて!」
 
「あときっと男の娘人魚もいるよね?」
「知らん!」
 

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4人泳いでいた内の1人が休憩するか帰るかするようで水から上がる。さっきまで“男の人魚”の話をしていたこともあり、政子がゴホッゴホッと咳き込んだ。
 
私は思わず夜梨子に訊いた。
 
「あの人、男に見えるんだけど?」
「日本男子代表の筒石さんですね。このプールは女子専用だから、女子水着を着て、と幡山さんが冗談で言ったら本当に着ちゃったらしくて」
 
「それ本当に冗談なの〜?」
と私は困惑しながら言った。
 
「素直に着た?嫌がったりしなかった?」
と政子が訊くと
 
「嬉しそうに着ていたそうですよ」
と夜梨子は答え、私は頭を抱えた。何か不純な動機を感じる!
 
結局彼は帰るようで、シャワー室の方に行った。女子更衣室に入っていく!
 
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「女子更衣室使わせていいの?」
「男子更衣室は閉鎖していますし。彼は紳士ですから、女性を襲ったりはしませんよ」
「まあ日本代表を務めるくらいの人ならね」
「それに幡山さんの彼氏ですし」
「だったら安心だ!」
「つまりこれはデートなのか」
 
「千里さんも、よく細川さんと会って、ひたすらバスケやってるみたいですね」
「あの2人どうなってるんだろう?」
「普通に続いているみたいですよ。昨年2人目の赤ちゃんが生まれたし。きっとあと1年くらいで結婚しますよ」
と夜梨子は言ったが、本当にそうなった。
 

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「しかし細川さんの会社は新聞やテレビでも報道されて無茶苦茶叩かれたね」
 
「大変だったみたいですね。新しい社長のもとで、他の運動部は全部廃止になったものの、バスケット部だけは取り敢えず存続しているようですが風前の灯火という気がします。選手に対する住宅補助も打ち切られたから、長年住んだ千里(せんり)のマンションも退去して、今は姫路市の自宅から通勤なさっているらしいですし」
 
「姫路って奥さんの実家か何か?」
「ここだけの話ですが、千里さんが所有していた家があったらしくて。たぶん、千里さん、東京オリンピックが終わったら引退して、そこで細川さんと暮らすつもりだったんじゃないですかね」
 
「あぁ」
 
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「その家に奥さんを入れるのは千里さんとしては不快だったかも知れないけど、住宅手当も無くなった中、背に腹は代えられないから、細川さんに頼まれてOKしたんでしょう」
 
「大変そうだ」
 
「それでそこに今細川さんと奥さんと息子さんと3人で暮らしているみたい」
「息子?細川さんの2人目の子供って女の子じゃなかった?」
「あれ?そうでした?私は男の子と聞いた気がしたんですが」
 
「男の娘だったりして」
と政子は言ったが、当たらずしも遠からずだった。
 

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やがて、もう1人プールから上がってきた。
 
政子が大喜びしている!
 
静かにして下さいと言われているのに思わず
「アクアちゃーん!」
 
と声を掛けてしまった。競泳用の女子水着をつけた彼女(彼?)は観客席のそばまでやってきた。
 
「おはようございます。マリさん、ケイさん」
「おはよう。なんでここで泳いでるの?」
 
「普通のプールに行くと騒がれて全然練習できないので、ここで練習していたんですよ。千里さんから特例でパスもらったから」
 
「アクアちゃんもここのパス持ってる1人なんだ?」
と政子が嬉しそうに言うと夜梨子が説明する。
 
「本来はスポーツ選手にしか発行しないんですが、アクアさんはノンストップで1500mを23分で泳げるので一応水連の資格級女子の1級レベルに達していて、今彼女も言ったように、普通のプールではみんなに騒がれて、まともに泳げないんですよ。それで便宜をはかったそうです。それに今郷愁村で映画の撮影やっていてアクアさんも含めて、主な俳優さんが“昭和マンション”に泊まり込んでいるから、ここは便利なんですよ」
 
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「アクアちゃん1500m泳げるんだ!」
「体重が軽いから」
 
しかし今夜梨子は“女子1級”と言ったが、女子でいいのか??
 
「でも女子水着なんだね」
「ここではこれ着ろと言われたので」
 
「アクアはいつもそのパターンだ」
と私は言う。
 
「学校の水泳の授業でも女子水着?」
「男子水着持って行った日は、その水着を取り上げられて女子水着を渡されました」
 
「ありがち、ありがち」
 

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それでアクアも“女子”更衣室に行った。筒石さんがもう出たかどうかは微妙だと思ったが、まあ男同士?なら問題無いだろう。
 
「でもアクアも女子専用プールに入れていいのね?」
と政子が訊くと
 
「アクアさんは見ての通り、間違いなく女の子ですから」
と夜梨子は言う。
 
「だよね〜!」
と政子は言う。
 
「あの子もそろそろ『実はボク女の子でした』とカムアウトさせたほうがいいのでは?と若葉さんは言ってましたよ」
と夜梨子。
 
「確かに男性俳優になるより、女性俳優になった方が、人気はあまり落ちないよね」
などと私も答えた。
 
↓アクアの人気の落ち方予想(丸山アイ説)
 
声変わりが来た→激減
去勢していることを告白→壊滅的
女の子になりたいと告白→10分の1くらいに落ちる
性転換手術を受け性別も女性に変更したと告白→半減程度で済むかも!?
 
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ところで埼玉県熊谷市の郷愁村の方はボーリングしたら温泉が出たので、そのお湯を旅館“昭和”では使用しているのだが、福井県小浜市のミューズタウンに作った“藍小浜”の方は、水道水をMuse-3が出す熱で暖めた、単純なお風呂であった。しかし小浜市長が
 
「ここ温泉だったらよかったんですけどね」
と言ったのに対して、千里は
「掘れば冷泉が出ると思う」
と言った。
 
それで若葉は千里にあらためて1度ミューズタウンまで来てもらい、温泉が出そうな場所を探してもらった。すると千里はミューズタウン内をずっと歩き回った結果
 
「ここから出ると思う」
と1ヶ所を指さした。
 
それはミューズバークとミューズタウンの境界線付近で道路から最も離れた場所だった。若葉はそこを試掘させてみた。業者は「若狭湾のこの付近は掘っても出ないですよ」と言っていたが、1500mまで掘ると、豊かな冷泉が湧き出てきたので業者が驚いていた。湯温は18度くらいで25度未満なので“有効成分”が無いと温泉としては認められない(有効成分が無いと、ただの地下水!)。しかし硫黄が1kg中2mg含まれており、基準値を上回るので温泉(冷泉)と認定された。PH 8.5 の弱アルカリ性(PH7が中性)、泉質は含硫黄ナトリウム塩化物泉とされた。若葉は“昭和”で温泉の営業許可を取った経験をもとに、こちらでも手続きを進めた。保健所の人は若葉が埼玉県でも温泉を経営していると聞くと、スムーズに手続きを進めてくれた。
 
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(この世界は実績のある人には寛容だが、新規参入者には敷居が無茶苦茶高く、営業許可を取るまで数年かかる場合もある。だいたい営業許可を審議する委員会を原則として年に1度しか開かない自治体もある。若葉は埼玉では伯母のコネを使いまくってこれを突破した)
 
それで年明けくらいには温泉を営業開始できそうな感じということだった。
 

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夏の日の想い出・雪が鳥に変わる(7)

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