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■夏の日の想い出・雪が鳥に変わる(2)

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利美は開き直った。
 
将来女優になるかも知れないし、性別を装うくらいの演技は練習してみる価値があると思った。それでまだ第2次性徴が目立たないのをいいことに、男子用のシャツとトランクスを買い(ブリーフやボクサーでは、ちんちんが無いことをごまかしにくい)、それを着て登校し、体育の時間も部活でも堂々と男子たちといっしょに着換える。
 
おしっこは初期の頃は、いつも個室に入っていたら変に思われるので、小便器に立ってしているふりをしておいて、一方で職員室の近くと図書館そばにある多目的トイレで実際には済ませておいた。しかし何か方法がないかと調べて、女子の立小便用具(STP)というのがあることに気付き、通販で取り寄せてそれを使用するようにした。それで本当に立って小便器でできるようになったのだが、これは快感だ!と思った。
 
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男の子ってずる〜い!こんな楽なおしっこの仕方ができるなんて!!
 
トランクスの内側に防水ポケットを作り込み、デオドラントのナプキンまで敷いて、そこにSTPの器具を隠しておき、それでやっちゃうのである。漏らさないようにするには“正確な位置合わせ”が必要だが、これは寮内の自室でかなり練習して、できるようになった。
 
(何でも熱心に練習するたちである)
 

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そういう訳で、利美はP小学校で1年半の間、男子児童として通学しながら、放課後には“性転換して”女子アイドルとしての訓練を受けていたのである。
 
ただ、女なのに男子のサッカーの試合に出てもいいんだろうか?というのは疑問を感じたので、サッカー部の同学年のリーダー格である染屋君に正直に相談した。
 
「うっそー!?お前女なの?」
「何ならボクのおまた触っていいですよ」
「いや、それはいい!」
と染屋君は言った上で、少し考えていたが、言った。
 
「ルール上は男子大会に女子の入っているチームが出るのは問題ない」
「そうなんですか?」
「中学のサッカーチームにも女子選手が入っている所、わりとある」
「へー!!」
「女子の大会に男子の入っているチームが出るのはダメ」
「それはそうでしょうね!」
 
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「だから、秋田君はそのままうちのチームにいて問題ないと思うよ」
「分かりました!」
「性別のことで何か困ったことあったら、僕に遠慮無く相談してね」
「はい!」
 
「ちなみに、元は男だったけど、手術して女になったとかではないんだよね?」
「手術してません。最初から女です」
「ごめんごめん。でも普通に男で通っちゃうし」
「あはは」
 
染屋君が色々配慮してくれたので、着替えやトイレの問題でもけっこう無難にすごすことができた。
 
「でも秋田が女の子であることをクラスメイトたちに説明しようか?」
 
「あ、それはいいです。どうせすぐバレるだろうし、それまで男の子の振りをしておきます。ボク、そのうち女優になるかも知れないし、そしたら男装の役とかもあるかも知れないし」
 
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「なるほどー。でも確かにすぐバレるだろうな」
と染屋君も言っていたのだが、利美の性別は1年半の間、全くバレなかった!
 

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しかし中学に進学をするに際して、さすがに男子制服で通学するのは問題があるのではということになり、性別を“カムアウト”することにしたのである。
 
「だけど、秋田、お前、胸無いな」
と性別をクラスメイトにばらしてから利美は男子たちに言われた。
 
「すんませーん。おっぱいの発達遅れているみたい」
と利美は頭を掻きながら答えた。
 
「生理は来てるの?」
と女子たちから訊かれる。
 
「来てる。でも男子トイレって汚物入れがないから困ってた」
「普通、男子には汚物入れ必要ないし」
 

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利美は“白鳥リズム”として、2017年3月のローズ+リリーの復興支援イベント(宮城県ハイパーアリーナ)でお披露目され、中学入学後の4月中旬に歌手デビュー。初シングルが3万枚も売れて、順調な滑り出しをした。中野のスターホールでやった初ライブも8割ほど売れ、ぎっしり詰まった客席を見ながら歌うのは超絶快感だった(だいたい8割売れていたらほぼ満席に見える)。
 
デビュー曲は霧島鮎子作詞・桜島法子作曲の『スワン・レイク』、カップリング曲は東郷誠一“名義”の『待っているのに』であった。前者はとても美しい曲、後者は典型的なアイドル歌謡という感じで対照的な曲なので連続して歌う場合、“心をスイッチ”する必要があった。
 
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“白鳥”の名前は、利美の名前の由来を聞いたコスモスが、それにもとづいて付けたものである。“リズム”のほうは紅川会長が付けたのだが、利美は内心“лебедь(リェビッジ)”あるいは“利美(りみ)”が“リズム”に聞こえたのではと思っている。
 
ロックギャルコンテストは第1回の優勝者が(多分)男の子のアクア、第2回優勝者がまだ小学生だった白鳥リズムで、開設以来2回続けて変則的になった。2016年の第3回でやっと女子高校生の姫路スピカが優勝し、ちゃんと応募要件を充たした最初の優勝者となった。
 

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なお利美はロックギャルコンテストに優勝した後、とりあえず§§ミュージックの研修生の身分になったのだが(それで足立区の寮に住んでいる)、12月頃からアクアのリハーサル歌手を頼むと言われた。
 
利美は広い声域(バリトン音域からハイソプラノまで3オクターブ半出る)を持ち、声量も豊か、そして音程もリズム感も正確なので、超・歌が上手いアクアの代役としてピッタリだったのである。実際彼の歌をちゃんと歌える子自体少ない。
 
リハーサル歌手を務めた後は、アクア本人が到着するのを待ち、本番収録も見学させてもらうことが多い。それを見ていて利美は言った。
 
「アクアさんって、歌もうまいし、お芝居もうまいし、それであんなに可愛いって凄いですね。私もあんな女の子になりたいなあ」
 
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しかしそれを聞いたアクアのマネージャーの鱒渕さんは
 
「アクアは男の子だけど」
と言った。
 
「うっそー!?」
と利美は大きな声は出せないので小さな声で叫ぶ。
 
「でもこないだセーラー服着て、スタジオに来てませんでした?」
 
「あの子は可愛いもんだから、小さい頃からよく女の子の服を着せられていたらしいね。だから、女物の服を着ることに全く抵抗感がない。女の子の服は普段着の一種なんだよね。セーラー服を着るくらいは“女装”ではないらしい」
 
セーラー服が女装じゃないって、だったら、どういうのが女装なのさ?
 
「女の子になりたい男の子?」
「ふつうの男の子だと思うけど」
「絶対普通ではない気がします!」
 
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「でもリズムちゃんも少し男の子っぽい雰囲気あるから結果的に女の子っぽい雰囲気のあるアクアの雰囲気と似ているのよね。それで代役お願いしたのよ」
 
「なるほどー」
 
そう言われて1年半リハーサル歌手を務めたのだが、この間のアクアのスタッフとしてのお給料がすごかった!
 

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アクアのリハーサル歌手は2015年前半は高崎ひろかが務めたのだが、ひろか自身が忙しくなってきたので、2015年の年末頃以降、リズムが務めることになった。しかし2017年度は、リズム自身がデビューして忙しくなりそうだったことと、“アクアが女の子っぽくなりすぎて”リズムの雰囲気とは乖離してきたことから、それまでアクアのボディダブルをしていた今井葉月がリハーサル歌手も務めることになった。
 
しかし利美は『(男の子のはずの)アクアさんが女っぽくなりすぎたから、私ではなくて(男の子の)葉月さんが代わることになった』という話に、微妙に納得いかなかった!
 
アクアさんって、やはり本当は女の子なのでは?と思ってしまう。
 
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(葉月はたぶん元々女の子になりたい男の子だったのを密かに性転換手術しちゃったのではと思っている。それで手術後、身体が回復した所でアクアのリハーサル歌手になったのではとも想像している)
 
でもまあその分、自分のお仕事を入れてもらったから、いいか。
 
(と思ったものの2017年の収入は昨年よりぐっと減った!)
 
リズムはデビューしてすぐにテレビのバラエティ番組1つとFM局の番組1つのレギュラーにしてもらえた。リズムは“目立つ”タイプだし、ユーモアセンスがあって、結構機転も利くのでバラエティ番組の司会者に便利に使ってもらえて人気も急上昇した。
 
それでも、アクアが忙しすぎて、葉月1人では代役が足りないこともあり、しばしばリズムもアクアの代役や身代わりとして徴用された。2017年度の苗場ロックフェスティバルではライブ終了後、アクアの身代わりで“会場から脱出する役”を演じている。また2018年2-3月には、葉月が高校受験でお仕事ができなかったので、リハーサル歌手だけでなく、ドラマ(少年探偵団・ときめき奉行所物語)撮影のボディダブルも務めている。自分の出演番組を抱えながらなので、この2ヶ月間は物凄く忙しかった。こんなに忙しいなんて、これではアクアさんも葉月さんも学校にはほとんど行けないのでは?と思った。
 
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2018年度は“上島雷太事件”の影響で音楽業界全体が縮小する中で、§§ミュージックは昨年秋頃から“脱上島作戦”をしていたということで、業界全体の中では、比較的影響が少なかった。それでも、リズムに主として楽曲を提供してくれている桜島法子さんもUDP(上島代替プロジェクト)に駆り出されてこちら向きの楽曲が書けない!と言われて春先に曲がもらえなかった。しかし代わりにこれまで全く無名だった花園光紀さんという人の曲(格好よかった!)で1枚CDを出した後、夏以降は“松本花子”さんという人の曲を連続して頂けるようになり、それで何とか回り始めた。
 
松本花子さんは物凄い多作な人のようで、この時期§§ミュージックのほとんどの歌手が松本さんの作品でCDを制作している。
 
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桜島法子さんのほうは本当に忙しかったようで、彼女が白鳥リズムの制作に復帰したのは2019年秋以降である。
 
その少し前、2019年夏には毎年恒例となったロックギャルコンテストの第6回大会が開かれる。書類と提出されたデモ音源を審査の上、各都道府県ごとに予選をやり、その上位入賞者を集めて全国12ブロック(沖縄・九州・中国・四国・大阪・近畿・東海・北陸・東京・関東・東北・北海道)の予選(*2)をやって、その上位入賞者で全国大会をする。そして優勝者は原則1年以内のデビューが約束されるし、全国大会に出場した人は、§§ミュージックの練習生または研修生になる権利をもらえる、というものである。現在の§§ミュージックの研修生には、このロックギャル・コンテスト経由で加入した人が多い。
 
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(*2)沖縄はブロック予選が無く、県予選上位がそのまま全国大会に進出する。東京・大阪・北海道は都道府内がいくつかのエリアに分かれていて、他府県で府県予選があるタイミングでエリア予選を行い、他のブロック予選のタイミングで都道府予選が行われる。
 

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リズムは金沢大会・北陸大会・東海大会の審査員をしてくれと言われて、その日新幹線で金沢に向かった。
 
東京9:20 (かがやき507号) 11:54金沢
 
金沢駅構内の加賀屋という和食の店で、審査員を引率?している川崎ゆりこ副社長に昼食をおごってもらったが、海の幸をたっぷり使った料理が物凄く美味しかった。
 
今回は土曜日に石川県大会がおこなわれ、日曜日の午前中に同じ会場で北陸大会が行われる。北陸の他の3県の予選は前の週に行われていて、予選通過者が日曜日の朝までに金沢に集まってきて北陸大会が行われる。石川県予選の通過者は、§§ミュージック側が用意したホテルに1泊して翌日の北陸大会に出ることになる。北陸大会は午前中というより朝!(8:00-10:30)なので、午後からは名古屋で東海大会(13:30-16:30)が行われるのに、審査員一同が移動するのである。
 
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金沢10:48 (しらさぎ58号) 12:45名古屋
 
審査員になるのが、リズムも含めてタレントさんや作曲家さんが多いので、日程に余裕が無く、できるだけ少ない日数でやってしまうのにこういうスケジュールになっているらしいが、何てハードなスケジュールなんだ!とリズムは思った。10:30に終了して10:48の列車に乗るというのは無茶苦茶だが、審査員は審査が終わったら結果発表には臨席せずにすぐ移動するのと、会場が金沢駅そばの金沢音楽堂なので何とかなるようである。
 

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