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■夏の日の想い出・雪が鳥に変わる(3)

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そういう訳で、土曜日の石川県予選は14:00から金沢音楽堂で始まることになっていた。リズムは駅構内での食事の後、ひとり別れてトイレに行ってから会場に入った。地下の楽屋の方に行こうとしていたら
 
「あ、白鳥リズムさんだ!」
という声に笑顔で振り向く。中学生っぽい女子が4人いた。
 
「おはようございます。君たちもオーディションに出るの?」
とリズムは声を掛けた。
 
「おはようございます!見学なんです。あのぉ、サインいいですか?」
「いいよー。何に書く?」
 
「ああ、こんなことになるなら色紙とか持ってくればよかった」
などと言っているが、リズムは近くで受付をしている§§ミュージックのスタッフ、原田友恵に声を掛けた。
 
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「原田さん、色紙のストック無い?」
「ありますよー」
と言うので4枚出してもらい、それでサインを書き、ひとりずつ名前を聞いて“○○さん江”という宛名と日付を入れて渡した。
 
しかし女子4人と思ったのに1人は男の子だった! 凄く女の子っぽくて気のせいか体臭も女の子のような気がしたのに!
 
しかし落合さん、平野君、星野さん、月乃さん、と名前を書いていてリズムは気がついた。
 
「月乃さん、独特のオーラがある。あなたオーディションに出ないの?」
「え?でも応募とかしてないし」
 
リズムは原田に尋ねた。
 
「私が推薦とかしたら、この子参加させてあげられたりします?」
「はい。所属タレントさんの推薦ならOKです」
「じゃ、月乃さん参加しない?」
 
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「え〜?どうしよう?」
と本人は迷っていたが、隣に居た落合さんが言った。
 
「岬、ここはどーんと参加してみよう。女子アイドルのオーディションに参加するのも女の子修行だよ」
 
「じゃ、やってみようかな」
と本人も言っている。
 
しかし女の子修行って何だ??
 
「じゃ、こちらに名前を書いてください」
と言って、原田がエントリーシートを出すので、月乃さんは
 
「月乃岬、2006年1月14日生、性別:女、得意科目:英語・美術、趣味:絵画、部活:合唱部、好きな運動:ダンス、声域:ソプラノ」
などと記入していた。
 
「ところで白鳥リズムさん」
と落合さんが言った。
 
「何?」
 
「私も参加していいですか?」
と彼女は訊く。
 
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「うん。いいよ。そちらの2人も参加する?」
「私はアイドルなんて無理」
と星野さんは言い、
「俺は男だし」
と平野君は言った。
 

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それで月乃さんと落合さんもこのオーディションに参加することになったのである。
 
書類審査を通過してこの日石川県大会に参加した女子(たぶん全員女子のはず)は86名もいた。やはりアクア、自分、姫路スピカ、石川ポルカといった面々を輩出してきたオーディションだからなあと思う。そしてこれに自分が推薦して参加することになった2人が加わって88名である。控室に入ってからリズムは、会場の入口の所で見かけた子が凄いオーラを持っていたので原田さんに確認して自分の推薦ということで参加させたことを川崎ゆりこに報告したが、ゆりこ副社長は
 
「うんうん。タレントさんを審査員にしている目的の1つは強いオーラを持った子の開拓だから全然OK」
 
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と言って、追認してくれた。
 
それで審査が始まる。第一次審査は各々事前に申告していた3曲の中のどれかをその場で指定されて1分間歌いその後、質疑応答をするというものである。まともに58名にこれをやるとオーディションはパフォーマンスだけでも3時間くらい掛かることになる。
 
しかしこの日の予選は16時までということになっており、時間は“結果発表まで入れて”2時間しか用意されていない。実際、多くの参加者は歌の途中で打ち切られ、あるいは終わった所で
 
「お疲れ様でした。帰ってもいいですよ」
と言われる!
 
そう言われなかった子は簡単な質疑応答があるのだが、最初のあたりは途中で歌が打ち切られる子ばかりである。
 
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自分が参加した時もそうだったが、このオーディションの都道府県予選は事前審査(歌唱録音の審査が含まれる)で成績の良かった子を後ろに並べているのである。つまり番号が上の子ほど、より期待されているということである。
 

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審査は実際の歌を聞いて審査員全員が0-10点で採点している。その合計が6人の審査員の中で最高点を付けた人と最低点を付けた人の2人を除いた残り4人の平均点6点以上を審査合格とする。最高点と最低点を除くのは情実排除のためでフィギュアスケートの採点方式と同様である。だからリズムは、自分が推薦した月乃さんには安心して10点を付けられる。
 
こういう仕組みなので歌の途中でも、6人の審査員の内、
 
・3人の審査員がボタンを押して、3人の中で最低点をつけた人を除いて2人の合計が3点以下の場合
・4人の審査員がボタンを押して、4人の中で最低点をつけた人を除いて3人の合計が13点以下の場合
・5人の審査員がボタンを押して、5人の中で最低点をつけた人を除いて4人の合計が23点以下の場合
 
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以上のケースでは原理的に合格点に達しないので、NHKのど自慢でおなじみのチューブラーベルが1個打たれて演奏終了である。最後まで歌ってからやはり不合格なら2個打たれ(「惜しかったね。来年まで歌を鍛えよう」と言われる)、歌唱審査を通過するとドシラソ、ドシラソ、ド・ミ・レ〜とたくさん打たれる。
 
審査合格した人は名前と生年月日・趣味などが各審査員の前にあるディスプレイに表示されるので、その後の質疑応答を聞いて人柄や機転などをまた10点満点で採点する。この結果は最後に集計される。
 
11番目の人が最初の審査通過者となった。でも次は23番で、その次は38番だった。60番以降はけっこうな確率で審査合格し、80番まで来た時点で歌唱審査の通過者は10人いた。しかし81番以降は全員通過する。物凄くうまい子ばかりである。ロックギャルコンテストは、他のアイドル・オーディションとは違い、歌が相当うまくなければ合格できない。それでこのオーディションでいい所まで行った後、バンドなどに転じる人もいる。音楽能力を高く評価する、業界内でも異色のオーディションである(本当はそれでは困るのだが)。
 
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86番の子は歌もうまく、スター性もあり、その後の受け答えもとてもうまかった。リズムは歌唱にも質疑応答にも10点を付けた。
 
その後87番の落合茜が出てくる(87,88の番号札をまとめて渡したら落合さんは88を月乃さんに渡して自分は87を取った)。
 
指定された曲『1人のアクア』をこの後の出番の月乃さんがピアノ伴奏して歌い出す(急遽参加したので伴奏音源の用意がない。しかし即伴奏できるのが凄い)。
 
かなり歌は上手い。のびのある声量豊かなソプラノで、審査が終わった86番の子が物凄い視線で睨んでいる。こんな強力なライバルがいたとはと思っているのだろう。リズムも“ついで”で参加させた彼女が物凄く上手いので、ひょっとして掘出物だったかもと思った。むろん歌唱合格である。その後質疑応答でもユーモアの利いた楽しい受け答えをして、リズムも含めて審査員がみんな大笑いしていた。
 
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むろん質疑応答の点数もハイスコアとなった。この時点で86番がやはり最高点であるものの、87番落合さんはそれに迫るスコアで2位である
 

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そして最後の参加者となる。
 
「88番月乃岬です。よろしくお願いします」
と言ってぺこりと挨拶する。
 
それでローズ+リリーの『門出』を、彼女は87番落合さんの伴奏で歌い出した。
 
審査員は全員彼女の歌に圧倒された。
 
審査員だけではない。会場の全員が圧倒された。
 
落合さんを睨んでいた86番の子はこの歌を聞いて天を仰いでいた。
 
リズムは自分が負けた!と思った。自分だってかなり歌に自信があった。でもこの子の歌にはかなわないと思ったのである。
 
本来は歌は1分で停めるのだが、司会役の人が停めるのを忘れた、というよりとても停められなかったのだろう。
 
リズムは今ひとりの歌手が誕生したことを確信した。
 
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「へー、それは楽しみな人材だね」
と私は、ゆりこから話を聞いて答えた。
 
「会場に来ていたのをタレント推薦で出場させたリズムちゃんのお手柄です。あの子、今年優勝しなかったとしても研修生にして数年以内にデビューさせますよ」
 
とゆりこは言った。
 
「何かこの子オーラが凄いと思ったんで、思わず勧誘したんですよ。でもあんなに歌がうまいなんて思わなかった」
 
とリズムも興奮気味に語った。
 
「その場で歌う曲を3つ登録してもらったんですが、保坂早穂『ブルーラグーン』、松原珠妃『ゴツィック・ロリータ』、ローズ+リリー『門出』なんて書いたから、この子よほど歌唱力に自信があるんだろうと思って、最も難しそうな『門出』を指定したんですけどね」
 
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と原田友恵は言う。
 
「ほんとに難曲ばかりだ!」
「声域が4オクターブあるらしいです」
「それは凄い」
 
「芸能活動許可証を出して欲しかったので、ご両親とも会ってきたんですが、実はそこで1つだけ問題が出てきたんですけどね」
 
とゆりこ。
 
「うん?何?」
「まあ、うちはアクアみたいな子もいるし、問題無い気がするんですが」
 
「まさか男の子なの?」
と私は訊いた。
 

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その日私は夕方まで信濃町の§§ミュージックで打合せをし、夕方リズムたちを帰してから、九州から戻って来たコスモス、それにゆりこと3人で都内の高級和食店に入って少し遅めの夕食を取った。
 
今回ゆりこが北陸、コスモス自身が九州に行ったのは、石川県と福岡県に有望な子がいたから(石川県予選で2位に入った子と福岡予選・九州予選でぶっち切りの優勝をした子)なのだが、コスモスは北陸大会の優勝者の話を聞いて
 
「それは楽しみだね」
と言った。たぶん今年のロックギャルコンテスト全国大会は、その子と福岡の子の対決になるのだろう。
 
「リズムちゃんって、勘がいいから、偶然にも彼女が行っていてよかった」
とコスモス。
 
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「そのリズムちゃんに見い出された子も運が強い」
 
「芸能界って結構、運の強さでのしあがって来る子が多いですね」
とゆりこが言う。
 
「たぶん運が強いというのがトップに立つために必要なんだと思う。過去のスターを見ても、やはり一時代に名前を残した人って、運も強いし、思い切りが良くて、それで周囲の人を味方につけていく」
 
とコスモス。
 
「うちの事務所でも、立川ピアノさん、春風アルトさん、コスモス社長、桜野みちるちゃん、そしてアクアがそういうタイプだよね」
 
とゆりこが言うので、
 
「ゆりこもね」
と私は言ったが、本人は
 
「私トップに立ってないと思うけど」
 
などと言っていた。一方コスモスは
 
「私は下手くそのトップだな」
 
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と言っていた。
 

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夏の日の想い出・雪が鳥に変わる(3)

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