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■夏の日の想い出・雪が鳥に変わる(6)

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2019年の苗場ロックフェスティバルは7月26-28日(金土日)に行われ、翌日私はコスモスと一緒に福井県小浜市に行き、ミューズシアター・アリーナの引き渡しに出席した。その後私もコスモスも29日は若葉が運営している旅館“藍小浜”に泊まり、30日(火)東京に戻ったのだが、8月3日(土)には横須賀でサマーロックフェスティバルがあるので、私はその週は準備で忙しかった。
 
もっとも準備作業の大半は、鱒渕さん、妃美貴、秩父さんの3人で進めてくれるので以前に比べたら事務的な作業は激減している。スコアの調整も風花と七星さんがしてくれるので楽である。
 
そんな中、あやめのお世話をする以外は暇そうにしていた!政子が言った。
 
「あつーい!どこかで水浴びしたい」
「お風呂でシャワー浴びる?」
「ちがーう!海水浴かプール行きたい」
 
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「私忙しいから、ひとりで行ってきてよ。佐良さん呼ぶから」
「冬も一緒に行こうよぉ」
「私忙しいって」
 
「だって、あやめを連れてたら私思いっきり遊べないもん」
「つまり私はあやめのお世話係か?」
 

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それで結局ドライバーの佐良さんを呼んで、リーフに乗って出かけたのは、埼玉県熊谷市にオープンしたばかりの“郷愁アクア・リゾート”である。
 
「ここ郷愁村じゃん」
「ここにレジャープールができたんだよ。まだあまり知られていないから人も少ない。今年は穴場だと思う」
 
「おお、若葉も色々やってるね!」
 
現在あるのは、50mプール(一般客は使用禁止)、25mプール(利用には試験!を受けて合格しなければならない)、深さの違う3つのレジャープールと周囲を取り囲む“流れるプール”である。他に噴水が数ヶ所にあり、ナイアガラをイメージして横に長い滝も作られている。
 
若葉はスライダーも作りたかったようだが、安全基準とかが厳しいので今年の夏には間に合わなかった。来年の夏までには作ると言っていた。何しろこのアクアリゾートを思い立ったのが4月というから驚きである。わずか3ヶ月半ほどで完成させてしまった。
 
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一応水着は持って行ったのだが(あやめにもおしめ付き乳児用水着を着せる)、入口のところに100年前か?と思うようなレトロな水着が売ってあったので、政子が面白がってそれを買い、私も結局それを着ることになった。
 
政子は赤、私は白である。
 
「いつもの逆のような気がするけど」
「まあ仕事じゃないし」
 
中に入ってみるとこのレトロな水着を着ている人がけっこういる。しかし色も様々だし、描かれている模様にもバリエーションがあるので、あまりダブっている気はしない。私が着ている白い水着はヒマワリとビーチボールの絵が描かれているし、政子の赤い水着にはイルカと女の子の絵が描かれている。模様の種類は売場の係の人によれば100種類以上あるということだった。実はその場で希望の絵柄をプリントするサービスもやっているということだったが、私たちは既製品の中で好みのものを選んだ。
 
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「ここ、いつオープンしたの?」
 
いきなり流れるプールに行き、様々な動物の形のビニールボート(空気で膨らませているもの)に乗って水の流れに押されて場内一周しながら政子は訊いた。
 
「7月20日土曜日だよ。若葉もよくやるね〜。計画したのはこの春らしいんだけど、ヤマハのFRP製プールは1ヶ月半の工期があれば作れるから」
 
「3ヶ月で作ったんだ!」
と政子も驚いていた。
 
「オープニングイベントは、信濃町ガールズのパフォーマンスの後、ゲスト歌手としてUFO, スパイス・ミッション、トライン・バブルと歌わせて、そのファンが大量に集まって、大いに盛り上がった」
 
「おぉ!スパイス・ミッションとUFOってライバル同士じゃん」
「どちらもトライン・バブルの“次”を狙っている感じのユニットだよね」
 
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「うん。トライン・バブルもうかうかしてられないだろうと思った」
 
「若葉はUFOとスパイス・ミッションとどちらを先にすべきか悩んでさ。信濃町ガールズのパフォーマンスの後で、ステージ上で公開の場で、トライン・バブルの3人に審判をさせて、UFOの3人とスパイス・ミッションの3人でジャンケンをさせたんだよ。その結果、2勝1敗で先にUFOが歌うことになった」
 
「その演出もうまいね。ジャンケンなら恨みっこ無しだね」
「まあ本人たちより、その所属プロダクションを納得させるためのジャンケンだけどね」
「確かに」
 

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「だけどここリゾートとして開発するなら、交通がネックだよね」
と政子は言った。
 
「うん。だからここまで何か交通手段を作ることも検討している」
「交通手段というと、運河を引いて船で運ぶとか?」
 
政子はやはり面白いと私は思った。なぜこんな山の中に船で行こうとするのだろう?
 
「面白いかもね。若葉に提案してみて。一応今の所、新交通システムか路面電車という案が有力」
 
「電車を通すんだ!?」
 
「新交通システムなら高架を作らなければいけないから1000億円くらい。路面電車の場合は、その分の道を拡張しないといけないから300億円くらい掛かるらしい。路面電車は新交通システムより安いけど速度を出せないのが難点」
 
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「それどっちでも採算取れない気がする」
「まあそれがネックだけど、新交通システムなら、市も1口乗せてくれと言っているらしいから実現するかも」
「すごーい!」
 
「そもそもここを住宅地として開発した時、交通の不便さが問題になって全く売れなかったんだよ。それで若葉はこの付近一帯の土地をわずか100億円で買ったんだけどね」
 
「100億円がわずかなのか・・・」
「若葉の資産は5000億円以上だから」
「すごーい!さすがお金持ち」
 

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「若葉の凄い所はそれを親から引き継いだとかではなく自分で稼いだことなんだけどね」
 
「え?嘘!?お父さんからもらったとかじゃないんだ?」
 
「最初に銀行からお金を借りた時は、親というより伯母さんが資産家だからその信用で銀行は貸してくれた。でもすぐにそれは完済して、あとは自分の資産でやっているから」
 
「すごーい!若葉ってそんな凄い実業家だったのか!」
「まあ青年実業家だね」
 
正確には実業家というよりは投資家かも知れない気はする。
 
「女でも青年でいいんだっけ?」
「少年に対しては少女ということばがあるけど、青年に対して青女という言葉は無いと思う」
 
「日本語は不便だ。中国の古典では青女といえば、雪女みたいなのだよね」
「ごめん。知らない!」
と私はその場では言ったが、確かに辞書を引くと載っていた。
 
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でも若い女性の意味ではない!
 
「でもそもそも男女を分ける必要無いと思うんだけどね」
「それは賛成」
 
「概して青年実業家というのは、怪しげな人が多いけど、若葉は本物だね」
 

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流れるプールを一周した後は、私が日陰ですやすや眠るあやめを抱いている間に、政子はプールでたくさん遊んでいたようだ。25mプール使えないんですか?と訊いたら、試験受けてくださいと言われ、どんな泳法でもいいから25mプールの端から端まで立ち上がらずに泳げたらOKということだった。それできれいに泳ぎ切って、25mプールの入館許可証をもらった。そちらは競泳用水着でないといけないのでそれを購入して着換え、たくさん泳いで来たらしい。
 
ちなみに50mプールは、一般開放していないとスタッフは言ったのだが、政子が食い下がり、自分はオーナーの友人だからとも言うので、結局若葉に照会が行ったようである。すると若葉から直接電話が掛かってきた。
 
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「ごめーん、政子。あのプールは開放してないから。見学だけならいいよ」
 
ということで、結局入場できなかったらしい!それで私の所に戻って来て文句を言っていた。
 
「見学してもいいというのなら、見に行こうよ」
「まあそれでもいいか」
 
それで、あやめも連れて3人で見に行った。
 

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私たちが50mプールの周囲に作られた仮設?フェンスの途中にある出入口の所まで行き、呼び鈴を鳴らすと、すぐにドアが開いた。若葉から言われてドアの近くまで来ていてくれたのかなと思った。
 
開けてくれたのは知った顔だ。確か・・・
 
「夏嶺さんでしたね。お久しぶりです」
「わぁ、覚えていて下さって感激です。いらっしゃい、政子さん、冬子さん、あやめちゃん」
 
選手たちが練習しているから、あまり声を立てずに観客席の方へと言われて案内される。もっとも観客席は現在建設中(実際今10人ほど作業員が入って作業している)で、一部しか無い。その一部だけできた観客席に私たちは案内された。
 
夏嶺さんは千里と同じ旭川N高校を出た後KL銀行に入社し、そこのバスケットチーム(ジョイフル・ゴールド)の2軍に相当するジョイフル・ダイヤモンドで活動していたのだが、年齢的な問題(彼女は1991年度生まれで、私たちと同学年)もあり、ひしひしと“圧力”を感じ、その圧力を忖度!してこの春に退職したらしい。
 
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それで取り敢えず失業保険が出るまでの間何とか暮らせるかなという程度の退職金をもらい、運動もバイトもせずにおやつとゲーム三昧の日々を送っていたという。それが千里と偶然コンビニで遭遇し、仕事してないならプールの管理人やってくれない?と言われてこの50mプールの管理人になったらしい。
 
法令上管理人を置かなければならないということで常駐しているものの、利用者が8人しかおらず暇!だという。それで毎日通勤してきては、ほとんど付属のバスケット練習場(こういうのを作り込むのがさすが千里である)や筋トレ・ルームで汗を流しているので、ジョイフル・ダイヤモンド時代よりレベルがあがったかも、などと言っていた(バスケしてたら監視になってない気がする!)。
 
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夏嶺さんの担当は昼の14時から夜22時までで、22-6時の人、6-14時の人と3人交替だが、週2日の休み(夏嶺さんは火水)で有休も規定通りなので、交代要員となるバイトさんが10人以上居るらしい。
 
(なお、8時間の勤務時間の中で1時間は法令で定められた休憩時間となるが、その間は25mプール側の監視員の人が見ていてくれるらしい。向こうは一般客も入れているので、監視員が通常2人以上、特に日中は3人以上いる状態にしているとのこと)
 
朝の担当は夕方から営業する飲食店の従業員さんだが、国体出場経験のある元水泳選手で、端の9レーンで泳いでいいことになっているので、結構自分も泳いでいるらしい。深夜時間帯を担当してくれているのは女子大生でやはり水泳部に所属しているものの、インカレや国体の出場経験は無いらしい。彼女も結構9レーンで泳いでいる。またプール監視しながら勉強ができるのが凄くいいと言っていたという(やはり監視になってない気がする)。彼女は6時で終わると、それから学校に出て行ける。学校が終わってから21時くらいまで仮眠してから出てくる。
 
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なお、ここは原則として女子にしかパスを発行しないので、監視員も全員女子で構成しているらしい。水連の基準に従って一応男子トイレ・男子更衣室も設置しているものの、そちらは施錠していて当面使う予定は無いという。それで見学も女性に限っているという。
 
「まあ女装者まではOKということで」
「亮平を女装させて連れて来ようかな」
 
「でも利用者が8人しかいないと、誰も来ない日もあったりしない?」
「あ、それは無いです。千里さんは必ず来ますから」
「へー!」
「千里さん、基礎体力を鍛えるのにいいと言って、日に2回来ることもあるみたいですよ」
「なるほどー」
 
それはきっと3人の千里が、ぶつからないようにだけ気をつけて入れ替わり立ち替わり来ているのでは?と私は思った。
 
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「コートを40分間走り回る体力と1500mを水連資格級A程度の速度で泳ぐ体力が同じくらいとか言ってましたよ」
 
「ハードだなぁ!」
 

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夜梨子は自宅からバイクで通勤してきているものの、旅館“昭和”の帳場に頼むと、いつでも熊谷駅や小川町駅(八高線)などへ送り迎えしてくれるので、電車通勤の人もいると言っていた。御飯は希望の時間に旅館“昭和”から届けてもらえる。それ以外に自費でピザや丼物・ケーキなどの“おやつ”を注文することもできる。このあたりは勤務中はトイレに行く時以外、現場から離れずに済むように考慮されている。
 
そんな話を聞いていて、若葉は結局、旅館“昭和”をここの《インフラ》として使っているようだと感じた。そうして少しずつ施設拡充させていくつもりなのだろう。
 
ここのプールは利用者の安全性は(水中映像を含む)モニター映像を人工知能に処理させて監視しているし、ハイレベルな人ばかりなので、実際の仕事は入退場の管理と掃除くらいということだった。
 
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「夏嶺さんバイクは何?」
「ちっちゃいですよ。もっと大きいの買いたいんですけどね〜。先立つ物が無いし」
「125ccくらい?」
「50です」
「ああ。そういうコンパクトなのもいいよね。車種は?」
「ブルバードM50というのですが」
 
「巨大バイクじゃん!」
 
M50というのは50立方インチ(in3)なので、立方センチ(cm3)に直すと800ccである!
 

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この日プールで泳いでいたのは4人の選手である。
 
このプールは今年水泳の日本代表になった青葉と幡山ジャネの2人のために千里が作ってしまったもので、せっかくプール設備を作るならと、若葉が便乗してそのそばに作ってしまったのが、郷愁アクアリゾートらしい。アクアリゾートが使用する水の量はこの50mプールの半分以下である。
 
「誰にも邪魔されずにひたすら泳げる場所が欲しいということで、春先は深川アリーナのサブプールで泳いでいたらしいのですが、水深も浅いし25mなので幡山さんが『50mプール作ったりしない?』と千里さんに言ったら『いいよー』というお返事だったということで。深川アリーナに設置することも考えたらしいんですが、あそこは容積率がギリギリなんですよ。それで若葉さんに電話して『郷愁村にプール1個置かせて』と言ったら若葉さんが『おっけー』ということで」
 
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「若葉も千里も返事が良い」
と私は半ば呆れながら言ったが
 
「よく億単位の出費を気軽にOKするなあ」
と政子も呆れているようだ。
 
「取り敢えずプールだけまずは設置して、更衣室とトイレは無いと困るから作って。その後、梅雨に突入するからというので屋根を作って、その後、今観客席を作り込んでいる所です。これが完成したら、壁を作って屋内プールの完成です」
 
と夜梨子は説明する。
 
「面白い建て方するね」
 
「世界選手権に向けての練習場所確保が目的だったので、千里さんとしては夏くらいまでの限定設置でもいいと言っておられたのですが、若葉さんが“ずっと置いておいていいよ”というので、ずっと使える施設に・・・今改造中という感じですね」
 
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「なるほど」
 
「バスケットやバレーはチーム・スポーツだから、合宿所に入ってみんなで一緒に練習する時間が絶対的に必要ですけど、陸上とか水泳とかは個人スポーツだから『みんなで仲良く練習しましょう』じゃダメなんですよね。合宿所は限られた練習場所を共用するから、合宿に参加するより、こういう所でひたすら泳いでいた方がいい、と千里さんは言ってました」
 
「それは言えるなあ」
「ふだん、市民プールのような所しか練習場所がない人にとっては合宿所のほうがマシですけど」
「確かに」
 
「だから東京五輪の後は、また若い世代の選手にここを使ってもらおうかという構想もあるみたいですよ」
「ああ、それはいいね」
「普通のプールは採算をとらないといけないから、こういう少人数限定なんて使い方はできませんけどね」
 
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「若葉も千里も最初から採算なんて取る気が無いから」
と私は言った。
 
「ご存知のように川上さんも幡山さんも、世界選手権が終わって、今は今週末のワールドカップ東京大会に向けて練習している所なんですよ。その後、幡山さんは10月下旬の短水路日本選手権まで間がありますが、川上さんは全国公・インカレと続いてから短水路選手権ですね」
 
「忙しそうだ」
「卒論書く時間が無いとこぼしていました」
「別にあの子は大学卒業する必要はない気もするけどなあ」
「でもせっかくここまで来ましたからね」
「まあね」
 

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夏の日の想い出・雪が鳥に変わる(6)

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