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■夏の日の想い出・分離(10)

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車が停まる感覚で目を覚ます。何だかぐっすり寝たという気がした。運転席には千里がいるので、ずっと千里が運転していたのだろうか。どうも私が起きたのに続いて後部座席の矢鳴さんも起きたようである。
 
「ごめん。かなり眠っちゃったみたい」
「着いたよ」
「え?もう五條?」
 
「福島だよ」
 
私は自分のスマホを見た。17:34?? 日付も2月27日である。
 
「福島って、大阪の?」
「まさか福島県福島市。今夜は冬、このホテルに泊まる予定だったよね?」
 
確かに見上げると私と政子が泊まる予定だったRホテルである。
 
「なぜ、この時間で福島まで来ちゃう訳〜?」
 
すると千里は少し厳しい顔で言った。
 
「歌手は歌が命だよ。最高の歌をライブで届けるためには体調管理が大事。公演に間に合えばいいというものではない。町添さんは冬がもう既に大物歌手だから苦言を呈さなかったと思うけど、本来直前に交通の不便な山奥の村まで行くようなスケジュールは入れてはいけなかったんだよ」
 
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私は彼女の言葉を考えた。
 
「ありがとう。そういうきついことを言ってくれるのは千里だけだよ」
 
「じゃ今夜はぐっすり休んで明日、いいステージをしてね」
と千里は笑顔で言った。
 
「うん。頑張る」
「マリちゃんに唆されてHなことで夜更かししないこと」
「それはちゃんと休ませる」
「あ、そうそう。マリちゃんにお土産があったんだ」
 
と千里が言うと
「そうでした。忘れる所でした」
と言って矢鳴さんが、タコ焼きのパックが4個入ったポリエチレンの袋を出してくる。
 
「大阪で醍醐先生のお友達に車を借りたので、大阪に寄ったついでにタコ焼きをマリ先生用に買っておいてと言われたものですから。私、いつも醍醐先生からお財布をひとつ預かっているんですよ」
 
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「ホテルの電子レンジで温めてもらってから食べるといいよ」
「そうする。ありがとう。でも矢鳴さんは、これ何か不思議とかは感じないんですか?」
 
「醍醐先生の担当になってから最初の頃は何度か驚いたことがありましたが、もうこの程度は慣れました」
と矢鳴さん。
 
むむむ。
 
「あ。そうだ。ついでにこれもあげるね」
と言って千里は《金萬》を1箱私に渡す。
 
「これ確か秋田のお菓子だっけ?」
「うん。私、秋田での試合に出てきたから」
「え〜〜〜!?」
 
「新人なのに、こんなしょうもないことで欠席したら罰金ものだもん。まあベンチには座れないから客席からの応援だけどね」
 
「いつ出たの?」
「15時試合開始だから、15時からまあ17時くらいまでかなあ。その後で福島に戻って来た」
 
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「いいや、もう考えないことにする」
と私は言った。
「うん。その方が精神衛生上いいと思うよ」
と千里。
 

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「じゃ美里さん、このあと秋田方面への運転お願いします」
「はい。私もぐっすり寝せてもらったので、ノンストップで行けますよ」
「そちらも気をつけて」
「ありがとうございます」
 
「でもまあ私の周囲にも時々不思議なことが起きることはあるみたいだけと、青葉の周辺や、マリちゃん・みそらの胃袋ほど不思議ではない」
などと千里は言っている。
 
「確かにマリの胃袋は不思議だ!どう考えても物理法則に反している」
 
「じゃ、頑張ってね」
「うん、ありがとう」
 

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そういう訳で私は結局夕方に福島市内のホテルに泊まることができたのであった。政子は私が到着して間もなく仁恵・風花と一緒に到着したので、タコ焼きはホテルの部屋に付いている電子レンジで温めて食べた。仁恵と風花は半分でいいと言ったので1パックをシェアし、私も半分で充分だったので政子が2個半食べた。
 
私はわざと少し遅くになって19時過ぎてから町添さんにも福島に到着したことを伝えたが、町添さんは驚いていた。
 
「どうやってそこまで行ったの?」
「内緒ですが実はF-15 Eagleで移動したんです」
「それ昔やったね!」
 
と言って、町添さんも細かい移動手段は詮索しないようであった。町添さんとしては私が今夜中に福島に入れたことで、本当に安心したようである。
 
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「じゃアクア君に負けないステージを頼むよ」
「さすがに中学生には負けませんよ」
「うん、よろしく」
 

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「ところでさ」
と町添部長は小さい声になる。
 
「ネットで出所不明の情報として、明日のアクアの衣装は女の子みたいなミニスカートらしいというのが出回っているんだけど、そんな服着せたら、あの子色物って感じになってしまわないかね?」
 
私は微笑んだ。
「その件に関してはコスモス社長が、アクアは男の娘ではなくて普通の男の子であることをファンの皆さんに確認してもらいますと言ってましたから、大丈夫だと思いますよ」
 
「あ、そうなの?紅川さんは何だか曖昧なこと言ってたから心配してた」
「適度に煽って適度に引き締めるのがコスモス社長のやり方みたいですね。こないだの女湯疑惑とかも」
 
「あれ本当にあの子、女湯に入ったの?」
「その辺はまだ謎ということで」
 
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私はタコ焼きを食べ終わって一息ついた政子をカラオケ屋さんに誘った。そしてそこで明日歌う予定の曲を2時間一緒に歌った。
 

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翌日の朝、私は加藤課長の要請に応えて、福島の民放テレビ局の生番組に出演し、今日「震災復興支援ライブ」の第一弾が行われることを視聴者に伝えた。
 
「チケットは大変申し訳ないのですが、全て売り切れておりますが、ソールドアウト後の問合せが凄かったので、福島県内に住んでおられるかお勤めしておられる方、通学しておられる方限定で、ライブ・ビューイングを行うことにしました。下記の会場でおこないます。来て下さる方は運転免許証や社員証・学生証など、住所か勤務先・通学先を確認できるものをお持ち下さい。入場料は2000円頂戴しますが、頂いたお金は全額被災地に寄付させて頂きます」
 
と言って会場のリストが書かれたボードをカメラに向けた。
 
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「今日はアクアさんとローズ+リリーなんですね?」
 
「はい、そうです。12時からはアクアのステージ、16時からはローズ+リリーのステージです。チケットは別々で、アクアのチケットではローズ+リリーのイベントには入場できませんし、ローズ+リリーのチケットではアクアのイベントには入場できませんので、お間違いの無いようお願いします。なお会場に通じる道路は一般の車は通行禁止になりますので、福島駅、福島西ICそばの臨時駐車場からのシャトルバスをご利用下さい」
 
と私は説明した。
 

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実は2月26日夕方、2月27日朝と昼、3回に渡って私を含む4人が奥八川温泉に来ているのが映像付きでテレビ放送に流れていたこと、その奥八川温泉が、おりからの全国的な大雪で孤立していることがニュースで流れていたことから
 
「ケイちゃん、今日のライブに間に合いますか?」
 
という問い合わせが大量に来ていたのである。レコード会社やイベント事務局などでは
「ケイはちゃんと出演します」
という回答はしていたものの、ネットでは「本当に大丈夫か?」という書き込みが多数なされていたのである。
 

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この番組は福島県ローカルだが、速攻でその映像が動画投稿サイトに(違法に)転載される。
 
「おお、ケイがもう福島に来ている」
「良かった!万一ライブ中止なんてことになったらどうしようと思った」
「でもどうやって来たんだろう?」
という感想が出る。
 
奥八川温泉に閉じ込められているテレビ局スタッフの中継で11:30の中継では私を含むKARION4人が映っていたのだが、18:00の中継では3人しか映っておらず、小風が「らんこは今トイレに行ってるんです」と言っていた。
 
それでおそらく私は11:30と18:00の間に奥八川温泉を脱出したのだろうと多くのファンは推測したようである。実際に奥八川温泉と八川集落の間の道が開通したのは16:30頃である。この情報は地元の住民が町内放送で聞いた情報としてツイートした。
 
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ただ八川集落と大原集落の間の道は27日の内に開通しなかった。まだ4〜5日かかりそうだということがテレビでは報道されている。ただ旅行や出張で来ていた人の一部を天候が落ち着いてきた27日18時頃から、ヘリで空輸し始めたという報道もなされたので、
 
「恐らく蘭子は16:30に奥八川温泉を出て、そのヘリコプターで大原に移動し、その後は車で奈良方面に向かったのではないか」
 
という説が有力視された。
 
「大原から福島市までGoogle Mapで計算すると11時間で着くと表示される。27日の18時半に大原を出れば28日の朝5時半に福島に到着するよ」
 
「いや、それはあくまで渋滞無しで走った場合。昨日の奈良県南部は交通網が大混乱で、天河神社から大淀町まで4時間掛かったなんて話もあった。東名も中央道も北陸道も速度制限されていた。特に新東名は事故まで起きていた。恐らく実際に走ったらその倍の丸一日掛かったとしてもおかしくない」
 
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「だったら大阪あたりに出て朝一番の飛行機で福島空港か仙台空港に移動したのでは?」
 
「福島空港に朝いちばんに到着する便は伊丹からの8:10-9:25。番組に間に合わない。そもそも福島空港って福島市と凄まじく離れているから。福島空港から福島市まで1時間以上かかる」
 
「仙台空港に朝いちばんに到着する便は伊丹からの7:05-8:20。でも仙台空港から福島市までもやはり1時間以上かかる。やはり9時の番組に間に合わない」
 
「やはり移動できるだけ車で移動した上で朝いちばんの新幹線を使ったのでは?」
 
「9時の番組開始に間に合ういちばん遅い新幹線は福島駅8:48着のやまびこだと思う。東京発は7:12。それまでに昨夜の交通事情で東京に辿り着けるとは思えない」
 
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「大原集落から五條あたりまで多分5時間。五條から大阪まで昨夜の道路事情なら3時間。大阪から東京までやはり昨夜の道路事情ならうまく新東名を避けて東名の方を通っていたとしても早く見て8時間。どうやっても東京に着くのが午前10時。静岡あたりで新幹線に乗り継いだとしても8時半くらいが限界」
 
「やはりKARIONのらんことローズ+リリーのケイは別人だから」
 
「いや。それだけは絶対ありえない!」
 

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テレビ局の番組に出演した後は、スターキッズや他の伴奏者とスタジオに集合し、氷川さんにも臨席してもらって、細かい演奏に関する確認をする。風花にマリの代役を務めてもらい本番と同じ進行でリハーサルをおこなった。
 
「なんかこういう本格的なリハーサルって久しぶりだね」
などと鷹野さんが言う。
 
「すみませーん。いつも適当で」
「ところで眠り姫の目覚めは?」
「まああの子はアクアのステージを見たいだろうから、それまでには起きるはずです」
「なるほどー」
 
「あの子はこういうリハーサルやったら、それで疲れて本番する体力が無くなるから」
と私は言う。
 
「うん。あの子はそれが味だからいいんじゃないかね。ケイを含めて周りがしっかりしておけばいいよ」
などと鷹野さんは言っていた。
 
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今回『振袖』『灯海』『門出』に含まれている龍笛については千里がチームに帯同して秋田に行くという話であったので、元々青葉に頼んでいだ。彼女は高岡から自腹で福島まで来てくれていた。
 
「実は今回の往復交通費は千里姉に出してもらったんです」
「そうだったんだ!」
「自腹だし高速バスで往復しようと思っていたんですけどね。高速バスで一晩揺られてきて、疲れた体ではまともな演奏にならないと言われて新幹線の往復チケットとホテルのクーポンを送ってきたんですよ」
 
ホテルを取れたということは恐らくイベントの詳細発表前に押さえていたのだろう。福島市内のホテルは発表があったその日の内にほぼ予約が満杯になってしまったので、日帰りを選択した客も多いようだ。九州から日帰りという凄い客もネットで見かけた。
 
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どうも千里は今回のイベントを通じて私に体調管理を再度警告しているなと私は思った。そういえば昨年のツアーでフランス公演の出来が良くなかったと則竹さんにも指摘されたことを思い出す。まあ、あれはスケジュールを組んだのは加藤さんだけど! しかし自分自身ハードスケジュールで動くのに慣れてしまって体調管理が後回しになっていたかも知れないということを自省した。
 

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夏の日の想い出・分離(10)

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