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■夏の日の想い出・分離(9)

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(C)Eriko Kawaguchi 2016-03-13
 
「笛が凄く素敵でした」
と海香さん、そして御両親も言っていた。
 
「彼女は龍笛の腕ではたぶん国内で五指に入る人ですよ」
と私は言っておく。
 
「うん!そのくらい凄いと思った。いや、本当に名手の音ですよ」
とお父さんが言っていた。
 
「そういえばお父さんも笛を吹かれるんでしたね?」
「ええ。私も横笛吹きだからこそ、この巫女さんの笛の凄さが分かりますよ」
 
お父さんが千里の名刺を欲しがったので「越谷F神社副巫女長・村山千里」という名刺を渡していた。そんな名刺もあったのか!!
 

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一同が部屋から出て行くと雪があがっていた。千里の龍笛は本当に龍を呼ぶようで普段は晴天でも落雷があったりするのだが、今日は雪をやませる効果があったのかもと私は思った。
 
11時少し前、雪がやんでるのでということで、雪上走行に慣れているスタッフさんが様子見を兼ねてスノーモービルで八川集落・大原集落まで往復してきてみるということであった。また、ここと八川集落の間の道の除雪作業も一時中断していたのを再開するということで早ければ15時頃には開通するかもという話だったが、やはり八川と大原の間の道路のほうが、まだ復旧の目処が全く立っていないらしかった。
 
「蘭子ちゃん、醍醐さん、出発するなら、その前にお昼食べて行かない?」
と孝郎さんが言うので、結局美空たちもそれに付き合うことになり、5人で食事をする。この最中にもテレビ局のクルーが回ってきた。多分他にすることがないから、ずっと各部屋を巡回しているのだろう。
 
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「食材は何日分くらいあるんですか?」
と美空が心配そうに訊く。
 
「一週間くらいは大丈夫ですよ」
と食事を運んで来てくれた海香さんが言う。
 
「でも美空の消費が激しくて3日で食べ尽くしてしまったりして」
「むむむ」
 

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スノーモービルで様子を見に行っていた人が戻ってきて、八川集落、そして大原集落までのルートも大丈夫だということであった。地図を示してこういうルートで走ればOKですからと言われる。GPSも貸してもらう。
 
「八川と大原の間の道の方はどうですか?」
「あれはヘタすると一週間かかるね」
「わぁ・・・」
 
「村外に出ないといけない人に関しては場合によってはヘリコプターなどで空輸することも考えると、村役場の課長さんが言ってました。ヘリコプターが離着陸できる場所を夕方くらいまでに作るという話」
 
「じゃ何とかはなりますね」
「ええ。閉じ込められて出られないということはないですよ」
 
今週はローズ+リリーだが、来週はKARIONのステージがある。
 
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パソコンや着替えの入った大きな荷物は置いていくことにし、着替え1回分と身の回りの品だけ持つ。防寒用の服と手袋、雪山用のサングラスも貸してもらった。それでスノーモービルに乗る。千里が運転席に座り、私はその後ろに乗って千里に抱きつくようにする。スノーモービルというのは、要するに雪の上を走るバイクのようなものである。
 
テレビ局のクルーがこの様子を撮影している。和泉たち3人が見送ってくれる中、
 
「ではお先に」
と声を掛けて出発する。
 
「しっかり掴まっておいてね」
「うん」
「冬は女の子を抱きしめたら変な気分にならない?」
「私はレズじゃないよぉ」
と私。
「うん。私もレズじゃないから平気」
と千里。
 
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「お互いに政子ちゃん、桃香だけが例外なんだろうね」
「そうだと思う。でもさ」
「うん?」
「実際千里って本当に桃香が好きなの?」
「好きじゃなかったらとっくに別れてるよ」
「でも浮気とか放置してない?」
「浮気しても桃香は絶対に私を捨てないと確信しているから良いんだよ」
「はぁ・・・」
 
「あの子はひとりの恋人だけでは満足できない子なんだよ。恋愛エネルギーが常に余っているから、あれだけのエネルギーをひとりで受け止められる人は存在しないよ。それに女の子となら法的に結婚してこちらが捨てられるということもないしね」
 
「うーん・・・・」
 
「普通の人なら複数の人を愛そうとするとエネルギーが半分になっちゃう。それで相手は不満を持つ。ところが時々最初から数人分の恋愛エネルギーを持っている人っているんだよね」
 
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「千里ももしかしてそうなの?」
「まあ冬も政子ちゃんもそうなんだろうね」
「あるいはそうなのかも知れない」
「芸術家には結構そういう人っているのかも」
「確かに。芸能人とか画家の結婚がうまくいかない原因のひとつって気がするよ」
 
「でも冬は政子ちゃんが男の人と結婚したらどうするのさ?」
「うーん。その時はその時だなあ。私も正望と結婚しちゃうかも」
「それで収まる?」
「実は自信無い」
 
「だろうね。大林君との仲、実際問題として進展してるでしょ?」
 
「あの子はあくまで友だちだと言っているし、むしろあいつは嫌いだとか言っているし、まだデートもしてないみたいだけどね。メールの頻度はけっこう高くなっている気はする。クリスマスプレゼントも交換したみたいだし」
 
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「それ本格的じゃん」
「大林君はベルギー産のチョコの詰め合わせの豪華なのを贈ってきた。政子は駄菓子の詰まった800円のクリスマスブーツを贈った」
 
「あはは」
 
「バレンタインにも嫌がらせと称して、大林君が嫌いなブランデー入りのチョコボンボン渡したみたいだし」
 
「大林君ブランデーが苦手?」
「ブランデーも焼酎も飲めないって。普通の日本酒やワイン・ビールはいいんだけど」
「ああ、そういう人はたまにいる」
「蒸留酒が苦手みたいね。ウィスキーは水割りなら何とかなるらしいけど」
 

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「でも政子ちゃんが大林君と結婚したとしても、たぶん政子ちゃんと冬の間の関係は何とかなると思う」
などと千里は言う。
 
「千里は何とかしてるみたいね」
「まあね」
 
千里はしばらく沈黙していた。そして言った。
「冬にだけは言っちゃおう」
「うん」
「私、とうとう貴司とセックスしちゃったよ」
 
私はしばらく考えていた。
 
「それは今までしていなかった方が不思議だと思う」
「無節操にするつもりはない。次はもし貴司が世界最終予選でオリンピックの切符をつかめたら、してもいいと言った」
「細川さん、それなら頑張るかもね」
「うん。それを期待している」
 

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八川までのルートは距離は短くても峠越えになるし、何と言っても新雪なので千里が慎重に走ったこともあり5分ほど掛かった。私たちは孝郎さんから聞いていた、非番の従業員さんの所に寄り、交通の復旧の様子を訊いた。
 
「どうも大原と八川の間の道の完全な復旧には10日くらいかかるみたいなんですよ」
「10日ですか!?」
 
「倒木の処理にかなり手間取っているみたいで」
「ああ。奥八川からここまでの道でも何本か倒れているのを見ましたよ。チェーンソーで切断したりして大変な作業になっているみたいですね」
 
「結局、旅行客とかは自治体のヘリコプターで輸送すると言ってます」
「ああ、やはりヘリなんですね」
 
多分片原元祐さんや和泉たちもヘリになるかなと私たちは思った。テレビ局のクルーはおそらく10日間、この集落や奥八川温泉からのレポートになるのだろう。私たちはスノーモービルで走行するルートをその人に再確認してもらった。
 
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この八川集落では携帯の電波が通じたので、矢鳴さんとも直接電話で連絡が取れた。彼女はあと少しで大原に着く見込みということであった。やはり雪のためなかなか思うように走れないらしい。スタックしている車も数台見たという。一応チェーン規制が掛かっているがチェーンを付けたりスタッドレスを履いていても、そもそも雪上走行に慣れてないドライバーが多いのだろう。
 
私は町添さんにも電話して、スノーモービルで奥八川温泉から八川集落まで取り敢えず出てきたこと、これから大原集落までやはりスノーモービルで移動することを伝えた。町添さんも万一私が間に合わなかったらどうしよう?と思っていたということで、ホッとしていた。
 
「しかし基本的にケイちゃんは忙しすぎるからなあ」
「部長のスケジュールには負けます。香港に行った翌日にまたアメリカ出張とか」
「まあ上に立つ者は下の者の3倍働かなきゃ許されないからね」
 
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それで暖かい飲み物なども飲んで集会所でトイレにも行ってからスノーモービルは出発する。
 
「しかしまあ08年組もここの所受難続きだったよね」
と千里は言う。
 
「確かにね〜」
「XANFUSは解散騒ぎ、ローズ+リリーはマリちゃん熱愛報道、AYAは休業騒ぎ、KARIONはバンドリーダーの離脱で済んだのは軽い方かもね」
 
「それはひとつの考え方かもね」
「でもAYAのゆみちゃんは何で休業していた訳?」
「結局そのあたりは語らないけど、復帰したというのは自分なりに何かを乗り越えたんだろうね」
「まあ悩む時もあるよね。あの子も中学生の頃からずっと芸能界のお仕事してきて」
「キャリア長いもんなあ」
「でも冬はもっとキャリア長い」
「まあ私も悩んだ時期はあったよ」
 
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「冬の場合は芸能生活のことより性別で悩んだ時期の方が長かったのでは?」
 
「確かにそれはある。男として生きるのか女として生きるのか、正直な所かなり揺れていた。私、政子と出会ってなかったら、まだ揺れていたかも知れない」
 
「あの子は唆すの上手いからね」
「そうなんだよ!」
 
「私の場合は、悩んでいる内にいきなり女性ホルモン大量に打たれちゃったし、唐突にあんたは女子だと言われて女子バスケ部に移動されちゃったから悩むこともできなかったな」
 
「その話、少し突っ込みたいんだけど、でも確かにベクトルが私と千里と青葉では違うよね」
 
「うん。青葉の場合は最初から何も迷っていない。自分は女だと信じていた。この3人の中では冬がいちばん普通。あと実態が見えないのが和実だけどね」
 
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「ああ、あの子は絶対過去の自分の履歴を偽っていると思う」
「高校生になってバイトしに行ったらメイドさんだったから女装するようになったって話はどうもうさんくさい。それ普通はメイドさんになったりせずに、ごめんなさいと言って帰ってくるでしょ?」
 
「言えてる言えてる。高校生になって女装を始めたし、大学生になってから女性ホルモン飲み始めたなんて言う割にはあの子も骨格が女の子だもん」
 

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八川集落から大原集落までは10分ほど掛かった。孝郎さんの友人という人の所にスノーモービルと借りた防寒着・サングラス・GPSを預かってもらう。それから矢鳴さんと連絡を取り、迎えに来てもらった。
 
「お疲れ様です。大変だったでしょう?」
 
「ええ。なかなかまともに進めなかったから。でも今から移動すれば充分福島に間に合いますね。醍醐先生も今日の試合は無理でも明日の試合には出席できるでしょうし」
「ええ」
 
この大原集落でまた町添さんに電話して、矢鳴さんと合流できたこと。これから車で五條方面に向かうことを伝えた。
 
「でも矢鳴さん、もしかしてずっと運転してました?」
「はい」
 
「だったら、ここは取り敢えず冬が運転した方がいい」
と千里が言う。
 
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「うん。そうしようか」
「すみませーん」
 

それで矢鳴さんには後部座席に行って仮眠してもらい、私がプラドの運転席、千里が助手席に乗って車は出発する。千里も眠りはしないものの目を瞑って神経を休めているようだ。
 
「あれ?この車、オドメーターがまだ500kmしかない」
「うん。年末に買い換えたばっかり」
「それを借りてきたんだ!」
「今回の走行が最初の大旅行だね」
「いいの〜?」
「前の車も私が運転した距離が7〜8割だよ」
「あぁ・・・」
 
しかし確かに雪道でスピードを出せないし、結構慎重に走っている車があり、ところどころ片側相互通行になっている所もあったりで、なかなか思うように進行しない。これは今日中に福島に辿り着くのは無理だなと私は思った。このままだと京都か大阪で1泊かなという感じである。
 
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1時間ほどしたところで千里が運転代わるよと言うので代わってもらい、私が助手席に行った。やはり車の進行はのろのろである。助手席に移った時に車の時計を見たら14:28であった。
 
「冬も疲れたでしょ。少し仮眠するといいよ」
「うん。そうさせてもらおうかな」
と言って私も目を瞑った。
 

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夏の日の想い出・分離(9)

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