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■夏の日の想い出・分離(6)

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「私が結局いつ性転換手術したのか分からないと言う友だちが多いね」
と私は言っておいた。
 
「ああ、それは私もよく言われる」
と千里。
 
「まあ誤魔化して入っていた時期が結構あったからね」
「性転換した後で友だちと一緒に温泉に行った時、これまでと何も変わらないようだがと言われた」
「ああ、それはこちらも言われた」
 
「実際には、冬は小学2年生の時、千里は小学3年生の時に性転換手術したんだったっけ?」
と美空が言う。
 
「何かこの手の適当な噂の発信源のひとつは美空のような気がするなあ」
「ああ、同感」
 
「実際はふたりとも高校1年の時だったっけ?」
と和泉が訊くので
 
「私は実際には大学2年の時」
「私は本当は大学4年の時」
 
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と私と千里は言ったが
 
「それはさすがに嘘が酷い」
と小風から言われた。
 

「冬はライブは何時だっけ?」
「28日16時。一応27日のお昼くらいから移動しようかなと思っている。花恋に橋本駅まで送ってもらって、ここから橋本まで2時間くらいで行くはずだから関空から仙台空港まで飛べば向こうに21時半頃に着くんだよ」
 
「飛行機がもし欠航したら?」
「新幹線の乗り継ぎでもその時刻から22時すぎに到着する」
「飛行機も新幹線も変わらないじゃん」
「そうなんだよね〜」
「福島空港って無いんだっけ?」
「あるけど、福島空港って郡山市より南方にあって、福島市まで1時間以上掛かるから仙台空港の方が便利。便数もあるし」
 
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「ライブに間に合う最終連絡は?」
「28日6:55に橋本を出て新幹線乗り継ぎで福島駅に14:16に到着する。まあそんなギリギリに行ったらいけないけどね」
 
「千里は試合は何時?」
「27日の15:00秋田市内」
「秋田市までの最終連絡は?」
「来る途中、乗換案内で確認したけど、27日の朝6:34に橋本を出ると秋田に14:16に到着する連絡がある」
 
「じゃ27日の朝御飯まで食べてから行けばいいね?」
と美空が言うので
「みーちゃん、ここから橋本までの時間を考えてない」
と小風が指摘する。
 
「うん。26日中にこちらを出るよ。矢鳴さんに迎えに来てもらうことにした。26日の夕方こちらを出て大阪まで送ってもらう。大阪近辺で泊まって朝7:30の新幹線に乗れば秋田に14:08に到着するから。実は他の選手は東京から同じ新幹線に乗るんだよ。東京10:20発なんだけどね」
 
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「ああ。じゃそのコースがいいかもね」
 
「だったら26日の晩御飯を食べてから出ればいいね?」
と小風。
 
「うん。そうしようかな」
 
「ご飯はちゃんと食べなきゃね」
と美空が言うと
「みーちゃんには、それが一番大事だよね」
という声が出る。
 

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お風呂からあがった後、夕食に行く。
 
山の中の1軒宿なので、肉料理が中心かなと思ったら、勝浦漁港から買い入れてきたというお魚のお刺身が新鮮でびっくりした。大きな鰹の頭を丸ごとオーブンで焼いたものも物凄く美味しかった。ロースト・ボニートという感じである。
 
「お若い方はお肉のほうがいいかとも思ったのですが、逆に普段お肉が多いなら、お魚もいいかもと思いまして」
などと女将さんが言っていた。
 
ご飯はおひつに入れて私たち5人と起きてきた花恋の女6人連れの所に1つ置いてあったのだが・・・私たちが食べている所の様子を見た女将は、とってもさり気なく、おひつをもうひとつ美空の横に置かせた。
 
「そちらのおひつの方が先に無くなりそうだ」
と小風。
「そちらは食べそうなのは千里くらいだね」
と美空。
 
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「私も高校1年の頃までは食が細すぎると言われてたんだけどね」
と千里。
「自分の性別問題に決着が付いてからは、しっかり食べて身体を鍛えるようにしたから。今の筋肉って、だから高校2年以降に付いたものなんだよ」
 
「ということは、やはり高校1年で女の子になったんだ?」
と美空。
 
「もう最近みんながそう言うから、それでもいいことにした」
などと千里は言っている。
 

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食事が終わってから部屋に案内してもらい、お茶菓子などももらって少し一息付いたかなと思っていたら、20時近くになってから花恋が来て
 
「KARIONの4人さん、ちょっといいですか?」
と言う。千里が
「行ってらっしゃーい。気をしっかり持ってね」
と言って手を振っているので私と和泉は顔を見合わせて少し緊張した面持ちで男性部屋の方に行った。
 
(今回の部屋割は、千里・花恋を含む女性6人で1部屋、社長を含む男性5人で1部屋にしている)
 
部屋には、社長、相沢兄妹、黒木さんたち4人の合計7人がいる。そこに私たち4人が入り、花恋は私たちを案内した後「醍醐さんと一緒に居ます」と言って下がった。
 

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私と和泉は緊張したまま座る。小風も空気を感じて顔が引き締まっている。美空は何だろう?という顔である。
 
「あのぉ、まさか∴∴ミュージックが倒産したんですか?」
などと美空が訊くので、難しい顔をしていた社長が思わず破顔して
 
「いや、大丈夫だよ。君たちがたくさん稼いでくれているからうちの会社は安泰」
と言った。
 
「実はたいへん申し訳無いんだけど、僕はトラベリング・ベルズを辞めさせてもらおうと思って」
と相沢孝郎さんが言ったのに、私は驚愕した。
 

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孝郎さんの説明はこうであった。
 
11月に社長をしていた弟さんが亡くなり旅館の後継問題が浮上した。五十日祭を待って、名目だけの専務をしていた孝郎さんが取り敢えず社長を継承、海香さんも名目だけという約束で常務となった。孝郎さんは社長に就任すると会社の帳簿をチェックした所、高額の工事代金を二重に計上したり、勤務実態の無い人への給料が支払われたことになっているなど、見るからにおかしな所が多数見つかった。
 
「最初は単純ミスと考えたかった。多少なら目を瞑るつもりだった。しかし金額が大きすぎてね」
と孝郎さんは言った。
 
それで新社長の権限で大阪の監査法人の会計士を呼んで会計監査をしてもらった。その結果帳簿が保管されていた過去7年間だけでも5千万円もの使途不明金が発覚したというのである。
 
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経理を担当していたのは番頭の奥さんであった。孝郎さんは監査結果の書類を示して彼女を追及するが、埒があかない。それで、これなら業務上横領で告訴せざるを得ないと言うと、番頭さんの方が、それは自分が指示してやらせていたもので全ての非は自分にあり、妻には罪は無いと告白したのであった。
 
番頭さんの息子が強姦事件を起こしたり、傷害事件を起こしたりして多額の賠償金が必要になり、最初は「ちょっとだけ借りておいて後で返す」つもりで会社のお金に手を付けてしまったものの、それが返せなくなり、発覚しないように色々帳簿上の工作をしたということであった。
 
「取り敢えず2人には辞めてもらうことにした。退職金は払うことにした」
「払ったんですか?」
「但しそれは会社に与えた損害に対する賠償金の一部として相殺させてもらった。だから実際にはお金は払っていない」
 
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「退職金だけでは足りませんよね?」
「足りない分は損害賠償請求の訴訟を起こした」
「当然ですね」
 
「祖母さんは長年貢献したんだから、ふたりの借金ということにしてやれと言ったんだけど、当人たちが既に破産寸前なんだよ」
 
「ああ・・・」
「息子が起こした事件の賠償金支払いのため、既に持っていた山も手放し、家も土地も抵当に入っている。その上、カードローンやサラ金に2000万円くらい借金があるらしい」
「じゃ、借用証書書いてもらっても無意味ですね」
「うん。破産で消えてしまう。だから敢えて訴訟を起こした」
「なるほど」
 

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「まあそれでだ。やり手でアイデアマンで従業員や旅行業者・仕入れ業者さんたちの信頼を集めていた弟が急死して、それでなくても従業員はみんな動揺している。そこに多少煙たがられてはいたみたいだけど、みんなが頼りにしていた番頭夫妻が不正経理で首になったとあれば、みんな不安でたまらないと思うんだ。それで俺は板長さん、仲居頭さん、それに女将(相沢さんの祖母)と4人で話した」
 
「はい」
 
「板長は俺がガキの頃に随分可愛がってくれて、俺にスキーを教えてくれた人でさ。自分は女将にも義理があるし、もし俺が主人になってくれるなら自分は辞めないと言った。俺はだったら自分が若主人になると言った。それで板長も仲居頭も納得してくれた。他の従業員は自分たちが説得すると言ってくれた。だから、俺はここの主人になることにした」
 
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私たちは無言で聞いていたが、私は相沢さんの言葉に「漢」を見た。みんなの表情を見ると、小風も相沢さんを憧れのまなざしで見ている。和泉はポーカーフェイスであるが、恐らく様々なことを考えて、脳味噌が高速回転しているのだろう。
 
「いや。もうこのまま旅館を畳むことも考えたんだよ。しかし畳んだら祖母さんが生き甲斐を失って急速に老け込むだろうしさ。それに弟が積極的に営業をしていた結果、団体旅行の予約とかを向こう1年くらい先まで受けているんだよ。旅館を畳んだら、その違約金が恐ろしいことになる」
と相沢さんは言う。
 
「わぁ・・・・」
 
「それでなくても、その5千万円の欠損金を含めて銀行への借金もかなりある。旅館を閉めたら役員に名前を連ねている俺の責任も問われる。俺自身が破産に追い込まれる」
 
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「前門の虎・後門の狼みたいな話ですね」
 
「そうなんだよ。だからここは進むしかないと思った。でもこの村に居てKARIONまではできない。それで社長に相談させてもらった」
 
そこで初めて畠山社長が発言する。
「彼の辞意をどうするかは、僕自身としては、君たちKARIONの4人の気持ち次第だと思うんだよ」
 
「そういうことであれば仕方ないと思います。TAKAOさんの決断を尊重します」
と和泉は即答した。
 
私も小風も頷いた。美空は少し考えていたが
 
「この旅館の料理すごく美味しかったもん。こういう所は無くしたらいけないと思います」
と言った。
 
それでその場が急にやわらいだ感じになった。
 
「俺たち4人としてもTAKAOの考えを尊重したいということにした」
と4人の中で最年長の児玉さんが4人を代表するかのように言った。
 
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「では彼の辞意を認めていいね?」
と社長。
 
「はい」
 
「みんな済まん」
と言って孝郎さんはみんなに頭を下げた。
 

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その時唐突に海香さんが言った。
 
「兄貴が辞めちゃうなら、代わりに私がトラベリング・ベルズに入っちゃおうかなあ」
 
この発言にはその場に居た全員が驚いた。孝郎さんも驚いた顔をしているから事前に誰にも言ってなかったのだろう。しかし黒木さんが真っ先に答えた。
 
「歓迎、歓迎。ぜひトラベリング・ベルズのギターを弾いてよ」
「あ、でも大学院卒業するまでは学業優先にしてもらってもいいですか?」
 
「うん、いいよいいよ」
と畠山さんも笑顔で言った。
 

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翌26日は孝郎さんは午後から私たち4人+千里を旅館の送迎用ワゴン車に乗せて八川集落まで自分の車で連れて行き、そこの夏祭りで使う屋台等が展示してある記念館、農産物や土産物のお菓子などを置いている物産館、村出身の歌人の碑、村外れにある「四本杉」とか「白糸の滝」と呼ばれている(本当に!)小さな滝などを見せてくれた。
 
「まああまり大して見るような所は無いんだけどな」
「でもこの四本杉はかなりの樹齢ですね」
「うん。奈良大学の先生の鑑定では樹齢1200年くらいだろうということ」
「凄いですね、それは」
 
孝郎さんたちの両親が住んでいる家にも寄ったので、私たちは挨拶をしておいた。両親は夏は畑を耕し、冬は椎茸の菌床栽培をしているということだった。その椎茸を少々と大根を段ボールに1箱受け取り荷室に積んでいた。
 
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「いや孝郎に苦労掛けてしまって済まん。俺が社長やれたら良かったんだが、俺全くそういうセンスがないから。昔会社勤めした時も3ヶ月で首にされてしまったし」
などとお父さんは言っていた。
 
「この人は畑の作物を見るのと神楽の笛吹くくらいしか才能がないからね。そういう私もお金とかのこと全然ダメで。目の前にあるお金は全部使っちゃうから私が経理とかしたら半年で倒産しちゃうよ」
とお母さんも言っていた。
 

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■夏の日の想い出・分離(6)

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