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■夏の日の想い出・The City(7)

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10月上旬に私は『The City』の制作があと半月くらいで終わりそうというのを★★レコード側に報告しておいたのだが、中旬になって町添さんが加藤さん・氷川さんと一緒にマンションに来訪し
 
「ローズ+リリーのライブをやろう」
と言った。
 
早朝からの来訪なので、政子はまだ寝ていたし、私は敢えて起こさなかった。この時間帯に来るというのは、つまり政子抜きでの打ち合わせということである。
 
「いつくらいですか?」
「君たち、どうせ国営放送の例の年末の番組には出ないんでしょ?」
と町添さんが尋ねる。
 
「丸花社長から一応話は来ているけどと連絡がありましたが、お断りしました。マリの精神が耐えられないのが明らかなので」
と私は言う。
 
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「マリちゃんは詩人として天才的だし、シンガーとしてもひじょうに魅力的なんだけど、芸人としての適応力はゼロだからなあ」
と加藤さんも苦笑しながら言う。
 
「まあそれでどうせ大晦日・元日が空いているなら、カウントダウンライブをしようかと」
と町添さんが言う。
 
「どういうメンツでするんですか?」
と私は尋ねたのだが
 
「ローズ+リリー単独」
と町添さんは言う。
 
「マジですか?」
 
「今のローズ+リリーなら行けるよ。当日21:00開場・22:00開演。途中30分のゲストタイムを経て0:00にカウントダウンして0:30公演終了」
 
「こちらはその時間帯全く問題ありません。マリの睡眠時間ってだいたい夜2時くらいからお昼の12時くらいまでですから」
「10時間睡眠か」
「まあ健康的というか」
 
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「ゲストはどなたですか?」
「スリファーズと、KARIONと、ゴールデンシックス」
 
私はむせてしまった。
 

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「まあ君たちにとっては身内というか」
「KARIONは真ん中ね」
「そうしてもらわないと困ります!」
「ゴールデンシックスはカラオケ対決付き。万一ケイちゃんがカノン君に負けたら、後半のステージはゴールデンシックスが1時間やる」
「あはは」
「カノン君に真剣勝負しろとハッパ掛けたら、じゃ1時間分の演奏曲目用意しておきますと言っていたよ」
 
「まあ、いいですけどね」
 
「ゲストの3組はどれも国民的番組には出ないんだよ。スリファーズは初期の頃からピューリーズ・アンナガールズと一緒に年末ライブをしていたから、それを優先している。一応そちらは夕方までに終わるんだけどね。ゴールデンシックスは専任の2人以外は自分の仕事を持っているから、あの番組で要求される長時間のリハーサルに出席できない。KARIONは内々に提示された演出をポリシーに合わないとして断って出場辞退」
 
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「ええ。和泉が独断で断ったと言ってました。ローズ+リリーの場合も実態は似たようなものですけどね。向こうが要求する演出にマリが納得する訳無いので」
 
「どちらもそもそもあまりテレビに出てないもんね。一応ゴールデンシックスとKARIONは東京の国際パティオで開かれるカウントダウンライブの早い時間に出演した後、新幹線でこちらの会場に駆けつけてくれる」
 
「ちょっと待って下さい。新幹線って・・・ローズ+リリーの会場はどこです?」
「安中市」
 
私はすぐには思い出せなかった。
 
「どこでしたっけ?」
「群馬県。最寄り駅は安中榛名。北陸新幹線の停車駅」
 
私は頭を抱えた。
 
「そこって秘境駅ですよね?」
 
確か駅ができた時は周囲に人家や生活施設もほとんど無く、公共交通機関さえ存在していなかったはずだ。
 
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「そうでもないよ。最近けっこう住宅開発が進んでいる。今回の会場はそこに建築予定のショッピングモールの敷地を利用して実施する。ショッピングモールが建ってしまうともう使えないから、今回のイベントが最初で最後になると思う。一応高崎駅からもシャトルバスを出す」
 
「そこって住宅地じゃないんですか?音を出して苦情来ません?」
「1度だけのイベントということで、自治会の許可も取った。防風・防寒も兼ねて防音パネルも設置するから、シミュレーション計算ではいちばん近い住宅の室内騒音は40db」
 
「そこまで小さくできるなら問題無いかも知れませんね。でも深夜終了でしょ。観客はどうやって帰るんです?」
 
「近くに草津温泉・伊香保温泉など多数の温泉があるので、そこの宿泊券とセットのチケットを多数売る。各温泉までは送迎バスを運行する」
と加藤課長は説明したが、町添さんが補足する。
 
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「いや、大きなキャパのコンサートってみんな都会でやるでしょ。でも有名アーティストのライブは遠くから来る人も多いじゃん。そういう人たちに旅情を感じてもらうのも、いいのではないかという企画があったんだよ。ただ、田舎の会場まで来てくれるといったら、かなりのビッグ・アーティストでないと無理。そこにローズ+リリーを使おうという話になったんだよ」
 
「確かにせっかく遠くまで来たら、温泉に浸かってのんびりというのもいいかも知れませんね」
 
と言ってから私はまた考えた。
 
「KARIONは国際パティオのカウントダウンライブにも出るとおっしゃいましたっけ?」
「うん。KARIONの出番は17:00-17:30だから、それから移動して充分間に合うよ」
「あははは」
 
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この企画は最終的に前座を入れることになった。
 
ローズ+リリーが22:00-0:30に演奏するのだが、その前に19:30-21:00に私たちも楽曲を提供した新人女性デュオ・ムーンサークルに1980-1999年の各年のヒット曲を1曲ずつ歌わせるという企画になった。その20曲を歌った上で最後に自分たちのデビュー曲を歌ってもらおうということである。
 
また、一応スポット暖房を入れるものの、年末の群馬の山の中で寒いので21:00-22:00の休憩時間に入場者全員に暖かいおでんを振る舞うということで、保健所の許可も取った(おでんを作るのは大手給食業者である)。ゴミを出さないように、休憩時間後半と本編ゲストタイムにゴミ回収隊が会場内を巡回することも決めた。
 
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『The City』の音源制作は10月20日で一応終わり、発売日は12月2日(水)と決定した。その後はPVの編集や少し遅れて発売される海外版の歌詞の整備とその録音などを進めつつ、作業が停まっていたKARIONのアルバム制作の方を進めていた。
 
しかし私は10月13日に千葉の玉依姫神社で桃香と谷崎潤子が交わしていた会話がずっと気になっていた。
 
『都会は美しい』
 
そうだ。私はそのことを忘れていたのではないか。
 
それが物凄く気になった。
 
私はその日の夕方、政子に尋ねてみた。
 
「東京でいちばん美しい所ってどこだと思う?」
 
すると政子は言った。
「東京タワーの大展望台の夜景」
 
「特別展望台じゃなくて?」
「大展望台の方が良い」
 
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「行ってみようか」
「その後焼肉に行けるならOK」
「うん。焼肉に行こう。今日はしゃぶしゃぶじゃないんだ?」
 
「冬行ったことある?★★レコードのある青山ヒルズの展望所も素敵。あそこから外を眺めると、そのあとしゃぶしゃぶかステーキが食べたくなる。でも私は東京タワーの大展望台の方が好き。あそこから外を見た後は、焼肉かトンカツが食べたくなる」
 
「それはマーサの感性かもね」
 
それで、私たちはマンションを出て、のんびりと散歩でもするかのように夕方の街を歩き、1時間ほど掛けて東京タワーまで行った。
 
「東京タワー自体が美しいよね」
「うん。スカイツリーも悪くないけど、東京タワーは美しい」
 
私たちが歩いて行く内にあたりはすっかり暗くなっている。本当にタワーの電飾がきれいだと思った。
 
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エレベータで大展望台まで上がり、夜景を眺めた。
 
「私はこんなに美しい場所が東京にあったことを忘れていた」
「冬、都会が美しいと思ったから『The City』を作ったんじゃなかったの?」
「そうだったんだけど、そのことを忘れていた」
 
「仕方ないな。私が詩を書いてあげるから、それに美しい曲を付けなさい」
と政子が言う。
 
「うん。そうする」
と私は答えた。
 
政子が詩を書き始めたが、私は心が空白になるような気分でずっとその美しい夜景を眺めていた。月が美しいなと思った。
 

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「え〜!? 楽曲を差し替えるんですか?」
 
さすがの氷川さんも驚いたように言った。
 
「すみません。どうしても入れたい曲ができたので」
 
ともかくも氷川さんは新しい曲『灯海(とかい)』を聴いてくれた。取り敢えず私がピアノで伴奏しながら、私とマリで歌ったものである。
 
「美しい曲ですね。これストリングアレンジしませんか?」
「私もそう思っていたところです」
 
「でも既に14曲構成ですよね。これ以上は収録時間の関係で増やせないし。何と差し替えるんですか?」
 
CDは一応最近の規格では80分まで入るのだが、古いプレーヤーとの互換性の問題で可能なら74分以内に納めるのが望ましい。『The City』は現在曲間なども含めて72分ほど使用していた。
 
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「氷川さんなら、どれと差し替えますか?」
 
「ケイさん、差し替える曲を紙に書いて、せーので見せっこしません?」
と氷川さんは提案する。
 
「いいですよ」
 
それでお互い背中を向けてメモ用紙に名前を書いた。せーので見せる。
 
それは同じ曲であった。
 
「では『内なる敵』は次のシングルに移動ということで」
「そうしましょう。ただし次のシングルをいつ出すか決めてください」
「4月でいいですか?3月まで多分KARIONのアルバム制作で手一杯です」
 

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『灯海』の音源制作は26日から3日掛けて行った。
 
すぐに確保できるヴァイオリン奏者ということで、従姉の蘭若アスカ、その弟子の鈴木真知子、夢美、偶然帰国していたゴールデンシックスの水野麻里愛さん、マリがメールで呼び出した長尾泰華さん、それに鷹野さんで六重奏。香月さんのヴィオラ、宮本さんのチェロ、酒向さんのコントラバスをフィーチャーした。
 
管楽器として七星さんと風花と七美花のフルート三重奏、篠崎マイのクラリネット、私のバスクラリネット、千里の龍笛、槇原愛の篠笛、これに月丘さんのグロッケン、ゴールデンシックスのカノンの大正琴!、美野里のピアノ、山森さんのオルガンというキーボードセクションを入れている。間奏部分には雨宮先生・七星さん・鮎川ゆま、という超豪華なサックス三重奏が入る。
 
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千里は「年末で納期間近でプログラムが忙しい!」と言っていたのに雨宮先生が強引に引っ張り出した。何かで脅迫したと言っていたが、どういう脅迫ネタを持っているんだ!?
 
「あんた、そもそもあの会社、首にされたいと思っているんでしょ?」
と雨宮先生。
「もう4月から3回退職願を出したのに受け取ってもらえないんです。同期で入った人、私以外はもう全員辞めちゃったのに」
などと千里は言っている。なかなか激しい会社のようだ。
 

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「でも緊急招集したアーティストの音とは思えない凄いサウンドだ」
とサウンドバランスのアドバイザーとして徴用した和泉は言った。
 
「まあ世界の頂点に立ったアーティストが何人も入っているし」
と私が言うと
「男の娘が何人も入っているからじゃない?」
とマリが茶々を入れる。
 

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楽曲の緊急差し替えと聞き、わざわざスタジオまで聞きに来た加藤課長は
 
「Flower Gardenをやった時のような音だ」
と言った。
 
「そうなんです。私はそれを忘れていたんですよ」
と答える。
 
「今回のアルバムでアコスティック楽器を使った曲が少なかったのはやむを得ないと思う。都会をテーマにしたら、どうしても電気楽器の音を連想するから」
と七星さんが言ったが、それは今回の企画の盲点だったと私は思った。ローズ+リリーはここ数年、このアコスティック楽器の音が評価されていた面も大きいので、新しい機軸を模索するのは良いが、基本を忘れてはいけなかった。
 

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この音源を制作した後、再マスタリングを麻布先生と有咲に任せて、その後PVの制作をするが、これは都会の夜景の中を、私とマリが自由に飛び回りながら歌うという幻想的なものに仕上げた。
 
この映像の監督をしてくださったのは雨宮先生である。私とマリは手足をピアノ線で吊られて様々な姿勢を取らされながら、とりあえず歌いまくった。実際にその角度にしないと、洋服の垂れ方が不自然になるから、という雨宮先生のこだわりで、こういうことをするハメになった。
 
私は目が回る感じだったが、マリは絶叫マシンみたいだと言って楽しんでいたようである。
 
この撮影が終わったのが10月31日で、これで本当に『The City』の制作作業は完了した。
 
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