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■夏の日の想い出・The City(2)
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続いて制作したのか『ハンバーガーラブ』であるが、明るいポップな曲であり、伴奏もスターキッズの基本メンバー5人のみで演奏している。PVとしてはハンバーガーの「製作過程」を映像化した。
私がタマネギをみじん切りにし、マリが挽肉・パン粉・牛乳・卵と一緒にこねる。それをふたりで手分けして整形し、私が鉄板の上で焼いている。一方でマリはバンズを半分に切って、これも鉄板の上で焼く。特別出演した美空がスライスしたトマトも一緒に焼いている。
そしてバンズの下半分の上にハンバーグ、トマト、他にチーズなども載せてバンズの上半分を乗せる。これは美空も含めた3人で手分けして作業していき、できあがったらテーブルの上の白磁の皿に載せていく。
そして広いテーブルの上にハンバーガーが100個くらい並んでいるのを私とマリが満足げな表情で見ているところでPVは終了する。
「あのハンバーガーはその後どうしたんですか?」
という質問がツイッターーで来たが
「まあムダにはしていませんよ」
と私は回答しておいた。
(実際には政子と美空・穂花の3人で丸1日で食べてしまった。しかしさすがにこのメンツでも1日掛かるんだな、と私は感心した)
8月下旬にはKARIONのツアーの合間をぬって『たまご』の製作をした。この曲では、本当は千里の龍笛をフィーチャーしたかったのだが、日本代表の活動で徴用不能。青葉もインターハイが終わった後、自動車学校に行っているという話で、結局千里・青葉の双方が推薦する形で、北海道在住の海藤天津子さんという女子大生の人に吹いてもらった。
最初は彼女だけ札幌あたりのスタジオで別録りしてもいいという線で打診したのだが「セッションは他の演奏者と合わせた方がいいはず」と先方も言うので東京まで来てもらった。
彼女は青葉の「霊能者」としてのライバルということで、普段霊的な相談事は1件100万円取るらしい。それでこちらも演奏料100万円+交通費・宿泊費という線で提示したものの、
「私は霊相談は100万円取るけど、これは音楽活動だから普通の演奏者のギャラでいいです」
と本人が言うので、ギャラとして30万円払った(その他プレミアムクラスの往復航空券代と都内の一流ホテルのスイートの宿泊代を出している)。
30万円払ったのは、何と言っても彼女の龍笛の演奏が物凄かったからである。
千里の龍笛も青葉の龍笛も、それぞれ凄いのだが、海藤さんの龍笛はふたりのものとは、また違う印象があった。
千里の龍笛が「空」、青葉の龍笛が「水」だとすると、彼女の龍笛は「火」だと思った。物凄いパワーが感じられたし、青葉の演奏同様、大量に物が壊れた!
「私が演奏する前にDAWのデータはバックアップ取っておいた方がいいですよ」
と彼女が警告したので、しっかりバックアップを取ったのだが、本当にハードディスクのデータが飛んでしまった!
演奏自体は録音されたものの、それ以外のデータが蒸発してしまったので、結局バックアップから戻して事無きを得た。それ以外に音のモニターが1個壊れた(これは修理不能だった)し、ギターとベースの弦が演奏終了直後に全部振り切れるかのように切れてしまった。
録音にはその弦が切れた時の衝撃音も入ってしまったが、この音はそのまま生かすことにした。
「最後に卵が孵ったかのような感じになったからちょうどよい」
と七星さんは言った。
「ごめんなさい。できるだけ控えめに吹いたんだけど」
などと彼女は言っていたが、七星さんは彼女の演奏に感激したと言い、ぜひお友達になりたいと言ってメールアドレスを交換していた。
9月5日(土)大安。
山村星歌と本騨真樹の結婚式が都内の某神社で行われた。
式自体の参加者は双方の親族・事務所社長・レコード会社社長、星歌のライバルであった坂井真紅・富士宮ノエル、本騨君が所属するWooden Fourのメンバー大林亮平・森原准太・木取道雄といったメンツに限定された。
披露宴は都内のホテルの大広間を利用して行われた。大企業のパーティーや大きな会議などが行われる場所である。立食形式で、招待客は500人に及んだ。私と政子も招待されていたので一緒に行ってきたが、まあ知り合いに会うこと会うこと。
KARIONの和泉・美空・小風とも会う。
「蘭子、こちらに来ない?」
「誰か代役を立てておいて」
「御祝儀は4人分まとめて出しといたから、あとで払って」
「ありがとう。助かる。金額をメールしといて」
実際には4人で合わせて100万円包み、和泉と私が40万円ずつ、小風と美空が10万円ずつの負担にしたということだった。
スイート・ヴァニラズの面々と会ったのは、まだ披露宴が始まって間もない頃だったのだが全員完璧にできあがっていた。
「ケイ、何飲んでる?」
とEliseが言う。
「ウーロン茶ですけど」
「なんで水割り飲まない?おーい、ボーイさん、こちらに水割り」
と言ってコップを1個取り渡そうとする。
「仕事があるので無理ですー」
と言って断る。
「Eliseさん、瑞季ちゃんはどうしたんですか?」
と政子が訊く。
「妹(亜矢)に預けてきた」
「そんなに飲んで授乳に影響しません?」
と私が心配して言ったが
「こいつのアルコールが抜けるまでは絶対授乳させないから」
と隣でLondaが言うので、いいことにした。
その他、富士宮ノエル・坂井真紅・小野寺イルザ、秋風コスモス・川崎ゆりこ、AYAと遠上笑美子の姉妹、XANFUSの2人などとも遭遇する。
だいたいみんなドレスが多いものの、振袖や訪問着などを着ている人もいる。星歌が加賀友禅の1000万円はしそうな豪華大振袖を着ているので、みんな安心しておしゃれしている。
会場を歩いていたら、京友禅の振袖を着たアクアに遭遇する。
「アクアちゃん可愛い!やはり女の子の服なのね」
と言って政子が騒ぐ。
「マリさん、やはりこれ女の子用の服ですかね?」
とアクアは怪訝そうである。
「ふつう振袖は女しか着ない」
「ボク、これ女の人の服じゃないんですか〜?と聞いたんですけど、男性でも着る人はいるんだよ。アマテラス陛下も振袖着てるよとか言われたんですけど、どこの人でしたっけ?」
「アマテラス・ディス・エイダス・フォース陛下はファイブスター物語のキャラだね」
「男性なんですか?」
「公式見解としてはね。でも実態はやや怪しい」
「うーん・・・」
「でも似合っているからアクアちゃんは着てもいいんだよ」
と政子は笑顔で言っている。
どうも事務所の誰かにうまく乗せられて女性用の服を着せられてしまったようだ。アクアと私たちが話していると、記者が写真を撮っていた。これは翌週発売された女性雑誌に掲載されていた。「★★レコードの稼ぎ頭ツートップ」などとタイトルが付けられていて私は苦笑した。
明智ヒバリにも遭遇したが、白い衣装を着ている。たぶんノロの服なのだろう。
「清子ちゃん、元気そう!」
と私は声を掛ける。
「ケイさんにもご心配おかけしました。お手紙頂いたのにまだお返事してなくて済みません」
としっかりした声で彼女は答える。
「いや、忙しいんでしょ?」
「実はノロとして覚えなければいけない儀式の手順とか、歌の類いとかが沢山あって。ドラマのセリフ覚えるのより大変です」
「まあ無理しない程度に頑張ってね」
「コスモス社長からも、そんなこと言われました」
「ヒバリちゃん、シーサーの子供ありがとうね。千葉の神社に設置することにしたから」
と政子が言う。
「川上さんから聞きました。私は仲介しただけですが、行き先が決まって良かったです」
「シーサーの弟君、他には子供産まないのかなあ」
「おちんちんが復活したから、もう産まないと思いますよ」
「残念。折角おちんちんが無くなったのに、付けちゃうなんて」
「本人はおちんちん欲しがってましたからいいのではないでしょうか」
とヒバリは笑いながら言っていた。
葵照子(琴尾蓮菜)とも遭遇した。
「千里が中国だし、麻里愛ちゃんも今またフランスに行ってるから私が出てきて鴨乃清見の祝儀袋を出したんですけど重かった。千里が中国に行く前に私のアパートまで来て、ひょいと置いて行ったので、全然触ってなかったんだけど。あんなに入っているんだったら、鍵のかかる引き出しに入れておかないとやばかったです。中の金額は見てないんですけどね」
と蓮菜は言っている。
「知らぬが仏って奴だね」
蓮菜は現在研修医をしているので、本来なかなか時間が取れない状況のようである。
「でもまあ千里も頑張っているみたいだし」
と蓮菜。
「千里凄いね。このまま優勝しちゃうかね?」
と私。
オリンピック予選を兼ねたアジア選手権で、日本女子はここまで連戦連勝で、昨日は台湾に勝って決勝進出。今日の19:30からは中国との決勝戦が行われるのである。
「今朝電話で話したんですけど、強敵だけど頑張ると言ってました」
このアジア選手権では優勝しなければオリンピックに行けない。切符は1枚である。ここまで日本は花園さんと千里のダブル遠距離砲の活躍もあり勝ち続けている。中国とは予選リーグでも当たっているが、その時は花園さんのブザービーターで1点差勝利をしている。
「勝つことを私も祈っているよ。帰国したら一度4人で食事でもしない?お金は私が持つからさ」
と私は言う。
「いいですね〜。どこか豪華ホテルのレストランとか希望してもいいですか?」
と蓮菜。
「うん。政子が帝国ホテルかインターコンチネンタルにしてくれ、という目をしているよ」
と私は言った。
意外なものを見た。政子がトイレに行くというので私も一緒に行ったものの、時間が掛かっているようで、なかなか出て来ない。それで私はトイレの前の廊下で待っていた。
その時、ふと何か気になって横を見ると、氷川さんが作詞家の八雲春朗さんと何やら話している。それはいいのだが、よく見ると、氷川さんと八雲さんは手をつないでいるのである。
ふたりは直接仕事上のつながりは無いはずだ。氷川さんはローズ+リリーの専任だし、八雲さんは主として演歌の歌詞を書いている。
それを何気なく見ていた時、私はふたりをじっと見る別の視線があることに気づいた。そちらに目をやると、★★レコードの八雲礼朗さんである。私はその礼朗さんの視線に嫉妬の感情を感じた。
私が彼を見てしまったので、八雲礼朗さんもこちらに気付き、私に笑顔で会釈した。それで私も会釈して彼のそばに寄る。
「私最近まで知らなかったんですが、八雲さんって、作詞家の八雲春朗さんとご兄弟なんだそうですね」
「ええ。まあ、家庭は別なんですけどね」
と彼は笑顔で答える。
「父同士が双子の兄弟で。それで私の母は最初春朗の父と結婚して春朗を産み、そのあと向こうと別れて私の父と結婚して、私を産んだんですよ」
「何やら複雑な事情があるみたいで」
「そもそも母はどちらも好きだったと言っていました。便宜上先に向こうと結婚して、後でこちらと結婚したんだって」
「うーん・・・」
「だからこれは敢えて母にも父にも訊きませんが、たぶん母は今でも春朗の父と関係があると思う。おそらく3人とも納得ずくで。だから母はふたりの共有の妻なんですよ」
私は驚いた。
先日から自分や政子の恋愛模様、また千里や細川さんなどの恋愛模様が、世間的には異様だなと思っていたのだが、世の中にはこういう愛もあるのかと。
「それとそもそも父同士が一卵性双生児だから、遺伝子的には同じでしょ?だから、本当に春朗が春朗の父の子供で、私が私の父の子供なのかも、分かりませんよね。たぶん本人たちも分からないまま、1人ずつ子供をシェアしたんじゃないかなあ」
などとまで礼朗さんは言っている。
それは・・・確かに、調べようもないかも知れない。
「母は本当は男の子と女の子を1人ずつ産みたかったなんて言ってましたよ。それじゃ僕が性転換して女の子になろうか?と言ったら、そうしてくれるとありがたいけど、なんて言うんですよ」
「え〜!?」
「じゃ僕がもし性転換しても文句言わないでよねと言っておきました」
「性転換なさるんですか?」
「そうだなあ。男を40年くらいやったら、その後女を40年くらいやってもいいかも」
私は彼のことばが冗談なのか本気なのか、判断しかねた。そういえばこの人、女性のアーティストばかり担当している。担当されている女性アーティスト側も彼とは垣根無い感じで話ができていいと言っているようだ。逆に男性のアーティストとはうまくやれないとも聞いた。もしかしてこの人、女の子の心を持っている??
そんなことを私が考えた時、政子がトイレからやっと出てきて、こちらを見付け「ケイ、お待たせ〜」と言って寄ってくる。すると氷川さんは初めてこちらに気付いたようで、さっと八雲春朗さんとつないでいた手を離すと、こちらに会釈した。春朗さんは、そのまま向こうに歩いて行った。礼朗さんはじっとその背中を見送っていた。
礼朗さん、氷川さんのことが好きなのかな?と私は思った。
そして氷川さん自身は春朗さんの方と付き合っているのだろうか?
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