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■女子社員ロッカー物語(8)

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「ああ、井河って、そうしてると結構美人だもんな」
「今は戸籍の性別って変えられるんだろ? 井河がちゃんと戸籍上も女になれば結婚できるんじゃない?」
 
「ごめんなさい。私、女の子が好きだから」
「でも実際女の子と恋愛したことあるの?」
「えっと・・・無い」
「男の子との恋愛は?」
「無いですよー」
 
「まあ性転換しちゃえば、男の子も好きになるんじゃないの?」
「ああ、取り敢えず手術しちゃえばいいよね」
 
他にも俺をサカナにオナニーしたことがあるという奴、以前一緒に飲み会に行ってた頃、身体が触れ合うとドキっとしてたなどと言う奴、職場の女子の中でいちばん相性のいい人というのを出したら(そういうソフトを入れた奴がいる)俺だったと言う奴、まあ色々と俺はネタにされた。
 
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「ひろちゃんって、実は福岡支店のアイドルだったりして?」
とナミちゃん。
 
「そうそう。SSC配属になってフロアが違っちゃったから寂しいよぉ」
 

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男子たちの中には酒瓶を持ったまま2階にあがり徹夜で飲み明かす態勢の人もあるようだった。どうも2階の2部屋は就寝組と徹夜組に分かれそうな雰囲気。
 
女子はみなだいたい11時頃にLDKの隣の和室に入って寝る態勢になった。俺は窓際で寝転がったが、
 
「ひろちゃんの隣には私が寝るねー」
と言って、隣にあっちゃんが来た。
 
俺の性別に配慮してくれたのだろうけど、俺も日々いちばんよく接しているあっちゃんが隣というのは気楽だった。
 
なお、寝具は本来無いのだが、女子にはタオルケットが1枚ずつ配られていた。
 
「タオルケットで隠れてるから、こっそりオナニーしてもいいよ」
「振動があってもお互い気付かない振り」
「OKOK」
 
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女の子同士なので大胆なことも言う。
 
「でも、私オナニーってしたことない」
などと、まいちゃんが大胆な発言。
 
「クリちゃんを揉んでたら気持ち良くなるよ」
「揉んでみたけど、確かに気持ち良くなるけど、逝く感覚まで行けないのよね」
「いや、気持ち良くなればそれで充分」
「女の子は射精しないし、それでいいんだよ」
「一晩中揉み揉みしてたことあるよ、私」
「すごーい」
「そのあと夕方まで寝てたけど」
「そりゃ疲れるだろうね」
 
「ひろちゃんは寝る前にオナニーとかするの?」
などとさっちゃんから訊かれる。
 
「SSC勤務になった当初は1日女の格好で過ごすのにストレスがあったせいか、毎晩してたんだけどねー。最近は全然しなくなった。前回いつしたのかを思い出せない」
 
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「ああ、身も心も女の子になってきたのね」
「それ、立つの?」
「立つと思うけどな、多分」
「ああ、つまりしばらく立ってないのね?」
「いや、立ったことあったと思うけど」
「いつ?」
「えっと・・・あれ?いつかな?」
 
「ああ、ずっと女として暮らしてるから多分男の機能が退化してるんじゃない?」
「その内、女の機能が進化するね」
「きっと生理も始まるよね」
「そんな馬鹿な!」
 
「でも女性ホルモンも飲んでるんでしょ?」
「そんなの飲んでないよぉ!」
 
「あれって女性ホルモンを飲んでたら、生理も始まるんだっけ?」
「それは子宮が無い以上有り得ないと思う」
「実は子宮があったりして」
「まさか!」
 
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その年のクリスマスイブだった。俺は取引先のノルマに協力して買ったクリスマスケーキの箱を持ち、IMS(イムズ)を覗いてぶらぶらしていた。そこでバッタリと、あっちゃんに会った。あっちゃんもクリスマスケーキの箱を持っている。
 
「あ、せっかく会ったし、一緒に夕食でもしない?」
「あ、うん」
 
「それともボーイフレンドと熱いクリスマスイブを過ごす予定とか」
「そんな人いないよー。あっちゃんは彼氏いないの?」
「私は彼氏いない歴=年齢だよ」
「え?そうなの? 何度か男の子と付き合ったことあるんだと思ってた」
「ただの耳年増だから。まぁセックスは経験あるけどね」
 
俺はドキッとした。彼氏を作ったことがないというのにセックスの経験があるって、それどういう状況でしたのだろう?
 
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透明なエレベータに乗って上の階に行き、和食の店に入る。純米酒をグラスに注いで乾杯した。生簀の鯛を料理してもらう。前菜の豆腐料理を食べながら俺たちは会話した。
 
「時々帰省してる?」
とあっちゃんは訊いた。
 
「全然。実は高校出た後、一度も実家には戻ってない」
「喧嘩でもしたの?」
「元々父親と折り合いが悪かったんだよね。兄貴とも合わないし。母親とは毎月1〜2回電話してるよ」
 
「お母さんは、ひろちゃんがOLしてること知ってるの?」
「言ってない。というか言えない」
「だよねぇ。でも、何かの機会に、お母さんにだけでもちゃんと言った方がいいよ」
「ちゃんとって?」
「自分は女の子になりたいから、女として会社勤めもしてるって」
「私、別に女の子にはなりたくないよー」
 
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「ふふ。今日はそういうことにしといてあげようかな」
と言って、あっちゃんは微笑んだ。
 

鯛の刺身に天麩羅、それに味噌を載せて焼いたものなどが出てくる。
 
「だけど、ひろちゃんが女の子になるつもりないのなら、これって私とひろちゃんのデートだったりしてね」
とあっちゃんは言った。
 
ちょっとドキっとする。
 
「そうだね。クリスマスイブだし、デートということでもいいよ。女同士だけど」
と俺は言った。
 
「ふふ。ひろちゃんって優しいなあ。だから好き」
 
好きという言葉を使われて俺はまたドキッとした。
 
「でも、ひろちゃん、今自分が女だと認めた」
「あ、しまった!」
 
その日、俺たちは何気ない会話を重ねた。日々お互いに結構なストレスの中で営業の仕事をしているので、この日はふたりとも心を開放して、のんびりとした時間をむさぼっていた。
 
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「**堂からクリスマス用にルージュ4本とアイカラーのセットが出てたでしょ」
「あ、あれ可愛いなと思ったけど、値段も張るなと思ってた」
「一緒に買ってシェアしない?」
「ああ、それもいいね。自主的クリスマスプレゼント」
「そうそう」
 

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デザートまで食べてから下の階に降りて**堂のショップで1万円のクリスマスセットを買った。あっちゃんのカードで買ったので俺が5千円渡した。
 
「よし。どこかで開けて、山分けしよう」
とあっちゃん。
 
「カフェか何かにでも入る?」
と俺は訊く。
 
「ホテルなんてどう?」
とあっちゃんは言った。
 
俺はまたまたドキッとした。
 
「多分今日はどこも一杯だよ」
「意外にこの時間帯はキャンセルがあるかもよ」
 
それでソラリアホテルに行き、フロントで訊いてみた。
 
「デラックスツインでしたら空きがございます」
「ではそれで」
「かしこまりました」
 
それで俺たちはホテルのツインルームに入ってしまった。こちらは俺のカードで決済したが、俺が Mr. Hiroshi Igawa と刻印されたカードを使い「井河比呂志」
とサインしても、ホテルの人は特に何も言わなかった。
 
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女装がバレてるんだろうか?それとも家族のカードを勝手に使っていると思われたか?あるいは、Mr.の刻印に気付かず、比呂志を女の名前と思われたか?
 

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「わーい。さすがソラリアだぁ。広いね−」
とあっちゃんは無邪気に喜んでいる。
 
「ベッドも柔らかーい。よく出張とかで行くビジネスホテルとは違うなあ」
 
俺はもうひとつのベッドに座って、それを笑顔で眺めていた。
 
「でさ。ベッドくっつけちゃおうよ」とあっちゃん。
「そうだね。それもいいかな」と俺。
 
ふたりで協力してベッドをずらし、くっつける。
 
「私、寝相が悪いからさあ」
とあっちゃん。
 
「ああ。夏に支店長の家に泊まった時も夜中に私の上に乗っかかって来たよね」
「私、家でも朝起きるととんでもない場所で寝てることがあるよ」
 
「それは確かに広いベッドでないと大変だ」
 
「ワインでも欲しいな」
と言って、あっちゃんはルームサービスを頼み、白ワインを持ってきてもらった。
 
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開けてまた乾杯する。
 
「今年はほんとにお疲れ様」
「まだ何日かあるけどね」
「まあ、残りは勢いで」
 
「なんか少しお腹が空いてきた。クリスマスケーキ、食べちゃおうか」
「ああ、そうしよう」
 
ということで、あっちゃんが持っていた箱の方を開けて切り分ける。
 
ふたりで「頂きます」と言って食べた。
 
「美味しいね」
「うん。こんなに美味しいと、ノルマ協力で買うのもいいかなという気分になる」
「この生クリームのケーキを選ぶのがミソだよね」
「そうそう。作り置きができないから」
 

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「でも、ほんとに食事して乾杯して、ホテルに来てって、まるで恋人みたい」
とあっちゃんは言う。
 
「まあ、女同士でなかったら、一夜の経験ってのもありかもね」
 
「ひろちゃんさあ、ホントに女の子なの?」
とあっちゃんは意味ありげに俺を見た。
 
「そうだよ」
「ふーん。じゃ確認させてもらってもいい?」
「確認したいなら戸籍謄本でも持ってこようか?」
 
「実地確認がいいな。機械のメンテも現地に行かないと分からないものが多い」
「実地確認ってどうするの?」
 
「取り敢えずお互い服を脱いで相手の性別を確認するというのは?」
「あっちゃん、男なの?」
「もしかしたらそうかもよ。私が本当に女かどうか確認してみない?」
 
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「うーん。あっちゃんは普段女の子してるから、それで私は充分だけど」
「ひろちゃんも普段女の子してるね」
「だから、私も女の子だよ」
 
「それを念のためチェックしたいなあ」
 
俺たちはお互い思わせぶりな表情で見つめ合った。
 

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翌朝。携帯の着メロで目を覚ます。
 
「おはようございます。望月さん」
 
それはいつもお世話になっているB商事の望月支店長だった。
 
「ね、ね、今日の午後1時に、いつものメンバー集まれるかな?」
「いつものというと、私と、あっちゃんと、けいちゃんと、さっちゃんに、たえちゃんですか?」
「そそ」
 
「けいちゃんが昨日東京に行ってたんですが、昨夜遅く帰宅しているはずなので連絡してみます。あっちゃんとさっちゃんはすぐ呼び出します。たえちゃんは・・・・」
 
「ああ。ここで寝てるから連れていく」
と望月さんは、そばに居るもようの新妻の方を見ている感じで答えた。
 
「場所はどこでしょう?いつもの大名のスタジオですか?」
「今日は呉服町の**スタジオ。午後1時に楽器を持って集まって」
「はい」
 
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またどこかの会社の幹部さんでも紹介してもらえるのかも知れないと思い、俺はすぐに高木さんに電話した。
 
「ごめーん。昨日は福岡まで帰られなくて。まだ東京に居るのよ」
と言っていたが、望月さんからの招集と伝えると
 
「了解。今から羽田に行ってすぐ福岡に戻る」
ということだった。
 
次にさっちゃんに連絡する。彼女も午後1時に来てくれるということだった。
 
「また何かお仕事の話なのかなあ」
 
とあっちゃんは俺の隣で、幸せそうな顔をして、裸のまま俺のおっばいをいじりながら言った。
 

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午後1時、指定されたスタジオに行くと、知らない人がいたが、俺はその人の職業を読めなかった。どうもふつうの会社の人ではない感じがする。デザイン系か、あるいはゲーム制作会社か何か。どうも世間一般のビジネスとは異質の雰囲気を持っていた。
 
「取り敢えず演奏してみて」
と言われる。
 
「何を弾きましょう?」
「オリジナルがいいから、『百万度の恋』」
 
それはこのセッションをしばしばしていて、俺たちで作ってしまった曲だ。むろんみんなすぐ弾ける。
 
俺がギター、高木さんがベース、あっちゃんがドラムス、さっちゃんがキーボードという布陣で演奏スタートする。あっちゃんのスティックの音を合図に一斉に演奏する。俺とさっちゃんがメインボーカルを歌い、高木さんとあっちゃんがコーラスを入れる。
 
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望月さんが連れてきていた人が笑顔で拍手してくれた。
 
「あのぉ、済みません、どなたでしょうか?」
と高木さんが訊く。
 
「ああ、済みません。私はこういうものです」
 
と言ってその人は俺たちに名刺をくれた。
 
《**レコード 制作部・課長JPOP担当 中川信司》
 
と書かれていた。レコード会社の人!?
 
「いや、先日東京で親戚の結婚式に出ていてて、中川君と会ったんだけど、雑談していて、僕が福岡で凄腕営業女子社員で構成したガールズバンドをやってると言ったら、ぜひ聴かせて欲しいと言われてね」
と望月さんが説明する。
 
「あなたたちの演奏は充分プロクラスだと思います。ぜひCDを出させて下さい」
と中川さんは言った。
 
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えーーー!?
 
「今の曲も充分良い曲だと思います。後細かい点などを検討・調整した上で、来月くらいに最終録音、3月くらいに発売という線でどうでしょう?」
 
それって・・・・まさかメジャーデビュー!?
 
でも「女の子バンド」として?
 
俺、ますます男に戻れなくなるじゃん!!
 
あはは。俺どうしたらいいんだろう?
 
俺の脳裏に昨夜の、あっちゃんとの甘い時間がプレイバックされながら、俺は真剣に悩んでいた。
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