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そんな話をして、スタジオを予約した上で、事務所を片付けて出ようかとしていたら、高木さんが戻ってきた。
「あれ?今日は東京泊まりじゃなかったんですか?」
「午前中で片付いちゃったから、午後の飛行機で戻ってきた」
「わあ」
私たちは高木さんにA社の受注が取れなかったことを報告した。
「まあ、それは仕方無いね。次頑張ろう」
「はい」
「で、みんなもう今日は帰るの?」
「ええ。それで残念会でスタジオに行って、ひろちゃんのギターとあっちゃんのドラムスで演奏でもしようかという話になっていた所なんです」
と麻取さんが言うと
「おお、ロックか! じゃ私も混ぜて。私ベース弾くよ」
と高木さん。
「おお!」
ということで、俺と高木さんが自宅まで楽器を取りに行き、夕方19時スタジオに集まった。
「高木さん、なんて庶民的なベースを!」
「親からはヴァイオリン習いに行かされててさ、そちらは200万くらいするヴァイオリンがあるんだけど、実はお稽古サボって、お小遣いでこのベース買って友だちとバンドっぽいことしてた」
「なるほどー」
高木さんは Ibanez(アイバニーズ)のベースを持っていた。購入価格は多分3〜4万くらいか。ちなみに俺のバッカスのギターもヤフオクで3万円で落としたものだ。
俺たちがスタジオで部屋が空くのを待ってロビーに居た時、40代くらいの男性が声を掛けてきた。
「ね、ね、君たちガールズバンドか何か?」
私たちは顔を見合わせたが、特に返事はしなかった。
「君がギターで、君がベースか。そしたら・・・多分、君はドラムスで、・・・・お母さんがキーボードでも弾くのかな?」
楽器を持っていない山崎さんをドラムスと見抜いたのは凄いと思った。何か空気のようなものでも読んだのだろうか。しかし「お母さん」なんて言われてしまった麻取さんがムカついたようで答える。
「私、まだ独身ですけど」
「あ、そうなんだ? 老けて見えるけど実はまだ25-26歳だとか?」
「43歳です。年齢なんて余計なお世話でしょ?」
「そうだな。僕の叔母で53歳で初婚なんて人もいたからなあ。まあ何歳になってもお嫁さんに行く夢は捨てない方がいいよ。で、君がキーボード?」
「私は楽器は弾きません。見学です」
「なんだ。やはりこの子たちの保護者なんだ」
などと言われて麻取さん怒ってる!
「で、君はドラムス?」
と山崎さんに訊く。
「そうですけど」
「じゃ、キーボードが居ないね」
「まあ、キーボードは居なくても演奏は何とかなるから」
「でも寂しいよ。音が単純すぎるじゃん。キーボードが入ることによって彩りが出るんだよ。あ、そうだ! 僕がキーボード弾いてあげようか?」
「あなたの腕前は?」
と高木さんが訊く。
「僕ね。昔結構な有名バンドのサポートでキーボード弾いてたんだよ」
「へー」
「****とか****とか****とか」
「それは凄い!」
と思わず、俺と山崎さんは言った。
「女の子バンドのサポートをしたこともあるよ。****とか****とかね」
「あなた、スタジオミュージシャン?」
「昔はね。今は、しがないサラリーマンだな」
「へー」
そこにスタジオの人が来て
「空きましたので3階の3Cスタジオにどうぞ。ドラムスはセッティングしてあります」
と言う。
「あ、キーボードも用意できる?」
と《自称元ミュージシャン》が言う。
「はい。すぐ御用意できます」とスタジオの人。
それで、結局、彼は私たちと一緒にスタジオに入っちゃった!
「さあ、弾こう、弾こう。何弾くの?」
と彼は張り切っている。
私と山崎さんと高木さんはお互いに顔を見合わせたが、まいっかという線だ。麻取さんだけは少々不快そうな顔をしている。
「じゃ取り敢えずウォーミングアップで、AKBの『ヘビーローテーション』」
と俺が言うと
「おお、AKB48もライブのバックで弾いたことあるよ」
などと彼は言っている。
山崎さんのドラムスから曲が始まる。すると《自称元ミュージシャン》の彼はそれに合わせてキーボードを弾きながら歌い出す。
うまいじゃん!
キーボードもうまいが歌もうまい。へーと思いながら俺も山崎さんも彼の演奏を見ていた。
1曲終わった所で自己紹介する。
「井河比呂子です」
「高木慶子です」
「山崎温子です」
「麻取妙子です」
「あ、僕は望月彰二郎」
「堅苦しいの嫌いだし、名前で呼び合わない?」
「うーん。まあいっか」
「じゃ、ひろちゃん、けいちゃん、あっちゃん、たえちゃん、しょうちゃんでいいかな」
「OKOK」
「たえちゃん、歌は歌えないの?」と望月さん。
「私、歌は下手だから」と言う麻取さんはまだ怒ってる。
「下手でもいいじゃん。歌うと楽しいよ。次は歌いなよ」
「えっと・・・」
「たえちゃんの年齢でも分かりそうな曲というと・・・『岸壁の母』とかやる?」
「そこまで年じゃありません!」
ああ、また怒らせてる!
「松田聖子の『SWEET MEMORIES』とかどうでしょ?」
と俺は提案してみた。
「ああ、それなら歌えるかも」
と麻取さんも言うので、また山崎さんのドラムスに合わせて演奏する。
麻取さんが歌うが、確かに下手だ! そういえば女子社員でカラオケなどに行っても、麻取さんはいつも何も歌ってなかったなと思ったが、やはり下手なんで歌わないのだろう。
しかし歌詞はかなり覚えていたみたいで、結構勝手に作詞しながら?も最後まで歌った。
「たえちゃん、さ。確かに下手だけど、それって歌い慣れてないからの下手さだって気がするよ。たくさん歌ってればうまくなると思う」
などと望月さんは言う。
「そうかな?」
などと言って麻取さんも少しは軟化した感じ。
そういう訳で、結局その日は麻取さんが歌えそうな、1980年代くらいのヒット曲を中心に、俺たちは演奏をした。この時代の曲はあまり複雑なビートなども使っていないので、結果的にはギターやドラムスを演奏する側もあまり間違わずに弾くことができた感じであった。
最後の方は麻取さんもかなり乗ってきて、かなり熱唱していた。音は外していたけど、気持ち良さそうだった。
2時間の演奏を終えて撤収する。
「でも凄く興奮しちゃった。なんだかこのまま帰るのも何だし、飲みに行きません?」
と麻取さんが提案して、スタジオを出たあと5人で居酒屋に入る。
ビールで乾杯して、今日の演奏絡みで、昔の歌手の話題なども話す。松田聖子、沢田研二、サザンオールスターズ、ゴダイゴ、ラッツ&スター、小泉今日子、森高千里、本田美奈子、中山美穂など。主として麻取さんと望月さんの2人がしゃべっていて、俺たち20代の3人は聞き役という感じになった。何だか麻取さんと望月さんは意気投合してしまった感もあった。
これって、いわゆる最悪の出会いから恋が・・・なんてことになったりして、などと後で俺と山崎さんは話したりした。
「じゃ、しょうちゃんもまだ独身?」
「うん。若い頃、さんざん遊びまくったから、もう女は良いかなという感じでここ5年くらいは恋人いないよ」
「女に飽きたんなら、男の子がいいんですか?」
「さすがに僕もそちらの趣味は無い」
「でも可愛いニューハーフとかは?」
とあっちゃん。
「そうだなあ。ニューハーフならまだ許容範囲かな。ちょっと経験してみたい気もしないではないな」
「ほほぉ」
と言って、あっちゃんは俺を見る。あはは。勘弁してー。俺は男とセックスする趣味はないぞ。
「例えばここの井河さんが実はニューハーフだったりしたらどうします?」
とあっちゃん。ちょっと、ちょっと!
「ああ。このくらい可愛ければニューハーフでもOK」
と望月さん。
「あはは。性転換してニューハーフになっちゃおうかな」
と俺。
「女の子がニューハーフに性転換したい場合は、おっぱいはそのままでいいから、チンコだけ作ればいいのかな?」
「うーん。何だかよく分からない世界だ。ヴァギナはどうするんですかね?ふさぐのかな?」
「せっかくあるんなら、そのまま付けとけばいい気がする。ニューハーフさんって、ヴァギナ欲しがってる人多いよね?」
「でもおちんちん作る材料にヴァギナ使わないの?」
「そんな話は聞いたことない」
「男から女に変える場合、ヴァギナ作るのにおちんちんを材料に使うと聞いたから、私、女を男に変える場合は、ヴァギナを取り出して中に何か詰めて、おちんちんにするのかと思った」
「そういうやり方は無い気がする」
「おちんちんは、上腕部の皮膚から作るらしいですよ」
「へー」
「ああ、でも私子供の頃、けっこうおちんちん欲しいと思ってた」
とあっちゃん。
「ね。あると便利そうじゃない?」
などと言って俺を見る。
「ああ、あったら、おしっこする時は便利でしょうね」
と俺。
「まあ確かに、おしっこは男の方が圧倒的に楽でしょうね」
「服の構造の問題もある気はするけどね」
「ああ、女にはわざと面倒な服を着せてるんじゃないかという説はありますね」
「おちんちん使ったオナニーって気持ちいいのかなあ」
と唐突にあっちゃん。
こらこら。酔ってきてないか?
「ああ、気持ちいいよ」
と望月さん。
「オナニーする度に、男に生まれて良かったと思う。女の子はあんな快感は感じられないだろうからね」
「へー、そんなに気持ちいいですか?」
と麻取さんまで、オナニー論議に加わっている。
「セックスかオナニーか、どちらかしかできないとしたら、僕はオナニーを選びますよ」
「なるほどー」
「ああ、その意見は他の男の子からも聞いたことある」
と高木さんまでこの論議に加わる。
「でも男の快感と女の快感とどちらが大きいのかってのは、時々議論されるけど、永遠の謎ですよね」
などと麻取さん。
「まあ、両方経験できる人はいないからね」
「性転換して女になった人も、快感は男型じゃないかとも言われますね」
「逆に性転換して女になって快感も女型だと言ってる人いるけど、その人は多分元々女型だったんですよ」
「ああ、それはありそう」
「そういう人って元々の脳の構造が女の脳だったりすること多いみたいですね」
「女の子になりたい男の子の場合は、オナニーしちゃう度に、もうこんな身体は嫌だって思うらしいね」
と望月さんが言う。
「へー」
「やはりそういう人でもオナニーするもんなんですか?」
とあっちゃんはまた俺に目をやりながら訊く。
「本能だから、やっちゃうんだろうね。タマタマが付いている限りは」
「ああ、じゃ、タマタマ取っちゃったらもうオナニーしなくなるのかな?」
「それでもついしちゃうらしいよ。習慣的なものもあるんだろうけどね」
「タマタマがなくても、できるんですか?」
「タマタマ取っても、おちんちんが付いてればできるんだろうね」
「おちんちんも取っちゃったら、もうできないだろうけどね」
「へー。でも精液は出ませんよね?」
「逝った感覚はあるけど、何も出ないらしい」
「じゃドライなんですね?」
と高木さん。
「そうそう。ドライ」
と望月さん。
「ドライって何ですか?」
と俺は訊いてしまった。
「射精とか潮吹きとかしないまま逝っちゃうこと。女の子が逝くのはだいたいドライだよ」
と高木さん。
「ああ・・・」
「ひろちゃん、セックス未経験?」
と笑顔で高木さんが尋ねる。
「あ、まだしたことないです」
と言って俺が赤くなったら
「可愛い!」
とか言われてしまった。
その後は何人かニューハーフタレントさんの話をした後で、話は今度は最近の音楽の話題になり、AKBとかももクロとかE-girlsとか恵比中とかの話もした。
かなり話は盛り上がり、結局そろそろ終電という時刻になって解散することにする。
「あ、そうそう。名刺渡しておきますね」
と言って、俺は戦略的営業センター営業課長・井河比呂子の名刺を渡す。
「あ、じゃ私も」
「じゃ、私も」
と言って4人とも出す。
その名刺を見た望月さんが「なんか全員肩書き付き!凄い」
などと言っている。
「じゃ僕も名刺配るね」
と言って、望月さんは名刺を俺たちに4枚配った。
「B社福岡支店・支店長!?」
B社は国内中堅の商社である。
「うん。まあ、叔父が社長やってるもんで、お前支店長やれと言われて福岡に来たんですよ」
「あの、御社に営業に行ってもいいですか?」
とあっちゃん。
「あ、いいよ」
と望月さんは笑顔で言った。
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■女子社員ロッカー物語(6)