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■春乱(5)

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(C)Eriko Kawaguchi 2017-10-10
 
10時頃、とうとう破水が起きる。
 
千里がナースコールして看護婦さんとお医者さんが来る。
 
「分娩室に行きましょうか」
「いよいよですね」
 
それで行きかけた所で桃香のスマホが鳴る。
 
たまたま手が空いていた千里が
「ああ、私が出る」
と言ってそれを取った。
 
桃香自身は、青葉・朋子・朱音に付き添われて分娩室に行く。立つのも辛いようだったが、青葉が手を握って、そこからエネルギーを送り込んでいるのもあり、何とかなったようである。もっとも青葉もそのエネルギーは千里からもらっている。
 

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分娩室に入り、分娩台に乗る。片方の手を助産師さん、片方の手を青葉が握っている。そこに千里も入って来た。
 
「誰からだった?」
「お友達からだった」
 
それで結局、千里と朋子が桃香の手を握り、青葉が助産師さんと一緒に励ます形になる。朱音は外で待機している。すぐにも出産に至るかと思ったのだが、ここからまた少し時間が掛かるようである。助産師さんや看護婦さんが出入りする。千里まで「ごめん。ちょっと疲れた」と言って、一度外に出る。千里姉はきっと夜中からずっと起きていたんだろうなと青葉は思った。千里が外に出たので青葉が空いた手を握って励まし続ける。千里姉も5分ほどで戻って来て、朋子と交代する。それで青葉と千里が両方の手を握る形になった。
 
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既に赤ちゃんは産道に移動している。
 
「きついよー」
と桃香が弱音を上げるが
「もう最終段階だよ。いきんで、いきんで」
と助産師さんに言われて、頑張っていきむ。
 
少しずつ少しずつ赤ちゃんは産道を進んでいる感じである。
 
そして分娩台に乗ってから1時間ほどして、赤ちゃんの頭が見え始める(排臨)。
 
「頭が見えてきたよ。あと少しだよ。頑張ろう」
と助産師さんが言う。
 
それで桃香も辛そうな顔をしていたのが、やっと気力が出てきたようで、頑張っていきむ。やがて頭が完全に見えてきた(発露)所で、いきむのを止め、短い呼吸に切り替える。
 
そこからはかなりスムーズに行き、無事赤ちゃんの身体の全体が出てくる。青葉はその子のお股を見た。何も付いていないようだ。
 
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「女の子ですね」
と後ろの方に居た若い助産師さんの声がある。
 
桃香のお股の所に陣取っているベテランっぽい助産師さんが赤ちゃんを抱えた状態で若い医師が臍帯を結索し切断する。そして次の瞬間くらいに、赤ちゃんは「おぎゃーおぎゃー」と元気な産声をあげた。
 
青葉が分娩室内の電波時計を見たら11:12:14くらいであった。
 
(占星術その他の占いで出生時刻というのは一般に最初の産声をあげた瞬間のことを言う。赤ちゃんが母体の外に出た瞬間ではない。産声を上げて肺呼吸を始めた瞬間にこの世の住人になるという考え方である)
 

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赤ちゃんは、まずベテランっぽい助産師さんが抱えたままの状態で桃香本人に抱かせる。桃香だけでは支えきれないので助産師さんが支えている。腕が凄く太い助産師さんなので、安心感を青葉は感じた。その後、千里、朋子、青葉の順に抱っこした。
 
赤ちゃんの体重は2943gであった。踵の所から採血して血液型検査をした所、RH+B型ですねと言われた。
 
「但し新生児の血液型検査は、お母さんの血液型の影響が出ることもあるので正しく出ないこともあります。正確な血液型は3〜4歳になってから再度検査してもらってください」
と医師は言っていた。
 
桃香は後産の処理もあるので、2時間ほど分娩室でそのまま休んでいたが、実際問題として出産後5分もすると眠ってしまった。
 
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最初意識を失った?と思われて医師が桃香に取り付けている機器の数値をチェックするも、異常が見当たらない。試しに腕をつねると目を開けて
「痛い」
と文句を言って、また目を閉じてしまう。それで意識はあることが確認できた。
 
「これは寝ているだけですね」
と医師が言う。
 
「よく寝る子だねぇ」
と朋子が少し呆れていた。
 
「普通この状況では眠れないものなのですが・・・」
と若い助産師さんが言っている。
 
今日は2件のお産が同時進行になったので、医師も助産師も入れ替わり立ち替わりになっていたが、この若い助産師さんだけはずっと付いていてくれた。
 
実際助産師さんが言うように、お産の時はアドレナリンが大量に分泌されるので興奮していて眠れないのが普通である。
 
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病院によっては出産後すぐに母親が眠ろうとしたら無理にでも起こすらしい。意識を失ったのか眠っているのかが区別がつきにくいからだともいう。しかしこの病院では医師が確かに意識はあることを確認してくれたので、機械でバイタルチェックしていることもあり、そのまま眠らせてくれた。もっとも桃香も15分ほど寝た所で目を覚ました。
 
「あそこが痛い」
と言っている。
 
「まあ安産だったよ」
と朋子が言うと
 
「あれで〜〜!?」
と本人は言っていた。
 
「会陰切開せずにきれいに生まれて来た子は、私もまだ2人しか見てないです」
とお医者さんが言う。
 
「あ、切らなかったんですか?」
「切ろうと思ったら、するすると出てきましたから。今回ベテランの助産師が付いていたので、彼女の誘導の仕方も上手かったと思うのですが」
 
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「ああ、切らずに済んだのはいいことだ」
と桃香は言っていた。
 
しかし青葉は、あれで安産なのかと思った。
 
実は青葉は分娩室の中に入って出産を見届けたのは初めてである。阿倍子の時もフェイの時も、帝王切開だったこともあったが、青葉は廊下で待機していた。(阿倍子の場合は、帝王切開しようとしたら自然分娩してしまったが、現場が混乱していたので、あの場にいた人でも京平は帝王切開で産まれたと思っている人も多いようである)
 

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青葉は赤ちゃんが生まれたのは11:12:14くらいかと思っていたのだが、千里が
 
「11時12分13秒」
 
と言って、青葉たちに自分の携帯(Toshiba T008)を見せてくれた。
 
携帯のストップウォッチが12:13.24という数値を表示している。
 
「11時の時報と同時にストップウォッチを押した。そして赤ちゃんがヒフッヒフッって感じで泣きそうになった所でスタンバイして、声が聞こえた瞬間停めた。それがこの数値」
 
「すごーい」
 
プロスポーツ選手の反射神経である。かなり信頼できる数値だと青葉は思った。
 
「ちなみに0.24秒というのは60進数に直すと 60 x 0.24 = 14 になるから60進法で言うと、May 10th, 11 o'clock 12 minutes 13 seconds 14 thirds (*3)」
 
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「数字の並びが凄い!」
「面白い時刻に生まれてきたよね」
 
(*3) thirdはsecondの1/60。秒を60分割する言い方はポーランド語(tercja)やトルコ語(salise)には残っているが、現代英語では滅多に使用されない。通常は日本と同様、秒の10進小数で表現する。
 
ちなみにこの子の出生時刻は母子手帳には単に11:12と記載された。
 

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桃香は、出産後2時間ほど分娩室に滞在し、後産まで終わって13:30くらいに病室に戻ると、またすやすやと眠ってしまった。
 
なお赤ちゃんは新生児室に移される。ここでは最初の1日だけ母子別室で翌日から同室になる。
 
桃香が眠っているのを見て千里は
 
「眠れるのはいいことだ」
と言った。
 
「寝る子は育つかな」
と朋子。
 
「お母さんが寝てもあまり関係無いのでは」
「でもまあ重労働だからね」
 
その時千里が青葉を見て言った。
「青葉もあと7年くらいしたら自分で産むだろうから、まあ少し覚悟しておいた方がいいかもね」
 
「あ、うん」
 
と答えて、ちー姉、こういう《予言》を言うなんて、もう落雷の影響はほとんど無いんだろうなと青葉は思った。ちなみに千里姉のこの手の発言は、後で聞いても本人は全く覚えていない!どこかから降りてきた言葉を千里は伝えているのだろう。千里は天性の巫女である。
 
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しかし私7年後に赤ちゃん産むのか。。。
 
でもどこから!?
 

同院の会議室。
 
「ちょっと待ってよ。だったら高園さんの赤ちゃんを取り上げたのは誰なの?」
と大間院長は困惑するように言った。
 
「赤木さんだと思っていました」
と若い高橋医師が言う。
 
「私は確かに最初高園さんに付いていたのですが、田川さんのお産が逆子だと聞いたので、こちらは問題無さそうだしと思って佐藤さんに任せてそちらに行きました」
とベテランの赤木助産師は言う。
 
「私は赤木さんがしてくださったものと思っていました。確かに赤木さんは呼ばれて一度出て行かれたので、一時的に私が代わりに介助する位置に入ったのですが、私も実際のお産でそこに入るのは初めてだったのでちょっと不安を感じていたら、赤木さんっぽい人が入って来て『任せて』と言って、その位置に入ったので」
 
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と高橋医師と一緒に桃香のお産に立ち会った若い助産師・佐藤は言う。
 
「渡辺君はどちらにいたんだっけ?」
 
「私は田川さんの方にいたのですが、逆子だったので、これは私には手に負えないと思って、長山さんに赤木さんに助けてもらえないか訊いてきてと言ったんです。それで赤木さんが来てくださって、あなたは高園さんの方見てきてと言われたので見に行ったのですが、2人助産師が付いているので、てっきり山田さんと佐藤さんとばかり思って。2人付いているなら大丈夫かなと思い、田川さんの方に戻って赤木さんのお手伝いをしました」
と渡辺助産師。
 
「榊原君?」
「田川さんは事前のエコーではちゃんと頭を下にしていたんです。ところが実際お産が始まってみると、逆子になっているので、えー!?と思いました。私と渡辺さんとで赤木さんがこちらに来られないか聞いてみようと話して、長山さんに呼びに行ってもらいました」
と榊原医師。
 
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「しかし今日、山田さんはお休みだったのだが」
「じゃあれは誰だったんでしょう?」
 
「山田さんはほんとにお休みだったんですか?」
「確認する」
 
と言って大間院長は山田助産師に電話する。そして今日彼女は病院には来ていないことを確認した。
 
「実際に赤ちゃんを取り上げた人は凄く手際が良かったんです。だから会陰切開もせずに出しちゃったんですよ。私はてっきり赤木さんが戻ってこられたと思っていたので、私は赤木さん、さっすがーと思っていたのですが」
と佐藤助産師。
 
「ええ。僕も物凄く上手いので赤木さんとばかり信じていました」
と高橋医師。
 
大間院長はしばらく考えていた。
「高園さんの所の赤ちゃんは異常とかは無いよね?」
「はい。何も異常はありません。元気そのものです」
 
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赤木助産師が発言した。
「高園さんの母子手帳の助産師欄には私が名前を記入します。途中まで私が介助したのですから、私が責任を持ちます」
 
大間院長はそれでもしばらく考えていた。
「分かった。そういうことにしよう。それで万一、訴訟事などが起きた場合は僕が全ての責任を取る」
 
全員無言のまま、院長と赤木助産師の発言を黙認する雰囲気になった。
 

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桃香の病室では、相変わらず断続的に眠ったり起きたりする桃香のそばで、青葉・千里・朋子・朱音がおしゃべりしていた。
 
やがて院長が入って来て「母子手帳の《出産の状態》のページ記入しましたから」
と言って手帳を桃香に渡し、診察もしていた。
 
「痛くない?」
「痛いです」
「高園さんはとても安産で会陰切開も不要だったんですよ。それでも痛いのは痛いでしょうから、辛いようだったら痛み止め処方しますよ」
「母乳に影響出たら嫌だから痛み止めは我慢します」
「そう?まあお母さんが痛み止め飲んでも、母乳にはその0.5%程度しか混じらないから、食品添加物の影響程度で気にすることはないんだけどね」
 
「でも気分的に嫌だから我慢します」
「分かりました。でもほんとに辛かったら僕でも看護師でもいいから言ってね」
「はい」
 
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16時頃、朋子が
「そういえば私たち、お昼食べてなかったわね」
と言い出した。
 
すると千里が
「私が付いているから、お母ちゃんと青葉はごはん食べてくるといいよ」
と言った。
 
「そうだね。じゃそうしようか」
と言って、青葉は母と一緒に部屋を出て、新生児室のウィンドウ越しに赤ちゃんの様子を見てから、病院の近くの食堂に行って御飯を食べてきた。
 

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青葉たちが戻ると、桃香はまだ寝ていて、そばに付いている千里もそのまま眠っていた。青葉と朋子は顔を見合わせる。
 
「ちー姉、ちー姉」
と声を掛けて起こす。
 
「ちー姉、疲れたでしょ。何なら、私たちが取ったホテルにちー姉も行って少しベッドで寝てこない?私たちがしばらく見ているよ。あるいはもう1部屋とってそこで朝まで寝ているというのでもいいし」
 
「そうだね。じゃ私ももう1部屋取ってあのホテルで休むよ」
「うん。それがいいかも」
 
それで千里は病室を出て行った。30分くらいの後、ホテルに部屋を取ったということで、部屋番号を報せるショートメールが朋子のスマホに入っていた。
 
桃香はその後、20時頃起きて
「お腹空いた。牛丼が食べたい」
と言ったので、青葉がコンビニに行って、牛丼と、それ以外に蒸しパン・おにぎりなどを買ってきた。桃香は牛丼をペロリと食べた後、おにぎりも食べたが、更に蒸しパンも食べようとした所で、朋子から
 
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「そのあたりでやめときなさい」
 
と言われた。水分も不足していたようで2Lのペットボトルのお茶をあっという間に飲んでしまい、青葉は再度コンビニに行ってきた。
 
桃香が元気そうなので、青葉と朋子も面会時間の終了とともに病院から引き上げて、ホテルに戻った。
 

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