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■春乱(3)
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19日はそういう訳で、桃香の病院には、午前中と午後の2回千里が来て、午後の訪問はちょうど青葉・朋子と重なった。
20日は千里は朝来てお昼まで居たが、昨日午後の来訪を全く覚えていないようであった!話がややこしくなりそうだったので、桃香は昨日の午後、朋子と青葉が来たことも話さなかった。
それで千里が帰っていって、お昼を食べていたら、朋子と青葉がやってきて午後いっぱいいてくれた。ふたりは夕方の新幹線で高岡に帰っていった。
入院生活は最初の数日だけ16日夜の影響が残っていて、ややお腹に不安があったのだが、落ち着いてくると暇になってくる。ああ、パソコン持ってくればよかったと思い、21日に千里に言ってみたら、1日4時間以内なら使ってもいいと言うのでそれでいいよと言ったら、翌22日に持って来てくれた。
昨日言っていた「1日4時間以内」という紙が貼り付けられている!しかし気にせず使うことにする。
しかし使い始めてから4時間経つと「あと10分」という表示が可愛い男の娘!?のアイコンと一緒に出て、その男の娘がストリップ!をしていくのに連れカウントダウンして行き、10分経過して平らな胸に、やや盛り上がりのある女の子パンティ1枚だけの姿になった所で、「ここまでね」というメッセージとともにハイバネート(休止)してしまった!
その後はどんなに頑張っても起動しない。セーフモードでも起動しないのでハード的に何か組み込んでいる感じだ。桃香は翌日、稼働している最中に何とかその設定を解除できないか試みたものの、挫折した!千里にこんな難しい仕掛けができる訳無いから、きっとソフト会社の同僚に設定してもらったのであろう。
しかし男の娘のストリップというのは誰の趣味だ!?
千里は24日までは毎日午前中に来てくれたが、24日に来た時、このあと29日まで来られないと言った。更にその後5月13日までアメリカに行ってくることになるらしい。確かにアメリカ遠征の話は最初からあった。桃香は少し不安はあったものの、入院しているから何とかなるだろうと思った。13日だったら、予定日に近いし、もしかしたら千里の帰国後に産まれるかも知れないし。
それで、千里は病院のお昼が来た所で帰って行った。
ところが桃香がお昼を食べ、その後、しばしパソコンで動画など見ていたら、千里から電話が掛かってくる。
「桃香今どこ?」
「どこって、病院にいるけど」
「病院って、桃香どうかしたの!?」
何を今更〜〜!?
千里と電話で話していると、どうも千里はそもそも16日に切迫早産?になり病院に運び込まれたこと自体を知らない雰囲気なのである。桃香はここ数日千里の“病状”が落ち着いていた気がしていたのだが、またぶり返したのかな?と思う。それで結局、千里はこれからこちらに来るということであった。15時くらいになってからやってきて、
「放置しててごめんねー。ここの所忙しくて。かろうじてお誕生日のケーキだけ送っておいたんだけど」
などと言っていた。
そして千里は
「実は明日からしばらくフランスに行ってくることになったんだよ」
と言った。
桃香はこれが本当なのか千里の妄想(?)なのか判断が付きかねたものの、適当に話を合わせておいた。だいたい午前中はアメリカに行くと言っていたのに!?なぜ行き先がコロコロ変わる?
結局この日千里は夕方まで居て「渡航の準備があるから帰るね」と言って、帰って行った。
そういう訳で、24日は午前中と午後の2度千里は来て、午前中に来た時は次は29日まで来られなくて、30日からアメリカに行くと言っていたのに午後に来た時は明日からフランスに行くと言われた。
そして千里が5月3日に高知まで和彦の一周忌に行ってくると言っていたことも思い出した。まさかアメリカやフランスから一周忌のためにピンポイント往復するつもりか???
しかし千里は25日の朝7時にやってきて!おやつや飲み物などを置いて行った。桃香はもう「しばらく来られない」という話は気にしないことにした!
桃香が好みのおやつなどを言うと「じゃ明日持ってくるね」と言った。この日は仕事があるからと言って1時間ほどで帰って行った。
これが29日の朝まで続いたが、29日の夕方に再度千里はやってきた。つまり29日は2度来た。
「数日来られなかったの、ごめんねー」
などと言っている。そして
「明日から13日までアメリカだから」
と言っていたので、桃香はもう呆れて
「じゃ気をつけてね。シアトル行くならお土産にマイクロソフト饅頭か、アマゾン煎餅でも」
などと言っておいた。
しかし千里は30日の“朝”は出てこなかったものの、午後1時頃に出てきた!ただ忙しいようで1時間ほどで帰って行く。
「千里、海外とかに出る予定は無いんだっけ?」
と念のため訊いてみたのだが、
「桃香が出産するまでは国内に居るよ」
と千里は言う。
「それは助かる」
「7月はインドに行ってくるけど、それまでには赤ちゃん出てきてるよね?」
アメリカ・フランスと来て、次はオーストラリアとでも言うかと思ったら、インドかい!?と桃香は呆れたものの、
「さすがに7月までお腹から出てこないということはない」
と答えた。
「だったら、ちゃんと付いているから安心して」
と千里は言った。
「千里が居るんなら私も安心だ」
「赤ちゃん産まれたら、最初に抱かせてよ」
「それは当然頼む」
と桃香も言って微笑んだ。
千里は5月13日までは高知に行く5月3日以外は、毎日昼過ぎくらいに出てくると思うから、欲しいものがあったらメモ書いて、というので雑誌やおやつ、飲み物などを頼んだ。
世間では連休に突入する。
青葉は和彦の一周忌に行くため、5月2日(火)は大学を休んで朝からヴィッツに朋子と2人で乗って金沢に行き、新幹線(金沢6:13-9:20東京)で東京に出てきた。東京駅に千里がアテンザで迎えに来ているので、それに乗って、あきる野市の大間産婦人科まで行く。ここで1時間ほど桃香と過ごすと、またアテンザに乗って羽田に向かう。空港の駐車場に車を駐め、3人は千葉から出てきた洋彦夫妻と一緒に高知行きの飛行機(羽田14:00-15:20高知)に乗った。
高知空港でプリウスのレンタカーを借りる。
青葉が運転席、洋彦が助手席、後部座席に恵奈・朋子・千里と乗って土佐清水市を目指した。途中で千里に運転交代して、目的地に到着したのは18時頃であった。
和彦の遺影に手を合わせた後、この日は用意してもらっていた旅館に入った。
この日は疲れていたので、みんな早く寝た。
青葉は21:50頃、千里が部屋を出るのに気付いた。自販機にでも行くのかなと思ったもののなかなか戻って来ない。
『もしかしてどこかに移動したのかな?』
と思い至った。
その後、青葉も1000kmほどの移動で疲れているので後ろの子で体力がありそうな子に監視を頼んで熟睡していたのだが、起きてから尋ねてみると、千里は結局一晩中戻って来なかったらしい。そして朝7時頃、まるでその付近を散歩でもしてきたかのような顔で戻って来た。どうも温泉にも入ってきたようだ。
青葉は“千里”が日本代表候補の一員として現在、アメリカのテキサス州ダラスに行っているはずだということを知っている。
千里がこの旅館を不在にしていた時間は22:00-7:00 これをダラスの時刻(中部夏時間)に直すと、8:00-17:00 である。
ひょっとして、ちー姉その間、向こうに飛んでアメリカ合宿をやっていたとか!?5月3日に一周忌に出られると千里姉が言ったのを聞いたとき、青葉は内心、そんな無茶なと思ったのだが、まさか日本とアメリカが地球の裏側になり、昼夜逆転するのを利用して、こちらの夜の間が向こうの昼だから、それで向こうで練習していたとか!?それで温泉に入ってその汗を流してきた?
でもでも・・・そんなの体力的に無茶すぎる!
実際千里の様子を見ても、そんなに疲れているとか、眠そうにも見えない。日本代表の合宿なんて、無茶苦茶ハードだろうに。
青葉は千里の体力が底知れない気がした。
和彦の一周忌(無宗教)は5月3日の午前中に行われた。昨年は周囲の圧力?で仏式で葬儀をしたものの、一周忌は本人が無宗教だったからやはり無宗教でということになり、“高園和彦を偲ぶ会”ということになっている。坊さんもお経も無しで、和彦が好きだったモー娘。の曲のオルゴールバージョンが会場には流されていた。
「アマより」という札の立った大きなお花が飾られている。子供一同名義で5人共同で出し合って用意したお花より大きい。
「あれは?」
「咲子さんの妹だって。去年の葬式の時も200万円香典送ってきたのよね」
「わっ」
「それで全員の交通費を渡せたのよ。今年もお花と100万円送って来ているからちゃんとみんなに交通費渡すね」
「へー。でもそういう資力のある妹さんがおられるんですね」
「お互い年だからもう会うことはないだろうけどって」
「ああ年取ると旅行もままならないですよね」
佑子さんが司会を務めて式典が始まる。
山彦・風彦・洋彦・星火の4人の子供と、光彦の代理で青葉が5人で一緒に追悼のメッセージを読み上げた(書いたのは山彦の息子の春彦)。山彦が音頭をとって献杯したあとは、カラオケ大会となった!
今回は出席者が葬儀の時の半分くらいなので、来ている人の中で若い子は全員歌うことになる。青葉が『Blue Island』(鴨乃清見)を歌ったら、千里は『黄金の琵琶』(大宮万葉)を歌った。
「ふたりとも歌がうまーい。歌手になれるよ」
と安子が言っていた。
「少なくとも私よりは遙かに上手いね」
と言って、忙しいスケジュールの合間を縫ってこの会に出席した波歌(三つ葉)がケーキを摘まみながら言っていた。
「でも波歌(しれん)ちゃん、よく出席できたね」
「事務所の社長(シアター春吉)が、そういうものにはちゃんと出るもんだと言って、スケジュール空けてくれたんですよ」
「あの人、仕事には厳しいけど、義理とかを重んじるからね」
と千里は言っていた。
なおさすがに波音は契約上勝手に歌えないのでと言って、カラオケはパスさせてもらっていた。
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春乱(3)