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■春来(5)

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(C)Eriko Kawaguchi 2015-11-15
 
一方、同日の朝9時、青葉たちは伏木駅に集合した。事前に注意されていたので全員しっかりとした長袖・長ズボンに運動靴を履いている。
 
吉田君が助手席に乗り、2列目に青葉と日香理、3列目に空帆・美由紀・彩矢という配置になる。
 
「今日はうちの邦生以外はみんな女の子なのね」
と運転しながら吉田君のお母さんが言う。
 
「吉田も女の子みたいなもんだよね」
などと彩矢が言う。
 
「そうそう。吉田って女子制服も似合うし」
と美由紀。
 
「あんた女の子の服も着るの?」
とお母さんが言う。
 
「着ない、着ない。一度だけこいつらにハメられて着せられたんだよ。恥ずかしくてたまらなかった」
と吉田君。
 
「そうだね。無理に着せられたということにしておこうか」
 
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「あんた、女の子になりたいなら正直に言ってね。家の中でスカート穿いてもいいよ」
などとお母さん。
 
「別に女になりたくはねーよ!」
と吉田君は怒ったように言った。
 

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車はいったん高岡市の中心部方面に進んだ後、農道を突っ切って氷見市方面に向かう。
 
「あ、これATMの怪を見に行った時の道だ」
と美由紀が言う。
 
「ああ、見に行ったね」
と青葉は懐かしそうに回想しながら言った。
 
当時廃墟と化していたATMは今回は見付けることができなかった。おそらく撤去されてしまったのだろう。
 
その農道を抜けた後、国道415号を通って羽咋(はくい)に向かう。3月に雛人形を見に七尾まで行った時は県道18号で県境を越えたのだが、県道18号と並ぶ、能登半島の石川県側と富山県側を結ぶ重要な道路がこの国道415号である。
 
カーブは18号より「少しマシ」という程度なので、彩矢などはけっこう気分が悪くなっている感じだった。それで県境を越えた所にある熊無の休憩所で30分くらい休んでから先に進んだ。
 
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「いや、参った参った」
と千里はヘルメットを脱ぎながら言った。
 
「お疲れさん」
と鹿美さんが声を掛けてくれる。
 
「やはり上品な走り方してたらダメですね。決勝に残れなかった。またやり直しかな」
と千里は言う。
 
「いや、予選通過タイムに30秒足りなかっただけだもん。初めてのレースでこれだけ走れたら充分だよ。コンソレーション・レース(敗者復活戦)頑張ろう」
「はい」
 

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吉田君のお母さんが運転するノアに乗った青羽たちは、国道415号を羽咋市まで降りて行った後、コンビニで少し休憩してから今度は国道159号を西進、結局11時頃に「モーゼパーク」に到着した。
 
お母さんは車内で休んでいるということであったので、他の6人でモーゼの墓まで行くことにする。吉田君のアドバイスで青葉が買っておいた虫除けスプレーをみんな手や顔に掛けた。
 
「しかし竹内巨麿さんも人騒がせだよねー。青森ではキリストの墓を発見して能登ではモーゼの墓を発見して」
 
と空帆が笑って言っている。
 
「ここは能登になるんだっけ?」
と美由紀が尋ねる。青葉も微妙な付近かなという気がした。
 
「うん。能登と加賀の境目は、だいたい旧高松町と旧宇ノ気町の境界付近なんだよ。だから、このあたりは能登の南端に近い付近」
 
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と輪島出身の空帆が解説してくれる。
 
車を降りた近くに何か柱のようなものが立っているのを見るのでまずは行ってみる。
 
「これ何だろう?」
「さあ」
 
とりあえず細長い柱が3本立っているが、何なのかはよく分からなかった。
 
美由紀や空帆が取り敢えず写真を撮っていた。その後、遊歩道に入る。
 
「遊歩道っていうか山道だね?」
と日香理が言う。
 
「うん。今の時期でもこんなものだから夏とかに来ると、蚊が大軍で押し寄せてくると思う」
と吉田君。
 
「蚊くらいならいいけど、蜂とか来たら怖いね」
「熊に注意なんて看板もあったし」
「注意と言われてもお見合いしたらどうすればいいんだろう?」
「まあ、ひとりでは来ない方がいいね」
 
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少し歩いた所に何やら小屋があるので入ってみると、記帳所になっていてモーゼ伝説の解説などもしてあった。
 
「十戒を授かったのはこの宝達山だと」
「シナイ山じゃないの〜?」
「ここがシナイ山だったりして」
「うーん・・・」
 
「十戒が刻まれたメノウの石を天皇に献上し、天皇の娘・大室姫をモーゼに嫁がせたと」
「何天皇なの〜?」
 
「モーゼが活動したのはだいたいBC13世紀、日本は神武天皇が即位したのが日本書紀の記述をそのまま信用してもBC661年」
と日香理が解説する。
 
「時代が合わないじゃん」
「でもいわゆる古代文書の類いによれば神武天皇以前にもウガヤ朝とかアエズ朝とかいって多数の天皇がいたと言われている」
 
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「うーん・・・・」
 
「だいたいモーゼってイスラエルの民を約束の地に導く途中で120歳で亡くなったという話だったのに。道の途中でイスラエルの民を放置して日本に来たわけ〜?」
と彩矢が疑問を呈する。
 
「もっとおかしいのが青森のキリストの墓のほうだよね。ゴルゴタの丘で死んだのは弟のイスキリだったというけどさ、あそこでイエスが死んだのでなかったらキリスト教の信仰そのものが崩壊するよ」
と日香理が言う。
 
「まあ竹内文書は色々と問題点が多い」
と青葉も苦笑しながら言った。
 
「でもイスキリってちょっと聞くとイシキリにも聞こえるね」
と美由紀が言う。
「ああ、イシキリなら日本人の苗字にもあるよね。石切さん」
と彩矢。
 
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「うちの親戚にもいるよ、石切さん」
と空帆。
 
青葉はそれを聞いて「え!?」と思った。
 
「そうそう。このモーゼの墓の近くに平林、平らな林と書いて『へらいばし』と読む地名があるらしいよ。ふつうならこの地名は「ひらばやし」だけどね。このヘライというのがヘブライではないかという話がある(*1)」
と空帆が言う。
 
青葉はその時『あれ〜。平林ってどこかで聞いた名前だぞ』と思ったが、その時はすぐには思い出せなかった。
 
(*1)筆者注。この情報はネットに流布しているのですが、私は地図上では平林という地名を見付けきれませんでした。平床ならありますが「ひらとこ」と読むことをmapionと郵便局の郵便番号一覧で確認済みです。
 
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取り敢えずみんなでわいわいと記帳してから道を進む。
 
記帳所があったから、その先すぐなのかと思ったら全然目的地に着かない。
 
「これどのくらい掛かるの〜?」
と既に疲れている顔の美由紀が訊く。
 
「うちの母ちゃんは15分くらい掛かるって言ってた」
と吉田君。
 
「そんなに遠いの〜?」
 
傾斜がけっこうきつく、美由紀や彩矢が遅れがちなので、それを待ってあげて歩いていたら結局駐車場から25分ほど掛けて、やっとミステリーヤードなる所に到達する。ここは元々「三ツ子塚」と呼ばれているものらしく、三つの小高い塚が並んでいる。
 
「真ん中がモーゼの墓、左が奥さんの大室姫、右がモーゼの孫の墓らしい」
 
「なぜ突然孫が出てくる?」
「子供は〜?」
「さあ」
「そもそもモーゼって結婚してたんだっけ?」
 
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「してる。出エジプトをする前にツィポラという女性と結婚し、ふたりの息子ゲルショムとエリエゼルを設けている。ただしモーセは自分の息子を後継者にしなかった。従者ヌンの子、ヨシュアが後を継いだ」
と聖書に詳しい日香理が解説する。
 
「そういうのはいいね」
「うん。子供が継ぐと概して劣化コピーになる」
 
「ツィポラというのは小鳥って意味らしいよ」
「小鳥ちゃんかぁ」
「可愛い名前だね!」
 

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それで取り敢えずモーゼの墓なるものにアプローチする。
 
「うーん・・・・」
 
「何か板が刺さってる」
「字は読めないね」
「たぶんモーゼの墓とか書かれていたのでは」
 
「取り敢えずお墓だしお参りしよう」
 
「モーゼさんなら十字を切らないといけない?」
と美由紀が訊くが
「みんなクリスチャン?」
と青葉は問う。
 
「私、仏教徒〜」
「同じく〜」
 
「だったら合掌すればいいよ。異教徒なのにキリスト教徒の真似する方がおかしい」
と青葉は言う。
 
「私も同意見。自分の心に従うお祈りの仕方をすればいい」
と日香理も言う。
 
それでみんなお墓の前で合掌した。
 

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「よし、帰ろう帰ろう」
 
と言って山を下りるが、
 
「なんか消化不良〜」
という声が多い。
 
「モーゼの像を造ろうなんて話もあったらしいけど、予算がなくてうやむやになってしまったらしいよ」
と空帆が言う。
 
「要らん要らん」
「駐車場そばにあった怪しげなモニュメントだけでも充分という感じだ」
 
「ここまで来たついでに羽咋のコスモアイルに行かない?」
と空帆は提案した。
 
「それ何?」
「UFOとロケットの展示館。本物のアメリカの宇宙船とかも展示されている」
「おっ、行ってみよう」
 

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それで車に戻ると、また吉田君のお母さんの運転で羽咋市に移動した。山道を歩いた後なので、車内では熟睡していた子もいた。お腹が空いたという意見も多かったので、ゴーゴーカレーに寄ってお昼にした。
 
青葉が「お昼代は私のおごり」と言うと、美由紀などカレーを3杯も食べていた。
 
満腹したところでコスモアイルに行く。
 
「なんかロケットが立ってる」
「この建物自体がUFOの形なのか」
 
「あのロケットはマーキュリー計画で実際に使用されたロケットなんですよ」
と空帆が言う。
 
「本物なんだ!」
「すごー!」
 
それで中に入ってみると、展示物はUFO関連のものと宇宙開発関連のものに別れていた。羽咋には昔から「そうはちぼん」というものが見えるという話があるらしい。夜中に円盤状の物体が飛んでいるのを多数の人が目撃しているということである。
 
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「なんか面白いもんがある」
「宇宙人の死体か!」
「これテレビで見たことあるー」
「ここでこんなものを見ることになるとは」
 
しかしここは展示されている宇宙船の数々が壮観である。
 
バイキング着陸船、ルナ24号、アポロ月面着陸船、ボイジャー探査船、アポロ司令船、モルニア通信衛星、ルナ/マーズ・ローバー、ヴォストーク宇宙船、マーキュリー宇宙船。
 
「よくこんなに集めたね」
「物凄くお金が掛かってる」
 
「いや、これを見ただけでも今日遠出してきた価値があった」
などと言っている子もいる。
 
モーゼの墓の方がやたらと苦労した割に何も無かったので、ここの物凄い展示がよけい楽しくなるのだろう。
 

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