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■春来(2)

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お母さんの瑞恵さんは車で来ていたので、お母さん・石切さん・青葉・真穂の4人でお母さんのビスタに乗ると、青森県に向かった。東北自動車道・八戸自動車道で八戸ICまで行き、そのあと国道454号をひたすら西進する。
 
その間青葉は石切さん本人やお母さんから色々お話を聞いていた。そして聞けば聞くほど、この問題の「根深さ」を実感する。これは「解決」できる類いの問題ではない。回避策をとるしかないと青葉は認識した。
 
そろそろ実家ですよといっていた時、青葉は唐突に「キリストの墓」という案内板を見た。
 
「キリストの墓って何ですか?」
「ああ、あれは村の古い塚をなんか偉い学者さんがここはキリストの墓だと言って」
「え〜〜!?」
「それで、ああやって案内板出してますけど、別に何も無いんですよ」
とお母さんは言ったのだが
 
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「私も話には聞いたことある。一度見てみたいと思っていた」
と真穂が言い出す。
 
「じゃちょっと寄りましょうか」
と言って、お母さんは車をそちらの道に入れた。
 

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「キリストの里伝承館」などというのが建っているのを見て青葉はクラクラとする思いであった。屋根には十字架が立ち、玄関の所には五芒星のマークが入っている。
 
「もともとこの付近は戸来(へらい)村と言っていたんですよ。そのヘライというのがヘブライのことではないかと竹内なんとか麻呂という偉い学者さんが言い出して、それで現地に来ていろいろ調べて、ここの塚がキリストの墓に違いないということで」
 
「竹内巨麿ですか!」
「あ、そうそう、そんな名前」
 
青葉は頭が痛くなった。それが元でこれだけの騒ぎになっているのか。
 
「この星形の紋章はこの戸来村の旧家・沢田家の家紋として長く伝えられているものなんですよ。それがなんかイスラエルのシンボルと同じだとかで」
 
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いや、ここに掲げられているのは五芒星だが、イスラエルのダビデスターは六芒星だぞ、と青葉は思う。
 
「実はうちもその沢田家の分家筋に当たるみたいで、うちの家紋も星形なんですよ」
とお母さん。
 
「そうでしたか!」
 
「あとうちではやってないですが、戸来村では赤ちゃんが生まれると無事育ちますようにと額に十字のマークを描く習慣があったらしいんです」
 
とお母さんが説明する。実際この伝承館の中にも籠の中に入れられた赤ん坊の額に十字を描いた人形が置かれていた。
 
「あと戸来村に伝わるナニャドヤラというお祭りで歌われる歌の歌詞が日本語としては意味不明なんですが、それがヘブライ語ではちゃんと解釈できるらしくて」
「なるほどー」
 
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「毎年6月にはキリスト祭りというのも開催してるんですよ。今年は・・・6月7日かな」
「はあ・・・」
「最初の頃はキリスト教の牧師さんに来て頂いていたんですけど、アーメンとか言われても、みんなそんなの唱えられないじゃないですか」
 
「確かに。キリスト教徒でない人には言えない単語ですよね」
「それで一時期はお寺の坊さんに来て頂いたものの、それもしっくりこないということで今は神社の神主さんに来て頂いて祝詞をあげてもらっているんですよ」
「へー!」
 
キリストの墓の前で祝詞をあげるのか。凄い。でも祈りの形は、祈る人の心に沿うものであるべきだから、神道の徒であれば祝詞でよいはずだとも青葉は思った。
 
「お祭りにはイスラエルの大使さんが来てくださったこともあるとかで」
「それはまた凄い!」
 
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「でもイエスってゴルゴタの丘で磔になったのでは?」
と真穂が疑問を呈する。
 
「そこで死んだのは弟のイスキリで、キリスト本人は数人の弟子とともにシベリアを渡って戸来村に来たということなんですよ」
とお母さん。
 
「なぜわざわざ日本に」
「そもそもキリストは若い頃、日本で修行したらしいんですよ。十和田湖そばの戸来岳とか、もう少し南の八幡平(はちまんたい)とかが修行の地だったそうで。なんでも越中にすごく偉い人がいて、イエスはその人の弟子になったとか」
 
「越中ですか!?」
 
突然北陸の地名が出てきて青葉はびっくりした。
 
「その縁があって日本に戻ってきたらしいんですよ」
 
「でもイスキリって名前、イエスとキリストをくっつけた単語では?」
「あ、それはそんな気がしていました」
 
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「でも日本人の観光地化感覚だと、キリストもなか、とか、キリスト煎餅とかも出来そうだ」
と真穂が言うと
 
「キリストラーメンがありますよ」
「え〜〜!?」
 
それで青葉たちは伝承館を出た後、近くのラーメン屋さんに入る。メニューにほんとにキリストラーメンがあるので頼む。ラーメンはわりと短時間で出てきた。
 
「どのあたりがキリストなんですかね?」
と真穂が訊くと
「ここにダビデの星のナルトを乗せてまして」
とお店の人が説明してくれる。
 
「なるほど〜」
 
そのナルトは正しく六芒星の形をしていた。ほんとにダビデスターである。ラーメンはそれなりに美味しかった。
 

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結果的に2時間近く寄り道をしてしまったが、午後2時頃、石切さんの実家に到着する。
 
石切さんのお父さんが在宅で
 
「おい、瑞恵、腹減った」
と言ってから
 
「あ、お客さんですか」
と青葉たちを見て言う。
 
「うん。ちょっと面倒なことをお願いしたんですよ」
とお母さんが言うと
 
「なんだ、光平が嫁さんを連れてきたのかと思ったのに」
とお父さん。
 
「ごめーん。僕はまだお嫁に行く気は無いから」
「お前が嫁に行くんだっけ?」
 
「さあ、どっちだろう。それで、この人達は岩手の方では有名な霊能者さんなんだよ」
「へー」
 

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お父さんは
「美人さんで霊能者って凄いですねー。霊能者って何か髪振り乱した凄い形相のおばあちゃんかと思ってた」
などと言いつつも、やはりふたりが美人ということでご機嫌が良い。
 
その時、青葉はふと疑問を感じた。
 
「石切さんの家の家紋が五芒星なんですよね?」
「ええ、そうです」
「お母様のご実家の家紋は?」
「そちらもおなじ星形なんですよ。だから、元々同じ一族なんでしょうね。苗字は平林(ひらばやし)だったんですけどね」
 
なるほど、光平さんは両親の双方から同系統の遺伝子を引き付いでいるんだ!と青葉は納得した。それならかなり強い影響を受けるはずである。
 
仏間に案内してもらい、青葉はそこで愛用のローズクォーツの数珠を持って、霊的な感覚を解放した。
 
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その時、青葉はこの家の中に妙なものがあることに気づく。
 
すっと無言で立ち上がると、その自分の感覚を頼りに探し当てる。居間の棚の上に、銀色の十字架があった。
 
「すみません。この十字架はどういういわれのものですか?」
「あ、それは僕が20代の頃にツーリングで遠出していて、確か富山か石川か、あの界隈で道に落ちていたのを拾ったものなんですよ」
 
「道に落ちていたんですか!?」
「何かよくないものですか?」
「いえ。これはむしろこの家を守っています」
「それは凄い」
 
「だったらそんな所に置いておかないで、神棚か仏壇にでも置いた方がいいかね?」
とお父さんが訊くが
 
「いえ、キリスト教のものを神棚や仏壇に置くとパワーが落ちるので、これはここでいいですよ」
と青葉は笑顔で答えた。
 
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そして青葉は石切さんとお母さんに言った。
 
「かなり状況が見えてきました。ちょっと準備を整えて、再度こちらを訪問させて頂いてよろしいでしょうか?」
 
「はい、いつでもどうぞ。いつ頃になりますか?」
 
青葉は手帳を見て確認する。
 
「来週ではまだ準備が終わらないと思うので、再来週の土曜か日曜あたりではいかがでしょうか?」
 
「はい。いいですよ。あ、再来週だったら、ちょうどキリスト祭りの日になりますね」
 
「ああ!!」
と言ってから、青葉は石切さんに1枚の御札を渡す。
 
「私が来るまでの間、この御札を寝るとき枕の下に敷いておいてくれませんか」
「はい」
「それで当面は何とかなると思います」
「分かりました。ありがとうございます!」
 
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青葉はその後、地元の資料などを見られる所がないか尋ね、石切さんのお母さんは地元の図書館に連れて行ってくれた。いくつかの資料を図書館の人に言ってコピーさせてもらう。
 
「このあともう帰られますか?」
「そうですね。どこかで1泊してから明日の朝の新幹線で帰ろうかと思っていたところですが」
「でしたら十和田湖にお泊まりになりませんか? 明日は八戸までお送りしますよ」
とお母さんが言う。
 
それで結局、石切さん・お父さん・お母さんの3人、真穂・青葉の5人で十和田の温泉旅館に泊まることになった。
 
「十和田湖は来られたことあります?」
「真穂さんは来てるよね?」
「うん。私は紅葉のころにきたことある」
「十和田湖は春の風景も夏の風景も秋の風景もそれぞれ良いんですよ」
「冬は?」
「冬は道路が無くなってしまうので」
「なるほど」
「一応焼山方面からの道は最近冬季除雪するようになったんですけど、通れない時もあります。昔は冬の十和田湖ってスキー以外に到達手段が無かったんですよね」
「へー」
 
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休屋の旅館に入り一息ついてから散歩に出た。ビール飲んでると言うお父さんを置いて残りの4人である。有名な乙女の像を見る。その時青葉の感覚に独特の波長が感じられた。
 
「そちらに神社がありますね」
「ええ。十和田神社ですね。行ってみますか?」
「はい」
 
それでそちらに行き、お参りをする。
 
「この先に何かあるのを感じるんですが」
「ああ。鉄のハシゴがあるんですよ」
「鉄のハシゴ?」
と青葉が訊くと
「あ、ちょっと面白い所だよ」
と真穂が言った。
 
それで行ってみると、垂直な崖に長い鉄のハシゴが掛けられている。
 
「昔は鉄の鎖みたいなちゃちなものだったんですが、今はこういうしっかりしたハシゴになってて、誰でも降りてみれるんですよ」
 
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青葉はお母さんにこのハシゴが降りられるだろうか?と疑問を持ったのだが、先頭に立って降り始める。それでその後、真穂、光平さん、最後に青葉が降りていく。ハシゴは結構長い割には降りやすく、あまり腕力なども必要無かった。
 

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「これは凄い」
 
と青葉は声を挙げた。
 
「いい所でしょ?」
とお母さん。
 
「これはここだけのために十和田湖に来る価値のあるような場所です」
と青葉。
 
「なんか気持ちのいい場所だね。私はまだ2度目だけど」
と真穂は言っている。
 
「そのあたりに十和田湖の水の湧き出し口があるとも聞いているんですけどね」
とお母さん。
 
「確かに水が深そうですね」
と青葉は言う。
 
しばらくその付近を歩いていたのだが「あ、ここいいな」と思う場所があった。
 
「光平さん、ここに立って頂けますか」
と言って青葉は光平を湖のパワーをかなり強く受けられる場所に立たせた。そしてローズクォーツの数珠を持ち心の中で祝詞を唱える。
 
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青葉はふと、数珠持って祝詞なんてことやるのは日本国内でも数人しかいないかもね、と思った。
 
「なんか身体が温かくなった気がします」
「はい。光平さんの防御性能を高めましたから。こういう強いエネルギーの流れのある場所でしかできないことです」
 

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それで帰ろうということになったのだが、ハシゴの所に戻り、最初に青葉が登ろうとした時、ハシゴのすぐ下の所に青い石が落ちているのが気になる。何だろうと思って拾い上げた時、青葉はどこかで「カチッ」という音がした気がした。
 
音のした方を見る。
 
そこに居るのは光平さんである。
 
青葉はこの石が何か意味があるものと考え、とりあえずそれを自分のバッグに入れた。
 

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