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■春来(3)

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千里は5月15日(金)の夕方会社の仕事を終えた後青葉と一緒に沖縄に飛び、木ノ下大吉先生が抱えているトラブルとアイドル歌手明智ヒバリとのセッションをしたのだが、思いがけない展開で、ふたつの問題が同時に18日(月)に解決してしまった。それで千里と青葉は19日(火)に東京に戻ることができたのである。
 
千里は色々悩んでいるふうの青葉の心を整理してあげるため、19日に羽田に着いた後、自分が参加しているレッドインパルスと40 minutesの練習風景を見せ、20日(水)には青葉を伴って福井県の∽∽寺を訪れ、ヒバリの件を導覚貫首に報告した。青葉はあきらかに∽∽寺の強烈な「空気」の中で心の整理が進んでいるようであった。そして千里は青葉を高岡に送り届けた後、その夜の内に東京に戻ったのである。
 
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実際には18-20日の3日間、Jソフトの方には千里Bが出勤していた。しかし千里(千里A)は21日(木)、自ら会社に出て行って専務に相談したいことがあると言った。専務は千里が深刻な顔をしているので、会議室に連れて行き話を聞いてくれた。
 
「実はユニバーシアードの日本代表に選ばれてしまったんです」
と千里は切り出した。
 
「あれ?代表候補にはなったけど代表から落ちたとか言ってなかった?」
「それが怪我した子が出て、その代わりに私が招集されたんです」
「ああ!」
 
「2月・3月の合宿の時も、お仕事を休ませて頂きましたが、また今回も大会の日程や先行する合宿とかでかなり仕事を休まざるを得なくて」
 
「どういうスケジュールになってるの?」
と専務に尋ねられるので千里は篠原監督から送られて来たスケジュール表を専務に見せた。
 
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「23日から30日まで都内北区の味の素トレセンで第四次合宿、6月24日から7月3日まで第五次合宿、そのまま韓国に渡って4日から13日までユニバーシアードの本戦です。帰国は14日になりますが15日は報告会とかの行事があるので、実際にこちらに出社できるのは16日からになると思います」
 
「うーん・・・・」
と専務は悩んでいる。
 
「こんなに休むのが、簡単に許されることではないことは分かっています」
と千里は言う。
 
「それで考えたのですが、いっそ会社を辞めさせて頂けないでしょうか?まだ仮採用中なのにこんなことを言って本当に申し訳ないのですが。一応退職願は書いてきました」
 
と言って千里は毛筆で「退職願」と表書きした封筒を差し出した。千里は4月入社で6月までは仮採用の状態にある。むろん7月で本採用に切り替えてもらえるかどうかはその間の仕事ぶり次第である。
 
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専務は目を瞑って考えていた。
 
「実はさ」
「はい」
「明日発表するけど、片口君が今月いっぱいで退職するんだよ」
「あらぁ〜」
 
片口君はこの4月、千里たちと一緒にこの会社に入社した人であるが、かなり苦しんでいたようである。もっとも本人以上に周囲が困っていたようで、千里Bが「あの人のプログラムは読解不能。最初から勉強し直して欲しい」などと文句を言っていた。
 
「それでなくても人手不足の折、困ってしまってね。随分慰留したんだけど、すっかり自信を失っているみたいで」
 
「うーん・・・」
と今度は千里が悩む番であった。私なんて自信が無いどころかほぼ無理なんだけどなあ。
 
「募集は出しているし、何人かこの春から面接しているけど、なかなかいい人がいないんだ」
「そうですね。仕事を探している人は多いけど、なかなかお互いの求めるものは一致しないですよね」
 
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「うん。まあそれでその状況で、明らかに戦力になっている村山君に今辞められるのはとっても困るんだよ」
 
「すみません」
「それでどうだろう? これ休まないといけない日数は来週5日間と6月24日から7月15日までの平日16日間、合計21日間だよね」
「はい」
 
「その間、有休を10日使ってもらって残り11日は欠勤扱いということで」
「休んでいいんですか?」
「うん。辞められるよりはマシだから」
「すみません!」
 
千里は後ろで千里Bこと《きーちゃん》が凄く嫌そうな顔をしているのを意識した。彼女は2月からここまでの3ヶ月ほどのお仕事で精神的に疲労しており、辞めさせて欲しいというのは半分は彼女の意志なのである。
 
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しかし専務は21日間休んでもいいから仕事を辞めないで欲しいと要請し、千里はとりあえずそれを受け入れた。
 
「でも私まだ入社して2ヶ月も経ってないですけど有休ってあるんでしたっけ?」
「本当は6ヶ月勤務したところから10日間なんだけど、そのあたりは適当に」
「はあ・・・」
 
「あ、そうだ。君は今まだ仮採用の状態だったよね?」
「はい」
「まだ3ヶ月経ってないけど6月1日付けで本採用に切り替えるから」
「はい。ありがとうございます」
 
と千里は答えたものの、《きーちゃん》がまた嫌そうな顔をしていた。
 
『きーちゃん疲れているみたいだし、今日明日は、せいちゃん私の代わりに仕事しない?』
『え?俺でいいの?』
『もちろん私の格好してね』
『まさか女装しないといけないの?』
『だって私女の子だもん』
『え〜〜!?』
と《せいちゃん》も嫌そうな顔をしたが、《きーちゃん》は
 
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『お化粧の仕方、教えてあげるね』
などと笑顔で言っていた。
 
『でもその前に足のむだ毛とかは剃ってよね』
 

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「あ、そうだ、専務。退職願を出すつもりだったので出さなかったのですが、一応バスケ協会の方から、日本代表に招集するので、仕事に関する配慮をお願いしますとの依頼状を書いてもらっています」
 
と言って千里は川淵三郎会長名義の依頼書を専務に手渡した(川淵は5月13日にバスケ協会会長に就任した)。宛名は株式会社Jソフトウェア・山口勇次社長様になっている(山口龍晴専務のお兄さんである。兄弟だが年は16歳も離れている)。
 
「川淵三郎って、まさかサッカーのJリーグ元チェアマン?」
「そうなんですよ。バスケ協会がここ10年ほど内紛続きで男子リーグが分裂したまま改革が全く進まないので、ついに国際バスケ連盟から資格停止処分をくらったんです。それで今までの役員が全員辞任して、改革を断行するために国際バスケ連盟の方から、バスケット界にしがらみのない人物ということで、川淵さんを送り込んで来たんですよ」
 
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「へー!知らなかった」
 
「資格停止処分のおかげで、今日本は国際大会に出られない状態なんです」
「ユニバーシアードはいいの?」
「川淵さんのもとで改革が進んでいるので、おそらく制裁解除してもらえるのではないかという前提のもとでとにかく練習だけしています。実際、代表になっているみんなは、もしかして解除してもらえなかったらという不安を抱きながらの練習になっているんですけどね」
 
「それはまた精神的に辛いね」
「処分解除について話し合う会議は6月19日。でもユニバーシアードは7月4日」
「ギリギリだね!」
 
「見せしめだと思うんですけどU19女子世界大会は実際に出場NGになっちゃったんですよ」
 
「U19だったら高校生とか大学1年生とか?」
「そうなんですよ。代表になっていた子には私も知っている子がいて泣いてました」
「大人たちの揉め事でそういう若い世代が犠牲になるのは可哀想だね」
「全くです」
 
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そういう訳で、千里(千里A)は専務との対談を終えた後、千里C(女装の《せいちゃん》)と交代してバスケの練習に行った。
 
実際には《すーちゃん》《たいちゃん》などの指導のもと《せいちゃん》を女装させて、その作業をしている間は《きーちゃん》がお仕事をしていてくれた。そしてお昼過ぎに《きーちゃん》と《せいちゃん》が交代した。この日、《せいちゃん》は女子トイレに入るのを恥ずかしがり、念のため付き添っていた《すーちゃん》に手を引かれて女子トイレに入ったものの、列に並ぶのにまたまた恥ずかしがってずっと俯いていたらしい。
 
一方、本体の千里(千里A)は10時頃、いつもの体育館に行き、練習に来ていた玲央美や朋美たちと合流した。
 
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「千里、今週は初参加だね。忙しかったの?」
と六原塔子から言われる。
 
「うん。月曜火曜は沖縄に行ってたんだよ。昨日は福井から富山を回ってきた」
「へー」
「これ沖縄のお土産」
 
と言って紅いもタルトを出すと、一瞬にして消えるので、さすがにびっくりする。
 
「美味しい美味しい」
「ちんすこうもいいけど、紅いもタルトもいいよね」
 
「千里、会社は辞めてきた?」
と玲央美から訊かれる。
 
「退職願を出したんだけど、却下された」
「あれま」
「取り敢えず今回のユニバーシアード日本代表に関する活動に関しては21日間全部休暇を認めるし、その内10日分は有休で処理してくれるらしい」
 
「21日間で済めばいいけどね」
と玲央美は言った。
 
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「え!?」
 

ともかくも21-22日(金土)は千里Aはいつものようにバスケットと音楽制作で1日を過ごした。ただ23日からは合宿で丸1日バスケット漬けになるので、今週までに仕上げられなかった3曲に関しては申し訳無いが、どなたかに回して欲しいと新島さんに頼んだ。
 
その3曲は結局は雨宮先生がケイ(冬子)に頼んだらしい。後で新島さんに経過を聞いたが、ケイはかなり力(りき)の入った作品を書いてきて、彼女の個性も強く出ていたので、そこを修正してもらって「駄作にデチューン」してもらった上で依頼元に回したらしい。
 
「さすがケイですね」
と千里は新島さんとの電話で言った。
 
「あの子は個性が強すぎるんだよね。それで魅力的な作品を書けるけど、ゴーストライターには向いてないと思った」
と新島さん。
 
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「才能のある人は大変ですね。私なんか何も才能無いから、全て駄作になる」
などと千里。
 
「はいはい。そういうことにしておいてもいいよ」
と言って新島さんは笑っていた。
 

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