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■春慶(5)

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(C)Eriko Kawaguchi 2013-12-15
 
青葉が医師に御礼を言って病室に戻ると、だいたい全員般若心経を書き終えたところだった。竹田さんが『待ってたよー』などと心の声で語りかけてくる。あはは。この手の処理は竹田さんは苦手である。以前にも静岡の山川さんに手伝ってもらって処理したことがあったはずである。
 
青葉は竹田が言った通り、呪いの糸をショートさせるつもりだったのだが・・・
 
後ろから《姫様》が出てくると「貸せ」と言って、その糸を全部自己ループさせてしまった!
 
これだと呪いは本人に返るのではない。呪いのエネルギーは糸の中で永久ループしてしまう。つまり相手は呪いが利いていると思い込むが、実は何も起きない。相手の自己満足を誘引する。何年もは騙しきれないが、相手の余命が幾ばくも無いという条件でこの方法は有効だ。呪い倒したと思って死んでいくから死後怨みが残らない。
 
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『ちょっと!頼んだのと違うじゃん』と竹田さん。
『例の池の姫様がやっちゃいました』と青葉。
『あの池の処理をしたの、青葉ちゃんか!』
『その後、私に付いておられるんです』
『凄い大物だと思った』
『あそこにあった神社は神格が高かったんだと思います』
と答えて青葉は微笑む。
 
竹田さんは全員の書いた般若心経を重ねると、一度般若心経を唱えた後、更に観音経を唱え始める。霊的な処理は既に済んでいるのだが、このあたりはいかにも何かやっているように見せる演出だ。高い依頼料を取るから、あまり簡単に終わっては、かえってクライアントが不安を抱く。ここだけ見るとまるで似非祈祷師だが、竹田さんは仕事自体はきちんとやってるから、こういう演出も効果を発揮する。クライアントが「ちゃんとしてもらっているようだ」と思うというのも大事である。
 
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そして・・・青葉は竹田さんが観音経を唱えている間に『治療』を始めた。
 
しかし心臓の手術は難しい。下手な所を切ると大出血だから、医師が行う手術ではいったん血液の循環を人工心肺装置に代替させ、心臓を冬眠させてから切る必要がある。しかし青葉には別のやり方がある。
 
鏡で拡大して見ながら、青葉は病変部分の血液の流れをしっかり観察し、きちんとバイパスさせてから、その流れから外れた部分を細胞単位で処置していく。鏡と鈴と剣の複合技である。
 
『ふーん。なかなか器用だね』
と《姫様》が声を掛けてくる。
 
『何だか毎年数人の手術をしている気がします』
『手伝おうか? それ数時間かかるだろ?』
『ええ。でも凄く不安を感じるんですけど』
『大丈夫だよ。死なせないから』
『分かりました。それではお願いします』
 
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姫様は青葉が持っている珠を勝手に起動させると、そこから強い気の塊のようなものを噴出させた。そしてほぼ一瞬にして病変部分が消えてしまった。
 
『うっそー!凄い』
『美事じゃろ?』
『姫様凄いです。こんなの見たの、うちの師匠が一度やったの見て以来です』
『あんたの師匠って、どこかの神様?』
『いえ、ふつうの人間ですけど。ただ高野山の山奥で60年ほど山野を回峰していました』
『ふーん。60年もやってたら、もうその人は人間じゃなくなってるよ』
『そうかも知れません』
 

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竹田さんの観音経が終わったところで病室から退出する。そしてそのまま佐藤さんのお家に行く。佐藤さんのお祖母さんがひとりで留守番をしていた。
 
お祖母さんは寝たきりという訳ではないのだが、身体を動かすのが辛いようで月に一度、病院に診察を受けに行く時以外は、めったに外出もしないらしい。
 
「ちょっと、Jさんだけとお話ししたいのですが」
と竹田さんが言ったので、他の家族が部屋を出てくれる。
 
青葉と竹田さんだけがお祖母さんの部屋に残った。
 
「Jさん、こんな感じの女性をご存じですか?」
と竹田さんは言って、女性の特徴を言う。
 
「あの女だ・・・」
Jさんは怒りが込み上げてくるようだ。
 
「御主人と何かトラブルがありましたか?」
 
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「主人の元婚約者です。でも喧嘩別れしたんですよ。その後、主人は私と知り合い、結婚しました」
 
「なるほど。でもその後もいろいろあったんですね?」
「そうです」
 
と言って、お祖母さんは昔のことを語り始めた。
 
「結婚して1年目に私は妊娠したのですが、その頃から色々嫌がらせを受けて」
 
お祖母さんは涙を流しながら、どんなことをされたかというのを語る。青葉は思わず顔をしかめたくなった。竹田さんはさすがに黙って表情を変えずに話を聞いている。
 
「そして、その日、私は買物に出かけたのですが、道路を渡るのに車が途切れるのを待っていたら、突然後ろから押されたんです」
 
竹田さんがさすがに
「それは酷い。お怪我は?」
と言った。
 
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「半年入院しました。もちろん赤ちゃんは流産で」
 
「酷いですね。でも生きていただけでも良かったです」
と青葉は言った。
 
「友人たちからもそう言われました。あの女が私を押したのを見た人が何人もいて、それで逮捕されて裁判に掛けられて。でも初犯だからということで、執行猶予が付いたんです。でも人を殺しておいて初犯だからもないと思いません? お腹の中の赤ちゃんだって立派な命なのに」
 
青葉はふと床の間にある龍の置物を見た。
 
「Jさん。その亡くなった赤ちゃんが、その龍の置物の中に入っていますよ」
と青葉は言った。
 
「そうだったんですか! それで主人が大切にしていたのか」
「女の子だったみたいですね」
「あ、それはそんな気がしていました」
 
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「この家の人を何とか守ろうとしていたみたい。でも力が足りなくて。特に男の人とは波長が合いにくいから守り切れなかったみたい」
 
「そうだったのか。それで男の人ばかり、やられていたんですね」
「Tさんは元々魂が女の子だったから、守ることができたんですよ」
 
「あの子は、親からは色々言われているみたいだけど、あの生き方でいいと思います」
とお祖母さんは言った。
 
「そうだ、祈祷師さん、Rを何とか助けてください。あの子が実質長男ですから」
 
竹田さんは青葉の方を見る。
 
「Rさんは手術を受けることはないでしょう」
「え?まさか」
「来月、退院なさると思いますよ」
と青葉は笑顔で言った。
 

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竹田さんはこの家に入った瞬間、この家全体に結界を掛けてしまった。この結界が利いている間に霊的な処理をする必要がある。
 
青葉は真言を唱えると、Jさんに絡みついていた呪いの糸(30本も付いていた。よくこれに耐えていたものだ)を、持参してきたツタンカーメンの小物入れに付け替えてしまった。
 
『何それ?』
と竹田さんが驚いたように言う。
 
『ブラックホールです』
『それ自分で作ったね?』
『この入れ物がブラックホールを作るのに最適だったんですよ。これで呪いのエネルギーはどんどんここに流れ込みます』
『そして、エネルギーを使い果たして本人は衰弱すると』
『呪って果てたら本望でしょうね。死んだ後は無間地獄行きでしょうけど』
 
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竹田さんが頷いた。
 
「これを御守りに」
と言って、青葉は荷物の中から遠刈田のこけしを出して、床の間の龍の置物の横に並べた。
 
「たくさんありますね!」
「家族7人を守るように7体用意してきました」
 
と言って青葉は微笑んだ。本当は身代わりに使うつもりだったのだが、姫様の活躍で出番が無くなってしまった。でも御守りにも充分効果を発揮するだろう。
 
『それで、そのブラックホールの処理は?』
と竹田さんが訊く。
 
青葉は微笑んで姫様に『これお願いします』と言った。
 
『やれやれ。神様使いの荒い奴だな。でもいいよ。処理してきてあげる』
と言って、姫様はツタンカーメンの小物入れを持ってどこかに行ってしまう。
 
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最後はJさんの部屋でも般若心経と観音経を唱えて、締めとした。
 

佐藤さんの家を出たのが16時頃であった。青葉は竹田さんに高岡まで送ってもらい別れる。竹田さんは明日東京のテレビ局の番組に出るということで、イオンモールに寄った後、小杉ICから東京方面に向かうということだった。
 
この日は17:39に日没、19:05に天文薄明終了であった。
 
竹田さんから電話が掛かってきたのは19:30頃であった。
 
「今日はお疲れ様でした」
「青葉ちゃん、緊急に佐藤さんの家に行って欲しい」
「何かあったんですか?」
「異変が起きているようなんだ。僕は今妙高高原まで来てしまっているので、今から戻るとしても、佐藤さんの家に辿り着けるのはノンストップで走っても22時すぎになってしまう。君の所からなら30分くらいで行けるよね?」
 
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「はい」
 
それで竹田さんはそのまま妙高高原で待機して青葉の報告次第では急行するということにして、青葉は母の車に乗せてもらい、佐藤さんの家に行った。
 
家の敷地の手前10mくらいの所に停めてもらう。
 
青葉は佐藤さんの家を見るなり「うっ」と思った。
 
何だこれ〜〜〜!?
 
それはまるでお化け屋敷か何かのように、大量の魑魅魍魎が家にあふれていた。
 
長男というかむしろ長女というべきTさんに中に入れてもらうと青葉は仏檀のある部屋に行った。
 

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『姫様。珠の出番ですよね?使い方、教えてください』
『うん。私の指示に従え』
『はい』
 
青葉は珠をふつうに起動した後、姫様の言うとおりにそれを操作した。
 
すると珠からまるで噴水のように《水》が四方八方にあふれ出す。そして家の中にいる魑魅魍魎を全て洗い流してしまった。まるで古事記に出てくる潮満珠(しおみつたま)みたいな感じだ。
 
「何これ、すごい?」
とTさんが言った。
 
「きれいになりましたね」
と青葉はにこやかに言った。
 
「私、あんたが来てくれて良かったと思ったよ」
とTさんは言う。
 
「あの竹田さんって人、有名な人みたいだけどうさんくさい気がした。あんたは信用できる気がした。それに何だろう。不思議な親しみを感じるんだけど」
 
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「それは私がTさんと同じMTFだからかも知れませんね」
と青葉は答える。
 
「えーー!? MTFって、つまりあんた男の子なの?」
「生まれた時はそうでしたけど、もう手術しちゃったから女の子です」
「凄い! もうやっちゃったんだ! 私は来年くらいに手術したいと思ってる」
「いいと思いますよ」
 
「でもそんな風には見えないのになあ。あんた、どこをどう見ても女の子にしか見えない」
 
「Tさんもどこをどう見ても女の子にしか見えませんよ。私、男の娘ってどんなにきれいにお化粧とかしていても、たいてい見ただけで分かるのに、Tさんのこと、言われるまで気付きませんでしたから」
 
「へー。取り敢えず握手」
 
ということで青葉はTさんと握手する。
 
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「でもこれ原因は何?」
「土地のものだと思います。多分今までは呪いが掛かっていたので、雑多な霊は近寄れなかったんですよ」
 
そしてここは昼間と夜間で霊的なものの流れが完全に変わってしまう場所のようだ。前回来た時も今日の昼間来た時も、夜間にこういうことになるとは思いも寄らなかったのである。
 
「ああ、ライオンがいたら、狐とかは近づけないって状況か」
「です。ライオンがいなくなったんで、これ幸いとやってきたんですね」
 
それで青葉はTさんと一緒にお祖母さん(Tさんからは曾祖母さん)の部屋に入る。
 
「ちょっと失礼します」
と言って人形をいったん7体抱えると、まず1体はその場に戻して、窓の方角に向けた。
 
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「Tさん。この角度を覚えておいて頂けますか? この場所から、窓の中心を見る方角です」
「分かった」
 

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その後青葉は、Tさんと一緒に、Tさんのお祖母さんとお母さん(依頼主)の部屋、Tさんの部屋、入院しているRさんの部屋、それから次女Fさんの部屋で、それぞれ適当な場所にこけしを置き、いづれも窓の方に向けた。長女のNさんはFさんと同じ部屋を共用していたが、現在は独立して金沢に住んでいるらしい。
 
「私はRとは部屋を共用できなかったから」
とTさん。
 
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