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■春慶(3)

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「そうなんです。それでちょっと続くねと言っていたのですが、5年前には今度は私の父が亡くなりました。67歳で、会社勤めからは引退していたもののシルバー人材センターに登録して毎日元気に草刈りとか掃除とか、バスの送迎とか、そういう仕事をこなしていたのですが」
 
「バスの運転ができるというのは、かなりお元気だったんですね」
「そうなんです。本当はどこかパートででもいいから働きたいみたいでしたが不況で見つからなかったんですよ」
 
「若い人でも仕事が無いですからね。そちらは死因は?」
「お医者様は心臓麻痺と言っていましたが、定期的に健康診断は受けていたのに、心臓が悪いとか言われたことなかったんです。血糖値もそんなに高くなかったですし」
 
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「ちょっと怪しいですね」
「それで祖母がこれは何かあるかも知れないと言って、父の百ヶ日法要が終わったあとで、親戚も含めてみんなで神社にお祓いに行ったんですよ」
 
「なるほどねぇ」
「ああいうの効き目あるものでしょうか?」
「状況にもよりますが、基本的には気休めです。単純な《拾いもの》くらいなら、神社の敷地に入っただけで取れますし」
「ああ」
 
「ちょっと待ってくださいね。10年前に亡くなったお祖父さんというのは、お父さんのお父さんですか? お母さんのお父さんですか?」
「母の父です」
 
「系図を簡単なものでもいいので書いていただけませんか?」
と竹田さんが言う。
「分かれば生年月日と命日もリストアップして欲しいのですが」
「それは帰宅したら確認してFAXでもしますね」
 
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と言って、佐藤さんは系図を書いた。
 
「うちは元々女系家族なんですよ。曾祖母も祖母も母も婿取りで。苗字はいづれも夫の苗字を名乗っていますが。うちの長男が80年ぶりの男の子だとか言ってました」
 
「そのご長男さんに何かあったんですか?」
「いえ。長男は無事なのですが、実は次男の方に心臓の病気が見つかって、来月手術するのですが、手術の結果次第ではペースメーカーを埋め込まなければならなくなるかも知れないと言われています。でもペースメーカーはいいとして、本当に手術が無事終わるか心配で心配で」
 
「次男さんは何歳ですか?」
「20歳、大学生です。長男は子供の頃から病弱で随分ハラハラさせられたのですが、次男は小さい頃から元気というか腕白で。高校時代はラグビーとかしていて、丈夫な子だったはずなのに」
 
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「お子さんは4人?」
と青葉は訊いた。
 
「はい。あら?私言いましたっけ。男の子、女の子、男の子、女の子と互い違いに生まれたんです」
と佐藤さんが答える。
 
「そういうのを聞かなくても分かっちゃうのがこの子の凄い所なんですよ」
と竹田さんがコメントする。
 
「凄い!」
 
「で、すみません。話が前後してしまったかも知れませんが、もしかしてそれ以前にどなたかに異変がありましたか?」
 
「はい。4年前に私の夫が亡くなりました。まだ46歳でした」
「わぁ・・・」
 
「そして2年前には父の弟さんが大怪我して。こちらは何とか命は取り留めたものの、まだ仕事には出られない状態なんですよ。そして去年は夫が亡くなった後で私が再婚した新しい夫まで亡くなったんです」
 
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青葉は10年前から亡くなった人の数を数えてみた。祖父・大叔父2人・父・夫・新しい夫で6人だ。やばいぞ、という気がする。竹田さんも同じことを考えている雰囲気だ。
 
「それでちょっと気になるものがあって」
「はい」
「実は10年前に亡くなった祖父が、亡くなる1年ほど前にどこからか買ってきた龍の置物があるのです。祖母は祖父の遺品だからということで大事にしているのですが、もしかしてそれに何かあることはないだろうかという気がして。祖母を説得して、どこかのお寺に納めさせようかとも思ったのですが、関係無ければ、それを大事にしている祖母に申し訳無いし、ひょっとして逆に守ってくれているのなら、手放すのはまずいし、ということで、どなたかしっかりした方に判断をしてもらえないかと思いまして」
 
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「それで竹田さんに依頼なさったんですか」
「はい。こんな有名な方にお願いして受け付けてもらえるだろうかと思ったのですが、連絡があった時は嬉しかったです」
 
「僕はだいたい依頼事は1日で片付けていく主義なんだけど、今回ばかりは1日では済まないし、誰か手伝ってくれる人も欲しいなと思った時に、ちょうど青葉ちゃんに会ったんだよ」
と竹田さんは言う。
 
やれやれ。確かにこれは1日で片付く案件では無い。
 
青葉と竹田は亡くなった人のそれぞれの死因やその直前の様子などを尋ねた。また予め竹田さんが依頼して撮影してもらっていた、家の全体写真、その問題の龍の置物の写真、亡くなった人たちも含めた家族の写真なども見せてもらった。写真は竹田さんが預かっていた。
 
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いったん佐藤さんと別れてから、道の駅の駐車場に駐めてあった竹田さんのプリウスに一緒に乗る。竹田さんは昨年まではクラウンに乗っていたのだが、最近この車に変更した。
 
「いや、クラウン乗ってたらさ、ぼろ儲けしてるんじゃないかと思われる気がして。庶民派のアピールにはプリウスの方がいいかなと思って変えたんだよ」
などと竹田さんは言っている。
 
「プリウス今売れてますからね。石を投げたらプリウスに当たる感じ」
 
「そうそう。でもガソリンの減り方が全く違う。クラウンの半分以下だよ」
と竹田さん。
 
「確かに減りませんよね。200kmくらい走っても燃料計の針が全く動かないから壊れてるのかと思ったことあります」
と青葉は言ってしまったが
 
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「そういう発言は他の人がいる所ではしないように」
と竹田さんが注意する。
 
「まあ竹田さんだから言っちゃいましたけど」
と青葉も応じる。
 
「で、本星は何だと思う?」
と竹田さんが訊くので
「生霊(いきりょう)ですよね?」
と青葉は答える。
 
「たぶん。最初彼女のお手紙を見た時はてっきり土地の物かと思ったんだよ。12年前からその家の近くで高速道路の工事が始まったと書いてあったんでね」
 
「そういう工事が行われると、気の流れが完全に変わっちゃいますからね。だいたい高速道路って、しばしば神様の領域を侵食している」
 
「だから霊道動かせば解決するだろうと思ってやってきたんだけど、彼女に会った瞬間『しまった。読み違えた』と思った。生霊だったら受けるんじゃなかったと後悔した。僕、あの手のは苦手だから。青葉ちゃんも見た瞬間、生霊だって気付いたでしょ?」
 
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「生霊かどうかまでは分からなかったですけど、呪い系統だなというのは分かりました。話を聞いている内に生霊だなと思いました。呪いを掛けた人物はまだ生きてますよ」
 
「女だと思う?男だと思う?」
「女でしょ。話を聞いている時に、おしろいの臭いがしましたよ。古いタイプの。もしかしたら、そのお祖父さんの愛人か何かかも」
 
「その臭いまでは分からなかった。でも青葉ちゃん、割と生霊得意だよね。僕の知っている範囲でも生霊の案件をこれまでに5件は処理している」
 
「私がやったんじゃないです。菊枝さんがしてくれたのとか、眷属の人が処理してくれたり、最終的には師匠に頼ったり。でもその師匠も今はいない」
 
「びっくりしたよ。瞬嶽さん。あの人まだ100年は生きるかと思ってたから。葬儀に行かなくてごめんね」
「いえ。竹田さんお忙しいし、御香典も頂きましたし」
 
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「でさ、来月の次男さんの手術」
「このままだと命が危ないですね」
「だよね。となると、今から断るわけにはいかないよね」
「見殺しにしたら、今度は佐藤さんから、こちらが恨まれますよ」
 
「まあ僕はその程度は気にしないけどね。でも信用に関わるから」
 
まあ確かに竹田さんのように大量の案件を処理していたら、期待したほどの効果が出なくて依頼人から恨まれるくらいのことは、結構起きているだろう。青葉も過去に何度かその手の経験はある。
 

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竹田さんは車を出して、青葉と一緒に問題の佐藤さんの自宅の近くまで行った。降りてその付近の空気を観察する。
 
「土地は特に大きな問題はないよね?」
「と思います。そこの高速ができたので、あそこの霊道が途切れてしまっていますけど、あれはあと数年したら、右側の迂回路の方に合流しますよね」
「うん。だから霊道の影響が出ているのは、あのあたりだから、佐藤さんの家は関係無い」
「だと思います。夜中にあの付近を歩いていたら幽霊くらい見るだろうけど、幸いにも人家が無いから。あそこにお地蔵さんがあるので、何とか大きな問題にぱならずに済んでいると思います」
 
「というか、あのお地蔵さんが引き受けてくれたんだろうね。よく信仰されているみたいだし」
 
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青葉たちもそのお地蔵さんのところに百円玉を供えて合掌しておいた。帰りはふたりは高速に乗り、高速側から、その付近を観察した。
 
「ところでその写真の龍はどう思う?」
「無関係ですね。ただの物体です」
「ああ、やはり。僕もあまり怪しい気はしなかったんだけど」
「念のため、実物を見た方がいいと思う」
「来週くらいに確認しに行こう。来週都合が付く?」
 
「つけます。母に叱られそうだけど。高校卒業するまでは霊の仕事控えろって言われてたんですよねー」
「あはは。青葉ちゃんほどの人をみんな放置してくれるわけがない」
 
「竹田さんみたいな人がいますから」
 

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それで竹田さんの車で高岡まで送ってもらった。竹田さんが一度母に挨拶しておきたいというので、寄ってもらう。
 
竹田さんを母に会わせたのは初めてだったので、母はびっくりしていた。
 
「あんた、竹田さんと知り合いだったんだ!?」
「小さい頃、よく飴玉とかもらってたよ」
「へー!」
 
「それで、大変申し訳ないのですが、お嬢さんを来週の日曜にもお借りできないかと思いまして」
と竹田さんは恐縮した感じで言う。
 
「何か危ない案件じゃないよね?」
と母は青葉に尋ねる。
 
「竹田さんが私に手伝ってくれというほどの案件だから」
「ちょっとー」
「でも大丈夫だよ。今回、強い味方がいるから」
と私は微笑んだ。
 

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竹田さんには夕飯を食べていってくださいと言い、氷見で買ってきた鰤(ぶり)のサクを切って刺身にして夕飯にする。
 
「美味しいね! 氷見の鰤というのは聞いたことはあったけど、プリプリした食感もいい」
 
どうも竹田さんはダジャレのつもりで言ったようだが、母は気付いていない。
 
「冬になると脂が乗ってきて、もっと美味しくなるんですけどね。夏でも充分美味しいです。それに新鮮ですしね。これは今朝獲れたての鰤ですよ」
 
「でもこれから神戸に戻られるんですか?」
「夜通し運転していきますよ。高岡から神戸までなら南条あたりで仮眠しても6時間くらい。こちらを8時に出ても夜2時くらいには着くかな」
 
青葉は考えるようにして言った。
 
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「今日はお疲れになっているから早めに一度徳光あたりで休憩して、その後、多賀付近で仮眠というのもいいかもですよ」
 
「ほほぉ」
 

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食事中に青葉の携帯に着信がある。見ると盛岡の真穂(大船渡の佐竹慶子の娘)なので、そのまま取る。
 
「こんばんはー。免許証なら、テレビの下に落ちてるよ」
と青葉は電話を取るなり言う。
 
「え!? なんで免許証探してたって分かったの?」
と真穂。
「真穂さん、思念が強すぎるんだもん。電話掛かってくる30秒くらい前から分かったよ」
「すごーい。ちょっと待って」
と言って、テレビの下を探している様子。
 
「あった、あった! 助かった。あ、それでもう1件相談なんだけど」
「それから、最近真穂さんがメール交換している**さんは女の子だよ。言葉が少し男っぽいだけ」
 
「うっそー!!!!」
「向こうは単に友だちのつもりでメール交換しているだけだと思う」
 
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「そうだったのか・・・・くそぉ、本気になる前で良かった」
「そうだね。のめり込んだ後で知ると辛いよね」
 
「あ、そうそう。それでさ。用件なんだけど、うちの大学の女子寮でこないだ自殺騒ぎがあってさ。発見が早くて助かったんだけどね」
「良かったね」
 
「それでちょっと噂になってたのよ。その子が住んでる部屋で、5年前にも自殺した子がいたという話があって。何か地縛霊でもいたりしないかな?」
 
「その寮の住所分かる?」
 
真穂が住所を言うと、竹田が自分のノートパソコンを出してすばやくその付近の地図を表示させてくれた。青葉は頭を下げて御礼をする。
 
「部屋の番号は?」
「***号室なんだけど」
 
青葉はその地図を眺めてみた。
 
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「自殺があった部屋とは違うよ」
「え?」
「何号かは言わない方がいいと思うから言わないけど、5年前に自殺があったのは間違いなく別の部屋。真穂さんなら現地に行けばどの部屋かすぐ分かると思うけど」
 
「ね、まさかそちらに地縛霊とか?」
「そんなのは居ない。ちょっと霊的な跡が付いてるだけ。よほど心の弱っている人でない限り問題無い。あと一度お祓いすれば平気」
 
「やっぱりお祓いしたほうがいい?」
 
「自治会か何かに言って費用出させてお祓いするといいよ」
「分かった。話してみる」
 
真穂はしばしば学生の霊的な相談に引っ張りだされているので、いろいろ顔が利くようである。たぶんそもそもこの話自体も誰かから持ち込まれたものなのだろう。
 
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「あ、そうだ。真穂さん、ちょっとお願いがあるんだけど」
「うん?」
「たぶん盛岡市内で手に入るとは思うんだけど、もし手に入らなかったら仙台まで行って買ってきて欲しいものがあるんだけど。新幹線代・送料に手間賃も出すから」
「いいよ。仙台まで行って、サイゼリヤのミラノ風ドリア食べてこよう」
 
「サイゼリアって盛岡に無かったっけ?」
「無いんだよねー。あそこのティラミスも好きなんだけど」
 

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