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■春慶(4)

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その週の水曜日、東京から作曲家の田中鈴厨子さんがやってきた。田中さんは耳に障碍を持っているのだが、今年の春から定期的に青葉のヒーリングを受けている。週末に相棒のゆきみすず(間島香野美)さんが歌手生活30周年の記念コンサートをして、田中さんがそのコンサートにゲスト出演して歌うことになっているので、その前にまた青葉のヒーリングを受けておくことにしたのだ。
 
「そうそう。土曜日にケイちゃんと会って、私が青葉先生の所に行くならとこれ言付かったんですよ」
 
と言って、田中さんはなにやら袋を渡してくれる。
 
「先週イギリスに行ってきたので、そのお土産ですって」
 
「ケイさんったら凄い! 大先輩の田中さんにお使い頼むなんて」
と青葉は正直な感想を言うが
 
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「いやケイちゃんは忙しすぎるから。私はついでだしね。実際問題として、普通の作曲家の3倍くらいのペースで曲作りをしている一方で、ローズ+リリーとローズクォーツとKARIONを掛け持ちして、今年はそれにローズクォーツグランドオーケストラまでやっているのは恐ろしすぎる」
 
「KARION?」
「あれ?KARIONの件は青葉先生も知ってますからとケイちゃんから聞いたんですけど」
「ああ、田中さんにはバラしたんですか」
 
と言って青葉は顔が緩む。ケイがKARIONに関わっていることは《顧客の秘密》なので安易に他の人には話せない。
 
「いや、私は相棒の間島から聞いたんですよ」
「間島さんはKARIONの初期のプロデューサーでしたからね」
「うん。でも間島がプロデュースしてた頃は全然売れなくて。ケイちゃんといづみちゃんが共同でプロデュースするようになってから爆発的に売れたんですけどね」
 
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「確かに実績的にはそうですけど、KARIONの方向性を作ってくれたのは間島さんだとケイさんは言ってましたよ。ただ間島さんのプロデュースは《実力のあるアイドル》という路線だったのを、もうアイドル忘れて実力派として突っ走ってみた結果、売れちゃったと。正直いくつか試行錯誤的な作品を作ってみてと思っていたら最初の試みが当たっただけだって」
 
「まあ、あの世界は何が当たるかって分からないですからね」
「ですよねー」
 

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それで青葉はケイとマリのイギリス旅行のお土産を開封する。
 
「ぶっ」
さすがの青葉も吹き出した。
 
「何これ?」
「トゥトゥ・アンク・アムンというか日本ではツタンカーメンという読み方が定着してしまってますけど、そのミイラマスクのデザインの小物入れですね」
 
ツタンカーメンの黄金のマスクは以前大英博物館に収蔵されていた(現在はカイロ博物館にある)ので、その関連グッズなのだろう。
 
「不思議なものをお土産にするのね。私と間島は、エジンバラ城の衛兵の人形でしたよ。キルト穿いてる」
「マリさんの趣味でしょうね。マリさん特にスカート穿いた男性が好きだし」
「変な趣味だなあ」
 
「面白い人ですよね」
「マリちゃんって悪い意味じゃなくて、非常識のかたまりみたい」
 
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「マリさんが無茶なこと言うのをケイさんが何とかしてあげようと頑張ることであの2人は活動している気がします」
 
「そうそう。原動力はマリちゃんですよね。でもそれを実現するケイちゃんのパワーも凄すぎる。ケイちゃんがいることでマリちゃんは伸び伸びとクリエイティブな活動ができるんでしょうね」
と田中さん。
 
「ケイさんは自分はマリさんの才能を引き出す役なんだと言ってました」
と青葉。
 
「でも天才を理解できるのは天才だけ。ふたりの出会いは運命的だったんだろうなあ」
と最後はどこか遠くを見るような顔をする。
 
「田中さんも間島さんとの出会いが運命的だったんですね」
「そうだねぇ・・・」
と田中さんは昔を懐かしむような顔をした。
 
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「田中さんが天才型。間島さんが才能の引き出し役ですよね?」
「よく分かりますね!」
 
そう言ってから、田中さんは言った。
 
「でも私心配。みんなケイさん凄い凄いって言うけど、あれかなり無理してると思う。どこかで破綻するんじゃないかって気がして。あまり遠くない内に」
 

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真穂からの荷物は木曜日に届いた。青葉は竹田と連絡を取り、いくつかの問題で確認をしておく。青葉は竹田からFAXでもらった、クライアントの家系図を眺めていた。
 

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2013年9月28日。ゆきみすずの歌手30周年ライブが全国放送で中継され、日本全国で、耳の聞こえないはずの、すずくりこが、しっかりした声で歌ったことに驚きの声がこだました。
 
青葉もその放送を見ながら微笑んでいた。
 
翌29日。竹田さんが朝から来訪する。竹田さんのプリウスに乗り、一緒にクライアントの次男さんが入院している病院に行った。竹田さんもスーツを着ているし、青葉は高校の制服で行った。病院に巫女服で行くのは、他の患者さんに不安を与える恐れがある。
 
病院のロビーで佐藤さんと会い、一緒に病室に行く。60代くらいの女性と、23歳くらいかな?という感じの若い女性、それと同じくらいの年齢に見える女性がいる。お姉さんと妹さんかなと思った。
 
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「母と、うちの子のTにNです。ベッドにいるのが次男のRです」
 
「もうおひとりは?」
今日は身体が不自由であまり出歩けない佐藤さんの祖母以外の家族に全員この病室に来てくれるよう要請していたのである。
 
「次女のFは部活に行っているので、もう少ししたら来ると思うのですが」
と佐藤さん。
 
ん? と思って青葉は考える。竹田さんも同じ事を考えたようで、一瞬顔を見合わせた。ここに女の子が2人いる。来てないのが次女? じゃ長男は??5人きょうだい???」
 
「あのぉ、長男さんは?」
と竹田さんが尋ねた。
 
「あ、私です」
と23歳くらいの女性。
 
えー!?と思ったものの、そんなの顔には出さない。
 
「あ、そうでしたか。失礼しました」
と竹田さんはごくごく平静である。
 
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「あ、済みません。その件、お話してなくて」
と佐藤さんが恐縮したように言う。
 
「この子、小さいころ病弱だったもので、そういう子は女の子の服を着せて育てると元気に育つと言われて、女の子の服を着せていたら、大きくなったらこんなんになってしまって」
と佐藤さん。
 
「それは関係ないと思うけどね。私の元々の性格だよ」
と本人は言っている。声も完璧に女声だ!
 
「それは別に構わないのではないでしょうか。性別は自分で選べばいいんですよ」
などと竹田さんはチラっと青葉の方を見ながら言う。
 
そして青葉も竹田さんも、この呪いがなぜ長男に出ずに、次男に出たのかが良く分かった。
 
青葉も微笑んで
「Tさんは魂が女の子です。ですから、これで良かったんだと思いますよ」
と言った。
 
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そんなことをしている内に、高校生の制服を着た次女のFがやってくる。
 
「では始めましょうか」
と言って竹田さんは病室に一瞬で結界を張った。このあたりのパワーはさすがである。
 
竹田さんはこの一週間色々調査し、また霊査なども行った結果、10年前からの異変は、ある人物による呪いであると判断したこと。その人物は生きているので、封印してしまうとか身代わりの形代に呪いを移すなどの霊的な対策が取りにくいこと。かといって既に6人も殺しているので和解は不可能であることなどを説明した。
 
「誰なんです? その呪っているの? 復讐したい」
とTさん。美人なのに激しいことを言う。
 
「復讐とかこちらからも呪うとかは不毛です。こちらが向こうを呪えば、結局こちらの運気も下げます。こういう場合は相手を自滅させてしまえばいいんです」
と竹田さんは言った。
 
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青葉としては完全には賛成できないが、それはひとつの解決法である。逆に向こうが破滅してくれた方が、こちらの人たちが怨みの心を持ちにくい。怨むのも怨まれるのも不幸である。
 
「で、どうするんですか?」
とベッドで寝ている次男さんが訊く。
 
「みなさんには現在、相手からの呪いの糸が付いています。でもさっき私がこの部屋に結界を張りましたので、今相手は一時的にこちらを見失っているはずです。この糸を相手が気付かないうちにショートさせてしまいます。ここに6人いるので、2本ずつペアにしてショートさせると、結局呪いは本人に返るはずです」
 
と竹田さんは説明する。まあ、そんな単純な話ではないんだけどねー。でもふつうの人に説明するにはそのくらいが限界だろう。
 
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「そんなんでごまかされますか?」
とTさん。
 
「向こうは素人なので大丈夫です」
と竹田さん。
 
「素人なのに、親父や祖父さんを殺したんですか?」
とTさん。
 
「この人、中途半端な霊的な知識があるんですよ。だから呪いを通すことができた。でもこの人、その代償として、既に身体をかなりむしばまれています。おそらく・・・・1年以内には死にます」
と青葉は言った。
 
「おそらく」という言葉を発してから少し考えていた時、ちゃっかり付いてきている《姫様》が『9ヶ月』と言ったので、青葉は1年以内と言ったのであったが。
 
「そちらの助手さんは霊媒か何かですか?」
「霊媒的な才能も高いですね。私は自分の後継者に指名しようかと思っているんですけどね」
などと竹田さんは言う。
 
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「へー!」
 
「私たちも何かするんですか?」
と長女のNさんが尋ねる。
 
「みなさんにこれを書いて頂きたいのです」
と言って竹田さんは6人に般若心経のお手本と紙、筆ペンを配る。
 
「私は筆ペンよりふつうの筆の方が好きかな」
と佐藤さんのお母さん。
 
「用意しています」
と言って竹田さんは墨汁と硯に筆を渡す。
 
6人が般若心経を書いている。青葉はそっとベッドに寝ている次男さんのそばに寄ると「鏡」を使って、心臓の付近を観察した。
 
なるほどー。すると手術はここをこうして、こうするんだろうな、と想像する。確かにこれは難しい手術だ。神経を切ってしまう可能性は半々と言われたと言っていたが、むしろほぽ確実に切ってしまうのではないかという気がする。
 
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ちょうどそこに主治医の先生が入って来た。何だか人数が多いし、みんなでお経を書いているので少しギョッとしたようだが、医師というのもだいたいポーカーフェイスである。平然として、患者の診察をする。
 
青葉は医師に尋ねた。
「クライアントは****ですね?」
 
女子高生がいきなり専門的な病名を言うので、向こうは少し驚いたようである。
 
「そうです」
「左心房と左心室の間に***の所にある病変を取り除かないといけないのでその結果、ペースメーカーが必要になる可能性があるんですね?」
 
「君、医学部志望か何か?」
「ええ。それに祖母が看護婦でしたので」
と言っちゃう。本当に看護婦だったのは、曾祖母であるが。
 
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「こちらの方は?」
と医師は佐藤さんに訊く。
 
「祈祷師の方です」
「祈祷するのに、ターゲットの病変の箇所が正確に分かったほうが、そこに向かって気を正確に送り込むことができますので」
と青葉は言う。
 
「ああ、そういうことですか。しかし医学的な知識に詳しい方のようですね。MRIの写真を見た方がいいですか?」
「あ、お願いします」
 
と言い、医師の診察が終わった後、その場は竹田さんに任せて青葉は医師と一緒にナースステーションに行く。医師が自分のセキュリティを挿して、パソコンの画面に患者のMRI画像を呼び出した。
 
「ここは***ですか?」
「だと思います」
「すると、ここを0.3mmくらい切り取る必要がありますね」
「そうなんです」
「難しいですね。0.4mm行くと神経を傷つける。でも0.2mmでは病変が残る」
「君、外科的なことに詳しいね!」
 
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お医者さんは青葉のことが気に入ってくれたみたいで、少し詳しいことまで教えてくれる。しかしこれって「自分が女子高生だからかもね」と思った。女の子であるということ自体が武器になる。
 
 
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