■春閼伽(11)
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その日、俊夫の母は俊夫の部屋に来ると宣言した。
「この部屋には性転換手術を受けてもらう」
「はあ!?」
母はまずカーテンを交換した。それまで青地にレーシングカーの模様が入っていたものだったのをオレンジ地でお花の模様のものに交換した。壁にはももクロとベビーメタルのポスターが貼ってあったがそれを剥がして、ルノワールの『ピアノを弾く少女達』とマリーローランサンの『狩りをするディアナ』のポスターを貼った。
「ルノワールはいいとしてマリーローランサンは好みじゃない」
「他のに変えてもいいけど、アイドルはやめときなさい」
(結局ダリの『ポルトリガトのマドンナ』のポスターを貼った)
押し入れから布団を出して布団カバーをお人形柄のものに交換した。枕カバーもピンクのものに替え、シーツも可愛い花柄のものを置いて、古いシーツは回収した。
「あら茶碗は女の子らしいの使ってるね。よろしいよろしい」
と言って、サンリオの小皿セットを置き、お箸は輪島塗の赤い短めのものに交換してこれまで使っていた黒い大きな箸は回収した。
座布団カバーを全て朱色の小猫模様のものに交換し、最後はカーペットも青いのを敷いていたのを剥がし、明るい黄緑のものに交換した。更に本棚にお人形を何体か置いた。
母は衣裳ケースや、押し入れの箱の中に入っていた衣類の中から
「これもう使わないよね?」
と言って男物の下着とか服を全部回収してしまう。
「男の格好する時困るよう」
「男の格好する必要なんて無いよ、いつも女物着てればいいのよ」
「そんなあ」
母は箱の中に入っていたセーラー服を見付けた。
「あら、セーラー服まだ取ってあったんだ?」
「お姉ちゃんからもらったからね。何となく取ってるだけ。誰か着る人が居たらあげてもいいよ」
「あんたはもう着ないの?」
「もう中学卒業して久しいしね」
「でも記念写真撮ったし何度か学校に着てったね」
「夏休みとかにね。ジョークの範囲で」
でもセーラー服で学校に行った日には女子たちに女子トイレに連行され、また先輩男子に「君可愛いね」と言われてキスされたんだよなあ。その先輩には「その格好でちょっと付き合って」と言われてカップル限定ライブに行き、その後ロッテリアをおごってもらった。(デートしてるじゃん)
このセーラー服は母が取り敢えず持ち帰って要る人がいないか聴いてみるということだった。
母は更にドレッサーと姿見を設置し、スリッパも可愛い色の物に交換した。
「ドレッサーとかあっても使い道が無い」
「学生時代はスッピンでもいいけど就職したらお化粧が必要だから練習してなさい」
ぼくお化粧しないといけないの〜?
「これでだいぶ女の子の部屋らしくなったかな」
「なんで女の子らしくしなきゃいけないのよ」
「だって彼氏連れて来た時に『女らしいなあ』と思ってもらわなくちゃ、お嫁さんにしてもらえないよ」
「ぼくお嫁さんになるの〜?」
「そうそう。お嫁さんになれるように、大学卒業するまでに性別変更してちゃんと法的にも女になっておかなくちゃ」
「性別変更〜!?」
母はその後俊夫を町に連れ出し、香林坊(金沢の旧商店街。80年代頃
までの中心部)で、可愛い服をいくつも買ってくれた。
下着もたくさん買ってくれた。ブラジャーはお店の人がサイズを測ってくれて
「C70でいいですね」
と言ったのでそのサイズで買ってくれたが、ぼくCカップなの〜?と
ショックを受けた。
(女性ホルモン優位だからね。もはや男装は難しいかも)
ブラとセットにするパンティも買った。
これから涼しくなるからと言ってスリップも買ってくれた。またマイメロとクロミのパジャマも買った。更にOLっぽいエナメルのショルダーバッグと、ブラウンのパンプスに持ち手が水色の可愛い傘まで買ってくれた。また女性用の財布も買ってくれた。これまで使っていた男性用財布と黒い傘は回収された。
そして美容室に連れて行かれ、母が色々美容師さんに注文を付けて凄く可愛い髪型にされてしまった。またドラッグストアで「若い女の子はこの程度使ったほうがいい」と言ってクラシエ(旧カネボウ)のシャンプーとコンディショナー・トリートメント、それにヘアブラシのいいのと、ドライヤーも買ってくれた。
(学校でも「髪型が凄く可愛い」と言われた。ついでに可愛いイアリングを着けられてしまった:外し方が分からず希望に頼んで外してもらった)
9月17日(日)、俊夫は就職予定の会社の次長から電話を受けた。
「10月2日に内定式をやるでしょ」
「はい」
今年は10月1日は日曜なので、2日に内定式という会社も多かった。
「それでその一週間前の23日、今度の土曜日に女子の内定者を集めて少し内々の打合せをしたいのよ」
「女子のですか?」
それをなぜほくに連絡してくるの??
「あなたも来ない?」
「え?でも女子だけなのでは?」
「あなたもそれに準じるということで」
ぼく女子に準じるの〜?(純粋な女子だったりして)
「トイレも女子トイレ使っていいからね」
あはは。
「まあ男の子でも聴いてて損は無い内容だと思うよ」
「では参ります」
「うん。服装はラフすぎるものでなければ普段着でもいいから」
「はあ」
「但しボトムはスカートでね」
「あ、はい」
「あとお化粧もしてね」
「はい」
スカートで出社するの〜?しかもお化粧して?
9月17日(日)、珠洲市の人形美術館がリニューアルオープン1周年だったので、この日は入場料無料にした。霊界探訪では取材に行き、館内の人形たち、スイスイ1号にガイドされて歩いて回るウォーキングドール・マリアン、サロンでのピアノとフルートのミニコンサート、災害用に備蓄している非常食などの様子を撮影した。
9月18日(月)、この春に結婚した高崎ひろかが、妊娠したことを発表した。予定日は来年の春頃ということであった。それでみんな
「結婚した時点では本当にまだ妊娠してなかったのか」
と言った。芸能界では休みを取るのの困難さから、わざと妊娠してしまい、妊娠したから結婚させて欲しいと事務所に申し入れるというパターンがひじょうに多い。
しかしこの妊娠発表で慌てた人がいた。ΛΛテレビの小池プロデューサーである。実は今期からキャスティングを大幅に変更する『少年探偵団』で江藤真澄・高崎ひろか夫妻を明智小五郎・文代夫妻の役として起用予定だったのである。江藤・高崎側からは、コスモスを通してテレビ局に妊娠発表の前日、謝罪の電話が入っていたものの、小池はキャスティングをやり直す羽目になった。
「ひろかの代わりに例えば品川ありさか姫路スピカとかでしたら、都合付けさせますから」
ありさもスピカも予定ははいっているが、そちらはリズムとか葉月とかに代替させる手もある。葉月は大きな役の経験が無いものの、アクアの
リハーサル役として、その実力は評価が高い。
「アクアちゃんはダメですよね?ギャラは億出してもいいです」
文代役のアクアに億出したら今度は小林少年役の羽田小牧にその倍出さざるを得ない。しかし小池は編成局長・社長を説得できると思った。
「うーん・・・どうしても他に代替案が無ければ何とか本人を説得しますが、できれば回避していただけないかと」
Fはやってくれるだろうが、アクアに明智文代を演じさせたら、きっと和泉さんがアクア・プロジェクトの責任者を降板するだろう。その事態は避けたい。
この件は1ヶ月程度以内に再度協議することになった。
俊夫は母から「性別変更しなさい」なんて言われたので、性別変更って、どうやるんだっけ?と思って調べてみて、日本では家庭裁判所に申請して審査してもらうという方式であることが分かった。改名なんかと同じ方式かな?でも自分の場合、性別を変えるなら名前も同時に変えないといけないのでは?と考えた。そういう性別と名前の同時変更申請をする人は多いようである。
第2次世界大戦頃までは女から男に変わる人が多かったが、戦後は男から女に変わる人が増えたらしい。男→女は女→男の20倍居るらしい。でも性別変更する人って多いみたいなので自分も変えてもいいのかもと思った。子供の頃よく「あんた可愛いね。男になるのもったいないから女の子になりなよ」とか言われてたし。
正直7月に唐突に女になってしまった時は困惑したものの、その後男と女を両方やってみて女の子になるのも悪くないかなあという気になりつつあった。
女になりたい男はペニスを“世にも醜い奇形”と思っていると書かれていたが、そこまでは思わないものの、無くても特に困らない気がしている(彼はペニスオナニーをしない)。それにおっぱいは素敵だ。
ぼくほんとにどうしよう?
次に村山さんから「睾丸取る?」と訊かれたら「はい」と答えてしまいそうな気がする。
調べている内に「性転換したスプリンターが性転換前の記録を全て抹消されたことがある」という記事を見掛けて驚く。ぼくの男性時代の卓球の記録が全て抹消されたら過去のチームメイトたちに迷惑掛けちゃう。
しかしよく調べてみると、これは女から男に変わった陸上選手のケースで、元々男だったのではないかと疑われて、女子の競技に参加して出した記録を取り消されたということらしい。だから、男から女になるのは問題無いようなのでホッとした。但し男から女になった場合2年間は女子の競技には参加できないようである。自分はもう引退したから、今後大会とかに出る可能性は無いだろうから、これも問題無さそうだ。
結婚についても男のままなら女と結婚できて男とは結婚できず、女に変更した場合は男と結婚できて女とは結婚できなくなるようである。
但し、男同士・女同士の結婚は“パートナーシップ”の名前で多くの自治体で認められているらしい。法律上の婚姻とは異なるがそれに準じた保護を受けられる。
ぼくあまり女の子と結婚する自信無いけど、男の子と結婚できるのかなあ。自分の恋愛傾向が良く分からないと思う。
(君、男の子とのキス・デート経験があったはず。女の子とは手をつないだ所まで)
でも性別を変える場合の裁判所での審査って何を審査されるんだろ?やはり女らしさとか??料理の実技とかあったりして???
(女と認められるために料理の試験があったら落ちる女子が続出する)
どっちみち審査期間は1ヶ月程度のようなので、年内くらいに申請したら卒業には間に合うかもと思った。
俊夫は大学でマミちゃんから言われた。
「俊ちゃん最近急速に女性化が進んでる気がする。もしかして生理とか来てない?」
「生理っぽいものはあった。8月頭と月末から9月頭に掛けてと。おりものに血が混じってた」
「それきっとほんとに生理だよ。ダイアリーに印付けといた方がいいよ」
と言って、マミちゃんは自分のダイアリーを見せてくれた。
それで俊美はダイソーでシールを買ってきて、8/03と8/31のところに赤い丸のシールを貼ったのである。
しかしマミは思った。
「そもそも、おりものがあるって、俊ちゃんヴァギナがあるんだ?」
9月22-24日、鹿児島で国体の水泳競技が行われ(2020年に開催予定だったのがコロナのため延期されていた)、津幡組の南野里美が800mで優勝、彼女の長年のライバル・永井蒔恵が準優勝だった。競技後、永井は南野に訊いた。
「川上さんはまだ産休?」
「ううん。ほぼ毎日練習に来てるよ」
「今回国体には来なかったのね」
「彼女はこんな大会じゃなくてパリ目指してるからね」
「マジ?」
「こないだ800mでは竹下リルに勝ったよ」
「うっそー!?」
「あの子は化け物だよ」
「凄い子だね」
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春閼伽(11)