■春閼伽(6)

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歌音が仕事で東京に出てきて、道を歩いていたら、浮浪者?がコンビニのゴミ箱をあさっていた。なんでそれに目を留めたのだろうと思って、よく見ると、その浮浪者の顔に見覚えがある。
 
「極楽昇天さん?」
「カノンちゃん・・・」
 
歌音は彼を東京で使っているマンションに連れて行った。
 
「いいのかな?女の子のマンションにお邪魔して」
「ぼくが男の子なの知ってるくせに」
「でも女の子になる手術を受けたんでしょ?」
「受けてないよー」
 
(あきらには20歳までには去勢して23歳までには性転換手術を受けようと言われている。マジなのかジョークなのかはよく分からないが。精液の冷凍は作った)。
 

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歌音は極楽にまずはお風呂に入ることを勧めた。彼がお風呂にはいっている間に、マネージャーに電話して男物の服を買ってきてもらう。お風呂からあがった彼に歌音は食事を勧めたが、極楽はもらった食べ物を全部トイレで吐いてしまった。何日もまともなものを食べていなかったので、胃が受け付けきれなかったのである。結局その日はポカリだけで過ごし、翌日はビダーインゼリーにして、3日目におかゆにして、4日目になってやっとお肉を食べることができた。
 
彼は昨年墓場劇団を退団して東京に出てきてからのことを語った。
 
「詐欺みたいな事務所でさ、もらえる役は群衆とか通行人とか、死体とかばかりで、それはまだいいとして給料が5000円だったんだよ」
「家賃にもならないじゃん」
「それで早々にアパート追い出されてずっと路上生活してた」
「よく生きてたね」
「冬は何度も凍死を覚悟したよ」
「コロナは大丈夫だった?」
「きっとウィルスもこんな宿主では生きていけんと思って逃げ出したんだよ」
「あはは」
 
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歌音は誘った。
「ぼくと一緒に金沢に戻って墓場劇団に復帰しない?」
「また入れてくれるなら入りたい」
 
それで歌音は仕事が終わって金沢に戻る時彼を一緒に連れて行き(ジェット機で熊谷から能登へ飛んだら感激していた)、父に謝罪させ、劇団に復帰させたのであった。これで劇団は全部で15人になった。それで来月の公演『ハリボテとあんみつの部屋』の準備をする。
 

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その日岡安がアパートに戻ると違和感があった。何かきれいになってる!?
 
彼のアパートは1Kで、玄関をはいったところに台所があり、奥に6畳サイズの居室があるのだが、居室に洗濯物が干してあり、テーブルの上にはお菓子の箱が載っている。彼の郷里のお菓子だ。
 
母ちゃんが来たんだ!
 
干されている洗濯物にはショーツとかブラジャーとかもある。
 
どうしよう?女物の服を見られた!(今更だと思いますが)
 
彼はトイレに入って更にショックを覚える。
 
サニタリーボックスのビニール袋が交換されてる!
 
こんなものまで見られたなんて(今更今更)
 

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彼は仕方無いので母に電話を入れた。
「あ、お母ちゃん。洗濯とか掃除してくれてありがとう」
「うん。でももう少し片付けなさい」
「ごめーん」
「まあみどりの部屋よりはマシだけどね」
「ああ、お姉ちゃんの部屋って昔から酷かったね」
「足の踏み場が無いからね」
 
「あの娘はあれではお嫁に行けないんじゃないかって心配だよ」
「あまりお嫁さんになる気無さそうに見える」
「まだあんたのほうがお嫁さんになれそうだよ」
「あはは。あまり自信無いけど」
「あんた料理はできるからね」
「ああ、お姉ちゃんは料理のセンスが無い」
「恋愛って基本は“餌付け”だからね。彼氏に美味しい物食べさせてたら、彼は満足するんだよ」
「それあるかもね」
 
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ぼく、お嫁さんになるんだっけ??
 

青葉は金沢市内HH院というお寺に白田住職を訪ねた。
「どうもご無沙汰しておりまして」
「久しぶり」
「実はちょっとまた“お掃除”ができないかと思いまして」
「ほおほお」
「実は先日少し怪異があって、それが起きている場所を確認するのに夜中に車を走らせて沿道をずっと撮影してもらったんですよ。それでその場所は見付けて処置したのですが、撮影したビデオには大量の幽霊も映っていましてね」
「ああ多いでしょうね」
「それで以前やったのと同様に夜中に車を運転して回って、迷っている幽霊たちをきちんと成仏させてやりたいと思って」
「ああ、いいですね。またやりましょう」
 
実は6年前に大量の遊女の霊が落雷に驚いて市内に分散してしまった事件があり、このお寺の観音様の像を車に載せて夜中に市内を巡回し、霊たちの“回収”をしたことがあったのである。青葉が〒〒テレビと関わることになったきっかけであり、『金沢ドイルの霊界探訪』の第1回目である。それと似たことをまたやろうという提案である。
 
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「うちの阿弥陀(あみだ)様を連れて行くといいですよ」
と住職は言った。
「ああ、今回は観音(かんのん)様ではないんですね」
「遊女さんたちには観音様がいいだろうと思ったのですが、一般的な霊なら、きっと阿弥陀様のほうがいいです」
と住職は言った。
 
それで6年ぶりの“霊回収車”を運行することになった。車はまたお寺の車を使わせてもらう。ドライバーはまた千里姉に頼み撮影は明恵がすることにした。明恵なら自分の身はだいたい自分で守れる。
 

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回収車は8月16日の夜に運行した。お盆の後、あの世に帰りそこねたご先祖様も一緒に帰してあげられるかも?
 
運転席には千里が座り、助手席に明恵、運転席の後ろに青葉が座り、助手席の後ろ(歩道側)に阿弥陀様が乗る。車内にはずっと阿弥陀経の録音を流しておく。(深夜にお経が流れている中、意識を明瞭に保って運転できる人は多くない)
 
沿道の霊が飛び込んで来る度に青葉は合掌する。それで夜中の0時から2時間ほど掛けて車は金沢市内をずっと巡回して500くらいの霊を回収した。白田住職はお寺のほうでずっと読経しており、幸花は希望と一緒にそちらの方を取材していた。紗織は邦生が見ていてくれた。
 

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希望は16日には霊界探訪の仕事があるからと思い、その前の14-15日に松任(まっとう)の実家に帰省した。大学は夏休み期間中である。
 
「これバイト先の社長さんからもらった。スペインのお菓子だって」
と言って青葉からもらった“ピオノノ”を渡した。
 
「へー。社長さん、スペインに行って来たの?」
「何か頻繁にスペインと往復してるらしいよ。スペイン製のスポーツ用品とか洋服とか販売してるんだよ」
「へー。海外とも取引があるんた?」
「3月まではバイトで大学卒業したら正社員になる予定」
「それは良かった。向こうはあんたの性別のことは知ってるの?」
「もちろん。だから保険証も女になってる」
と言って青葉の会社からもらっている健康保険証を見せた。
「ああ、ちゃんと性別女と書いてあるね」
「うん。性別男の保険証では病院の窓口で毎回揉めて大変だった」
「そうそう。戸籍でもあんたちゃんと長女に訂正されてたよ」
「うん。パスポートももらった」
と言って、SEX:F になっているパスポートも見せた。
 
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「ああ、これなら椰子の実のブラジャー着けられるな」
と次兄が言う。
「何それ?」
「ハワイ行ってフラダンス習う時、女なら椰子の実のブラジャー着けるんだよ」
「男は?」
「チューインガムのブラジャーだな」
「男もブラジャーするの〜?」
「最近ブラジャーする男性って多いらしいよ」
「マジ?」
 
「よし。CCZ温泉行こう」
 
(CCZ:Coastal Community Zone. 松任海浜ふれあい公園温泉)
 
「なんでそうなるの〜?」
「お盆だけど平日だからそれほどは混んでないよ」
 
それで希望は家族と一緒にCCZ温泉に行き、母に女体をしっかり見せることになった。兄たちはしっかり父に男体を見せた!
 

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15日は中学の同窓会があったので出席してきた。
「おお、水野君がお美しくなってる」
「水野君は高校も女子制服で通ったという噂があった」
「のんちゃん、成人式でも振袖着たね」
と金沢の大学に進学した子が言う。
 
「性転換したの?」
「したよ」
と言って SEX:F のパスポートをみんなに見せた。
「すごーい。ちゃんと女になってる」
「水野さん、声も女の子だね」
「うん。練習した(←嘘つけ)」
「練習したら出るものなのか」
「声の出し方なんてただの習慣だからね。原理的には女でも男の声は出せるし、男でも女の声は出せるんだよ」
「そうだったのか」
「最近は男女どちらの声も出せる“両声類”の人って多いよ。私はもう男の声の出し方忘れちゃったけど」
「ああ、使わないよね。男の声とか」
 
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「男の人と結婚もできるの?」
「できるよ。法的に女だから」
「すごーい」
「のんちゃんは、いいお嫁さんになる気がする」
 
「男とセックスもできるの?」
「したことはないけど、できるはず」
「すごいね」
「ヴァギナがあるんだっけ?」
「あるよ」
「すごーい」
「田中君も性転換したら?」
「俺は性転換しても女に見えない気がする」
「ああ、女子トイレで通報されるね」
「やはり女の子になっちゃう子って最初から女の子だったという気がするよ」
「うん。きっと生まれる前からホルモンとかの影響でそうなってたんだと思う」
 

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「のんちゃんは小学生の時は女子トイレだった」
「スカートの日が多かったしね。ズボンでも前開きの無いの穿いてた」
「前開きなんて使わないし」
「立ってしたことないでしょ?」
「たぶん1度もしたことなかったと思う。物心付いた頃から座ってしてた」
「もうできなくなっちゃったしね」
 
「でも上はお兄さんばかりだよね」
「男の子が続いたから、女の子が欲しかったみたいだよ」
「ああ。男の娘が育つ状況って、上が女の子ばかりだったから、それを見習ったというパターンと、上が男の子ばかりだったから、女の子が欲しかったので女の子の服着せてたというパターンとがあるよね」
「うん。知り合いの男の娘でも何らかの事情で小さい頃女の子の服着てたという子は多いよ」
「3つ子の魂百までか」
「きっと見た目問題は胎内のホルモンバランスが原因で、クロスドレッシングは小さい頃の服装習慣が原因」
「可愛いから女の子の服着せてたってのはありそうだけどね」
「ああ、あるある」
「可愛いと『男になるのもったいないよ。女の子になりなよ』と周囲が唆すから本人もその気になる」
「それは大いにある」
「私ものんちゃんにだいぶ性転換を唆した」
「でもこんな美人になったんだから性転換して正解だったと思うよ」
 
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